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プロローグ 天使は言った
しおりを挟むそれは平日だった。
それは帰宅時間だった。
それは……悪魔の時間だった。
夜の7時頃だっただろうか。夕飯を作り終え、あとは父の帰りを待つだけ。俺はニュースを見ながら狭いアパートのなか1人で静かにくつろいだ。
しばらく経つと玄関の扉が開く音がした。テレビを直ぐに消し急ぎ足で向かった。
「お、おかえりなさい」
予想通りそこにいたのは紛れもなく父だった。
「おお」
そう短く返事をした父は、雑に靴を脱ぎ鞄を俺に押し付けズガズガと入っていった。
その後無言で手を洗い部屋着に着替え、席について黙々と俺が作った夕飯を黙々と食べる。
僕は父の脱ぎ捨てた服を洗濯機に入れ、鞄を指定された場所に置き、父より少し遅れてご飯を食べ始めた。
「いただきます」
今日の夕飯も凄く簡単なもの。キャベツの千切りと肉の垂れをつけて、ただ単に焼いただけの肉。そして最後に日本の伝統食の味噌汁。
歯が物を噛み、飲み込む音。食器と食器がぶつかる音。狭いリビングにその音が響いた。
いつもより機嫌が良いように見えた俺は、その安っぽい観察眼を信じてつい安易な気持ちで父に聞いてしまった。
「父さん……仕事どうだった?」
言葉を発した途中に迷いがしょうじ、言葉が止まった。しかし、話掛けたからには何か言わなければいけない。だけど、他に話題なんてない。だから言った。
――しかしこれが悪夢の始まりだった。
「あぁ? 落ちたよ」
普通以上だった目はその言葉だった1つで普通未満になった。声が低くなり機嫌が猛烈に悪いことを示した。
そこまで分かっていたのに、俺は馬鹿だった。考えが軽率過ぎた。
「そ、そっか。で、でもさ! まだ会社はあるから! 大丈夫だよ! 」
「社会はそう甘くねぇんだよ」
「そ、そんなことないよ! 大丈夫だよ! 父さんならきっと大丈夫だって! だから――」
「子供のお前に……」
「え?」
「子供のお前に何が分かるって言うんだ!!」
テーブルに力一杯拳を叩きつける。恐怖で体ビクンッと跳ねる。
「社会はそう甘くねぇんだよ! 高卒でろくに勉強もしなかった俺を、こんなオッサンになってから雇ってくれる所なんてねぇんだよ!!」
「ご、ごめんない。俺が悪かったです」
不味い!! そう思い謝ったが既に遅かった。俺の安易な行動が父に火をつけた。
「そうだよ……テメェが悪いんだよ! お前さえいなかったら、由衣は死ななかった! お前さえ、いなければ!!」
由衣。それは死んだ母の名前だ。俺が産まれて直ぐに他界してしまった。死因は聞かされてない。だけど、なんとなく想像付く。
きっと、俺を生んだことで疲れきってそのまま、永年の眠りについたんだと思う。母は体が弱かったと聞いたから。
「お前さえいなければ!!」
それが父の最後の言葉。言葉のあと、父は猛獣のように俺を殴り始めた。鼻血は手のひらを真赤に染めるほど出て、腹を殴られた衝撃で食べた物が逆流し、口と鼻から出てくる。
殴られている途中に父の顔がふと、視界の先に入った。なぜか、その顔は泣いていた。理由は分からなかった。父が何を思って、どうして泣いているのか。
意識が薄れていくなか、俺は思う。
ああ、これで気づいたらまた、明日になってるんだろうな
しかし明日が来ることはなかった。
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