放浪剣士は異世界ダンジョンを踏破する。

化茶ぬき

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第20話 修行

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 動きの最適化――これは言うほど容易いことではない。

 武道や武術は、より効率よく、より最短で力を伝えて相手にダメージを与えることに特化したものだが、それを実践レベルで身に着けるには時間が掛かる。

 とはいえ、ネイルとヨミにはそれを補うだけの実践経験があるわけで。

 おそらくネイルは感覚派だろう。一度でもコツを掴めば、体が慣れていく。ヨミのほうは難しいな。戦いに関しては比較的慎重派で、頭の中で常に色々と考えているタイプだ。理屈を理解しても体に馴染むまでには時間が掛かる。

 そして何よりも、俺自身が感覚派なせいもあって人にモノを教えるのが苦手だ。

 無限回廊地下一階――ネイルの勘と、俺がなんとくなく気配を感じて辿り着いた行き止まりには沼があり、近付いたら髑髏の兵士が湧き出てきた。が、数は一体ずつだし大して強くもない。確かに、修業するには打って付けの場所だな。

「フドー、どうすればいいにゃ?」

「どうって言われてもな……要は無駄な動きを省くってことなんだが――わかるか?」

「うんにゃ」

 だろうな。俺には手本があったけど、ネイルのように素手での戦闘は専門外だ。

「じゃあ、とりあえず戦っているところを見せてもらって判断しようかな。ヨミも」

「お任せにゃ!」

「普通に戦うんでいいんですか?」

「ああ、普通でいい。使える力を使って倒してくれ」

 そう言うと、這い出てきた二体の髑髏兵に二人が向かい合った。

 相手が強くないせいか、たぶんネイルの《大物喰らい》は発動していない。ヨミのほうは有限回廊のボスを倒した時に得た宙に浮く二本の手を出して――戦闘開始。

「ん~、にゃっ!」

 地面に手を着いたネイルは、ググッと腰を引いて一気に飛び出した。猫の獣人らしくバネを活かした戦い方なのは知っているが、故に何をどう教えればいいのかわからない。

 片やヨミは、地面から伸びた蔓で髑髏兵の動きを停めて、そこに宙に浮く拳で殴り付けている。……ふむ。

 髑髏兵を蹴り飛ばして粉砕したネイルと、ダメージを与えてから蔓で握り潰したヨミが戻ってきた。

「ん~……まずはネイルだな。自分の動きに無駄が多いって自覚はあるか?」

「うんにゃ」

 なんとなく戦って、力押しで勝ててしまっていた今までとは違う。どこまで続くかわからない無限回廊を進むには体力の温存が重要になるはずだ。……たぶん。

「見せたほうが早そうだな。戦い方は違うが、効率的に動くところを見ていてくれ」

「んにゃ」

 と、啖呵を切ったものの見られてるとなると気まずいな。

 沼に近寄れば這い出てくる髑髏兵――近付き過ぎたせいか三匹も出てきた。なら丁度いい。三つの型を見せるとしよう。

 息を吐いて、脱力。

「地の型――」脇構えからの斜め斬り。次いで――

「天の型――」上段構えからの一閃振り下ろし。そして――

「無の型――」下段構えからの斬り上げ。「……ふぅ」

 動きがぬるい。及第点ってところだな。

「とまぁ、こんな感じだが……どうだ? ネイル」

「ふにゃ~……型? を作ればいいのかにゃ?」

「いや、型というより攻撃に移るための体勢、みたいな感じだな。ネイルの場合、殴る蹴るが基本だろ? それを出しやすい構え……というか――あ~……なんて言えばいいんだろうな……」

 そもそも、こういうのは言葉で説明するものじゃない。

「構えかにゃ? ん~……にゃ~」

「ネイルの動き自体は悪くない。問題は無駄なところに力が入ってるってことじゃないか? 力を出す部分を明確に意識する感じ、だな」

「……必殺技かにゃ?」

「あ~、うん。そんな感じ」

 雑に締め。俺と同じで感覚派なネイルには言葉で語るよりも、自分でやってみて掴むしかない。

「うむむ……やってみるにゃ!」

 そう言ってネイルは沼のほうに向かい這い出てくる髑髏兵と相対した。

「フドーさん。私はどうですか?」

「ヨミの場合は――考え過ぎだな。簡単に言えば、思考を停めずに感覚で動く、って感じか?」

「……よくわかりません」

 だよな。俺もわからん。

「ヨミは自分自身が戦うわけじゃないから動きがどうこうってわけじゃない。《空白の目録》で出す力の繋ぎ方とか、考えてるか?」

「そうですね……基本的にはモンスターの動きを停めてから攻撃する流れを作っています」

「それは見ていてわかる。……思ったんだが、力を足すことは出来ないのか?」

「足す、とは?」

「例えば――さっきの浮く拳とか、蔓とか、同時に何種類の力が使えるんだ?」

「同時にですか? 試したことが無いので何とも言えませんが、私の意識の中で操作できる限りは可能だと思います」

「じゃあ、気配を消す力があるんだよな? それで拳を隠すことはできるか?」

 そう言えば、ヨミは驚いた顔をして目を伏せた。

「なるほど。足す……力同士を掛け合わせるということですか。試したこともありませんでしたが――」

 すると、宙に浮く手を出したヨミは《空白の目録》の別のページを開き――そして、消えた。思い付きで言ったんだが、上手くいくもんだな。

「そうやっていくつかの組み合わせを事前に用意しておけば、いざという時にでも使えるんじゃないか? その拳は出しっ放しに出来るなら不意討ちにも使えるしな」

「確かに、有りですね。いくつか試してみます」

 ヨミのほうはこれでいいだろう。後衛で全体を見る役割なわけだから、色々と考えるのは悪くない。要は選択肢の問題だ。手札が多いほど、勝ち筋は明確になる。……ゲームとかだと尚更。

 あとはネイルだが――苦戦しているな。

 能力について俺がわかることは少ないが、おそらく《大物喰らい》の発動が前提の戦い方をしていたから技術が必要なかったのだろう。天然の強さで勝てる以上はそれに文句を言うつもりも無いんだが、力任せ故に体力の消費も激しくなる。そうなると、やはり勝負を決める一撃必殺の技でも作り上げるしかない。

「……ん? ネイル。そう言えば、グローブはどうした? 有限回廊で手に入れていただろ?」

「んにゃ、着けてるにゃん」

 ガツンッと拳を合わせれば、手首から先を覆うようにグローブが現れた。

「それは何か特別な力があるのか?」

「爪が出るにゃん」

 指先を曲げれば、鋭い爪が飛び出した。まさしく猫の爪。ヨミのローブや俺の黒刀のようにお誂え向きだな。

 それを利用する手もあるが、俺に教えられることは無い。

「ん~……どうするかなぁ……感覚的な話になるが、無駄のない動きってのは空気を切る量が違うんだと思う」

「ふぬぬ……にゃっ、もしかしてアレかにゃ? 有限回廊でフドーが水の中を抵抗なく歩いたやつ!」

「ああ、そんなこともあったな。あれ自体はただの摺り足だが、アレに近い」

「……わかったにゃ!」

 わかったのか。俺にはよくわからないが。

 とりあえず、体を動かし始めたネイルと、力の掛け合わせを試すヨミを眺めておくとしよう。

 ふむ……必殺技、か。

 不動流の型は全部で四つあるが、技と呼ばれるものは無い。

 不動流の真髄は脱力からの緊張で生まれる爆発力。究極的には、どんな体勢からでも一撃必殺の一振りが可能であり、故に『技は不要』とじいちゃんは語っていた。

 そもそも実践では技名を叫ぶなんて無駄なことはしない。相手は言葉が理解できるかもわからないモンスターだが狙う場所を教えるなど愚の骨頂――まぁ、ミスリードを狙う手としては有りだが。

「にゃっ――フドー!」

 その言葉よりも少し先に気が付いていた。

「そこを離れろ!」

 ネイルが跳び退いた瞬間、沼の中から大量の髑髏兵が這い出してきた。十や二十じゃあ足りない。言うなればスケルトンラッシュってところか。発動条件はなんだ? 髑髏兵を倒した数か、この場に留まった時間か。なんにしても、戦うしかなさそうだ。
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