ナメクジおばけ

無味無臭

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 「か、体が重い」
 
 まるで悪夢でも見たかのように体が重い。
 
 夢の中でハードな運動すると、起きた時に猛烈な疲労感を感じる。肉体は全く動いていないはずなのに。この不思議な現象が今起こってることである。
 
 「ってここだ!?」
 
 くらくらする頭を押さえながら立ち上がると、家ではないどこかにいた。しかも別の部屋とか、そんなレベルじゃない。真白な空間だ。汚れも先も見えない空間。  
 いや、汚れはあった。俺の服と体という汚れ。手は血まみれで、服はゲロだらけ。あまりの異臭に服を脱ぎ捨てるくらいに。
 
 「お、俺はいったいどこにいるんだ!?」
 
 自分がいる場所の手がかりを探そうとしても、それがまるでない。少し走り回っても先が見えない空間の終わりは見えない。
 
 「父さんは!? 父さんはどこにいったんだ!?」
 
 もう訳が分からない。
 
 「静かにせんか、人の子よ」
 
 そしてさらに、訳が分からなくなった。それはもうリアクションを取るのを忘れるくらいに。
 
 ただただ驚いた。驚くことしか出来なかった。思考が停止し、目も口もあんぐりと開きっぱなし。それが数秒間続いてようやくリアクションがとれた。
 
 「つ、つばさ!?」
 
 天使と言ったらどういう像を浮かべるだろうか。背中に大きなつばさが生えていて、髪は透き通ったように綺麗で、容姿はまさに天に使えるような、人間を超えた美しさ。
 まさに目の前にいるのがそうだった。
 
 背中に生えた4、5メートルはありそうな凄く大きい翼。宝石のように輝く目と透き通った髪。
 
 何もない所から突然現れた。扉も何か通路のような物は一切見当たらない。どうやって現れたのか。知るよしはない。
 
 「私はお前の言うところの天使である」
 
 「あ――」
 
 質問があった。しかし、いざ言おうとしたら俺に度胸がないのか、それとも目の前の天使が何かしたのか、全く口が動かない
 
 「お前はあの生活環境でよく頑張った。よく耐えた。天使ミカエルの名で称えてやる」
 
 なぜか、天使様が急に俺のことを絶賛し始めた。
 
 「い、いえ、そんなことは……」
 
 まさに、恐れ多かった。
 
 「この12年間良く耐えてきた。自殺というもっとも愚かな選択しをとらず生涯を終えたお前に褒美をくれてやる」 
 
 自分では分からない。あの環境がどれだけ過酷な物だったのか。あの日常が当たり前だったから。
 しかし、ここで1つ引っ掛かることがあった。思わずその言葉をリピートした。
 
 「生涯を終えた?」
 
 しょ、生涯? つまり俺は死んだのか?  
 
 「そうだ。お前は死んだ。死んだんだ。あの夜、父親に殴られて」
 
 「え? ええ……嘘ですよね? だって、いつもは……」
 
 その言葉に天使様は続けた。
 
 「そう。いつもはお前が死ぬ前に父親の機嫌が直るか、そげるかいていた。しかし、あの晩は違かった。最愛の妻のことを思い出して、感情がいつも以上に高ぶったんだろう」
 
 変わった手の動きを見せる天使様。すると、そこに大きなモニターが出現した。そのモニターにはニュースが写っていた。
 
 「ほら、これが証拠だ」
 
 逮捕され、警察車両に入る父の姿。そしてその事件を説明するニュースキャスター。それが写し出されてした。
 容疑は殺人。殺されたのは伊藤正志君12歳。妻の伊藤清子は12年前に他界し、父と2人暮らし。
 
 「お前は死んだ。現実を受け止めろ」
 
 天使様はモニターを閉じ、話を再開した。
 
 死んだ……そんな実感は分からない。ニュースで見たのは父親だけど、死んだのは自分だとは思えなかった。今もこうして息をして意識を持ってることが、その理由かもしれない。
 
 
 「選択しは4つだ。その中から選べ」 
 
 天使様は4本の指を出し、それを1本づつ曲げながら説明した。
 
 1つ。記憶をなくし、別の世界へ転生する。転生する際に私が1つだけ誰にも負けない才能を持たせる。その才能が何かは分からない。生活する中で開花することもあれば、その才能の出会わず障害を終えることもある。
 
 2つ。記憶はそのままで別の、今の世界に転生する。記憶がそのままだと良いこともあるが悪いこともある。それは特技が変わらないことだ。お前の性格も長所も短所も変わることはない。ただ、お前自身が変わらないだけで周りは変わる。
 
 3つ。これは2つ目と似ている。記憶はそのままで別の世界へ転生する。記憶がそのままだと、さっきも言った通りお前の周りは変わってもお前は変わらない。勉強が苦手なら苦手のままだ。喧嘩が苦手なら苦手のままだ。しかし、次転生する予定の異なる世界は、それではあまりにも人生に不利だから、1つ目言った才能のと別に、何か特殊能力をつけてやる。お前が望む能力があれば、出来る限りそ能力に近い能力を与える。望まないのなら、私が1つ選ぶ。
 
 そして最後。4つ。これは褒美には入らない。至って一般的なものだ。それは、記憶を失いこの世界に転生することだ。これを望むのならこれでも問題はない。
 
 「別の世界って、どいう世界なんですか?」
 
 「そうだな、ざっくり説明すると2種類あって、片方は今より文明が栄えていない過去に当たる世界。そしてもう片方はその逆で今より文明が栄えている時代だ」
 
 栄えている……つまり発展しているということだ。
 
 記憶をなくして、やり直すのに俺はなんの価値も見いだせない。だからといって、前の同じ世界で暮らすのは少し新鮮味が足りない気がする。そんな贅沢な感情を抱き決めた。
 
 「過去っていうと、戦いが多そうだから未来でお願いします」
 
 「分かった。じゃあ、能力の方はどうする?」
 
 「それは……お勧めでお願いします」
 
 これと言って、何か欲しい能力がパッと浮かばない。だからお勧めである。
 
 「よし、分かった」
 
 天使様はそういうと、宙に指で何か書く。書き終わると、それを俺に飛ばすジェスチャーをした。
 
 「う、うわっ!? な、なにこれ!?」
 
 それと同時に急に体に変なラインが出てきた。まる血管に色がついたようだった。
 
 「転生の陣だ。では、早々にお前に出会わない事を願っているよ」
 
 俺はそこでまた、眠るように意識を失った。最後に覚えているのは天使様のその言葉と転生の陣が光っていたこと。
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