英雄殺しの復讐譚

化茶ぬき

文字の大きさ
9 / 29

第9話 圧縮魔法

しおりを挟む
 クローバーと共に辿り着いたのは町を出て南側にある草原の丘だった。

「こちら側なら比較的安全だと思うので、この辺りにしましょうか」

「グリークさんも言っていたけど、反対側? 町の北側? には何かあるの?」

「何か、と訊かれると答えにくいですが、このジルニアの町が世界のどの位置にあるのか知っていますか?」

「……北側?」

「そうですね。人間が住む場所としては北側です。ですが、この町から山を一つ越えた向こう側には巨大な川が流れていて、その先には旧魔王領が広がっています。魔王がいなくなった今となっては、腕に覚えのある冒険者が偶に様子を窺いに行っているようですが、それでも強力な魔物がこちら側に渡ってくることがあるんです。なので、極力そちらのほうへ近付かないようにしよう、というのがある種の決まりのようなものになっています。もちろん、禁止というわけでは無いですが」

「じゃあ、もし仮に英雄の一人が川の向こう側にいる、ってなったら?」

「当然、行きます。どこに居ようとも関係ありませんので」

「……そっか」

 話もそこそこに、本題に入ろう。

「では、そろそろ――クローバーさん。冒険者登録をする時に魔法の適性を調べましたよね? なんと言われましたか?」

「えっと、偏ってるって言われた、かな。普通の魔法があまり使えない代わりに、圧縮魔法? が秀でている、と」

「圧縮魔法ですか。聞いたことはあります。使える者の少ない稀少魔法の部類に入るようですが、魔力量の消費も大きく実戦向きではないため適性があっても冒険者の中では使う者がほとんどいない、と」

「へぇ~、どういう魔法なの?」

 魔法適性は親から受け継がれることが多い。僕のような例外は別として、大抵は親から魔法の使い方を教わるらしいが……つまり、偶然でも使えたことは無く、親も圧縮魔法の使い手では無かった、と。

「僕もあまり詳しくはありませんが、圧縮――言葉の通り物体を小さくできる魔法です。やってみたほうが早いですね。そこにある石で試してみてください」

「えっと……どうやればいいのかな?」

「知識はあっても使い方まではわからないので、色々と試してみてください」

 座れるくらいに大きな石の下に向かったクローバーは首を傾げながらも手を伸ばした。

 魔力を持っていなくとも、知覚することはできる。

 最初こそよくわからないように魔力を集めた手で石に触れて念じるようなことをしていたが、不意な瞬間に触れた手から石を覆うように魔力を移動させると、その途端に石が圧縮された。

「え!? ……え、成功?」

「成功ですね」

 歩み寄れば、手の中にある小石を見せてきた。

「持ってみる?」

「……そうですね」

 考えられるのは二パターン。魔法を使った本人以外が触れた瞬間に元の大きさに戻るか、任意で戻せるのか。

「はい」

「っ――」

 大きさは変わらない。小石のままだが、問題はその重さだ。これが僕だから良かったものの、それ以外の人が小石を受け取っていたら腕を地面に這わせていただろう。

 つまり、大きさが変わったとしても物体そのものの重さは変わらないということ。

「……クローバーさんはこの小石、重くないですか?」

「うん。全然軽いよ?」

 石を返せば、手の中で遊ばせている。ということは、魔法を使った本人は適した重さを感じるようになり、それ以外には元の重さのまま感じさせているわけか。まぁ、物体そのものを魔力で包んでいるのだから理には適っている。

「元の大きさに戻せますか?」

「やってみる」

 すると、放り投げられた石は地面に着くのと同時に元の大きさに戻った。

「今のは自分の意思で?」

「そう! 上手くいったね!」

「……では、もう一度お願いします。今度は素早く圧縮を」

「わかった!」

 再び手を触れて、石を小さくした。

 なるほど。物体に触れてから小さくするまでに一秒の間がある。それは魔力が物体を包むまでに掛かる時間だから短縮することは難しいだろう。ということは、攻撃を受けた瞬間に対象を小さくしてダメージを負わないようにすることは出来ない。

「力の使い方がわかったところで、次は何を圧縮できて何を圧縮できないのか、それとどれだけの数を圧縮しておけるのかを確かめましょう」

「何からやる?」

「じゃあ、僕から」

 そう言って手を差し伸べればおずおずと握ってきて、魔力が僕の体を包んでいく。

「……あれ?」

「やってますか?」

「やってる、けど……出来ないみたい」

「人か、もしくは生物は圧縮できないのかもしれませんね」

「うん。次は?」

 この場所では物も多くないからこれ以上は何も出来ない。クローバーを連れて森の中に行くのは不安だが、素材を手に入れるには丁度いいか。

「では、場所を移しましょう」

 クローバーを連れて向かったのは南東側にある山の森の中で、見つけた池の前で立ち止まった。魔物の気配は感じるが、まぁこの程度なら問題ないだろう。

「水……はさすがに無理かな」

「なんでも有りではないでしょう。次はこの樹をお願いします」

「はいはい。よし――」

 手に触れ、魔力が樹を包んでいく。しかし、やはり思った通りか。

「無理そうですね」

「うん。圧縮されない」

「では次は――あれにしましょう」

 身を低くしてにじり寄ってきていたステイントカゲを見付けて、その頭を踏み付けて生きたまま捕獲した。

「触れますか?」

「トカゲなら大丈夫!」

「これには毒があるので気を付けてください」

「えっ、う、うん」

 恐る恐るステイントカゲに触れたクローバーが魔力を注ぎ込むが、変化は見られない。

「これも無理ですか。大体わかってきましたね」

「本当? 私は全然わかんない……というか、まったく魔法が使えないなーって感じだけど」

「まずは魔法の特性を理解してから考えることにしましょう。少し離れていてください」

 そう言うと疑問符を浮かべながらもステイントカゲを地面に押さえ付けた僕から離れていった。

「ステイントカゲは捕食対象に噛み付いて毒を流し込んで殺します。当然のようにその肉は食用にはなりませんが、体内にある毒袋は売れるそうです。あとは皮ですね。あまり丈夫ではありませんが、加工しやすく重宝されています」

 言いながらステイントカゲを絞めて腹を裂き、毒袋を取り出して、皮を剥いだ。

「……手慣れているね」

「トカゲは種類が豊富で食べられるものも多いです。それに川や池の周辺に生息していることも多いので、自然とこういうことが身に付きます。では、その肉を圧縮してみてください。体内に含まなければ毒は問題ありませんので」

 躊躇いながらも肉に触れたクローバーだったが、案の定魔法が使えなかった。概ね法則が掴めてきた。

「次はこっちの皮を」

 そう言って手渡すと、ステイントカゲの皮は圧縮されて小さくなった。

「あれ? これは出来た……?」

 本来であれば自分で気が付いてほしいところだけれど、最後の確認をしておこう。

「では――」

 先程、クローバーが触れて圧縮できなかった樹の下へ向かい、根元付近に思い切り脚を振り抜けば、メキメキと音を立てて倒れていった。

「次はこれをお願いします」

「樹? さっきもやったけど――ん! できたっ!」

「ですね。これで圧縮出来るものと出来ないものは把握できました。あとは大きさです。先程の石を出してください。それを小石ではなく掌大にすることは出来ますか?」

 取り出した小石を手に乗せて、それを凝視するクローバーだが変化する様子は無い。

「……一回試してもいい?」

「どうぞ、好きなようにしてください」

 すると、クローバーは小石を地面に落として元の大きさに戻し、再び手を触れると今度は掌大の大きさに圧縮してみせた。

「あ、やっぱりだ。圧縮した物は元の大きさにしか戻せないけど、元の物を圧縮する大きさは変えられるみたい」

「なるほど。では、総括しましょう。クローバーさんの圧縮魔法の特徴は三つ。まず、生物は圧縮できない。それに付随して、生感のある物も圧縮できないようです。生肉が圧縮できず、皮が圧縮できたので認識の問題だとは思いますが。二つ目は圧縮するものは全容を掴めていなければなりません。自生している樹は地中に根が張り巡らされているため圧縮できず、倒れた樹を圧縮できたのがその証拠です。そして三つ目が、圧縮したものはクローバーさん本人以外には本来の重さのままだ、ということです」

「……三つ目は重要?」

「まぁ、直接的にクローバーさんには関係ありませんが大事なことです。実践してみましょう」

 そう言って、圧縮した小石を受け取って池の横に埋まっている巨大な岩を指差した。

「見ていてください。まず、これはそこで拾った普通の小石です」

 腕を振り被り、普通の小石を巨大な岩に向かって投げ付ければ、直撃と同時に小石がバラバラに砕け散った。

「次に、クローバーさんの圧縮した小石です」

 再び腕を振り被って小石を投げれば、直撃と同時に派手な音を立てて岩が凹みヒビが広がった。

「っ――ど、どうして……?」

「簡単に説明すれば、同じ大きさの物体だとして、片方の重さが五キロでもう片方が二十キロ、それが同じ速度でぶつかれば重いほうが大きな衝撃を与える、とそんな感じです」

「……なるほど! つまり、それを利用すれば私も戦うことが出来るってこと!?」

「可能ではあります。けれど、戦いは徐々に覚えていけば良いので、今は敵の攻撃を防ぐこと、逃げることに重点を置いてください」

「でも、それだと私はロロくんを手伝えない……」

「お気持ちは受け取ります。ですが、僕を手伝うというのならやはり防ぐことと逃げることを一番に考えてください。それが僕のためになります」

「……うん。わかった」

 納得してくれたのか手の中にある圧縮した樹を見ながら何かを考え始めた。

 まぁ、実際のところ圧縮魔法はもう少し複雑なのだろう。しかし、僕にとっては中々に有用ではある。

 もう少し調べたいことはあるけれど、実践的な使い方はクローバー自身で試して覚えていくほうがいい。とりあえず、一番の収穫は圧縮魔法に詠唱が不要という点だ。それはもしかしたら適性が秀でていて他の魔法が使えない代償かもしれないが、ものは考えようだ。使えるものを最大限に利用する。僕は常にそうやってここまで来たのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処理中です...