放浪剣士は異世界ダンジョンを踏破する。

化茶ぬき

文字の大きさ
23 / 29

第22話 接触

しおりを挟む
 無限回廊地下三階――地図上、南側の行き止まり。様々なモンスターが無限に湧き続ける繭の巣にてネイルが戦闘中。

「にゃっはっはっはぁ!」

 動きに無駄が無くなったおかげで有り余る体力を使って好き放題にモンスターを倒している。

「……随分と楽しんでるな」

「手助けしに行きましょうか?」

「いや、別にいいだろ。明日は募集した冒険者の面接だし、好きにやらせておけばいい。ヨミの本もネイルの倒したモンスターの残骸を食べられているし、一石二鳥だろ」

「私はそうですが……フドーさんが退屈なのでは、と」

「そうでもねぇよ。俺も頭の中でネイルと同じ敵と戦っているからな」

「……それが強さの秘密ですか?」

「これは単なる習慣だな。イメージトレーニングってのは案外役に立つ」

 まぁ、イメージ内の肉体を現実の肉体と寸分違わず想像できることが条件だが。

「まだまだ掛かってくるにゃ~!」

「いや、そろそろ昼過ぎだし、明日のことを考えて早めに引き上げるとしよう。ネイル! 帰るぞ!」

「んにゃっ、あと一匹! あと一匹だけにゃ!」

「お前、それで昨日最終的に十二体倒すまで満足しなかったの忘れたんじゃないだろうな? もう終わりだよ。ヨミ、煙幕を」

「はい」

 飛んでいった《空白の目録》の口から煙が吐き出され、ネイルは巻き込まれないように後退してきた。

「うぬぬ……まぁ、いいにゃ」

「真っ直ぐ戻るだけでも時間が掛かるからな。帰りがてらに遭遇するモンスターもネイルに任せるから、それで我慢してくれ」

「フドーはいいのかにゃ?」

「俺は別に戦いが好きなわけじゃないんだよ」

「それじゃあいただきにゃん」

「煙幕に毒を混ぜておきました。今のうちに行きましょう」

 そして、地図を頼りに来た道を戻っていく。

失われた地図ロストマップ》――これは便利だ。ジョニーの言っていた通り、無限回廊に踏み入れた瞬間にその階の地図が浮かび上がってきた。階数表示もさることながら、一度でも訪れた場所の情報が記されるのは有り難い。地下一階の髑髏兵の沼地然り、三階の繭の巣も。おかげで虱潰しに探索することができたが、沼地の刀のようなお宝が見つかる場所は無かった。

 まぁ、そうそう簡単にお宝が見つかるはずもない。故に宝なわけだし、何よりここはまだ浅い。より深い階まで下りれば、この地図は今以上に役立つことになるだろう。

 そして、本日も無事に帰還、と。

「まだ時間も早いですし、久し振りにどこかで食事でもして帰りましょうか」

「お肉が食べたいにゃ~」

「帰り掛けにいくつか店があったと思うが――」

 無限回廊入口の建物を出たところで、人だかりを見付けた。囲まれている、というか遠巻きに視線を集めているのはおそらく冒険者だな。様々な種族の中に、腕が立ちそうな者も数名ほど確認できる。

「どうかしましたか? フドーさん」

「ん? ああ、いや……あいつらを知っているか? ヨミ」

「あれは――おそらく『ドゥオ』ですね」

「踏破を目指しているクランの一つか」

「はい。そこの中心にいる長い髪を束ねている女性が三騎聖の一角、女帝・クエイクです」

「三騎聖ってのは?」

「私たち冒険者に序列はありませんが、その中でも飛び抜けた実力を持つ三人のことです。『ドゥオ』は一昨日、新階層到達から帰ったばかりだと聞きましたが……銀狼・ウォルフに、鋼腕・ドルトスまで居ますね。主要メンバーです」

 鎧を纏った女の横に立つ狼の獣人と大柄なドワーフのことか。この時間でここにいるってことは、これから無限回廊に入るってことは無いだろう。待ち合わせか何かか。

「まぁ、俺たちには関係ない奴らだな。さっさと飯を食いに行こう」

「ん? にゃんかこっちに来るにゃ」

 ネイルの言葉に視線を戻せば、『ドゥオ』の一団がこちらに向かってきて――目の前で止まった。

「やぁ、初めまして。君等が最近毎日のように無限回廊に入っている冒険者だね。私は『ドゥオ』のチームリーダー、エレスフィアだ」

 エレスフィア? クエイクってのはあだ名か?

「初めまして。私たちは『ウーンデキム』のチームです」

「ああ……ジョニー氏の。名前は知っている。君がヨミくんで、そっちの獣人がネイルくん。そして――特異点、フドーくん」

 特異点? 初めての呼ばれ方だな。

「なんの用だか知らないが、これで挨拶は済んだな? 行くぞ、ヨミ、ネイル」

 ここは人目が多いし、こういう注目の集め方は良くない。逃げるが勝ち、というより関わらないに越したことは無い。

「――君に御前試合を申し込む」

 その言葉が俺の背中に向けられていることに気が付いて、足を止めた。

「……ヨミ、御前試合って?」

「観衆の前で行われる見世物試合、でしょうか。基本的に殺しは無しで、断ることもできますが……」

 そりゃあ俺も受けるつもりは無いが。

「あの女帝がドリフターと御前試合だと?」

「こりゃあ見逃せねぇな」

「おい、うちのクランの奴らに連絡しろ」

 ざわつく周囲の反応から察するに、断れる雰囲気でも無い。

 とはいえ、考え方次第か。明日は面接があるし、多少なりクランの名前が知られれば有能な冒険者を集められるかもしれない。

「つーか、断れないようにこの状況を仕掛けたんだろ? なら、その申し入れを受けよう。いつだ?」

「君に任せよう。今日は無限回廊から戻ってきたばかりだろう? 明日――いや、一週間後でも良い。万全の状態で――」

「いつでもいいなら、今からにしよう。そっちがいいのなら、だが」

「ほう……いいだろう。では今より三十分後、南側にある闘技場にて御前試合を行う。準備を整え、待っていろ。フドーくん」

 そっちから仕掛けておいて、待つのは俺かよ。まぁ、別にいいけどさ。

「三十分か……飯でも食うか?」

 去っていく『ドゥオ』の面々を見送っていれば、険しい顔をしたヨミが溜め息を吐いた。

「これはマズいですよ。まさか女帝と戦うことになるなんて……」

「フドーばっかりズルいにゃ!」

「代われるもんなら代わってほしいが」

「そういう話ではなく。相手は現代の冒険者の中で最強と評される一人ですよ? さすがにフドーさんでも勝てるかどうかわかりません」

 そんなレベルで語られるとは。随分と買い被られているな。

「別に勝つつもりはねぇよ。殺しは無しなんだろ? だったら、いくらでもやりようはある」

「ボクも戦いたいにゃ~」

「帰ったら相手してやるから、今は落ち着いとけよ」

 呆れと不安混じりのヨミも、戦いたくてうずうずしているネイルも、どっちの気持ちもわかるからさっさと終わらせるとしよう。

 ……一つ確認しておくか。

「ネイル。女帝のレベルはどれくらいだった?」

「うんにゃ、わからにゃいにゃん」

「ん? ネイルの能力は相手のレベルが見えるんだろ?」

「そうにゃん。でも、相手によっては戦いの体勢に入っているか殺す気が無ければ見えないにゃ」

「実力差的な話か?」

「んにゃ。気が付いたんにゃけど、ボクよりも強過ぎるとレベルが表示されないにゃん」

 意外と不便な面が見えてきたが、それでも能力の質自体に変わりがないからネイルの中では大した問題でもないのだろう。

 まぁ、女帝のレベルを教えてもらったところで強いことはわかり切っている。

 問題はどうして俺に目を付けたのか――そんなに目立つことをした自覚は無いんだが。あるとすれば、ドリフターなのに没スキルで、これまで冒険者が所属していなかった『ウーンデキム』に所属し、頻繁に無限回廊に出入りしている、ってことくらいだ。単純な強さならネイルのほうが、能力的に戦ってみたいのはヨミのはずだろう。俺なら、わざわざ俺と戦おうとは思わない。

 まぁ、今回に関してはこちらにも利点があるから良いが――これ切りにしてもらいたいところだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。 火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。 ――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。 「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」 「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」 「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」 彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった! 魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。 着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。 世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。 胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

処理中です...