異世界のネコ科ってどこからどこまでですか?

化茶ぬき

文字の大きさ
8 / 23
魔窟の森

第八話 影無き捕食者

しおりを挟む
 まずは相手がどういう攻撃を仕掛けてくるのかを考える必要がある。

 クマにとっての武器は両手足の爪と、牙だろう。しかし、初手から急所でもある顔を寄せる噛み付きをしてくる可能性は低い。

 振り下ろしてきた爪を避けて距離を詰めると、胸の中央目掛けて拳を振り抜いた――のだが。

「さすがに硬ぇ。つーか、弾力か」

 筋肉と脂肪、それにおそらく皮膚も分厚いし毛も硬い。一応は軽くひねりを加えて殴ったつもりだったのだが、いまいちダメージを与えられていない。

 二撃目をしゃがんで避け、追撃し振り下ろしてくる両爪を後ろに下がって避けた。

「……うん」

 まぁ、俺自身それなりに動けることはわかった。

 異世界のモンスターとはいえ相手はクマだ。別に元の世界でクマと戦ったことがあるわけじゃないが、行動はなんとなくわかる。だとするならば、この世界のモンスターに黒豹流武術が通じるのかどうかを試す良い実験になる。

 とはいえ、変に時間を掛けてテストが不合格になるのも困る。だから、じいさんが相手では試せなかった技をやってみるか。

 油断しているであろう今のうちに本気で殺しに行く。

「――っし!」

 クマに向かって駆け出すと、待ち構えるように腕を振り上げていた。それが当然の反応だし、俺はそれを求めていた。

 腕が届く範囲ギリギリ手前で横に飛び、木を蹴り跳ねてクマの下まで戻ると振り上げていた腕にしがみ付いて首に脚を掛け、尻尾をもう片方の腕に絡ませた。

 クマは呼吸が苦しそうに唸るが、完全に嵌まった脚を解くことはできない。しかし、首の太さからして普通に絞め殺すのは難しい。だが、黒豹流武術には関係ない。

 腕を掴んだ体と尻尾のひねりを脚まで伝えて、周りから見れば微動且つ最小限の動きで最大の力を加え、首を後ろ側に向けて圧し折った。

「黒豹流武術――竹節ちくせん砕き。まぁ、正確には圧し折るってより内側の骨を破裂させるって感じだがな」

 人と同じように骨がある生き物なら同様のことができる。まぁ、生き物に使ったのは初めてだが。

 倒れたクマから二人のほうに視線を移せば、オオイノシシは切られたところから炎を上げて燃えており、オオコウモリは内臓らしき臓物をまき散らして地面に潰れていた。

「それが貴様を貴様足らしめている技か。たしかに、それならば対肉弾戦において最強と呼ばれるのも頷ける」

「もういいだろ、最強とか。つーか、そっちも無傷か」

「この程度のモンスターなら当然ですわ。それよりも一つ気が付いたことがあるんですけれど」

「奇遇だな。俺様も気付いたことがある」

 同意するように肩を竦めると、二人は同時に息を吸った。

「こいつら――」

「〝知性がある〟」

「だな」

「本当に野生の獣なら様子見をすることも油断をすることも無い。それは人間のように知性がある者の特権だ」

「ある種の斥候、というのかしら」

 斥候ね。確かにそんな感じだ。二人のほうがどうだったのかは知らないが、俺が相対したクマは明らかにこちらの実力を計りに来ていた。

 まさしく油断大敵を体現したことになったわけだが、それは次がある証拠だし、なんだったら今度こそ全力で殺しに来るだろう。

「つまり、指揮しているボスがいるってことだよな? それが影無き捕食者ってやつかはわからないにしても、確実にいるはずだ」

「森に入って三十分と経たずにこれだ。どうやら、俺様たちは歓迎されているらしい」

 戦わなければテストにならないことを考えれば、確かに歓迎されているのだろうが、もう少し穏やかでも有り難い。

 そして再び歩き出したのだが、前を行くアヤメは何かに気が付いたのか脚を止めた。

「……何か来ますわね」

 その言葉に辺りを見回したが、俺は何者の気配も感じない。

「ん? 特に何も――」

 疑問符を浮かべて前を見れば、ジュウゴも何かに気が付いたように剣の柄を握った。

「来るぞ!」

 視線を追っていくと木々の間から濃い白煙が一気に周りを包み込んだ。

「っ――!」

 反射的に目を閉じると、全身に湿ったような感覚を覚えただけで特に何も起こらなかった。

「毒ってわけでもなさそうだが……ん?」

 目を開けてみれば、近くにいたはずのジュウゴとアヤメ、それにアインとドライもおらずツヴァイだけが残っていた。

 四人が消えた? ……いや、景色が違う。ということは、どちらかといえば俺たちが移動したと考えるべきか。

「ツヴァイ、さっきの霧の正体を知っているか?」

「おそらく惑わし茸の胞子だと思います。吸った者の感覚を狂わせる胞子です」

「効果は?」

「数分ですが、大抵はその間の記憶を失います」

 なるほど。つまり、俺だけじゃなく三人ともが別々に移動した可能性が高いってことだな。だとすれば合流するのは難しいと考えていいだろう。

「つーか、ツヴァイはどうして俺に付いて来れているんだ? 胞子を吸わなかったってことか?」

「そうです。惑わし茸の胞子には微弱の魔力が含まれているので対処することができます」

「……そういうことか」

 俺が胞子に気が付けなかったのは魔力を持っていないからだと仮定すれば納得がいく。とはいえ、気が付けた二人ですら胞子の影響を知らなければ対処は出来なかっただろう。

 どうやって合流しようかを考えたいところなのだが――さて、新たな問題が発生中だ。

「で、ツヴァイよ。どうして剣を構えているんだ?」

 振り返れば、抜いた剣をこちらに向けるツヴァイがいた。

「私たちがレオ団長から受けた命令は三つ。有事の際以外には手を出さないこと。採点は厳密にすること。そして――救世主自身が脅威だと判断した場合は処分しても構わないこと。私は、あなたを脅威だと判断しました」

 俺たちを脅威だと判断するイコール有事の際ってことかな。

「あ~……とりあえず訊く権利はあると思うんだが、どうしてそう判断したんだ?」

「あなた達には躊躇いが無かった。生き物を殺すことへの躊躇いが。元の世界では兵士でも無かった者が……そんなのは心が壊れている証拠です。救世主であろうと、味方に置いておくのは危険だと判断しました」

「そうか。まぁ否定できないのは痛いところだが、それは三人の総意か?」

「その通りです」

 ということは、そもそも俺たちが別れたのも仕組まれたって可能性が高い。それだけ本気で殺しに来られているってわけだが……どうするかな。

 剣を持った相手と戦っても負ける気はしないが、仮にここで勝ったとしたらツヴァイの判断が正しかった証明になってしまう。殺したらそもそも採点ができないしな。ジュウゴとアヤメも同じような状況にいるのだとすれば悩んでいるはず。

 戦うつもりなら殺せる。が――状況的に殺すわけにはいかない。

「どっちにとっても良い結果になるとは思えないんだけどな。ちなみに確認だが、俺がお前を殺したらその時点で不合格になるんだよな?」

「……ええ、そうなります」

 そういう想定はしていないって感じの間だったな。

 ジュウゴやアヤメなら目に見える力の差で相手を黙らせるところなんだろうが、あいにく俺には見せられるものがない。

「そんじゃあ、こうしよう。俺がお前の腕か脚を圧し折る。もしくは一発打ち込んで動けなくする。要は、殺しはしないってことだ。それからもう一度考えるってのはどうだ?」

「いいでしょう。でしたら、私はあなたを殺します。死ななければその時に考えるとしましょう」

 不利な点があるとすればツヴァイの魔法が何かを知らないことだが、少なくとも剣を振るということがわかっていれば、まぁ問題は無い。

 いつでも動けるようダラリと体の力を抜いていると、視界の端で何かが動いたことに気が付いた。それは目で追えない速さで木々の間を飛び跳ねるように移動しているようでツヴァイも気が付いたのか、目を合わせると頷き合った。

 すると同時に駆け出して距離を詰めると背中合わせになって死角を殺した。

「速いな……あれがそうか?」

「はい。おそらく、あれが影無き捕食者だと思われます。私たちが出遭ってしまうとは……ツイていませんね」

「確かにそうかもな。じゃあ、生きて帰れたらツヴァイの疑問に答えてやる。だから、戦って勝つぞ」

「……疑問とは?」

「どうして俺たちが躊躇いなく殺せるのか――その理由についてだ」

 そう告げた矢先、目の前の木が薙ぎ倒されて巨大が影が襲い掛かってきた。

 この時点で俺が思ったことを一つ。

 ――ああ、影はあるんだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...