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第22話 英雄教団
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目が覚めた時、日の高さは時刻が昼過ぎだということを伝えていた。
「っ……はぁ」
体は問題ない。雑嚢から取り出した水筒に残っていた水で顔を洗い、固まっていた血を流した。
さて、街へと戻らないといけないわけだが、正規に門を出てきたわけではないから、また塀を越えなければいけない。
遠巻きに平原地帯を眺めれば、ギルド職員っぽい数人と二人の護衛だった冒険者の三兄弟の姿が見える。今更、ヴァイシュが殺されたことを知ったわけでは無いだろうから後追い調査ってところか。なら、今のうちに戻るとしよう。
黒だったローブを裏返して白に戻して羽織り、アルデゴへと向かった。
塀の外側にある樹に登り、そこから塀を越えて街の中へ侵入して、人気の無い道を通って宿へと足を進めれば――宿の前でクローバーと鉢合わせた。
「ロロくん!」
「クローバーさん……とりあえず部屋に行きましょう」
一晩無人だった借りている部屋に入り、ベッドに腰掛けて肩を落とした。
「……疲れてる?」
「そうですね。何か食べる物ありますか?」
「うん。パンとミルクなら」
差し出されたパンを一齧りしたが、さすがにまだ味は感じられないか。外側と違って体の内側は治りが遅い。
「ふぅ……まず、ヴァイシュは死にました。まだ公にはされていませんか?」
「ううん。今朝ギルドに行ったらヴァイシュ・ラヴァナ兄妹が何者かの襲撃によって殺害されたって貼り出されてたよ」
「そうですか。つまり、まだ僕だとは知られていないってことですね」
「うん。今のところは黒のローブを羽織った男を捜索してるって。冒険者かどうかも定かじゃないから、魔王軍の残党が人間の中に溶け込んでいるのかもって噂になってる」
「好都合ではありますが、あまり変に尾鰭が付くのも考えものですね」
「この後はどうするの? 早めに街を出る?」
「いえ、暫くは留まったほうがいいでしょう。騒ぎになるのは望むところですが、疑われるのはまだ時期尚早です。それに――残りの英雄へ辿り着く手立てはここにあるので」
雑嚢から出したラヴァナの書き掛けの本をクローバーに手渡せば、パラパラとページを捲り驚いた顔を見せた。
「これ、本当なのかな?」
「ラヴァナが新しい本のために取材をしていたらしいので、おそらくは本当かと。まぁ、参考程度に」
「……じゃあ、はい。これを持っているのがバレるのもマズいもんね」
受け取った本を雑嚢に仕舞ってミルクを飲めば、クローバーが徐に立ち上がって抱き締めてきた。
「どうしました?」
「良かった……帰ってこないかと思ったから……本当に、生きてて良かった」
「死にませんよ。復讐を果たすまでは――死ねません」
「うん……うん。私も手伝うから、だから……もしもの時は私も一緒に、ね」
その言葉の真意を問おうとは思わない。
復讐は、始まる時も終わる時も結局は一人だからな。
とりあえず、今日一日はのんびり過ごすとしよう。
――――
翌日、クローバーと共にギルドへとやってきた。
「想像していたよりは落ち着いた雰囲気ですね」
「昨日はもうちょっと慌ただしい感じだったけど……」
ギルド職員は忙しなく動き回っているが、冒険者たちは意外と普通に談笑していたりクエスト掲示板を眺めている。
「一先ずは僕らもクエストを選びましょうか」
「は~い。……これは?」
「早いですね」
「うん。なんか目に付いたちゃった」
「血姫草の根の採取クエスト、ですか。では、これにしましょう」
「お~」
血姫草の根――体内の血を増幅させる治療に使われる植物だ。ポーションは体力や傷を回復させ、解毒用はその名の通り。増血はあまり必要とされていないが、一部では研究に使われているんだとか。
まぁ、クローバーが血姫草の根の使い道を知っているのだとしたら、このクエストを選んだのは僕の体を気遣ってのことだろうけれど。
「すみません、このクエストをお願いします」
「はいはい、少々お待ちください。ふぅ――はい、では確認しますね」
呼吸を整えたお姉さんはクエスト用紙を確認し、僕らの認識票に目を移してきた。
「……忙しいですか?」
「え、あ、はい。そうですね。ギルドのほうはてんやわんやって感じです。英雄の死に世界が揺れていますが、それでも魔物による被害が減るわけではありません。なので、冒険者の方々には今まで通り仕事を受けていただければ、と思っています」
「僕らにはクエストを熟すことくらいしか出来ませんから」
「そう言っていただければ送り出すこちらとしても有り難いです。血姫草の根の採取クエスト、ロロさんとクローバーさんのお二人ですね。受諾致しました。気を付けていってらっしゃいませ」
スワル大平原へ向かって街を歩けば、やはりギルドの中とは雰囲気が違う。
冒険者とは違い、住人や商人たちは悲嘆に暮れている。街を警備する兵士たちは殺伐としているし、二日前とは大違いだ。まぁ、その原因を作った僕がとやかく言えることでは無いが。
「ねぇ、ロロくん。思ったんだけどさ、この街にいれば他の英雄がやってくるってことはない?」
「可能性はあります。ですが、それは僕にとって有益な状況になり得ません」
「待ってるだけでいいのに?」
「故に、ですね。この街の兵士――殊更、護衛をしていた五人は負い目を感じているはずです。そこに英雄が現れ、戦いになる。そうなれば相手は英雄だけではなくなります。さすがにそれは避けたいので」
「あ~、そっか」
「とはいえ、しばらくはここに留まっていくつかクエストを熟しましょう。そのほうが怪しまれません」
「は~い」
その言葉通り――二日間は採取クエストを熟し、三日目には定期的に行われている街の地下を通る下水道のジャイアントマウス討伐に参加をした。ローランカーの冒険者が複数で行うクエストだから、そう苦労も無い。
「――はい。認識票より戦闘記録の確認が済みました。それに加えて更新も致しましたが……おめでとうございます。ロロさんは第六位に、クローバーさんは第八位に昇格です」
「ありがとうございます」
「私も昇格できたー」
少しペースが早いような気もするが、まぁ問題ないだろう。
「……なんでしたっけ? 六位から五位に上がるのが難しい、でしたっけ?」
不意に思い出したことを口にすれば、カウンターの向こうにいるお姉さんが頷いて見せた。
「そうですね。六位まではクエストの数とギルドへの貢献度だけでも上がることができますが、上位に上がるには魔物の討伐が必須になります。あまり公にはされていませんが、六位から五位には討伐数が、それ以上はギルドが定めた魔物を倒すことで昇格することができます」
その魔物というのは複数いてリストでもあるのだろうが、上位に上がるつもりもないので聞くことはしない。
「とりあえず私はクエストを熟さなきゃだね~」
「クエストの達成数だけで言えば、僕もクローバーさんと然程変わらないはずです。なので、どちらかというと魔物との戦闘実績のほうがポイントが大きいのでしょう。ポイント、というのが正しいのかわかりませんが」
「ん~、戦闘かぁ……」
などと話していると、ギルドの戸の開く音がして、冒険者たちのざわつく声が聞こえてきた。
振り返り視線を向ければ、そこには赤色の装備を身に纏った冒険者たちがギルド内を見回していた。
「あれは……英雄信仰ですか?」
「そう、だと思います。英雄信仰――英雄教団、ですね。おそらくヴァイシュ様とラヴァナ様が亡くなったことを調査しに王都より派遣されたのかと」
そろそろ動き出す頃かと思っていたら、案の定だな。
「英雄信仰? 英雄教団? ってなに?」
「言葉の通りですが、クローバーさんは教会に行ったことはありますか?」
「ん~……あるとは思う」
「従来の教会は唯一神を信仰する、いわゆる普通の教会ですが、英雄教団は魔王を倒した英雄を神として称える集団のこと、ですよね?」
確認するように、お姉さんに疑問符を飛ばした。
「はい。王都近くで活動している冒険者の三分の一は英雄教団の信者だと聞きます。今では元々が唯一神様を信仰していた教会も、英雄教団に乗っ取ら――ごほんっ。いえ、改宗しているところもあるようです」
「へ~……赤色なのはどうして?」
その問い掛けに、お姉さんと顔を見合わせて首を傾げた。
「僕もそこまではわかりませんが……」
「シンボルカラーなのでしょう。由来は訊く他にありませんが」
「まぁ、僕らには関わりのないことなので、この辺りで失礼します」
頭を下げてその場を去ろうとした時、英雄教団の数人がこちらへやってきた。他の信者は冒険者たちに話を聞いているが、内容までは届いて来ない。
「お前たち冒険者だろ? 英雄様たちが亡き者にされたことについて知っていることはあるか?」
「いえ、特には。何かわかっていることはあるんですか?」
「わかっていれば我々がわざわざこんなところまで赴くことはしない。情報によれば黒のローブというだけで、冒険者かどうかも定かでは無い。故に、こうして訊き回っているわけだ」
「なるほど。ですが、さすがにローブの色だけでは難しいですよね……」
「ああ。だから、今はどんなことでもいいから情報を求めている。何か思い出したことがあればいつでも我々の下を訪ねろ」
「わかりました」
去っていく信者の背を見送り、そのままクローバーと共にギルドを後にして宿へと戻った。
「凄いね、ロロくん。私、あの人が目の前に来たときドキドキしちゃった」
「僕はこういう事態も想定していたので、クローバーさんはあまり気にしないでください」
「でもさ~……もしかして、あの人たちとも戦うことになる?」
「もしかしなくとも戦うことにはなります。そうならないのが最善なので戦わない方向で調整しますが、覚悟はしておいてください」
「……戦う覚悟?」
「いえ、逃げる覚悟です。心構えがあるかどうかで、行動できるまでの一歩目が変わりますから」
「わかった! 覚悟はしておくけど、守るほうのね。私は逃げないで、ロロくんを守るから」
「まぁ、それでも構いません。とりあえず、人と戦うかもしれないことだけ意識しておいてください」
相手が英雄でなければ、僕じゃなくても勝てる可能性はある。特にクローバーの力なら戦わずに逃げ切るだけなら容易いはずだ。
英雄教団――いずれは僕の目的を阻む壁になるだろうが、まだ先の話かな。
受付のお姉さん曰く、信者たちが王都の周辺に多いのであれば、ラヴァナの本を参考に王都から離れた場所にいる英雄を狙うとしよう。当然、そちらにも教団が手を回して護衛をしている可能性はあるが、大した問題では無い。
「そういえば真っ直ぐ宿に戻ってきちゃったね。ご飯どうする?」
「外に行くにも英雄教団が居たのでは落ち着いて食べられませんからね……」
「じゃあ、圧縮しておいたのでいい?」
「そうですね。今日は保存食で、明日の朝はどこかに食べに行きましょう」
夕飯を保存食で済ませ――クローバーが部屋に戻ろうとした時、これまで一度も鳴らなかった部屋のドアがノックされた。
「っ……はぁ」
体は問題ない。雑嚢から取り出した水筒に残っていた水で顔を洗い、固まっていた血を流した。
さて、街へと戻らないといけないわけだが、正規に門を出てきたわけではないから、また塀を越えなければいけない。
遠巻きに平原地帯を眺めれば、ギルド職員っぽい数人と二人の護衛だった冒険者の三兄弟の姿が見える。今更、ヴァイシュが殺されたことを知ったわけでは無いだろうから後追い調査ってところか。なら、今のうちに戻るとしよう。
黒だったローブを裏返して白に戻して羽織り、アルデゴへと向かった。
塀の外側にある樹に登り、そこから塀を越えて街の中へ侵入して、人気の無い道を通って宿へと足を進めれば――宿の前でクローバーと鉢合わせた。
「ロロくん!」
「クローバーさん……とりあえず部屋に行きましょう」
一晩無人だった借りている部屋に入り、ベッドに腰掛けて肩を落とした。
「……疲れてる?」
「そうですね。何か食べる物ありますか?」
「うん。パンとミルクなら」
差し出されたパンを一齧りしたが、さすがにまだ味は感じられないか。外側と違って体の内側は治りが遅い。
「ふぅ……まず、ヴァイシュは死にました。まだ公にはされていませんか?」
「ううん。今朝ギルドに行ったらヴァイシュ・ラヴァナ兄妹が何者かの襲撃によって殺害されたって貼り出されてたよ」
「そうですか。つまり、まだ僕だとは知られていないってことですね」
「うん。今のところは黒のローブを羽織った男を捜索してるって。冒険者かどうかも定かじゃないから、魔王軍の残党が人間の中に溶け込んでいるのかもって噂になってる」
「好都合ではありますが、あまり変に尾鰭が付くのも考えものですね」
「この後はどうするの? 早めに街を出る?」
「いえ、暫くは留まったほうがいいでしょう。騒ぎになるのは望むところですが、疑われるのはまだ時期尚早です。それに――残りの英雄へ辿り着く手立てはここにあるので」
雑嚢から出したラヴァナの書き掛けの本をクローバーに手渡せば、パラパラとページを捲り驚いた顔を見せた。
「これ、本当なのかな?」
「ラヴァナが新しい本のために取材をしていたらしいので、おそらくは本当かと。まぁ、参考程度に」
「……じゃあ、はい。これを持っているのがバレるのもマズいもんね」
受け取った本を雑嚢に仕舞ってミルクを飲めば、クローバーが徐に立ち上がって抱き締めてきた。
「どうしました?」
「良かった……帰ってこないかと思ったから……本当に、生きてて良かった」
「死にませんよ。復讐を果たすまでは――死ねません」
「うん……うん。私も手伝うから、だから……もしもの時は私も一緒に、ね」
その言葉の真意を問おうとは思わない。
復讐は、始まる時も終わる時も結局は一人だからな。
とりあえず、今日一日はのんびり過ごすとしよう。
――――
翌日、クローバーと共にギルドへとやってきた。
「想像していたよりは落ち着いた雰囲気ですね」
「昨日はもうちょっと慌ただしい感じだったけど……」
ギルド職員は忙しなく動き回っているが、冒険者たちは意外と普通に談笑していたりクエスト掲示板を眺めている。
「一先ずは僕らもクエストを選びましょうか」
「は~い。……これは?」
「早いですね」
「うん。なんか目に付いたちゃった」
「血姫草の根の採取クエスト、ですか。では、これにしましょう」
「お~」
血姫草の根――体内の血を増幅させる治療に使われる植物だ。ポーションは体力や傷を回復させ、解毒用はその名の通り。増血はあまり必要とされていないが、一部では研究に使われているんだとか。
まぁ、クローバーが血姫草の根の使い道を知っているのだとしたら、このクエストを選んだのは僕の体を気遣ってのことだろうけれど。
「すみません、このクエストをお願いします」
「はいはい、少々お待ちください。ふぅ――はい、では確認しますね」
呼吸を整えたお姉さんはクエスト用紙を確認し、僕らの認識票に目を移してきた。
「……忙しいですか?」
「え、あ、はい。そうですね。ギルドのほうはてんやわんやって感じです。英雄の死に世界が揺れていますが、それでも魔物による被害が減るわけではありません。なので、冒険者の方々には今まで通り仕事を受けていただければ、と思っています」
「僕らにはクエストを熟すことくらいしか出来ませんから」
「そう言っていただければ送り出すこちらとしても有り難いです。血姫草の根の採取クエスト、ロロさんとクローバーさんのお二人ですね。受諾致しました。気を付けていってらっしゃいませ」
スワル大平原へ向かって街を歩けば、やはりギルドの中とは雰囲気が違う。
冒険者とは違い、住人や商人たちは悲嘆に暮れている。街を警備する兵士たちは殺伐としているし、二日前とは大違いだ。まぁ、その原因を作った僕がとやかく言えることでは無いが。
「ねぇ、ロロくん。思ったんだけどさ、この街にいれば他の英雄がやってくるってことはない?」
「可能性はあります。ですが、それは僕にとって有益な状況になり得ません」
「待ってるだけでいいのに?」
「故に、ですね。この街の兵士――殊更、護衛をしていた五人は負い目を感じているはずです。そこに英雄が現れ、戦いになる。そうなれば相手は英雄だけではなくなります。さすがにそれは避けたいので」
「あ~、そっか」
「とはいえ、しばらくはここに留まっていくつかクエストを熟しましょう。そのほうが怪しまれません」
「は~い」
その言葉通り――二日間は採取クエストを熟し、三日目には定期的に行われている街の地下を通る下水道のジャイアントマウス討伐に参加をした。ローランカーの冒険者が複数で行うクエストだから、そう苦労も無い。
「――はい。認識票より戦闘記録の確認が済みました。それに加えて更新も致しましたが……おめでとうございます。ロロさんは第六位に、クローバーさんは第八位に昇格です」
「ありがとうございます」
「私も昇格できたー」
少しペースが早いような気もするが、まぁ問題ないだろう。
「……なんでしたっけ? 六位から五位に上がるのが難しい、でしたっけ?」
不意に思い出したことを口にすれば、カウンターの向こうにいるお姉さんが頷いて見せた。
「そうですね。六位まではクエストの数とギルドへの貢献度だけでも上がることができますが、上位に上がるには魔物の討伐が必須になります。あまり公にはされていませんが、六位から五位には討伐数が、それ以上はギルドが定めた魔物を倒すことで昇格することができます」
その魔物というのは複数いてリストでもあるのだろうが、上位に上がるつもりもないので聞くことはしない。
「とりあえず私はクエストを熟さなきゃだね~」
「クエストの達成数だけで言えば、僕もクローバーさんと然程変わらないはずです。なので、どちらかというと魔物との戦闘実績のほうがポイントが大きいのでしょう。ポイント、というのが正しいのかわかりませんが」
「ん~、戦闘かぁ……」
などと話していると、ギルドの戸の開く音がして、冒険者たちのざわつく声が聞こえてきた。
振り返り視線を向ければ、そこには赤色の装備を身に纏った冒険者たちがギルド内を見回していた。
「あれは……英雄信仰ですか?」
「そう、だと思います。英雄信仰――英雄教団、ですね。おそらくヴァイシュ様とラヴァナ様が亡くなったことを調査しに王都より派遣されたのかと」
そろそろ動き出す頃かと思っていたら、案の定だな。
「英雄信仰? 英雄教団? ってなに?」
「言葉の通りですが、クローバーさんは教会に行ったことはありますか?」
「ん~……あるとは思う」
「従来の教会は唯一神を信仰する、いわゆる普通の教会ですが、英雄教団は魔王を倒した英雄を神として称える集団のこと、ですよね?」
確認するように、お姉さんに疑問符を飛ばした。
「はい。王都近くで活動している冒険者の三分の一は英雄教団の信者だと聞きます。今では元々が唯一神様を信仰していた教会も、英雄教団に乗っ取ら――ごほんっ。いえ、改宗しているところもあるようです」
「へ~……赤色なのはどうして?」
その問い掛けに、お姉さんと顔を見合わせて首を傾げた。
「僕もそこまではわかりませんが……」
「シンボルカラーなのでしょう。由来は訊く他にありませんが」
「まぁ、僕らには関わりのないことなので、この辺りで失礼します」
頭を下げてその場を去ろうとした時、英雄教団の数人がこちらへやってきた。他の信者は冒険者たちに話を聞いているが、内容までは届いて来ない。
「お前たち冒険者だろ? 英雄様たちが亡き者にされたことについて知っていることはあるか?」
「いえ、特には。何かわかっていることはあるんですか?」
「わかっていれば我々がわざわざこんなところまで赴くことはしない。情報によれば黒のローブというだけで、冒険者かどうかも定かでは無い。故に、こうして訊き回っているわけだ」
「なるほど。ですが、さすがにローブの色だけでは難しいですよね……」
「ああ。だから、今はどんなことでもいいから情報を求めている。何か思い出したことがあればいつでも我々の下を訪ねろ」
「わかりました」
去っていく信者の背を見送り、そのままクローバーと共にギルドを後にして宿へと戻った。
「凄いね、ロロくん。私、あの人が目の前に来たときドキドキしちゃった」
「僕はこういう事態も想定していたので、クローバーさんはあまり気にしないでください」
「でもさ~……もしかして、あの人たちとも戦うことになる?」
「もしかしなくとも戦うことにはなります。そうならないのが最善なので戦わない方向で調整しますが、覚悟はしておいてください」
「……戦う覚悟?」
「いえ、逃げる覚悟です。心構えがあるかどうかで、行動できるまでの一歩目が変わりますから」
「わかった! 覚悟はしておくけど、守るほうのね。私は逃げないで、ロロくんを守るから」
「まぁ、それでも構いません。とりあえず、人と戦うかもしれないことだけ意識しておいてください」
相手が英雄でなければ、僕じゃなくても勝てる可能性はある。特にクローバーの力なら戦わずに逃げ切るだけなら容易いはずだ。
英雄教団――いずれは僕の目的を阻む壁になるだろうが、まだ先の話かな。
受付のお姉さん曰く、信者たちが王都の周辺に多いのであれば、ラヴァナの本を参考に王都から離れた場所にいる英雄を狙うとしよう。当然、そちらにも教団が手を回して護衛をしている可能性はあるが、大した問題では無い。
「そういえば真っ直ぐ宿に戻ってきちゃったね。ご飯どうする?」
「外に行くにも英雄教団が居たのでは落ち着いて食べられませんからね……」
「じゃあ、圧縮しておいたのでいい?」
「そうですね。今日は保存食で、明日の朝はどこかに食べに行きましょう」
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