英雄殺しの復讐譚

化茶ぬき

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第23話 招集

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「クローバーさん、下がって」

「え、うん」

 ドアからクローバーを遠ざけて、ナイフに手を掛けた。

「……どちら様でしょうか?」

「すみっ、ません……はぁ……私、ギルドの者ですが……こちらに冒険者のロロさんはいますか?」

 呼吸を整えるような息遣い。声も聞き覚えがあるし、急ぎの用か?

 ナイフから手を放し、ドアを開ければギルドで対応してくれていたお姉さんが立っていた。

「どうかしましたか?」

「あ、ロロさん。良かった。ここだったんですね」

「よくここがわかりましたね?」

「早馬で街中の宿を調べていただきましたので」

「それで、ご用件は?」

 未だに呼吸の整っていないお姉さんは気丈に振る舞っているが苦しそうだ。

「そう、そうですよね。実はギルド本部より通達がありまして――現在、旧魔王領より魔物の大群がこちらに向かって行軍中とのこと。第五位以上の冒険者と、六位の中でも魔物討伐の実績がある方を集めるように、と」

「僕なんか六位に上がったばかりですが……そもそも、五位以上で事足りるんじゃないですか? それに魔物の大群なら英雄の誰かが出て来れば、それと上位の冒険者数人だけでもどうにか出来ると思いますが」

「タイミング的に英雄は前線に出ないほうが良い、という判断をしたようです。それに加えて英雄の護衛や殺害犯探しに上位の冒険者が動いてしまっているので、六位の方を呼ぶことに。断っていただいても大丈夫ですが、ギルドとしてはなんとか……」

 人々を守るはずの英雄や冒険者が前線には出ずに、安全なところで身を固める、か。本末転倒にも程がある。

 とはいえ、旧魔王領か。次は北東へ向かうつもりだったし丁度いいかもしれない。それに、今のアルデゴは居心地が悪い。ギルドからの要請で街を離れるのであれば怪しまれることもない。

「わかりました。僕で力になれるなら」

「良かった! ありがとうございます!」

「ですが、僕のパーティーメンバーのクローバーさんはどうしましょう? できれば一緒だと有り難いのですが」

「え~っと……そうですね。第五位以上がいるパーティーであればそれ以下の冒険者がいても良いのですが、六位となると……」

「では、戦場には出さず、近くの街で待機していてもらいます。それで大丈夫ですかね?」

「それでしたら、おそらく大丈夫です。では、準備を整え次第、ギルドに向かいましょう」

「わかりました」

 そして、話を聞いていたクローバーと共にお姉さんの後についてギルドへとやってきた。

「旧魔王領って北側だよね? ギルドに来るより向かったほうが早いんじゃない?」

「同感ですが、何かあるのでしょう」

 時刻は競りすらも終わっている時間だが、ギルドには集められたであろう冒険者十数名が居た。

 さすがに上位の冒険者ともなれば、互いに興味を示すこともなく落ち着いている。

「全員集まっているな!? 急な招集となってしまって済まない! 儂はこのギルドの長、グリムガルだ」

 髭を蓄えたおじいさんは汗だくで焦っているようだった。

「おう、グリムのじいさんよ。魔物の大群なんだろ? だとしたらこの人数じゃ足りねぇだろ」

「此度は各ギルドから十名程度の冒険者を招集すると聞いた。おそらくは全員で四十名程度にはなるだろう。それでも事足りる、というのが皇帝の見立てだ。問題は無いだろう」

「そうは言ってもなぁ……」

 その口振りから察するに、魔物の大群が攻めてくるのは初めてではないのだろう。

「君らにはこれから転移魔法でジルニアまで移動してもらう。詳しい説明はそこで聞いてくれ。では、頼んだぞ」

 すると、グリムガルの陰から出てきた女性が冒険者の中心に立つと持っていた杖を床に突き立てた。

「皆さん、準備は宜しいですか? 《ゆるりゆらりと――時渡り》」

 その瞬間、杖の先から床に魔力が広がって眩いくらいの光が辺りを包み込み――気が付けば、ジルニアのギルド内に移動していた。知識として転移魔法は知っていたけれど、体感してみると不思議な気分だ。

「クローバーさん、大丈夫ですか?」

「うん、全然。でも便利だねぇ、転移魔法?」

「確かに便利ですが、転移魔法を使えるのは五人もいないらしいですよ。圧縮魔法よりも稀少です」

「じゃあ、それだけ緊急事態ってことなんだね」

「ですね」

 そんなことを話していると、ギルド内の少し離れたところに転移魔法でやってきた冒険者たちが現れて、この場に凡そ二十数名が集まった。とりあえずローブのフードを目深に被っておこう。

「よくぞ集まってくれた皆の衆! 各々で事情は知っての通り! まずは名乗っておこう! 私は此度の戦闘の指揮を務めさせていただく第二位のジョーイル! 気軽にジョーとでも呼んでくれ!」

 ギルドの二階へと続く階段から降りてきた筋骨隆々の男は、深夜とも思えぬ大声でこちらを威圧してくる。いや、あれが素か?

「おい、聞いたか? ジョーイルだってよ」

「ああ、大斧のジョーイル。実物は初めて見るな」

「英雄が参戦しないとなると、さすがに実力者を集めたようだ」

 そんな会話が漏れ聞こえてくる。

 見た目の年齢的にはウォードベル神父と同じくらいか。英雄のランクが第一位だとすれば、次点の第二位。確かに実力者なのは間違いないのだろう。

「明日の朝にここから旧魔王領へと転移するが、その前に作戦を立てる! 戦闘に参加しないパーティーメンバーがいる場合は隣の宿を取ってあるからそちらで休ませろ」

「では、クローバーさんはそちらに」

「うん。あ、あのさ……」

「大丈夫です。僕は必ず帰ってきますから」

「……信じてるからね」

「はい」

 ルールは呪いだ。つまり、復讐を始めた以上、死ぬことはない。死ぬ、つもりはない。

 クローバーと共にギルドから出て行く数人を見送ると、ジョーイルが大きく息を吐いた。

「では話し合いに戻るが、今からお前らに名簿を配る。そこにはこの場にいる冒険者の順位と名前が載っている。ザッとでいいから顔と名前を憶えて連携を取れるようにしておけ」

 すると、ギルド職員が冒険者の間を抜けながら差し出してきた紙を受け取った。……しっかりと一番下に僕の名前が載っている。

「行き渡ったな? じゃあ、ここからが本題だ。まず、レッサー。お前んとこのパーティーは五人だったな?」

 ジョーイルと同じく第二位のレッサー、その下に並んでいる三位二人と四位二人がパーティーということだろう。

「ああ、全員揃ってるぜ」

「じゃあ、お前らは左舷からの奇襲組だ。タイミングはあとで教える」

「それは構わねぇが戦力を分散して大丈夫か?」

「問題ない。左舷はレッサーのパーティーに。右舷はエンドゥルに集まっている冒険者及び、元三位以上の冒険者を招集し奇襲を仕掛けることになっている」

「なるほど。中々に切羽詰まっているらしいが、そういうことなら引き受けよう。前線が分散すれば、それだけ戦況も有利に動くからな」

 どうやらある程度上位の冒険者たちは魔物の大群と戦闘経験があるらしい。まぁ、それが十年以上前のことなら知る由もない。

「じゃあ、残りの奴らでも分担しておくぞ。この中で前衛の奴は手を挙げろ?」

 ここは変に様子見をするべきところでは無いな。

「あ~……十人ってところか。他の遠距離攻撃持ちは、前に出て戦う私たちを援護してくれ。各々で戦い方は違うだろうが、躊躇うことはない。お前らは冒険者だ! 自分の身は自分で守れ!」

 それが出来る者だけが集められたってことだろう。

 各々で戦い、互いを補い、自らを守る。しかし、ローランカーではそうもいかない。伴わない実力と、点数稼ぎの独断専行。数を揃えるだけなら血気盛んな新人を呼べば済むだけ話だが、無駄死にを減らすための人選をした、と。

「よし、詳しくはまた戦場で指示する! 今日は休め!」

 ジョーイルがそう言うと、ギルド職員がガチャガチャと籠を牽きながらやっていた。

「冒険者の皆様におかれましては、魂と呼ぶべき武器をお持ちだと思いますが、ギルドより予備の武器を用意しました。ご自由にお使いください」

 武器の下へ行く者、床に座って眠る者、パーティーで来ている者たちは話し合いをしている。

 僕も武器を見よう。

 アルデゴで英雄教団と話した時の違和感――捜しているのは黒のローブの男だと言っていたが、ヴァイシュの体には投げナイフが刺さっていたはずだ。にも拘わらず、誰もそのナイフについては触れない。敢えて公にしていないのであれば、同じ種類の投げナイフを使うのはマズい。

 念のためにスティングヘッジホッグのナイフはクローバーに渡して圧縮してもらっているから、現状の手持ちの武器はナイフが四本のみ。それだけでも十分ではあるけれど、予備を貰えるのなら備えておくとしよう。

「……まぁ、雑な扱いはわかります」

 他の武器類とは違い、片手剣だけは一つの木箱に雑多に容れられている。使う冒険者が少ないのに用意されているだけでも有り難い。

 片手剣でも小型のものを邪魔にならないようにローブの裏側などに忍ばせて――夜が明けるのを待つとしよう。


 ――――


 翌朝、冒険者たちが一斉に目覚めると、ギルド職員から干し肉とパンを受け取って朝食を済ませた頃、背中に大斧を担いだジョーイルがやってきた。

「さぁ、戦争の時間だ! 準備はいいか!? 転移魔法を同時展開! レッサーたちは合図を待て! 行くぞ!」

 そして、ギルドの床に魔力が広がった瞬間――移動した先は背後に大河の流れる荒野だった。
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