81 / 91
79話 猶予
しおりを挟む
「今日も遅いのか?」
現在午後六時。部活動をしていない瑠魅がこんな時間まで家に帰らないなんて……最近は確かに七時とか八時に帰ってくる時もあるが……やはりそうは言っても心配なものは心配だ。
何をしているのかを聞いても濁されてしまう。あまりしつこく聞くことも出来ないから結局手詰まりだな。
「取り敢えず夕飯でも作るか」
去年も一人での生活を長い間送っていたし、自炊ぐらいは出来る。面倒だから惣菜に頼ることもあるが、今日は久々に作りたい気分だ。
「うぅんと……そうだ、今日は買い出しの日だったな」
冷蔵庫の中のもので作れなくは無いが、それでも買い出しはいつかしないといけないし、やる気のある今がちょうど良い。
「さて行こうか──」
「ただいま」
財布を持ってリビングのドアを開けると、そこにちょうど帰ってきた瑠魅と出くわした。
片手には食材などが入っているエコバッグが握られている。
「どこか行くの?」
「え、あ、いや……買い出しと思ったんだけどね。まさか帰ってきてくれるとは思わなかったよ。荷物は俺が片付けるておくよ」
「ありがと」
やっぱり避けられるように感じるな。気のせいと言われればそうかもしれないけど、どこか俺を遠ざけようしてる気がする。
思い当たる節が無いわけでは無いけど、どれも理由としては弱いと思う。
「いくら考えても無駄か。さて、早く片付けないとな」
~~~~
「…………」
「…………」
夕食を食べ終え、リビングにはテレビの音のみが響き渡っている。
同じソファに座り同じテレビを見ているのに、そこに会話は無い。最近はいつもこんな感じで、気まずさは感じないが、寂しさを感じずには居られない。
でも、それも今日までだ。
早まる鼓動を宥めるように深呼吸をして、隣でテレビに見入る瑠魅を見た。
「瑠魅、ちょっと良いか?」
「……っ!えっと、ごめん。今から宿題しないとだから……じゃあ──」
「なんで避けるんだ?」
オレは立ち上がって、この場から去ろうとする瑠魅の手を反射的に掴んでいた。自分でも一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
「避けてないよ。気のせいだよ」
「………言ってくれないと分からないよ。面倒だと思うけど、言ってくれよ……じゃないと分かんないだろ」
情に訴えるようでなんだか心が痛む。ホントはこんな空気にしたくない。
でも、俺にはこんな方法しか出来ない。自分を下げることしか出来ない。
「………本当になんでもないよ?私はただすべき事をしてるだけ」
すべき事……。俺を避けることが瑠魅のすべき事なのか?なんでそんな事………まさか!
「まだ……感じてるのか、俺を巻き込んだ罪悪感を」
「…………」
「何度も言ったけど、俺は気にしてない。なんなら、神太さんの件で俺が申し訳ないくらいだ」
「…………」
どうしたら伝わるんだよ。俺はこんな風になることを望んでないのに……どうすれば瑠魅は納得してくれるんだ。
一緒にいれれば良いのに……なんでそれが伝わらないんだよ……。
「………手、離してくれる?宿題しないと」
「っ……」
なんで……どうして……?何がそこまで俺を拒絶させているんだ?ただ分かり合いたいと思うことすらも手遅れなのか?
「話してくれよ……俺はまだ何もわかんないよ」
「…………」
瑠魅は諦めたかのようにソファに座り込んだ。俺は驚きながらもそっと手を離す。
「蓮翔は那乃ちゃんとなんで付き合わないの?」
「……えっ?」
「秘密まで話して、相手からも好かれているのに……なんで那乃ちゃんと付き合わないの?」
「それは……」
瑠魅の事が好きだから。那乃に向けるのは友愛であって恋愛じゃない……。
「私のせいだよね……あなたの寿命を奪ったから。あなたの寿命がたったの一年だから……!」
「………」
瑠魅は泣いていた。なんで、泣いているのか俺には分からない。
こんな時、俺はなんて声をかければ良い?気にしてないと慰めるべきだろうか?それとも、優しい言葉で落ち着かせるべきだろうか?
「私は蓮翔から幸せを奪ってしまったじゃないかって……私のエゴのせいであなたの幸せを制限してしまってるじゃないかって……だから、もうなるべく関わりたくないの。これ以上私に縛られないで……」
「………」
そっか、那乃もきっとこんな気持ちだったんだろうな。一人で抱え込んで、自分だけが犠牲になれば良いって……。
こんなに辛いんだな。避けられることが……好意を否定されることが……。
「……俺は後悔してないよ。人生を何度繰り返したって、何度でも瑠魅に会いたいんだ。愚かって言われたって俺は何度だって同じ選択をする。何度だって瑠魅に関わるよ」
「……………」
こんな言葉、心には響かないかもしれない。俺がそうだったように、こんな言葉、慰めにしか聞こえない。それでも、諦めちゃダメなんだ。
「瑠魅……俺に時間をくれないか?」
「…………」
「俺が瑠魅と出逢えたことがどれだけ幸せだったか、それを証明してみせるから」
「…………」
「一週間だけで良い。瑠魅の時間を俺にくれ。もし、一週間後、俺がどれだけ瑠魅と居るのが幸せか、それが伝わらなければその時はもう瑠魅に従う」
もうこれしかない。俺でも分かるほど焦っている。でも、瑠魅とこのまま終わるぐらいなら……行動しないと。
「……うん、わかった」
「ありがとう!絶対に……後悔なんてさせないから」
現在午後六時。部活動をしていない瑠魅がこんな時間まで家に帰らないなんて……最近は確かに七時とか八時に帰ってくる時もあるが……やはりそうは言っても心配なものは心配だ。
何をしているのかを聞いても濁されてしまう。あまりしつこく聞くことも出来ないから結局手詰まりだな。
「取り敢えず夕飯でも作るか」
去年も一人での生活を長い間送っていたし、自炊ぐらいは出来る。面倒だから惣菜に頼ることもあるが、今日は久々に作りたい気分だ。
「うぅんと……そうだ、今日は買い出しの日だったな」
冷蔵庫の中のもので作れなくは無いが、それでも買い出しはいつかしないといけないし、やる気のある今がちょうど良い。
「さて行こうか──」
「ただいま」
財布を持ってリビングのドアを開けると、そこにちょうど帰ってきた瑠魅と出くわした。
片手には食材などが入っているエコバッグが握られている。
「どこか行くの?」
「え、あ、いや……買い出しと思ったんだけどね。まさか帰ってきてくれるとは思わなかったよ。荷物は俺が片付けるておくよ」
「ありがと」
やっぱり避けられるように感じるな。気のせいと言われればそうかもしれないけど、どこか俺を遠ざけようしてる気がする。
思い当たる節が無いわけでは無いけど、どれも理由としては弱いと思う。
「いくら考えても無駄か。さて、早く片付けないとな」
~~~~
「…………」
「…………」
夕食を食べ終え、リビングにはテレビの音のみが響き渡っている。
同じソファに座り同じテレビを見ているのに、そこに会話は無い。最近はいつもこんな感じで、気まずさは感じないが、寂しさを感じずには居られない。
でも、それも今日までだ。
早まる鼓動を宥めるように深呼吸をして、隣でテレビに見入る瑠魅を見た。
「瑠魅、ちょっと良いか?」
「……っ!えっと、ごめん。今から宿題しないとだから……じゃあ──」
「なんで避けるんだ?」
オレは立ち上がって、この場から去ろうとする瑠魅の手を反射的に掴んでいた。自分でも一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
「避けてないよ。気のせいだよ」
「………言ってくれないと分からないよ。面倒だと思うけど、言ってくれよ……じゃないと分かんないだろ」
情に訴えるようでなんだか心が痛む。ホントはこんな空気にしたくない。
でも、俺にはこんな方法しか出来ない。自分を下げることしか出来ない。
「………本当になんでもないよ?私はただすべき事をしてるだけ」
すべき事……。俺を避けることが瑠魅のすべき事なのか?なんでそんな事………まさか!
「まだ……感じてるのか、俺を巻き込んだ罪悪感を」
「…………」
「何度も言ったけど、俺は気にしてない。なんなら、神太さんの件で俺が申し訳ないくらいだ」
「…………」
どうしたら伝わるんだよ。俺はこんな風になることを望んでないのに……どうすれば瑠魅は納得してくれるんだ。
一緒にいれれば良いのに……なんでそれが伝わらないんだよ……。
「………手、離してくれる?宿題しないと」
「っ……」
なんで……どうして……?何がそこまで俺を拒絶させているんだ?ただ分かり合いたいと思うことすらも手遅れなのか?
「話してくれよ……俺はまだ何もわかんないよ」
「…………」
瑠魅は諦めたかのようにソファに座り込んだ。俺は驚きながらもそっと手を離す。
「蓮翔は那乃ちゃんとなんで付き合わないの?」
「……えっ?」
「秘密まで話して、相手からも好かれているのに……なんで那乃ちゃんと付き合わないの?」
「それは……」
瑠魅の事が好きだから。那乃に向けるのは友愛であって恋愛じゃない……。
「私のせいだよね……あなたの寿命を奪ったから。あなたの寿命がたったの一年だから……!」
「………」
瑠魅は泣いていた。なんで、泣いているのか俺には分からない。
こんな時、俺はなんて声をかければ良い?気にしてないと慰めるべきだろうか?それとも、優しい言葉で落ち着かせるべきだろうか?
「私は蓮翔から幸せを奪ってしまったじゃないかって……私のエゴのせいであなたの幸せを制限してしまってるじゃないかって……だから、もうなるべく関わりたくないの。これ以上私に縛られないで……」
「………」
そっか、那乃もきっとこんな気持ちだったんだろうな。一人で抱え込んで、自分だけが犠牲になれば良いって……。
こんなに辛いんだな。避けられることが……好意を否定されることが……。
「……俺は後悔してないよ。人生を何度繰り返したって、何度でも瑠魅に会いたいんだ。愚かって言われたって俺は何度だって同じ選択をする。何度だって瑠魅に関わるよ」
「……………」
こんな言葉、心には響かないかもしれない。俺がそうだったように、こんな言葉、慰めにしか聞こえない。それでも、諦めちゃダメなんだ。
「瑠魅……俺に時間をくれないか?」
「…………」
「俺が瑠魅と出逢えたことがどれだけ幸せだったか、それを証明してみせるから」
「…………」
「一週間だけで良い。瑠魅の時間を俺にくれ。もし、一週間後、俺がどれだけ瑠魅と居るのが幸せか、それが伝わらなければその時はもう瑠魅に従う」
もうこれしかない。俺でも分かるほど焦っている。でも、瑠魅とこのまま終わるぐらいなら……行動しないと。
「……うん、わかった」
「ありがとう!絶対に……後悔なんてさせないから」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
君の声を、もう一度
たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。
だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。
五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。
忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。
静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる