38 / 72
第一世界 ロージェン(さあ、魔王討伐だ!)
第三十五話 魔王との闘い
しおりを挟む「ユーキ!」
床に倒れた彼の元に駆け寄り、体を仰向けにする。背後からは彼の名を叫ぶ悲痛な叫びが重なる。アンジェリーナもソフィも駆けつけたいが、どうやら魔族に阻まれているようだ。
「ああ、良かった……。まだ諦めていなかったか」
腹部にぽっかりと開いた穴が徐々に塞がっていく。勇者固有スキル『不屈の闘志』。それは生を諦めない限り自然治癒能力が超級まで高まるといったチートなスキルだった。おそらくこれがあるから前回も魔王から逃げ通せたのだろう。
「ふむ、やはり勇者はやっかいだな。ならば、バラバラに刻んでも蘇れるかどうか試してみるか」
背後で物騒な事を言っているのは魔王だ。俺は立ち上がると魔王へと向き直る。後方にソフィとアンジェリーナの姿が見えた。二人とも完全に顔が青褪めている。ユーキのことが気掛かりなのだろう。すでにその動きは精彩に欠けていた。いつ致命傷を受けてもおかしくない状況だ。
「とりあえず、一旦争いを止めてもらおうか」
「やはり敵に回るか。勇者とは違い、お前はやっかいそうだな」
「降参する気はないか?」
「我は魔王としての責務があるのでな。ここまで来て引くわけにはいかん」
「そうか……。ルシア! オーグ! ララ! 魔王以外の魔族の制圧は宜しく。くれぐれも殺すなよ」
「「「わかった(にゃ)!」」」
「さて……。魔王様のお手並みを拝見といきましょうかね」
愛剣を無限収納から呼び出し、正眼に構える。
「その剣は……。なんて神々しさだ」
「わかるやつには、わかるんだな!」
魔王へ詰め寄り、剣を振り下ろす。それを事もなげに魔剣で受け止める魔王。糞っ! へらへらと笑いやがって! あ、違うか。わかっていても、ついそう思ってしまうのは避けられない。他種族との間に誤解が生じるのも無理ないわ。これは頭で理解をさせても争いを全て無くすのは相当難しいかもしれないな。
「ぬぅ、なんて力だ……。お前は本当に勇者じゃないのか?」
「ああ、俺はトラベラーなんだよ」
「は?」
あ、隙発見! 間抜けな面を浮かべた相手に剣を斬り上げる。魔王はそれを大きくバックステップして躱す。
「くっ! 我としたことが油断したか……」
魔王の頬に大きな刀傷がついていた。どうやら躱しそこなったようだ。顔から緑の血を垂れ流しながら嗤うその姿は不気味でたまらない。
『土の精霊よ、我の視界を遮る目障りな者達の動きを止めよ、出でよノーム!』
詠唱が終わるとともに至る所からワラワラと現れる小人。全員、緑の服と三角のとんがり帽子姿だ。
「なんだ! 足が動かない!」
「くそ! 土の癖に固くて崩れないぞ!」
「峰打ちダぁぁああああ!」
足を止められた魔族たちにオーグが次々と襲いかかる。バトルアクスの刃のついていない側を勢いよく振り回し、次々と殴り飛ばしていく。いやいやいや、それ普通に死ぬから……。剣の背ならわかるけど斧は鈍器だからね。
殴り飛ばされた魔族がピクピクと床で痙攣していた。ああ、頑丈で良かった。瀕死だがなんとか命は繋ぎ止めているようだ。
「く、来るなぁああ――。ギャア!?」
「なんなんだこい――。グァァ!?」
「勇者パーティより強――。ウッ!?」
オーグとララは謁見の間を縦横無尽に駆けまわる。オーグの鈍器も凶器だが、ララのナックルパンチが魔族たちの顔面を破壊していく。おい陥没しているけど……。本当に加減しているんだろうな。
奇跡的に死者が出ていないのは、偶然なのか狙ったものなのか……。俺には前者に思えてならない。
「あなたたち、いつのまにそんなにつよ――。ぎゃぁああ!?」
「ララ! 助けに来てくれたので――。ひゃぃい!?」
あ、勇者パーティも問答無用で無力化された。容赦ないね、君たち。
「どうやら向こうは順調のようだな」
「まさか、これほどまでとは……」
「思い直して降参する気になってくれたか?」
「魔王は死んでも降参などせぬ。今までも、そしてこれからもな」
こちらを睨むように見据える魔王。両腕をゆっくりと上げ、剣を天に突きあげて構える。魔剣を包む紫炎が一際大きくなった。先ほどの勇者に対してのあれは本気ではなかったようだ。
ここが正念場か。俺も自分の剣に漆黒の闇を纏わせる。なんか黒って悪者っぽくて嫌だな。
先に動いたのは魔王だった。距離を一瞬で詰めてきた。俺も踏み込み魔王へと突っ込む。先ほどの勇者と魔王の戦いの再現だ。違うのは今回は魔王が上段からの振り下ろし、俺が下段から斬り上げる形だった。
勝負は一瞬だった。
カランカランと金属が転がるような音が室内に響く。
「グゥッ……。わ、我の負けか……」
左手で右の肩を押さえながら魔王が呻く。すでにそこには腕は存在しない。魔剣と一緒に床を転がっていったのだ。
魔王はそれ以上反撃せずに、床にどしっと座りこむ。そして笑った。
「さあ、我の首を落とすが良い」
なんて潔い。「魔王様!」という悲痛な叫びが周囲から響く。すでに魔族たちも戦意を喪失しているようだ。勝敗はすでに決したのだ。
「俺は別にお前を殺そうとなんて初めから考えていない」
「なんだと」
「こうでもしないと冷静に話を聞かなさそうだったからな」
「いったいなにが目的なのだ」
「だから最初から言っているだろ。俺は魔族とその他の種族との争いを止めたいと」
「しかし……。お前らは我らを襲ってきた」
「俺たちじゃなくて勇者たちの間違いだ」
「お前らは違うと?」
「ああ、その証拠に、あそこを見てみろ」
アンジェリーナとソフィが昏倒していた。
「仲間ではなかったのか?」
「うーん。意見の相違の結果といえばいいかな。何れにしろ勇者個人と魔王が話をしても時間の無駄だ。人族を含めた他の種族、それを束ねる王たちと魔族代表のあんたとの会見の場を設けたい」
「そんなことができると? 互いの憎しみは広く深いぞ。そう簡単にはいくまい」
「俺が間に立つ。仲裁人ってところだな。まずは停戦だな。憎しみはいつか時が解決してくれるのを待つしかないだろう」
「だが、そんなことをして、お前に何の得があるのだ? 我の首を持って行った方が英雄としてその名を世界に轟かせることができるであろうに」
「そんなこと興味ないし。日本人はとにかく戦争が嫌いなんだよ」
「は? にほんじん?」
「なんでもない。俺の心の故郷の話だ」
とりあえず、勇者パーティの女性陣は各国の姫様だ。まずは人族と魔族の争いを止めることが先決だな。それが成功すれば、その他の種族との争いも少しずつ改善することができるだろう。
俺の話を聞いた魔王は暫く目を瞑っていた。
「わかった。いいだろう……。例え、お前の話が嘘であったとしても、この命はすでにお前のものだからな」
「疑い深いことで」
これでなんとか目途がたったかな。あ、それよりも。
「ところで魂の欠片のことなんだが?」
「魂の欠片? はて、なんのことだ」
やはり本人には自覚がないのだろうか。うーん。とりあえずそれはおいおいと調べるしかないか。
「いやなんでもない。とりあえず平和への一歩前進ってことで」
まだ座ったまま俺を見上げていた魔王へと手を伸ばす。腕はまだ一本残っているからね。握手を兼ねて立たせるためだ。魔王は仏頂面で俺の手を掴もうとする。こういう場面は笑って欲しいところなんだが。
「あっ――」
誰かがそう呟いた。そして、魔王の手は俺の手を掴むことはなかった。
謁見の間に魔族達の絶叫が木霊する。
魔王は座ったままだ。しかし、その体には頭部がすでに存在しなかった。それはゴロゴロと今も白い絨毯を転がっていた。
「あはっ! 油断は大敵だよね~」
魔王の背中にはユーキが立っていた。その手に聖剣と魔剣の両方を携えて。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~
仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる