放浪剣士は異世界ダンジョンを踏破する。

化茶ぬき

文字の大きさ
15 / 29

第15話 愚者の思考

しおりを挟む
「ギルドに行く前に昼食がてらお茶にしましょうか」

 ヨミのその一言で、ネイルのお姉さんがやっているお店にやってきていた。

 メニューにはすでにパンケーキの文字があった。仕事が早いな。まだ売れてはいなさそうだが。

 昼食がてらと言う割に、お互いに頼んだのは飲み物だけで――コーヒーがあったのには驚いたが、飲み慣れたものがあるのは有り難い。

「思ったんだが、今の俺たち――というか、ヨミとネイルはどれくらいの強さなんだ?」

「強さ、ですか? それは無限回廊でもやっていけるのかどうか、という意味の?」

「そんなところだ」

「難しいですね……有限回廊を踏破した時の権利で無限回廊に挑戦できると話しましたが、どの有限回廊でもその権利を得ることができます」

「どの、ってことはダンジョンによって難易度も変わるってことか」

「はい。有名なのは四方に位置する東西南北の回廊です。私たちはその中で最も難易度が高いと言われていた西の回廊を踏破しました」

「……あれで?」

「まぁ、言いたいことはわかります。以前の踏破から――そうですね。約三十年でしょうか。それだけの期間、踏破されなかったことには理由があります」

「大蜘蛛だろ?」

「そうです。あの狭さにあの大きさで陣取られれば数で攻めても勝てない可能性が高い。そして、その生き残りが回廊を下りて風潮する――『ここの回廊はマズい。大蜘蛛には勝てない』と。それでも挑戦する冒険者は居たでしょう。しかし、踏破されず、冒険者も帰ってこない。次第に挑戦する者も減っていき――そして、今の――いえ、昨日までは踏破されることもなく、素材や鉱石集めにだけ使われてきたわけです」

「まぁ、その経緯はさて置き。つまり、生まれたての簡単な有限回廊を攻略しても、同じように権利を与えられるってことか」

「というか、そちらが本流です。無限回廊に挑戦したい冒険者は簡単な回廊を探して踏破者の称号を得て中央へ赴きます。なので、称号を持っている冒険者が必ずしも強いというわけでもありません」

「つまり、行ってみなけりゃ何もわからないってことか」

「はい。残念ながら」

 冒険者にランクが無いってことは、互いの強さを測る指標が無いってことだ。まぁ、ネイルのようにレベルが見えていればわかるのだろうが……そもそも人間同士で戦うってことを前提としていなけば、わざわざランク分けする必要も無い、か。

「こちらサービスで~す」

「ん、サービス?」

 店員さんはこちらの言葉も聞かずに去っていった。

「たぶんお店側からですね。昨夜もお話ししたように有限回廊を踏破したことによってもたらされる恩恵が大きいので、自然とこういうことも起こります」

「へぇ。そういうもんか」

 サービス――っていうか、これ多分パンケーキの試作品だな。

「それを食べ終えたらギルドに向かいましょうか。フドーさん」

「だな。……そういや、この世界の金ってどうなってんだ?」

「基本的には――これです」

 転がされた二種類の硬貨。

「銅貨と銀貨か。価値は?」

「銀貨一枚で銅貨百枚分です。それ以上の額になると、冒険者の場合はギルドのほうにお金を預けているのでそちらから引き落とされます」

「なるほど。さっきの装具屋でのやり取りはそういうことか」

「はい。一応、私とネイル、フドーさん共有のお金があるので」

 そして、軽い昼食を終えてギルドへ。

「ギルドで何をするんだ? 諸々の手続きはネイルのほうで済ませるんだよな?」

「今日はダンジョン踏破までの詳細な報告をしに」

「そういうのも必要なのか。案外面倒なんだな」

 などと思うのは俺だけのようで、ヨミからすればいつも通りの手順なのだろう。理由はわかる。この後に続く冒険者のためだ。少なくとも俺たちは三十階までの有限回廊を踏破したわけで、これまで誰も戦ったことが無かったであろうモンスターとも遭遇した。その情報を共有するわけだ。

 ギルドの中に入れば、何やら噂するような声が聞こえてくるが……無視でいいか。

「では、フドーさん。私は報告をしてきますが、一緒に来ますか?」

「あ~……いや、適当にそこら辺で時間を潰してるよ」

「わかりました。……気を付けてくださいね」

「お、おお」

 不安になるようなトーンで言って受付の奥へと入っていった。

 さて――ギルド内を見回せば何人もの冒険者と目が合うが、近寄ろうともしないのなら気にする必要も無い。

「……依頼書はあるのか」

 壁一面に貼られた紙。相も変わらず文字は読めないが、何が書かれているのかはわかる。

 基本的にはダンジョン内で手に入る素材などが多いようだが――こっちは討伐だな。それも、ダンジョンでの。まぁ、普通に考えればモンスターのいる世界で、そのモンスターが一所に収まっていると考えることが不自然か。

「よう、あんた。ドリフターのフドーだろ?」

 振り返れば狼っぽい獣人の男が二人。いや、犬か。

「なんだ? 喧嘩なら買うぞ?」

「おいおい、ただ話したいだけなんだ。喧嘩腰になるなよ」

「だったら敵意剥き出しで近付いてくるんじゃねぇよ。条件反射で殺されても文句は言えねぇぞ?」

「へぇ、ドリフターってのはそういうのもわかんのか」

「ドリフターだからかどうかは知らねぇが、少なくとも俺はな。で、なんの用だ?」

 居直って問い掛ければ、二人はニヤケ面のままこちらを見下ろしている。

「いやなに、ご教授願いたいと思ってね。どうやってネイルとヨミに取り入ったんだ? やっぱそういうことをしたわけか?」

 意味はよくわからないが、下品な笑い方をしているってことは、そういうことを言いたいんだろう。というか、俺がドリフターってことは知っているくせに、転移してきたのがダンジョン内ってことは共有されていないんだな。

「ん? ネイルとヨミってそんなに有名なのか?」

「そりゃあそうだ。何十年も踏破されていなかったダンジョンを本気で登り切ろうとしていたバカはあいつらくらいだからな」

「なるほど。真面目にこの世界で生きている奴はバカ、か」

「ああ、その通りだ! ここにいる奴らの大半が思ってるぜ! どうせ中央に行ってもすぐに死ぬってなぁ!」

「へぇ……そうか」

 バカ笑いをする二匹の獣人。未だに敵意は向けられたまま。

 ……二人には恩義がある。今ここで二匹をすのは有りか? 有りだよな? 不意討ちなんかしない。目の前で、一瞬で片を付けてやる。

「あ、フドーさん」

 その声に、カタログを開き掛けていた頭が引き戻された。

「……ヨミ。どうした?」

「いえ、大蜘蛛を倒したのはフドーさんなので、その時の報告はフドーさんから聞かないといかず――」

「なにっ? お前が大蜘蛛を……?」

「何か問題か?」

「いや……気にするな」

 それだけ言って獣人二匹は去っていった。無駄絡みだったな。

「いいですか? フドーさん」

「ああ、行こう」

 受付の奥に入り、大蜘蛛を倒した経緯――ほぼ運が良かっただけだが――の説明をして、その後も二十九階の鎧のモンスターまでの話に付き合って、報告を終えた。

「すみません、フドーさん。結局最後まで付き合って頂いてしまって」

「いや、別にいいよ。外に居ても変に絡まれるだけだったし」

「その点については私の認識が甘かったです。嫌な思いさせてしまってすみません」

「そこまででも無いな。五秒もあれば殺せる奴らを相手に、本気でどうこう思うことはねぇよ」

「ギルド内であまり物騒なことを言わないでください、フドーさん。受付をしている私としては注意せざるを得ないんですから」

 報告書を書いている受付嬢さんがいることを忘れていた。

「まぁ、実際その気は無いので」

「当たり前です。まったく本当に……どうしてドリフターの方はこうも血の気が多いのか……」

 理由は簡単。この世界が他人事だからだ。存在を許されたとしても、よそ者には変わりが無い。だからこそ――俺が、俺なのに、殺すという言葉が簡単に口走れてしまう。

「では用事も済んだのでネイルの家に戻りましょうか」

「もういいのか?」

「はい。本当はこの後、酒場に行って冒険者にお酒の一杯でも奢るつもりでしたが、先程のフドーさんに対する態度を知れば私よりもネイルのほうが怒ると思うのでやめておきましょう」

「俺は気にしないけど……確かにネイルは怒りそうだな。なんとなくだけど」

 冒険者がどれだけ周りから感謝され尊敬されている職業だとしても、全員が全員良い人とは限らない。そういうのはどの世界も同じだな。悪徳警官やら悪徳政治家やら……まぁ、そんなもんだ。善人だけの世界など、存在するはずもない。

「とりあえず……帰りましょうか」

 ヨミと一緒に行動すれば、さっきのような獣人とは違い友好的に近付いてきて一言交わして去っていく冒険者が多い。つまり、問題は俺か。存在感なのか覇気が無いのか……強い奴は自然と纏う雰囲気が違うというが、そういう点で弱い俺はどうしようもない。

 どうやら異世界に転移して、何故だか俺の性格が変わりつつあるようだが、おそらくはそれこそが本当の部分なのだろう。別の世界があることすら受け入れられたんだ。自分の中の変化くらい、簡単に受け入れてみるとしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。 火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。 ――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。 「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」 「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」 「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」 彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった! 魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。 着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。 世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。 胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!

処理中です...