evil tale

明間アキラ

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第七章「勝敗」ー第四地区編ー

第百二十八話「庶民」

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「ありがとう」

地に倒れた
革命軍の兵士たちを
無言で見つめるエマに

老騎士はそう声をかけ、

「君らは怪我はないか?」

次に
混乱しっぱなしの
革命軍に連れだされていた
人達へ声をかけた。

「だ、大丈夫です。」

怪我はなく、
全員無事なようだ。

皆、各々自身の帰る場所に
向かって歩き出す。

覚束ない足取りだが

老騎士も地面に座り込んでしまい、
彼らを一人一人助ける余裕はないようだ。


「ふぅ・・・」

いつの間にか
手を文様の描かれた縄で縛られていた
暴徒たちに囲まれ、

地面に座り込む老騎士は

一息つくと


エマの方を向き、

「改めて礼を言う。
貴殿のおかげで
こいつらを捕らえられた」

そう言ったが、

「・・・・・・」

エマは何を言われても
反応がない。

「お嬢さん、大丈夫かい?」

怪我でもしたのかと
彼女のみを案じた
老騎士はゆっくりと立ち上がり、
彼女の方へよろよろと歩き出し、

側に立った。

「・・・・・」

「どうか、したのかい?」

「・・・・・・」

やはり反応はない。

上の空だ。

その目は
空を向いて
固まったまま

少しだけ
そんな時間が続いた後、

「・・・・ねえ」

口を開いた。

「何だい?」

「ここ、第四地区なんだよね?」

「ああ、そうだ」

「ここから第二地区に行ける列車ある?」

淡々とした口調

普段の明るい彼女からは
想像できない冷たい声

「・・・運行はしていない。
爆破はされていないし、
列車を走らせること自体は可能だろうが、

都市間の連携も駅も
革命軍を語る暴徒どもが
壊してしまった」


老人は剣を杖の様にして、
自身を支えながら
再び地面へ座り込む。

「・・・そうなんだ」

「ああ、困ったもんだよ。
第四は機能不全さ。

革命軍が放ったとされる囚人どもに
死神を恐れて身を潜めていた悪人ども、

最初はビクついとったが、
皆、死神が革命軍に入ったと知った途端、
これ幸いにと暴れ出しよった。」

「死神ってリリーのこと?」

「ああ、彼女は革命軍側についたのだよ。

彼女が戻ってくれれば、
また奴らは身を隠すのだろうが

あちらに行ってしまった以上、
残った者でどうにかするしかない。」


「・・・・革命軍の事、どう思ってる?」

「・・・弱い者のための武器を作り広めることは
私も悪いと思っておらん。

ただ・・・」

鎧の内から葉巻を取り出した
老騎士はそれを咥え、

自身の指から出した火で
先端を炙り、

深く息を吸って、吐いた。


「やり方が急すぎではないかとも思う。
確かに頑固として態度を変えん
中央政府もどうかしとるが

ここまでせんでも
魔導銃の普及は取り締まれるようなものじゃ
無くなっとっただろう?」

「・・・聞いた話だとそうだった。」

エマでも知っている。

魔導銃は非合法だが
実際に取り締まろうとする騎士は極少数だ。

それを使って
犯罪に及べば
もちろん捕まるが

持っている分には
いちいち逮捕したりしない。

魔獣から身を守れるということもあるが
何より数が出回り過ぎていて

所持罪で全てを取り締まったとしたら
牢屋が足らない状態なのだ。


「実際そうなんだよ、

私たちも取り締まり
なんぞ真面目にやっとらんかったしな。

待てばどうにかなった気がする分、

どちらかがもっと
上手くやれはしなかったのかと
常々思う。」

煙を吹かせる
老騎士はどこか残念そうだ。


「・・・・・・学院にいたんだ、僕」

少し黙った後、
そう口を開くエマ

「どうりでそんなに強いわけだ」

「あそこって
技術革新とか最先端って言葉が大好きでさ

魔導銃も
便利とか、性能とか
詳しいこと知らなくても

最先端の技術ってだけで
皆、いいねいいねって言ってて

それを認めない上層部は
馬鹿だ、老害だ、
革命されても仕方ないって

なんかそんな人が多かった」

もちろん、そんな奴らばかりじゃない。
生徒にだって落ち着いた奴らもいた。

だが、そんな彼らも
概ね根底にあるものは同じだった。

同じ様に見えていた。

「だから、テオは

僕らにとっては英雄で

おじいちゃん、おばあちゃんにとっては
テロリストだった。」

彼女もその一員だった。

「僕は周りがそう言ってるから
英雄に見えてた・・・けど、
なんか、どっちも正しかったんだね」

気絶して転がっている
暴徒たちを見ながら彼女はそう言った、そう思った。

「・・・お嬢さんがさっき言ってたことは本当かい?

「ううん。全部嘘。援軍なんて来ない」

「そもそも革命軍なのかい?」

「・・・どうだろう。
違う・・・とも言い切れないけど」

だが、一つ言えることは

「アイツらと違う事だけは確かだよ」


暴徒たちは
後から来た元騎士たちによって連れていかれ
元々牢獄だった場所に収監された。

「・・・大丈夫?」
「何がだい?」

「あの人たち、ちゃんと捕まえておけるの?」

「なあに、心配は要らんさ。牢屋は今もある。
そいつを取り仕切る行政が死んだだけだ。」

「・・・・それって大丈夫じゃないんじゃ」

「魔道具はあるし、管理する奴もおる。
ないのは正式な手続きと書類、政府だけだよ。」

「・・・・」

「政府無き今、
我ら元騎士の連中や住人たちが結託して
自警団をやっとる。

守り切れんから
ある程度は森に逃がしたがな
これで皆を呼び戻せる。」

「そっか」

エマは暴徒たちが
牢屋に連れていかれるのを見届けた後、


「第二に行きたいんだけど
どうすればいいかな」

そう老騎士に聞いた。

「そうだな
・・・・お嬢さんぐらい魔力があれば
列車も使えるか」

「いいの?」

「町の危機を救ってくれたんだ。
それぐらい構わんさ

それに私たちにとって
列車なんぞ
ただの鉄くず
燃料もないから動かせん。

線路も手入れされとらんから
まともに動けんだろう。

だが、お嬢さんならそうでもないだろう?」

「まあ、多分」

「第四を抜けさえすれば
ある程度は線路を走ってくれるはずだ。
まあ、全て歩くよりはましぐらいだが」

「本当に良いの?」

「ああ」

少し離れて
仲間たちに話をした後、

荷物を持って
戻ってきた老騎士にに案内され、
車庫に通されるエマ、

「ここの線路は大丈夫だったかな・・・」

「・・・・」

何も言わず
列車の側に立ち、

列車を下から持ち上げてみると

「うわ」

驚くほど簡単に浮き上がってしまった。

「・・・本当に凄いな
クラス4というのは」

「自分でもびっくりすることあるよ」

「ふふ、そうか」

老騎士はその列車の中に荷物を置くと、
戻って来て、

「礼として食料も列車に置いておいた
クラス4の人には足りんかもしれんが

魔力切れにはならんぐらいには
用意したつもりだ。」

そう言った。

「何から何までありがとね」

「別に構わん、ただ」

「ん?」

「一つだけ伝えて欲しいことがある」

真っすぐに、エマの方を見て
老騎士は口を開く。

「なるべく早くこの戦いを終わらせてくれと、
第四地区は大変なことになっていると

革命軍の幹部の誰かに
どうか伝えて欲しい」

腰を曲げ、頭を下げて、

切実な庶民として
そう老騎士は訴える。

「・・・わかった。」

エマはそう答えた。
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