平凡ばあちゃんの思い出話

ミズキケイ

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風邪、その2

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 1回目の風邪は、入院こそしたものの「それほどでもなかった」と言えるくらいでした。大変だったのは2回目の風邪です。
 2回目の風邪も、ひ孫からもらったものでした。ひ孫が鼻水や咳を始めたら近付かないように気を付けてはいます。でも、同じ家に暮らしていますし、ひ孫も懐いてくれて抱っこをせがんだりしてくるので、

どうしても風邪がうつってしまうことがあるんです。最近はどの部屋のドアも自分で開けるようになったので、風邪引きのひ孫から逃げるのにも限界があります。孫が「鼻水と咳がなくなるまでは、ひいばあちゃんとこ行ったら駄目よ」と言い聞かせても大泣きして大変なので、ついつい抱っこしてしまうことがあります。
 さて、2回目の風邪も初夏の頃でした。風邪をひいたみたいで咳が出る、ということは孫に話していたのですが、体調の悪いのを隠して普通に生活していたんです。でも、いい歳をしてそんな無理をしていたら、急に動けなくなってしまうんですよね。
 夜、仕事から帰った孫が、夕食に起きて来ないけどどうしたの、と部屋まで様子を見に来たが入院の前の日です。そこで、調子が悪いのに昼間に妹が長居して帰ったからしんどい、とか、明日病院に行くからほっといて、とかそういうことを話したのを覚えています。「明日は仕事休んで一緒に病院行く」という孫に「1人で行ける!」と言ったことも。
 ただ、それ以降の出来事は切れ切れに覚えているだけで、記憶が曖昧なんです。
 病院の正面玄関で孫の車から降りて、それからすぐにお手洗いに行って……。
 トイレから出たら、車を駐車場に停めた孫がひ孫を連れて現れたけど、何かを言い残して受け付けに行ってしまって……。
 次に覚えているのは、病院の廊下にある幅の狭いベンチに座っていたこと。そのベンチから床に落ちてしまったこと。もう1度ベンチに座るけど、また落ちてしまって、を繰り返していたら看護師さんが近付いてきて何かを言ったこと……。
 ベッドがある部屋で長い時間待ったこと……。その部屋で、いつもの先生が診れないので別の先生になる、と看護師さんから言われたこと……。
 別の先生、というのが亡くなった夫の主治医だったこと……。
 どういう話を先生としたか覚えていないけれど、1度診察室を出て、2回目に診察室に入って……孫と先生が入院するだのしないだの話していたこと。先生が「本人さんはどうしたいですか?」と聞いたから「帰ります」と答えたのに、先生は「入院した方がいい」と言って、入院することになったこと……。
 ベッドに横になったら、看護師さんが何度もわたしの腕に注射針を刺そうとして失敗して……。
 廊下で座って待っていたら、遠くの方がチカチカ光っていたので「ああ、お会計に行かないと」と思って、立ち上がろうとしたら「いいから!」と孫に怒られて……。
 1人で大きな川のほとりにいて、川を渡らないと、と思っていたら遠くから「おばあちゃん!おばあちゃん!」と、ひ孫が呼ぶ声が聞こえて……振り返ってみたら、子どもが4、5人そこにいました。ひ孫のところへ行かないと、と思ってそっちへ行くと、子どもが1人ずつ消えて……でも「おばあちゃん!」と呼ぶ声は聞こえるので、残った子どもたちを追いかけていって……最後の1人の姿が消えたら、急に白い壁と大きな窓が現れたんです。その壁と窓の前に、孫とひ孫がいました。
 起きてみると、顔に、何かの紐のようなものが付いていました。はずそうとすると「酸素なんだからはずさない!」とまた孫に怒られました。酸素!酸素チューブというと、わたしたちくらいの年齢では今にも死にそうな病人がつけているもの、というイメージなのでびっくりしました。「熱が高くて酸素が下がったからつけられただけだから」と孫。
 入院した翌日、看護師さんがやってきて「トイレにいける?」と聞くので、変なことを言う人ね、と思いながら、普通にあるいてトイレに行きました。
 入院して3日目くらいの朝でした。病室に夫の主治医をしていた先生が入ってきたので「ああ、先生。おひさしぶりです」と挨拶したら「3日間、毎日来てますよ!」と怒られました。入院していることは覚えていたのですが、先生が毎日来ていたことは覚えていなかったんです。
 その後は、順調に熱も下がって5日くらいで退院しました。退院する時、先生から「治さないといけないので、咳は止めないから」と言われてしまって、退院した後もしばらくはひどい咳に悩まされましたけれど。
 後から考えてみると、川はあの世との境目だったのかもしれません。そこから、ひ孫がわたしをこの世まで呼び戻してくれたのだと、今でも信じてします。
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