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新たなる道
【迷宮】お料理凶室
しおりを挟む「…………」
「…………」
迷宮90層前休憩所。俺とアローラは料理を真ん中に置き対峙している。不穏な空気と緊張感が俺たちを包み込み、顔をこばわさせている。
俺たちの間にはステーキという名のとても旨そうな厚肉がある。ただ、それは違和感とともに。
豪快なステーキだけが白い皿に乗っている。他のおかずは何もない。ライスもスープも何もないのだ。ただ、堂々と不思議とステーキがパタリと皿に乗っけてある。
しかしそれはステーキだけに関して言える事ではない。俺たちもだ。だだっ広い休憩所で、ただ2人だけいる。その他には人もモンスターもいない。
休憩所には豊かな森や湖、草原がある。それはまるで平和の示していた。上手くは伝えられないけど、何か穏やかで新鮮で…………とにかくそんな感じだ。
「…………」
「…………」
お互いにステーキを凝視する。ナイフとホークが端に置いてある中、2人たも腕を全く動かそうとしない。
静寂が空気を包み込む中、それを壊す一言がアローラの口から漏れる。しかし―――
「どうぞ」
口から漏れた言葉はたったそれだけだった。だけどその3文字で俺は理解する。石の様に固まらせていた腕がようやく動ける様になる。そしてゆっくりとナイフとホークを手に取る。ホークを左、ナイフを右手。そしてそれをステークの方へ向ける。
良い匂いが鼻をそそる。そそがれながらも両腕を動かし続ける。
ホークで肉を押さえる。ナイフで肉を切る。ナイフの先端から肉に吸い込まれる様に入れ、引く。すると肉は簡単に切れる。そしてそれを続け肉を切断する。そして肉がささっているホークを口に持ってくる。少し大きめだが関係ない。
俺は肉を口の中へ入れた。
そしてひと噛み。またひと噛み。噛む度に肉汁が口の中を染める。それを俺はじっくり味わう。新鮮な舌でゆっくりと……そして―――
「オエェェェ!!!」
吐き出した。
「よくこんな不味く作れるな! 逆に尊敬するわ! さっき言った通りに魔力を込めたのか!!」
あまりの不味さに俺は瞬時に自分でドリンクを生成しそれを一気飲みする。
「こ、込めまちた!!」
顔を真赤にしながら言うあまりに、アローラは下を噛む。
「そ、それと本人の前で堂々と吐き出さないでください!! 分かっていたとしても、落ち込みます!!」
このくだりは本日5回目だ。ボスモンスターを倒したあと、ここの休憩所でアローラのためのお料理教室を行っている。
「そんな事知るか!! もっとましな物が作れるようになってから言え!!」
俺はステーキを皿ごと地面に叩きつける。すると、ステーキは空気に還っていった。
「じゃ、じゃあこれならどうですか!!」
反撃する様にアローラは新しくおにぎりを作る。俺はそれをさっきと違う直ぐに手にとって食べる。
「不味いわ!!」
食った瞬間に口から吐き出し、手に持っていた本体を顔に投げつける。
「ゾっ、ぞんな事言うのでしたら、ソラ君が作ってみてくださガヒュッ!!」
最後まで言う前に俺は瞬時に生成したパイをアローラの顔に押し付ける。
「せめてこん位のもんは作ってみろ!」
しかし、アローラは全く聞いていなかった。顔につたパイを食っている。
……はめられた。
俺はこの世界に来て初めて敗北感を味わうのであった。
アローラには料理の練習のため、自分で自分の夕食を作れと言った。その結果……悶え苦しみながら食う事になっていた。俺が今作ったパイはアローラの口直しになっていたのだ。
なんて姑息な奴だ!!
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