濡れ衣で婚約破棄された天使様は専属執事に溺愛されながら田舎でほのぼの暮らしを満喫する

ひゃみる

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天使様は執事と逃走する

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「エレナ、お前との婚約を破棄する」

 エレナ・ウィ・スタットフェルトは自宅にいたところ、婚約者であるジョージ・マスカルに突然そう告げられた。
 突然のことで驚くエレナであるが、その理由を訪ねなければならない。

「何でですか?」
「こぼけても無駄だ。お前が殺人未遂を犯したのはもうわかっている」
「殺人未遂?」

 思ってもいなかった言葉に、エレナはつい目を見開いてしまう。
 もちろんエレナな人を殺そうとしたことなんてないし、伯爵令嬢なので皆の手本になるように生きてきたつもりだ。
 だから濡れ衣であるのだが、婚約者のジョージの怒ったのからしてそう思っていないのだろう。
 ジョージはこの国──アルウトラル王国の皇太子で時期国王になる男……冗談なんかでこんなことを言ったりしない。
 実際に何かあったということだろう。

「エレナは公爵令嬢であるアリスを殺そうとした」
「ちょっと待ってください。私はそんなことをしていません」
「現場にお前の魔力の痕跡が出ている。言い逃れなんて出来ないぞ」

 この世界に生きる限り生物は大小あれど魔力を持っていて、魔法を使うとその場に使った痕跡が残る。
 事件が起こるとそれが証拠になったりするのだが、エレナには本当に人を殺そうとした記憶がない。
 だとすると誰か仕組んだと考えられ、皇太子との婚約を妬んだ人の仕業だろう。
 ジョージは美形としても有名で、男性にしては長めの金髪、宝石を思わせるような綺麗な藍色の瞳、それに誰にでも優しく接するために人気がある。
 だから婚約者であるエレナは他の令嬢から嫉妬されるし、嫌みを言われることもしばしば。
 元々結婚は親同士が決めたことであるから婚約破棄自体はどうでもいいことだが、殺人未遂は流石にエレナであっても黙っているわけにはいかない。
 犯罪なのだから絶対に罰則があるはずだ。

「王子、殺人未遂なんて濡れ衣です。私がそんなことをするとお思いですか?」
「では、魔力の痕跡はどう説明するつもりだ?」
「そ、それは……」

 魔力の痕跡……何かトリックがあると思うが、エレナには説明出来なかった。
 あるとしたら固有魔法と呼ばれるその人のみが使える魔法だけど、エレナには使える人が思い浮かばない。
 そもそも固有魔法は秘密にしている人も多く、エレナもその一人。
 使える人自体少ないのだけど。

「説明出来ないのだな? なら、エレナ……お前を殺人未遂の罪で拘束さけてもらう」
「濡れ衣で捕まるなんてまっぴらごめんです」

 エレナは抵抗し、ジョージの元から転移魔法でその場から消えるのだった。

☆ ☆ ☆

「ハウル、いますか?」

 エレナが転移した先は遠くではなく、同じ屋敷のとある部屋だ。

「お嬢様?」

 突然エレナが現れたことで、この屋敷で使用人と働いているハウル・クリサリスは大声を上げてしまう。
 ハウルは短めのサッパリとした黒髪、ライトブラウンの瞳で、この国では珍しい容姿をしている。
 年はエレナより五歳ほど年が上で今は二十歳だ。
 母親が極東の島国の出身で、一言で表すとハウルは少し塩顔のイケメン。
 この国にいる美男子と違った魅力がハウルにはあり、しばしば彼に見惚れることがあるエレナ。

「静かになさい」
「申し訳ございません」

 主の前で取り乱すわけにもいかず、ハウルはすぐに冷静さを取り戻す。

「どうなさいましたか?」
「今は説明する時間がありません。飛びますよ」

 エレナはハウルの手に触れ、再び転移魔法を発動させるのだった。

☆ ☆ ☆

「いきなりどうされたのですか?」

 何の説明もなく、エレナに転移させられたハウルは混乱している様子。
 しかも転移した場所が人目のない森なのだから、混乱してしまっても仕方ない。

「私は……殺人未遂の罪で今は追われる身になってしまいました」

 エレナの言葉にハウルは目を見開いて驚いてしまう。

「天使様と言われるお嬢様が殺人未遂?」

 とても信じられないと言った声を出すハウル。
 それもそのはずで、エレナは天使様と言われるくらいの美貌の持ち主であり、品行方正で真面目な人だ。
 まず目につくのは腰まで伸びた限りなく白に近い銀色の髪、長いまつ毛に淡紅色の大きな瞳、透き通るような白い肌は誰もが見惚れてしまうほど。
 その上、平民にも優しく接するのだから、人々はエレナのことを天使様と呼ぶ。
 一方、ハウルの家系は代々スタットフェルト家に仕えており、昔からエレナのことを知っている。
 だからエレナがそんなことをするのが信じられないのだろう。

「もちろんそれは濡れ衣です。誰かが私を陥れるために仕組んだのでしょう」
「そうですよね。お嬢様がそんなことをするなんて思えませんし」

 恐らくはジョージも最初は信じられなかったはずだ。
 だが、現場にある魔力の痕跡、エレナが場所を自由に移動できる転移魔法が使えることが確信した要因だろう。
 犯行時刻辺りに誰かと一緒にいたとしても、転移魔法が使えたらアリバイにならない。
 それに徹底的なのは魔力の痕跡……どうやっかわからないが、トリックがわからない限り、エレナの殺人未遂の罪は晴れないだろう。

「私はもう国にはいれません」

 戻ってしまえば捕まるし、エレナは死罪になってしまうだろう。

「王子との結婚はどうなさるのですか?」
「先ほど婚約破棄を言い渡されました。それに私の言葉を信じてくれない人に興味はありません」

 正直、エレナはジョージのことが好きではなく、寧ろ、昔から一緒にいたハウルのことを信頼しているくらいだ。
 だからこうして連れ出したのだし、これからも側にいてほしいとエレナは思っている。

「ハウル……あなたはどこまでも私と一緒にいてくれますか?」
「もちろんでございます。このハウル……お嬢様に忠誠を誓った身でございますので」
「ありがとう。では、一緒に参りましょう」
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