せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

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第一章

第3話 異能力

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 用意された服のサイズは丁度良かった。普通のTシャツにスラックスのようだが、生地の感じから元の世界よりは良い布を使っているように思える。

「栞、こっち」

 風呂上がりで髪を乾かしたロットーに促されるまま付いていくと、向かう部屋から良い匂いが漂ってきた。

「あ、上がったのね。まずは夕飯にしましょう。どうぞ、座って」

 テーブルの上には出来立ての料理が並んでいて、先に椅子に腰を下ろしたロットーの横に座ると、スープを注いだ木の皿が差し出された。匂いから推測するに芋のスープかな? 

「うちの畑は色々育てているけど主に芋を作ってるんだよ。だから、イモのスープに、イモの揚げ物、イモのサラダに、パンね」

 考えていたことが読み当てられた。……パンは普通のパンなのか。

「じゃあ、冷めないうちにいただこうか。いただきます」

「いただきます」

「……いただきます」

 両親に続いたロットーは恥ずかしそうに呟いてパンを一つ手に取った。

 食器もスプーンもフォークも木製か。食べ方もそれぞれで特に決まりがあるようには見えない。毒の心配は初めからしていないし、何故だか無性に腹も減っている。食べてみるか。

「いただきます」

 まずはイモのスープをスプーンで掬って口に運べば、喉を通って体の内側まで染み渡る甘さに顔が綻んだ。美味い。揚げ物もサラダも、想像の何倍も美味い。パンは普通だが。

 一通り食べ終えて、食後に出された熱いお茶を啜っているとパパさんの視線がこちらに向けられていることに気が付いた。

「栞くん、君はヒューマーなんだよね?」

「え~っと……ん~、そうですね……おそらく厳密にこちらの世界で言うところのヒューマーかと問われれば、違うんだと思います。日本人? というか、人間です」

「ニンゲン……聞き慣れないね」

 そう言って椅子の背凭れに体を預けたパパさんに代わって、今度はママさんが身を乗り出してきた。

「つまりこの国の者では無いってことよね? どこから来たの?」

 場所か。言葉は通じるが、確実に日本人とは違う外見の者に「日本から」と言っても通じるわけがないだろう。

「……とにかく遠いところから、ですかね」

 困ったような返答をすると、続けて口を開きそうだったパパさんとママさんを遮るようにロットーが二回手を叩いた。

「はいはい、そこまで。栞だって疲れてるんだから。話はそれくらいにして」

「でも、ロットー――」

「わかってる」

「しかし、ロットー。パパたちは――」

「だから、わかってるってば。大丈夫。ちゃんと、考えてるから」

「……?」

 何やら揉めているような会話だが主語が無いせいで何について話しているのか見当もつかない。少なくとも間接的には俺も関係しているのだろうが、家族の問題に部外者が口を挟むべきではない。

「じゃあ、栞はアタイの部屋で寝るから、もう行くわ。じゃあね、パパ、ママ――また、明日」

 意味深な言葉を残して手を振ったロットーは、俺の手を掴んで立ち上がった。部屋を出る直前に見えた両親の表情は何とも言えない苦笑いのような顔だった。

 放り込まれたのはベッドと机が置かれただけの、まるで苦学生のワンルームのような部屋だった。若い女の子の部屋って感じではないな。

「適当に座って」

 じゃあ、とベッドに向かい合うよう床に腰を下ろせば、ロットーはベッドの上で胡坐を掻いてこちらを見下ろしながら何かを拭うように髪の毛をわしゃわしゃと弄繰り回した。

「……はぁ――じゃあ、何から話そうか。とりあえず、アタイには真実を教えてくれるかい? 栞、あんたはどこから来たんだ?」

 嘘を吐いたわけじゃなくとも真実を言っていないことには気付かれたか。そういう部分はあやふやになるのかと思っていたが、異世界でも理屈を通すことは必要なようだ。

「信じてもらえるかわからないが、俺は別の世界の日本という国から来た。……来た、というより、気が付いたらこちらの世界に居た、って感じだな」

 考え込むように視線を下げたロットーは鼻から吸った空気を大きく吐き出すと、静かに「うん」と頷いた。

「……なるほど。信じるよ。実を言うと、そもそも初めて栞を見た時からこの世界のヒューマーじゃないことには気が付いていたんだ」

「気付いていた? 見た目とか同じなんだろう?」

「そう、同じ。まぁ、服装とかは全然違うけど、そういうことじゃなくて……ちょっと待って」

 ロットーは徐に机の引き出しを開けて、中からブレスレットのようなリングを取り出した。

「これはギルドリング。ヒューマーなら誰でも付けているブレスレットで、他種族の一部にも配られている。アタイもその一人」

 ギルド――ベタな名前から察するに依頼の斡旋所ってところか? そういうのは大抵、冒険者やハンターと呼ばれる者が登録するような場所だと思うが、ヒューマー全員となると……この世界の人間は全員が戦えるということになる。

「つまり、こちらの世界のヒューマーはそのブレスレットを腕に嵌めることが義務付けられているということか。じゃあ、その他種族の一部ってのは? ロットーが嵌めていないところを見るに他の種族は義務ではないんだろう?」

「そう。そこがつまり、アタイがピクシーなのに性転換できない理由なんだけど……その様子だと知らないみたいね。この世界には『異能力ヴァイズ』という魔法の力がある。それを持っているのがヒューマーで、稀に他の種族でも『異能力』を持って生まれる者がいて――力を持って生まれたピクシーは、何故か性転換ができないんだ」

「へぇ……『異能力』……」

 冷静を装っているが、心の中では歓喜の声を上げて踊りまくっている。

「もしかして、そっちの世界には無い?」

「無いな。俺の世界でいうところの超能力だろうが、それはほとんど嘘っぱちの手品だ。本物の魔法など存在していないと思う。……そういえば、俺の傷を治したのはロットーなんだよな? どんな魔法を使えるんだ?」

「ん? いや、アタイはあんたに何もしていないよ。そもそもアタイの『異能力』は治癒系じゃないしね。異能力名・腐食。ものを腐らせるのがアタイの能力だ」

「興味深いな。その『異能力』には系統があるのか。具体的にはどれくらいのモノを腐らせられるんだ? 物だけか? それとも生物も?」

 問い掛けると途端にロットーは視線を下げて開いた自分の掌を見詰めていた。

「なんでも、かな。触れられるものなら無機物、有機物問わずなんでも腐らせることができる。できてしまう」

「ほぅ……手自体は普通だな。無差別では無く意識的に対象を選べるんだよな? そうじゃなかったら食器なんかも腐っているはずだし、お湯もそうか、不思議だ……こんなにも綺麗な手なのに」

 ロットーの手を取り、まじまじと観察していると、バッと振り払うように腕を引っ込められてしまった。

「なっ――何をするんだ! 普通、アタイの『異能力』を知った者は近付こうとすらしないのに――」

「いや、今更だろ。何回も腕を掴まれているし一緒に風呂も入っている。実害が無いのはわかってるじゃねぇか。俺は気にしないし、両親だって同じだろ? ……ん? というか、両親も同じ力を持っているのか?」

 壁際まで退いて驚きで顔を赤らめているロットーは、荒い呼吸を落ち着かせつつ顔を横に振った。

「『異能力』は遺伝しない。それはヒューマーも同じだけど、ヒューマーの場合は何があろうと百パーセント『異能力』を生まれ持っていて、他の種族は突然変異的に生まれる。まぁ、アタイの場合は家が農家だったし、能力が腐食だったから良い肥料を作って貢献できているけどさ……」

 なるほど、肥料か。それは良い使い道だ。むしろ、だからこそ、とも思えるくらい適材適所な『異能力』だな。それにヒューマーなら百パーセント、か……。

「ロットーは生まれた時から能力を使えると知っていたのか?」

「いいや、知ったのは五年? くらい前だな。この世界には異能力鑑定士っていうい能力を鑑定する異能力があって、近くの村に鑑定士が来るからって噂を聞いて物見遊山で行ったら鑑定士の目に留まって鑑定してもらったんだ。ギルドリングもその時に渡された」

「目に留まった、ってこっちがお願いするんじゃなくて、その鑑定士ってのが鑑定する相手を選ぶのか?」

「そう。多分、鑑定士の眼は他種族の中で『異能力』を持っている者を見抜けるんだと思う。だから各地にある村々を訪れて鑑定してはその『異能力』によってスカウトをするんだ」

「で、ロットーはスカウトされた、と」

「まぁ、そうなる。聞いた話だとヒューマーも十二歳くらいに一斉に鑑定を受けるらしい。そこで異能力名を聞いて能力に目覚める子もいれば、それよりも前から『異能力』を使える子もいる、って」

 スカウトの話は上手くはぐらかされた気がするが、それよりも大事な話を聞けた。

「つまり、だ。こっちの世界での俺はヒューマーなわけだろ? だとしたら鑑定士に会って鑑定してもらえば俺も『異能力』が使えるようになるかもしれないってことだ! そうだよな?」

「ん~……多分?」

「なら、とりあえず、俺がこっちの世界に来てまずやることは鑑定士に会うことだな。どこに行けば会える?」

「偶然にでも出くわさない限り基本的には大きな街に居るから、ここからだと――アイルダーウィン王国街かな」

「よし、決まりだな。俺は明日にでもそのアイなんとか王国街ってところに向かう。行き方はわかるか?」

「ん、わかる」

「じゃあ、明日大体の方向を教えてくれ。それでどうにかなる~……っ」

 思わず出た欠伸を噛み殺すようにして息を吐いた。欠伸なんて何年振りだろう。それだけ疲れているということか。肉体的な疲労というよりは精神的にはしゃぎ過ぎた結果のようにも思えるが、異世界だからかそんな疲れさえも心地良い。

「……もう寝ようか。はい、ベッド入っていいわよ」

 寝転がったロットーが隣をパンパンと叩く姿を見て苦笑いしか出なかった。種族間的に問題は無いのだろうが、個人的にまだその領域まで踏み込むべきではないと思っている。

「申し出は有り難いが俺は床でいい。バッグを枕にすれば慣れたもんさ」

「ふ~ん、そう。ならいいけど」

 そう言って電気が消えると、ベッドのほうからはすぐに寝息が聞こえてきた。

 ……思えば、こちらの世界に来て最初にロットーに出会ったのは幸運だった。未だ、俺に特別な力があるかはわからないが、話を聞いて幾分かの可能性は出てきた。

 『異能力』か――別に最強になりたいわけではない。英雄になりたいわけでも、ハーレムを味わいたいわけでも無い。

「じゃあ、俺は――」

 いったい、何をしたんだろうな。
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