放浪剣士は異世界ダンジョンを踏破する。

化茶ぬき

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第21話 ギフト

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 無限回廊地下一階――沼地。対するは無限に湧き出る髑髏兵。スケルトンラッシュを相手に、戦況は上々だ。

「ん~、にゃはっ!」

 いつの間にかネイルの動きは洗練されて無駄が減っている。敵の数が多いから、より最短最速で倒す動きを学んだってところか。

「で、ヨミのは?」

「ピラリアと蔓を掛け合わせたら食肉植物になりました。私も驚きです」

 地面から生えた巨大な二本の蔓の先に、ピラリアのような牙を剥く頭がある。ヨミの様子から察するに、おそらく全自動なんだろう。敵を捕捉し、噛み砕き呑み込んでいく。

 戦い始めて約十五分が経ち、百体以上は倒したはずだが未だに髑髏兵は這い出し続けている。

「ヨミ、この場所の情報は無いのか?」

「特にありません。モンスターの情報は未だしも、無限回廊内はさすがに……」

 永遠にモンスターが湧き続けるはずはない。

 この道は行き止まりで、無限回廊を進もうと考える冒険者が留まる理由は無い。修業目的の冒険者も、大して強くない髑髏兵を相手にし続ける意味は無い。

 これだけ倒しても大ボスが出てくる気配が無い。それなら何かを守っている、とかだな。仲間やお宝って選択肢なら、そりゃあお宝一択だろう。

「ネイル、ヨミ、少しの間任せるぞ」

「お任せにゃ!」

「何をするんですか?」

「探し物だ」

 沼を大きく回って――近寄ってくる髑髏兵を斬り殺して、沼に鞘を突き立てた。浅い。深さは五センチってところか。そんな場所からモンスターが生み出され続けていること自体が異常ではあるが、そこを突っ込むのは今更だな。

 沼地に足を踏み入れて、気配を探る。水の中とはいえさすがにわかりにくいが……異物を感じるのはやはり沼の中心か。

 進む脚にしがみ付くように這い出てくる髑髏兵を薙ぎ払いながら――いや、ちょっと数が多いな。

「フドーさん! 私が!」

 見えないが、飛んできた拳が俺の体に纏わりつく髑髏兵を吹き飛ばした。今のうちに、沼地の中心まで進み――手を突っ込んだ。

「んん……これ、か」

 掴んだものを引っ張り出せば、刀が出てきた。……いや、刀か? 鞘も柄も刀身も骨で出来ているようだが――お、頭の中のカタログに書き込まれた。

 鈍刀なまくら――斬った相手の動きを遅くさせるが耐久値は低い。地面に突き刺せば足を取る沼地が広がる。

 刀自体に特殊な力が付与されているのか。使う使わないはさて置き、カタログに書き込まれたってことはこの刀を持ち帰る必要は無い。

 刀を手放し沼地に沈めれば、襲ってくる髑髏兵の動きが止まった。守っていたお宝を盗んでいく賊じゃないと気が付いたか?

 動かない髑髏兵の間を縫って沼から上がれば、二人が近寄ってきた。

「途端に動かなくなりましたね」

「盗人じゃないとわかったんだろ。戦う理由が無い」

「置いてきて良かったにゃん?」

「所有者が俺になったから、いつでも取り出せる。俺の能力は刀の管理と複製だからな」

 会話をしている最中も聞こえてくる咀嚼音……ヨミの出した食肉植物と《空白の目録》が髑髏兵の残骸を食べている。そんな仲間のことを気にすることもなく、動きを止めていた髑髏兵たちは沼の中へと帰っていく。

「私たちもそろそろ戻りましょうか」

 そして、俺たちは無傷のまま無限回廊を後にする。

 地下一階の一部分だけだが、怪我も無く疲労も少ないのは成長じゃないか? ……だが、そう考えると俺だけ伸びしろが無いんだな。まぁ、今更成長しろって言われても困るけど。

「戻ってきたにゃ~ん」

「有限回廊の時と違って、報告義務は無いんだよな?」

「はい。無限回廊には特殊な記録魔法が掛かっているようなので」

 なぜ無限回廊にだけ、ではなく、故に無限回廊なのだと考えるべきだな。冒険者だけが持っている魔法のような能力に加えて、さっき手に入れた鈍刀のようにそれそのものが力を有している場合もあるし……まだまだ知らないことばかりだな。

 ギルドには寄らず、真っ直ぐにクランへと帰る。いや、でもやっぱり遠いな。これじゃあ街中観光するのも面倒そうだ。

「お帰りなさい。無事でしたね」

「お腹空いたにゃ!」

「ご用意しています」

「私はお酒が飲みたいです」

「お好きなものをどうぞ」

「この世界の飲酒年齢って?」

「十五歳です」

「若いな。……ちなみにドロレスの歳は?」

「女性に年齢を訊くのは――と言いたいところですが、七十四歳です」

「それは……若いのか?」

 見た目だけならどう見ても二十代半ばってところだけど、もしもエルフが物語に出てくるような長命種なら――それでも若い。

「エルフ族の寿命は凡そ百五十歳なので、中間ですね。ちなみに、姿は二十代半ば辺りから変わっていません」

「寿命は別としても、見た目が変わらないのはいいな」

「獣人も変わらにゃいにゃ」

「シルキーもです」

「じゃあ、歳を取るのは人間だけか」

 そんな会話をしながら食堂へ。待ち構えていたであろうジョニーはすでに酒瓶を片手に出来上がっていた。……少なくとも年相応に更けているってことは、ジョニーも人間だな。

「おぉ、戻ったか。二度目の無限回廊、どうだった?」

「修行してきたにゃ!」

「へぇ。で、どうだった?」

 椅子に腰を下ろし、用意されていた水を飲んだところでジョニーの視線に気が付いた。ああ、俺に訊いているのか。

「まぁ、上々じゃないか? ネイルもヨミも、昨日と比べても圧倒的に動きは良くなっているし、あと何回か試してみれば使いものになるだろう」

「ほう。なら、良しとしよう」

 何をどう判断したのかわからないが、そんなに俺を信用されても困る。

 食事をしながら――不意にネイルが口を開く。

「明日も行くのかにゃ?」

「無限回廊に、ですか? 私は行ったほうが良いと思います。感覚を忘れる前に、もう一度試してみたいです」

「同感だな。一階から三階はそれほど苦労はしないし、色々なモンスターを相手に鍛えるべきだ」

「にゃははっ! もっといっぱい戦いにゃ!」

 戦闘狂だな。まぁ、そういう奴だからこそ無限回廊を進んでいけるんだろう。

「……ジョニー様」

「ん? ああ、そうだな。お前ら、クランに入った時のギフトの話、忘れてんじゃあねぇだろうな?」

 その言葉に、ネイルとヨミは食事の手を停めた。

「確かにそんなことを言っていたな。ギフトについてはクランに入ってからだ、と」

「完全に失念していましたね」

「何かくれるのかにゃ?」

「ギフトってのはクランによって変わる。あるクランは強固な装備を、あるクランは能力の底上げを、そして俺のクランでは――こいつだ」

 テーブルを滑らせて投げられた二つ折りの紙をそれぞれに受け取った。

「……これは?」

「地図だ」

「地図、ですか?」

「ああ。無限回廊の地図だ」

「にゃっ!?」

 その反応もわかる。そんな便利なものがあるのなら、なぜ今まで――などと考えながら紙を開けば――白紙だった。

「……何も、描かれていませんね」

「インチキか?」

「いいや、真実だ。それの名は《失われた地図ロストマップ》。一度でも足を踏み入れた階層の地図が映し出させる」

「何も描いてにゃいにゃん」

「そりゃあ、その地図を持って無限回廊に行ってねぇからだなぁ」

「なら、行く前に渡すべきじゃないか?」

「はっはぁ――まぁ、細けぇことは気にするな」

 忘れていたってことね。無いよりは有り難いものだが。

「……この地図を他の冒険者に奪われたらどうなりますか?」

「まぁ、当然の心配だなぁ。だが、問題は無い。この地図が見れるのは俺のクランに所属している冒険者だけだ。もし紛失しても新しいのはすぐに用意できる。……とはいえ、無くさねぇに越したことはないがな」

 クランからのギフトは、そのクランに所属している冒険者にしか効果を発揮しないのか。便利というか、不思議だな。

「じゃあ、有り難い贈り物ギフトも貰ったし、明日から数日を掛けて探索してみるとするか」

「そうですね。まずは一階から三階まで、問題無く戦えるようになりましょう」

「ボクは戦えれば何でもいいにゃ~」

 方針も決まったところで。

「では、皆さん眠る前にシャワーを浴びてください。泥臭いので」

 そういえば昨日は疲れていたせいでシャワーも浴びずに眠ったが……そうか。風呂があるのは有り難い。

「ボクから入るにゃ!」

「どうぞ」

「行ってこい」

 本日の収穫は、新たな刀と不思議な地図。まぁ、使えるものは使わせてもらおう。生きるためだ。生きて、ヨミの父親を見つけ出すため。

 目下のところは、一週間後のチームメンバー面接まで生き残る。個人的には一人か二人でも来てくれれば御の字ってところだな。
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