evil tale

明間アキラ

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第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー

第六十六話「純愛」

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部屋に入ったリリーが
邪魔なものを蹴り飛ばしながら
ゼノと思わしき女の横を通り過ぎた時、
ある物が彼女に当たった。

ズルズルと黒い物体が
倒れた彼女の頭へとぶつかる。

それで少し、意識を取り戻したのか
彼女は目を覚ました。

(ええと・・・・・そうだ)

どうにか目を開け、
視界をこじ開ける。

(あの人に・・・
 テー君に・・・・
 助けてって・・・・)

もう記憶も、意識も朦朧としていた彼女は、
目の前にあるトランシーバーを何の疑問もなく、掴み、

(言ってくれたもん。
 この星の裏でも、絶対に来てくれるって)

起動し、口にした。

「テー君、助けて」

その化け物のような外見からは想像の付かない
弱々しい声がトランシーバー越しに誰かへ届き、
願いは叶えられたようだ。

「・・・・・・・・」

彼女の横に一人の男が立つ。

銀色の棒を携え、
黒い衣をまとった黒髪の人間。

獲物を狙うような
黄色の鋭い眼光が周囲を威圧し、
漂う魔力はカミラに重くのしかかっていた。


「な、なぜ・・・」
「・・・・・・・・」

カミラは動揺し、
リリーは振り上げた拳を下した。

元から無表情なリリーだったが
今の彼女にはどこかほっとした表情が
見て取れるような気もする。

「テ、テオ」

テオがそこに立っていた。

ようやく人の形に戻ったルーカスが見たのは
突如として現れたテオの姿だ。


「えっと・・・・・つまり」

彼は周囲を注意深く観察した後、
二度消えて、現れる。

女をわきに抱えて、
一度目はルーカスの横へ
二度目は、二人をわきに抱えた状態で、
カミラの正面数メートル先に距離を取った場所に現れた。

「こういうことかな?」

彼は二人を自分の後ろに置き、
銀色の棒を構えて、
カミラと向き合った。

「何が起きてんのかは知らんが
とりあえず、カミラ、お前の仕業か?」

「・・・・・・・・」

「どっかしらにいるとは思ったが
まさかアンタとはな
何が目的だ?」

「・・・・・・・」


カミラは下を向き、
少しの間は何も口に出さなかったが

「フフフフ」
「?」

徐々に肩が揺れ始め、
声が漏れだした。

「アハハハハハ!」

少し赤い、恍惚とした顔を
浮かべるカミラは、
狂ったように明るく笑いだし、
テオの目を見つめ、

「うふ」

微笑みかける。

「あ?」
「来てくれたんですねテオ様」

彼女のその怪しい
赤い目には、彼が、彼だけが映りこみ

「そうですそうです
これならあいつらを待つ必要すらないです
あなた様から来てくれるならここで
一緒になればいいんです」

自分だけの世界に入ってしまったようで、
舞い上って、早口で何かを呟き続けていた。

「ここで決着にしましょう」

その声と共にカミラが右手を振り上げると
カジノの出入り口から
次々と人が入ってくる。

その中には
白い髪の少年や
見慣れた金髪のエルフも交じっていた。

「・・・・・・」
「うふふふふ」

テオは周りを見渡すと
「・・・・なるほど」
そう呟きながら二人に触れて、
「じゃあな」
消えた。


瞬間、ルーカスの視界は切り替わり、
少しだけ見たことのある場所に着く。

その部屋は少々埃をかぶっているが、
ルーカスにとっては見覚えのある場所だ。

(ここは・・・)

「ここに来るのも久々だな」

長いテーブルにソファの並ぶ部屋。
彼がテオに連れてこられたあの場所だ。

テオは二人を抱えて、
ソファに寝かせると女の隣に深く腰掛け、

「はー」

上を向いて、
大きなため息をついた。

「ほんと、どうなってんだよ・・・」

そう愚痴をこぼすテオの正面で
ルーカスは徐々に意識を取り戻していく。

ぐちゃぐちゃになった体は
もう元通りになり、
後は意識だけだ。

「て、お」
「なんだ?」
「てお」

最初はたどたどしく
喋ることしかできなかったが
少し経つと

「テオ」

呂律が回るようになり、
元の彼に戻ることができた。

「もう治ったのか?」
「いや、外傷が治っただけだ
後数時間は動けそうもない」

「なるほど、
その体質にも限界はあったんだな」
「そうらしい」

冗談めかして二人は笑いあう。

「喋れはするのか?」
「ああ」
「だったら、悪いが報告を頼む」
「・・・・ああ」

そこからルーカスは彼に事のあらましを話した。
赤い目になったリリーとサラに襲われたこと、
白い髪の少年が恐らく自分と同じ化け物であり、敵であったこと、
赤い目の人々が捨て身で魔法を撃ってきたこと、
そして、恐らくその原因はカミラであるということ

「なるほど」

あらかた聞き終わったテオは
また上を向いて自分の世界に入ろうとしていたが

「あの赤い目は何なんだ?」
ルーカスがそれを止めた。

「うーん」

彼の質問にテオは首を傾ける。

「あれか?いや・・・・あれにしては規模が・・・・」

どうやら引っ掛かることがあるらしく
まだ答えてはくれないらしい。

そうこうしていると、
彼の横にいる
外骨格のついた女が目を覚ましたようだ。

少し目を開け、
「テー君、膝」
とだけ小さな声で言う。

「はいはい」

テオは慣れた様子で、
少し呆れたような、でもどこか優しげな表情を浮かべ、
彼女の少し上げられた頭とソファの間に足をすべらせた。

その足にミアは薄目を開いたまま
頭を乗せ、彼の方へ顔を向けて、目をつむる。

そうすると、ほんの数秒後には
彼女の方から
「すぅー、すぅー」
という安心しきった寝息が聞こえて来た。

「・・・・・なあ」
「あ?」
「あんたら、どういう関係なんだ?」

そう言われると、
彼は左手を前に出した。

その左手薬指にある
銀色の輪がよく見えるように。

「・・・・今はミアか。
ま、まあ、こういうことだな」

テオは右手で頭を掻きながら
ゆっくりと左手を戻していく。

その左手はミアの頭へ自然と移動し、
その赤色の角や黒い髪を優しく撫で始めた。

「んん~」

撫でられている当の本人は
その手に頭を寄せ、心地いい位置に自分を動かし、
より一層、寝に入る。

「・・・・・・・今は?」

ルーカスはそのやり取りを
少し眺めた後、そう聞いた。

「ああ、まだ聞いてないんだな
説明するとややこしんだが・・・」

テオが少し考えた後、

「ゼノって聞いたんだろ?」

口を開く。

「ああ」
「その・・・二重人格ってわかるか?」
「まあ、なんとなくは」

「なら話が早い。
二人はそれなんだ。
ゼノとミアは同じ体を二人で共有してんだよ。
今はミアだな。」

慣れた手つきで頭を触りながら
彼はそう言う。

「へえ・・・・それって、
どっちがあんたの妻になんだ?」
「二人ともだけど・・・」

「なんか、確かにややこしいな」
「だから、アンタにも説明してなかったんだろうな
こんなことにでもならなきゃ、ミアから関わることもなかっただろうし」

「多分なミアさん?っていうのか?
その人は俺と喋りたくなさそうだったし」

「はははは、ミアは人見知り激しいからな
まあ、仕方ねえよ、その分ゼノが前に出てくれてるから
それでみんなにはゼノって名前で通ってるのさ」

「そういうことか
まあ、そんなことより」

ルーカスの視線がテオから
ミアの方へ移る。

彼はその黒い体表を
見つめていた。

「その姿の方が気になるがな」
「まあ、そりゃ当然か」

いくら彼も化け物じみているとはいえ
このような姿の人がいれば
当然疑問を持つ。

「それが魔人なのか?」

彼の真っ当な疑問に

「ああ、そうだ」

テオはそう答える。

「あのカミラって奴も?」
「ああ」
「あんたは知ってたのか?」
「ああ、知ってたよ」
「赤い目で人を操れるとは?」
「いや、それは知らなかった。」
「・・・・そうかい」

ルーカスは何か言いたげな視線を
彼に向けていたが、

「すまんかったな」

それを感じたテオは先に
そう言って少し頭を下げた。

「・・・いや、いい。
俺がどうこう言う話じゃない」


「それもあるが、説明不足過ぎたかもしれん。
まあ、こんなことにもなると思ってなったし、
説明しようにも説明できなかったってのが正しんだが・・・」

「どうしてだ?」

「・・・アンタには分らないかも知れんが
普通の人は魔人を見ただけで、嫌悪感や恐怖を覚える。
気配とか魔力に関してはもう魔獣とほぼ変わらんからな。」

「・・・・へえ」

彼には実感としてそれはわからなかったようだが、
なんとなく理解はできたらしい。


「・・・その様子ならアンタには
いの一番に言っとくべきだったな」


「でも、ゼノは人間の姿でも普通に過ごしてたぞ?」
「ゼノはな。
ミアたちは特殊な体質だから
そういうこともできる。
ただ一つ言えるのは」

彼がミアに目を落とし、
角を撫でながら言う。

「魔人にとってはこれが自然体なんだ」

ルーカスが
それに疑問を持つのは当然のことだ。

「人間の姿じゃなくて?」

何せ彼自身がそうでないのだから。

「ああ、人間の姿でいるのは相当疲れるらしい。
だから、どうしてもこの姿になる時間が必要になる。
そのためにも、あんまり人と関りを持つわけにも
いかないんだよ」

「へえ・・・・」

「それで、まあ、カミラのことについては俺も知ってた。
こんな魔法が使えるとは知らなかったが、
アイツが魔人だってことは知ってたし、
アイツからウチに入りたいって言われた時は、
知ってたからこそ、ミアとはうまくやれると思って
こうしたんだが・・・・・・・」

どこか悲しげな眼をするテオ。

「当てが外れたらしい」

そう言って少し笑って見せるが
皮肉な笑みしか浮かんでこない。

「大外れだったな」

「うるせえよ
・・・・はあ
・・・・何が目的なんだアイツ」

「あの様子を見れば
察しはつくだろ」

「・・・・・・・」

テオは彼の指摘に言葉を失う。
先ほどまで見ていたカミラの様子とその言動
それを思い返してしまうと、

「・・・・・・・」

彼は閉口せざるを得ない。

「モテる男も辛いもんなんだな」
「・・・かもな」

ルーカスの言葉に
得意の笑顔を浮かべるテオであったが
どうしようもなくそれは引きつっていた。
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