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第6話 原因と理由
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二十五階――足首まで浸かる浅い湖の真ん中で、ピラニアのようなモンスターに囲まれていた。
「全部で三十七匹か。どういうモンスターなんだ?」
「わかりません。私の《空白の目録》は食べたモンスターの情報も記されますが、このモンスターは初めてなので」
ピチャピチャと跳ね回り、牙を剥き出しで跳び掛かってくる一匹二匹を叩き落とすことは出来る。
「ネイルは倒せないのか?」
「一匹一匹が大して強くにゃいからにゃ~。一匹倒しても、いっぺんに来られたらキツいにゃ」
食べさせればいいのなら――跳び掛かってきたモンスターを避けて、横から尾柄部を掴んだ。
「これでいいか?」
モンスターを差し出し、本の表紙の開いた口に放り込んだ。ぐちゃぐちゃと咀嚼音が生々しい。吸収するんじゃなくて、本当に食べる感じなんだな。
「……出ました。ピラリア、大群でテリトリーに入ってきたモノを捕食するモンスターで、水の中を動く音に反応するそうです」
ピラリアね。まぁ、ネーミングはいいとして、動く音に反応するのであれば多分戦わずに済む。
ゆっくりと水の抵抗に逆らわず、足を浮かさずに進んでいく。
「にゃ!? フドー! 動いたら危にゃ――」
その言葉に掌を向け、構わず進んでいけば水の中で足の周りをピラニア――じゃなくてピラリアが泳ぐが襲ってくる様子は無い。
そして、無事に陸地へと上がった。
「ふぅ――肝を冷やしたな」
「にゃっ、にゃにをしたんにゃ!?」
「ただゆっくり摺り足をしただけだが……出来ないか?」
「無理にゃ! 意味がわからにゃいにゃ!」
この世界には剣技が無いのか? いや、大蜘蛛の脇にはあった白骨体はナイフを持っていたし、そういう武器が無いわけでないんだろう。武道としての技術が無いってところかな。
「じゃあ――ヨミ、電気系の力は無いのか?」
「あり、ます。ですが、威力が弱いので倒せませんよ?」
「倒す必要は無いだろ。一瞬でも動きを停められればネイルがヨミを抱えてこっちまで来ればいい」
「それもそうにゃ!」
「……わかりました。では、三秒後に」
二人が跳び上がると、それに合わせてピラリア達も跳び上がってきたが、本から放たれた雷撃が一瞬にして湖に広がっていった。
あ、マズい。このまま着地すると残っている電気で二人が感電する。
「ん、にゃっ!」
空中でヨミの体を抱き寄せたネイルは宙を蹴ってこちらまで飛んできた。宙を蹴って?
「今なにをしたんだ?」
「蹴ったんにゃ」
「いや、だから……まぁいいか」
その原理を知りたかったんだが、知ったところで意味は無いか。
「ありがとうございます、ネイル。ついでにピラリアをあと二匹ほどお願いできますか?」
「それくらいなら俺が」
蜘蛛の牙で水に浮くピラリアを二匹掬い上げてヨミのほうへ投げれば、浮いた本が直接食べた。
こういう使い方なら出来るのに、刀として触れないのは俺の心の問題なんだろう。
「すみません、フドーさん」
ネイルには感謝で、俺には謝罪か。まぁ、別にいいけど。
「それはエサか?」
「いえ、力の底上げです。モノにもよりますが、このモンスターは複数個食べることで力が上がりました」
「ちなみに?」
「これはピラリアを呼び出して、任意の敵を攻撃する力のようです」
そう言って指を弾けば、本の中から三匹のピラリアが現れて宙を漂い始めた。このモンスターは一体一体が強くないから、そのものを召喚する、みたいな感じなのか。
「……食べられるかにゃ?」
「やめてください」
「腹壊すだろ」
「んにゃ~」
残念そうに肩を落とすネイルの腹がグゥと鳴った。
「では、まずは上への階段を見付けてから、食事にしましょうか」
道なりに進むこと十分――無事に上へと続く階段を発見した。ダンジョンと言う割に迷路状になっているわけじゃないのが有り難い。こういう部分でもゲーム的なことが頭を過るのは良くないな。ここにいるネイルとヨミは、この世界で生きている。当然、俺も死んだら終わり――になる、と思う。それを肝に銘じておこう。
「そういや、飯って何を食うんだ? この階に食えそうなものは無かったよな?」
特段デカいバッグを持っていたりするわけじゃないし、携帯食を持参しているようには見えないんだが。
「冒険者がダンジョン内でする食事には二パターンあります。一つはダンジョン内で食材を調達して食べること。もう一つは――これです」
腰袋? から二人が取り出したのは巾着のような布袋だった
「冒険者食と言えばこの豆にゃ!」
「豆? そんなのがあるのに、ネイルはわざわざ魚を獲って食べてたのか?」
「だって、この豆美味しくにゃいにゃ」
「そうですね。味に関してはネイルの言う通りです。ですが、値段などから考えると私達に買えるのはこの豆が限界なんです」
「冒険には金が掛かるってやつか」
「ボクの豆、フドーにも上げるにゃ!」
布袋を差し出され、こちらも掌を出せばそこに五粒の豆が転がった。
大きさも形も、まんま大豆だな。
「生で食べられるのか?」
「にゃん」
じゃあ――一粒を口に放り込んで、噛み締めた。
「……うん。まぁ、普通に」
味も大豆だった。のだが、そんな俺を見て二人は驚いた顔をしている。
「普通に、食べられますか?」
「ん? うん。普通に」
二粒目を口に投げ入れて節分の記憶が頭を過っていると、ネイルは苦々しい顔をして猫耳を垂れさせた。
「よく食べられるにゃ~。ボクはこれ苦手にゃ。味しにゃいし」
「へぇ。ヨミもか?」
「そうですね。好んで食べたいとは思いません」
「でも食べているってことはこの豆自体に何か特別な効果とかあるのか?」
「満足感が得られるにゃ」
「三粒も食べればお腹が膨れます。体力も回復するので一石二鳥ではあるのですが……美味しくは無いので」
遠回しに言っているが、要は不味いってことね。大豆なら砂糖を纏わせて甘くしたり醤油で炒めたりとか色々と食べる方法はあると思うが……この場ではどうにも出来ないし、ダンジョンを出てから教えるとしよう。
「……確かに腹が膨れてきたな」
満足感も覚えてくるし、携帯食としては重宝されているんだろう。個人的に不味くは無い。本当に癖の無いただの大豆って感じだ。
とはいえ、疲労感までは取れないから休憩も兼ねての食事、か。
「そういえば、フドーさんはどうやって転移してきたんですか? これまでのドリフターはほとんどが気が付いたらこちらの世界に来ていた、という感じなのですが」
「俺はデカい魔法陣に触れたんだよ。そうしたら魔法陣が光って、こっちの世界の大蜘蛛の目の前にいたんだ」
「魔法陣、ですか……ちなみに倒した大蜘蛛の近くに他の方はいませんでしたか?」
「白骨化したのが一人。その死体からこのナイフを拝借したんだが――ヨミは大蜘蛛の横を通り過ぎたのに、その死体に気が付かなかったのか?」
「私は本当に横を通り過ぎただけで、大蜘蛛以外を気に掛ける余裕も無かったので」
あの大蜘蛛は大勢の冒険者を殺しているって話だし、それも当然か。
「で、その死体が何かあるのか?」
「フドーさんを転移させた魔法陣に、白骨化した遺体。そして、大蜘蛛。そこから考えられるのは――」
「〝梯子屋〟」
「――にゃ」
「――ですね」
重なった声。聞き覚えの無い単語に首を傾げた。
「はしごや?」
「ここに来るまで、モンスターのいない階層がありましたよね?」
「二十階だろ?」
「そうです。十階、二十階、三十階――梯子屋とは回廊内の節目、モンスターがいない階に脱出用の陣を作る冒険者のことです」
「脱出用? 出ることしか出来ないのか?」
「はい。相互に左右する陣を半永久的に維持することはほぼ不可能らしいので、一方通行になっています」
まぁ、色々と条件があるのだろう。理というより、ダンジョン内のルールが。
「だが、それと俺がこの世界に転移してきたことに関係があるのか? その梯子屋はあくまでもダンジョンと外を繋ぐだけなんだよな?」
「実際に会ったことが無いのでわかりませんが、梯子屋の中には別の世界との扉を開ける者もいると聞きます。フドーさんを転移させた梯子屋にそれだけの力があったのかはわかりませんが、大蜘蛛との戦闘中に普段よりも大きな力を出せたのでしょう。加えて焦りなどとも相俟って、別の世界に繋がってしまった、と」
「つまり、本来なら一方通行の出口で良いところを双方向から入れるようにしてしまって、それも、異世界に繋がった、と。ミスしかしてねぇな」
「そのおかげでネイルは大蜘蛛と戦わずに済んだので、私達としては感謝していますが」
「にゃん」
話に加わってこなかったネイルを見るに、本当にそういう知識が無いんだな。
「……いや、だが、ちょっと待て。白骨化していたことの証明にはなっていないぞ?」
「これも聞いた話になってしまって申し訳ないのですが、おそらくは距離が原因かと思われます。離れた場所に出入り口を作るほど、陣が展開するまでに時間が掛かるようなので、そのせいかと」
なるほど。それで合点がいった。魔法陣が出現した理由、白骨化死体の理由――そして。
「で、魔法陣は片一方から入ればそれで効力が失われるって感じか?」
「おそらくは」
「ドリフターが元の世界に帰った例は?」
「それは……聞いたことがありません。仮に異世界と繋がることが出来る梯子屋がいたとしても、フドーさんのいた世界と繋がる保証はありませんし……あまり現実的では無いと思います」
「まぁ、そんなもんだよな」
わかってはいたけれど、この時点で元の世界に帰る希望は立ち消えだ。つまり、この世界で生きていくことが決まったわけだが……ハードモードに変わりはないな。
チートも無ければハーレムでも無い。昨今ではハードモードも人気があるようだが、さすがに過ぎる。戦えない男にどうしろと? じいちゃんなら「侍であるなら戦え」と言うかもしれない。ただ、残念ながら俺は侍じゃない。主も無く、全てを失った浪人――放浪者――ドリフター、か。中々に上手いことを言う。
とりあえず、俺は死にたくはない。元の世界に未練があるかと問われれば……うん、まぁ、無くはない、かな? くらいの感情しか湧かないから、たぶん本心でどうでも良いんだろう。
だとすれば俺の指針は一つ。
武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり――古臭いが、俺もこの世界の中で最善とする立ち居振る舞いで生きていくとしよう。可能な限り、出来ることで、な。
「全部で三十七匹か。どういうモンスターなんだ?」
「わかりません。私の《空白の目録》は食べたモンスターの情報も記されますが、このモンスターは初めてなので」
ピチャピチャと跳ね回り、牙を剥き出しで跳び掛かってくる一匹二匹を叩き落とすことは出来る。
「ネイルは倒せないのか?」
「一匹一匹が大して強くにゃいからにゃ~。一匹倒しても、いっぺんに来られたらキツいにゃ」
食べさせればいいのなら――跳び掛かってきたモンスターを避けて、横から尾柄部を掴んだ。
「これでいいか?」
モンスターを差し出し、本の表紙の開いた口に放り込んだ。ぐちゃぐちゃと咀嚼音が生々しい。吸収するんじゃなくて、本当に食べる感じなんだな。
「……出ました。ピラリア、大群でテリトリーに入ってきたモノを捕食するモンスターで、水の中を動く音に反応するそうです」
ピラリアね。まぁ、ネーミングはいいとして、動く音に反応するのであれば多分戦わずに済む。
ゆっくりと水の抵抗に逆らわず、足を浮かさずに進んでいく。
「にゃ!? フドー! 動いたら危にゃ――」
その言葉に掌を向け、構わず進んでいけば水の中で足の周りをピラニア――じゃなくてピラリアが泳ぐが襲ってくる様子は無い。
そして、無事に陸地へと上がった。
「ふぅ――肝を冷やしたな」
「にゃっ、にゃにをしたんにゃ!?」
「ただゆっくり摺り足をしただけだが……出来ないか?」
「無理にゃ! 意味がわからにゃいにゃ!」
この世界には剣技が無いのか? いや、大蜘蛛の脇にはあった白骨体はナイフを持っていたし、そういう武器が無いわけでないんだろう。武道としての技術が無いってところかな。
「じゃあ――ヨミ、電気系の力は無いのか?」
「あり、ます。ですが、威力が弱いので倒せませんよ?」
「倒す必要は無いだろ。一瞬でも動きを停められればネイルがヨミを抱えてこっちまで来ればいい」
「それもそうにゃ!」
「……わかりました。では、三秒後に」
二人が跳び上がると、それに合わせてピラリア達も跳び上がってきたが、本から放たれた雷撃が一瞬にして湖に広がっていった。
あ、マズい。このまま着地すると残っている電気で二人が感電する。
「ん、にゃっ!」
空中でヨミの体を抱き寄せたネイルは宙を蹴ってこちらまで飛んできた。宙を蹴って?
「今なにをしたんだ?」
「蹴ったんにゃ」
「いや、だから……まぁいいか」
その原理を知りたかったんだが、知ったところで意味は無いか。
「ありがとうございます、ネイル。ついでにピラリアをあと二匹ほどお願いできますか?」
「それくらいなら俺が」
蜘蛛の牙で水に浮くピラリアを二匹掬い上げてヨミのほうへ投げれば、浮いた本が直接食べた。
こういう使い方なら出来るのに、刀として触れないのは俺の心の問題なんだろう。
「すみません、フドーさん」
ネイルには感謝で、俺には謝罪か。まぁ、別にいいけど。
「それはエサか?」
「いえ、力の底上げです。モノにもよりますが、このモンスターは複数個食べることで力が上がりました」
「ちなみに?」
「これはピラリアを呼び出して、任意の敵を攻撃する力のようです」
そう言って指を弾けば、本の中から三匹のピラリアが現れて宙を漂い始めた。このモンスターは一体一体が強くないから、そのものを召喚する、みたいな感じなのか。
「……食べられるかにゃ?」
「やめてください」
「腹壊すだろ」
「んにゃ~」
残念そうに肩を落とすネイルの腹がグゥと鳴った。
「では、まずは上への階段を見付けてから、食事にしましょうか」
道なりに進むこと十分――無事に上へと続く階段を発見した。ダンジョンと言う割に迷路状になっているわけじゃないのが有り難い。こういう部分でもゲーム的なことが頭を過るのは良くないな。ここにいるネイルとヨミは、この世界で生きている。当然、俺も死んだら終わり――になる、と思う。それを肝に銘じておこう。
「そういや、飯って何を食うんだ? この階に食えそうなものは無かったよな?」
特段デカいバッグを持っていたりするわけじゃないし、携帯食を持参しているようには見えないんだが。
「冒険者がダンジョン内でする食事には二パターンあります。一つはダンジョン内で食材を調達して食べること。もう一つは――これです」
腰袋? から二人が取り出したのは巾着のような布袋だった
「冒険者食と言えばこの豆にゃ!」
「豆? そんなのがあるのに、ネイルはわざわざ魚を獲って食べてたのか?」
「だって、この豆美味しくにゃいにゃ」
「そうですね。味に関してはネイルの言う通りです。ですが、値段などから考えると私達に買えるのはこの豆が限界なんです」
「冒険には金が掛かるってやつか」
「ボクの豆、フドーにも上げるにゃ!」
布袋を差し出され、こちらも掌を出せばそこに五粒の豆が転がった。
大きさも形も、まんま大豆だな。
「生で食べられるのか?」
「にゃん」
じゃあ――一粒を口に放り込んで、噛み締めた。
「……うん。まぁ、普通に」
味も大豆だった。のだが、そんな俺を見て二人は驚いた顔をしている。
「普通に、食べられますか?」
「ん? うん。普通に」
二粒目を口に投げ入れて節分の記憶が頭を過っていると、ネイルは苦々しい顔をして猫耳を垂れさせた。
「よく食べられるにゃ~。ボクはこれ苦手にゃ。味しにゃいし」
「へぇ。ヨミもか?」
「そうですね。好んで食べたいとは思いません」
「でも食べているってことはこの豆自体に何か特別な効果とかあるのか?」
「満足感が得られるにゃ」
「三粒も食べればお腹が膨れます。体力も回復するので一石二鳥ではあるのですが……美味しくは無いので」
遠回しに言っているが、要は不味いってことね。大豆なら砂糖を纏わせて甘くしたり醤油で炒めたりとか色々と食べる方法はあると思うが……この場ではどうにも出来ないし、ダンジョンを出てから教えるとしよう。
「……確かに腹が膨れてきたな」
満足感も覚えてくるし、携帯食としては重宝されているんだろう。個人的に不味くは無い。本当に癖の無いただの大豆って感じだ。
とはいえ、疲労感までは取れないから休憩も兼ねての食事、か。
「そういえば、フドーさんはどうやって転移してきたんですか? これまでのドリフターはほとんどが気が付いたらこちらの世界に来ていた、という感じなのですが」
「俺はデカい魔法陣に触れたんだよ。そうしたら魔法陣が光って、こっちの世界の大蜘蛛の目の前にいたんだ」
「魔法陣、ですか……ちなみに倒した大蜘蛛の近くに他の方はいませんでしたか?」
「白骨化したのが一人。その死体からこのナイフを拝借したんだが――ヨミは大蜘蛛の横を通り過ぎたのに、その死体に気が付かなかったのか?」
「私は本当に横を通り過ぎただけで、大蜘蛛以外を気に掛ける余裕も無かったので」
あの大蜘蛛は大勢の冒険者を殺しているって話だし、それも当然か。
「で、その死体が何かあるのか?」
「フドーさんを転移させた魔法陣に、白骨化した遺体。そして、大蜘蛛。そこから考えられるのは――」
「〝梯子屋〟」
「――にゃ」
「――ですね」
重なった声。聞き覚えの無い単語に首を傾げた。
「はしごや?」
「ここに来るまで、モンスターのいない階層がありましたよね?」
「二十階だろ?」
「そうです。十階、二十階、三十階――梯子屋とは回廊内の節目、モンスターがいない階に脱出用の陣を作る冒険者のことです」
「脱出用? 出ることしか出来ないのか?」
「はい。相互に左右する陣を半永久的に維持することはほぼ不可能らしいので、一方通行になっています」
まぁ、色々と条件があるのだろう。理というより、ダンジョン内のルールが。
「だが、それと俺がこの世界に転移してきたことに関係があるのか? その梯子屋はあくまでもダンジョンと外を繋ぐだけなんだよな?」
「実際に会ったことが無いのでわかりませんが、梯子屋の中には別の世界との扉を開ける者もいると聞きます。フドーさんを転移させた梯子屋にそれだけの力があったのかはわかりませんが、大蜘蛛との戦闘中に普段よりも大きな力を出せたのでしょう。加えて焦りなどとも相俟って、別の世界に繋がってしまった、と」
「つまり、本来なら一方通行の出口で良いところを双方向から入れるようにしてしまって、それも、異世界に繋がった、と。ミスしかしてねぇな」
「そのおかげでネイルは大蜘蛛と戦わずに済んだので、私達としては感謝していますが」
「にゃん」
話に加わってこなかったネイルを見るに、本当にそういう知識が無いんだな。
「……いや、だが、ちょっと待て。白骨化していたことの証明にはなっていないぞ?」
「これも聞いた話になってしまって申し訳ないのですが、おそらくは距離が原因かと思われます。離れた場所に出入り口を作るほど、陣が展開するまでに時間が掛かるようなので、そのせいかと」
なるほど。それで合点がいった。魔法陣が出現した理由、白骨化死体の理由――そして。
「で、魔法陣は片一方から入ればそれで効力が失われるって感じか?」
「おそらくは」
「ドリフターが元の世界に帰った例は?」
「それは……聞いたことがありません。仮に異世界と繋がることが出来る梯子屋がいたとしても、フドーさんのいた世界と繋がる保証はありませんし……あまり現実的では無いと思います」
「まぁ、そんなもんだよな」
わかってはいたけれど、この時点で元の世界に帰る希望は立ち消えだ。つまり、この世界で生きていくことが決まったわけだが……ハードモードに変わりはないな。
チートも無ければハーレムでも無い。昨今ではハードモードも人気があるようだが、さすがに過ぎる。戦えない男にどうしろと? じいちゃんなら「侍であるなら戦え」と言うかもしれない。ただ、残念ながら俺は侍じゃない。主も無く、全てを失った浪人――放浪者――ドリフター、か。中々に上手いことを言う。
とりあえず、俺は死にたくはない。元の世界に未練があるかと問われれば……うん、まぁ、無くはない、かな? くらいの感情しか湧かないから、たぶん本心でどうでも良いんだろう。
だとすれば俺の指針は一つ。
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