8 / 52
第一章
第8話 ハーフエルフ
しおりを挟む
おかしなものでピクシーの村に戻る頃にはすっかり不快感も無くなり、今度こそきれいさっぱり痛みは無くなっていた。だが、吐き出した血のおかげか貧血気味で、オーガを倒したお礼を言われた直後に気を失うように眠ってしまった。
翌日、目が覚めると、差し出されたよくわからない肉料理を有り難く頂戴した。若干の臭みはあるが一緒に蒸し焼きにされたであろう香草のおかげで嫌な味はしない。たぶん、ヤギとかヒツジの肉だろう。
「菜食主義なのかと思っていたが、違ったんだな」
「ん、ああ、うちはママが肉嫌いだから滅多に食べないだけで、種族的にはなんでも食べる。もちろんアタイもね」
イモ料理は両親の趣味ってことか。まぁ、あれも美味かったからいいけど。
これで昨夜流した血の補充はできた。体にも異変は無いし、万全だと言っていいだろう。
「そういえば村にピクシーが少ないようだったが、昨日あの後に何かあったのか?」
「何って言うほどのことは無かったけど、オーガを倒したお礼を言われて橋が落ちていたことを話したら、じゃあ明日までに直そう、って今も作業してる。たぶん、そろそろ終わるはず」
「夜通し作業していたのか? そりゃあまた、よほど大事なライフラインだったんだな」
遠回りすれば五日も掛かる渓谷なら当然か。橋が架かるだけで四日も短縮できるなら夜通し作業もなんのそのって感じかな。
「食べ終わったなら様子を見に行く? 一番に渡らせてくれるって言っていたし」
「一番に、って逆に怖い気もするが渡れるのなら早いところ街に行くか。ロットーだって、ギルド登録? しないといけないんだろう?」
「それは、まぁ。アタイも大まかな知識はあるけど細かくはわからないことも多いからね。じゃあ、行くか」
昨夜と同じように村を出ていくが、今度は警戒心なく開けっ広げの門から出ていった。一本道を通っていくと、遠目に大勢の人影と見覚えのある突起が地面から生えているのが確認できた。
「本当にずっと作業していたのか? 異種族馬鹿にできねぇな」
数人のピクシーは休憩がてらかオーガの周りに集まって、まじまじと眺めているようだったが俺たちが来たことに気が付くとすぐに橋のほうへと駆けていった。
「ロットーちゃん、それにヒューマーも。食事は済ませたかな?」
「はい。わざわざ用意していただいてありがとうございました」
「え~っと、体つきが変わると誰が誰だかわからないが村長でいいんだよな? 俺からも改めて言わせてもらう。食事、美味かったですよ」
俺がお礼を言っていると片付けや休憩していたピクシーたちが集まってきて村長の後ろに立ち並んでこちらを見据えてきた。
「いや、礼を言うのはこちらのほうだ。改めて、皆を代表して言わせてもらう。ロットーちゃん、ヒューマー――いや、栞。オーガを退治してくれて助かった。おかげで我らの村には被害が出ずに済んだ。本当にありがとう」
村長が深々と頭を下げると、周りのピクシーも合わせて頭を下げた。
こういう時、どういう顔をすればいいのかわからない。困りながら横を見れば、同じようにどうすればいいのかわからないロットーは、まるで拗ねたように口先を尖らせながら視線を逸らしていた。要は気まずいんだ。早いところ話題を変えたいが、雰囲気からしてまだこちらが口を開く順番では無い。
「お礼と言っては安くなってしまうが、落とされた橋に代わって新しい橋を架けた。ピクシーの名に賭けて安全だと保障しよう。この橋を最初に渡ってもらいたい。……如何だろうか?」
友を守りたいピクシーが作った橋か。そりゃあ信用するには充分過ぎる理由だな。
ロットーのほうを見れば、どうやら俺に言葉を譲ってくれるようだ。
「では、喜んで橋を渡らせてもらいます。ありがとう」
手を差し出せば握り返された。さすがは男の体つきだ。すげぇ力が強い。
ロットーと場所を変わって村長と握手を交わせば、ピクシーたちが橋までの道を開いた。
「行こう、栞」
「……橋の落成か。嫌な響きだな」
木で造られた橋に足を踏み出せば、軋む音がするものの揺れたりすることも無い。
「どうだ? しっかりしているだろ?」
「ああ。これなら街に出て建築業でもしたほうが儲かるんじゃないか?」
「まぁ、みんなわかってはいるんだろう。それでも、ピクシーは農耕に生きるんだ。そういう性質だからな」
遺伝子に刻まれた生き方はそう簡単には変えられないか。そういう意味で言うと人間よりも動物の性に近いのかもしれない。
橋の中ほどまで来た時に橋の下を覗き込めば、深淵が広がっていた。
「……この渓谷ってどこまで深いんだ? 底を確認したことは?」
「聞いたことが無いな。ここは魔物が住んでいるわけでもないし、大して困らないから放置しているんじゃないか?」
何か問題が起きてからじゃないと動き出さないのはどこも同じらしい。
「はっは、どの世界も同じだな。橋を過ぎたらどれくらいで街に着くんだ?」
「ん~……たぶん二、三時間? ここら辺からはほとんど覚えてなくてね」
まぁ、何から何まで知り尽くしているのも面白くは無い。一つ一つ解き明かしていくのも異世界転移の醍醐味だろう。
橋を渡り切った先には森があった。
木のサイズが屋久島の縄文杉くらいに大きいが、それを除けば普通の森だ。街が近いせいもあるのかもしれないが、魔物がいないだけでなく野生の動物もいない。強いて聞こえてくるのは鳥の鳴き声くらいか。
「そういえば種族によって礼儀の違いとかあるのか? さっきは普通に手を差し出してしまったが体の接触禁止、とか」
「ピクシーには特に無いな。強いて言えば性転換するとき何者にも見られてはならない。とか? でもこれは各々の問題で礼儀では無いな。これから行く街のセリアンスロォプにも、これと言って聞いたことは無い。まぁ多分、わかりやすく無礼な態度を取らなければ大丈夫だろう」
「ふぅん。そんなもんか」
国が違えばしきたりが変わるように、世界が違えばそれだけ大きく変わると思ったのだがそうでもないらしい。明確な敵の存在の有無こそ違うが、それ以外では似たり寄ったりだな。
「――くすくす」
含み笑いのような声に足を止めると、ロットーと目を合わせて疑問符を浮かべた。
振り返り、周囲を見回して木々の間にまで注意を払うが姿は見えない。
「――くすくす」
二度目の笑い声に今度は出所がわかって木を見上げれば、逞しく伸びた太い枝の上に寝転がる者がいた。それを確認するや否やすぐにしゃがみ込んで地面に手を着くロットーと、剣針を構える俺はたった一度の戦闘経験で随分と警戒心が増したように思える。
「くすっ――そんなに警戒しなくていいよー。敵じゃあないからねー」
木の枝から飛び降りてきたのは年端もいかない少女のようだった。その服装は見るからに狩人のようで、背中には弓を背負っているが矢筒は見えない。そして何よりも目を引くのが――尖った耳だ。十中八九、七つの種族の一つ、エルフじゃないか?
「変な組み合わせがいるなー、と思ったら声が漏れちゃったよ。でも、まさかヒューマーとピクシーが一緒に行動しているなんてねー。しかもそっちは逸れ者」
「そういうあんたはハーフエルフか」
「そそっ、ハーフエルフで――そっちと同じ逸れ者ねー」
そう言いながら見せてきた腕にはロットーと同じギルドリングが嵌められていた。
「……ハーフエルフ? 普通のエルフとは違うのか?」
想像は付くが、当然の疑問を口にすると目の前に居るハーフエルフは首を傾げて疑問符を浮かべながら俺の腕に視線を落とした。
「……?」
「ああ、そうか。栞のギルドリングを作るまでは説明が必要なんだな。とりあえずは自己紹介だ。アタイはロットー。ピクシーだ」
「俺は――栞でいい。別の世界から来た人間だ」
「んん? ニンゲン? 別の世界? んんっ――ま、措いといて。サーシャはイル・サン・ミナール・アスヴァンチサーシャ。エルフのハーフエルフ。長いからサーシャでいいよー。で、栞だっけ? 別の世界から来た、って?」
ぐいぐいと近寄ってきて顔を寄せてくるが背が小さいのもあって上目遣いで見上げられている。俺より二十センチくらい低いから百五十センチくらいか。
「いや、言葉通りだが……俺の腕にリングが無いのが証明らしい」
「ん~、確かにねー。ていうか、実は昨日の夜にオーガと戦っている時から知っていたけどね。面白そうだと思ったから手を貸しちゃったし」
「手を――ああ、やっぱりオーガの顔にあった痕はこちら側からの攻撃だったのか。あの時は助かったよ、サーシャ」
「いやいや~、サーシャも楽しめたよ~。まさかオーガを内側から焼き殺すなんて思ってもみなかったし、そっちのピクシーも良い感じだったね~」
「そりゃどうも。で、あんたはこんなところで何をしていたんだい?」
「オーガが出たって聞いたから様子を見に来たんだよ。まぁ、サーシャはまだギルド登録してないから依頼も受けられないんだけどね~」
登録してないのかよ。まぁでも正式に依頼を受けていたら大回りすることになっていたから、あの時あの場所でオーガに攻撃は出来なかったわけか。その点には感謝すべきだな。
「じゃあ、とりあえずありがとう。俺達は街に行くよ」
「何をしに?」
「俺は鑑定を受けに」
「そっちのピクシーは?」
「アタイはギルド登録をしに」
「俺がこちらの世界でいうヒューマーなら、俺にも『異能力』があるはずだからな」
「ふ~ん、ならサーシャも付いてく!」
その言葉に、すでに歩き出していた足を止めた。そして、何故だか俺よりも先にロットーが振り返って口を開いた。
「はぁ? なんであんたが付いてくんの? 関係ないでしょ」
「サーシャが助けたんだから関係なくはないでしょ。それにヒューマーもどきと逸れ者のピクシーのチームなんて面白そうだからね!」
「いや、別にチームというわけでは――」
「そうチーム! だから、逸れ者のハーフエルフは必要ない。だろ? 栞」
「え、あ~……」
なんだこの状況は。予想だにしていなかったハーレム展開のようだが、まったくもって興奮しない。というか、そそられない? なんにしてもピクシーとエルフが種族的にどうのではなく、この二人の相性があまり良くないように見える。
「ほら、断らないってことは良いんだよね? じゃあ、サーシャも一緒に行く~」
「栞? アタイよりもこんなチンチクリンが良いのかい?」
「いや、良し悪しは別に……というか、一緒に街に行くくらい構わないんじゃないか? 何か問題なのか?」
「問題ってわけでもないけど……なんか、気に食わない」
不貞腐れたように視線を逸らしたロットーを不覚にも可愛いと思ってしまった。可愛い、とは思うが……どうして不機嫌になってしまったかの理由はわからない。本ばかりを読んで人と接してこなかった皺寄せがこんな風にやってくるとは思いもしなかった。登場人物の感情ならば作者のイメージが文字の羅列に現れるからなんとなく理解できるが、実際に生きている者が相手になると途端にわからなくなってしまう。仕方がないと言ってしまえばそれまでだが――少なくとも俺は、その感情を知りたいと思っている。いや、より正確に言うのなら感情は知っている。問題は、読み取れない力のほうだ。
ともあれ、増えた隣人のおかげで賑やかになりそうだ。旅とも言えぬ旅であり、どこまで続くかはわからないけれど、旅は道連れ世は情けだ。今を楽しみつつ、俺の存在価値を確かめに行こう。
翌日、目が覚めると、差し出されたよくわからない肉料理を有り難く頂戴した。若干の臭みはあるが一緒に蒸し焼きにされたであろう香草のおかげで嫌な味はしない。たぶん、ヤギとかヒツジの肉だろう。
「菜食主義なのかと思っていたが、違ったんだな」
「ん、ああ、うちはママが肉嫌いだから滅多に食べないだけで、種族的にはなんでも食べる。もちろんアタイもね」
イモ料理は両親の趣味ってことか。まぁ、あれも美味かったからいいけど。
これで昨夜流した血の補充はできた。体にも異変は無いし、万全だと言っていいだろう。
「そういえば村にピクシーが少ないようだったが、昨日あの後に何かあったのか?」
「何って言うほどのことは無かったけど、オーガを倒したお礼を言われて橋が落ちていたことを話したら、じゃあ明日までに直そう、って今も作業してる。たぶん、そろそろ終わるはず」
「夜通し作業していたのか? そりゃあまた、よほど大事なライフラインだったんだな」
遠回りすれば五日も掛かる渓谷なら当然か。橋が架かるだけで四日も短縮できるなら夜通し作業もなんのそのって感じかな。
「食べ終わったなら様子を見に行く? 一番に渡らせてくれるって言っていたし」
「一番に、って逆に怖い気もするが渡れるのなら早いところ街に行くか。ロットーだって、ギルド登録? しないといけないんだろう?」
「それは、まぁ。アタイも大まかな知識はあるけど細かくはわからないことも多いからね。じゃあ、行くか」
昨夜と同じように村を出ていくが、今度は警戒心なく開けっ広げの門から出ていった。一本道を通っていくと、遠目に大勢の人影と見覚えのある突起が地面から生えているのが確認できた。
「本当にずっと作業していたのか? 異種族馬鹿にできねぇな」
数人のピクシーは休憩がてらかオーガの周りに集まって、まじまじと眺めているようだったが俺たちが来たことに気が付くとすぐに橋のほうへと駆けていった。
「ロットーちゃん、それにヒューマーも。食事は済ませたかな?」
「はい。わざわざ用意していただいてありがとうございました」
「え~っと、体つきが変わると誰が誰だかわからないが村長でいいんだよな? 俺からも改めて言わせてもらう。食事、美味かったですよ」
俺がお礼を言っていると片付けや休憩していたピクシーたちが集まってきて村長の後ろに立ち並んでこちらを見据えてきた。
「いや、礼を言うのはこちらのほうだ。改めて、皆を代表して言わせてもらう。ロットーちゃん、ヒューマー――いや、栞。オーガを退治してくれて助かった。おかげで我らの村には被害が出ずに済んだ。本当にありがとう」
村長が深々と頭を下げると、周りのピクシーも合わせて頭を下げた。
こういう時、どういう顔をすればいいのかわからない。困りながら横を見れば、同じようにどうすればいいのかわからないロットーは、まるで拗ねたように口先を尖らせながら視線を逸らしていた。要は気まずいんだ。早いところ話題を変えたいが、雰囲気からしてまだこちらが口を開く順番では無い。
「お礼と言っては安くなってしまうが、落とされた橋に代わって新しい橋を架けた。ピクシーの名に賭けて安全だと保障しよう。この橋を最初に渡ってもらいたい。……如何だろうか?」
友を守りたいピクシーが作った橋か。そりゃあ信用するには充分過ぎる理由だな。
ロットーのほうを見れば、どうやら俺に言葉を譲ってくれるようだ。
「では、喜んで橋を渡らせてもらいます。ありがとう」
手を差し出せば握り返された。さすがは男の体つきだ。すげぇ力が強い。
ロットーと場所を変わって村長と握手を交わせば、ピクシーたちが橋までの道を開いた。
「行こう、栞」
「……橋の落成か。嫌な響きだな」
木で造られた橋に足を踏み出せば、軋む音がするものの揺れたりすることも無い。
「どうだ? しっかりしているだろ?」
「ああ。これなら街に出て建築業でもしたほうが儲かるんじゃないか?」
「まぁ、みんなわかってはいるんだろう。それでも、ピクシーは農耕に生きるんだ。そういう性質だからな」
遺伝子に刻まれた生き方はそう簡単には変えられないか。そういう意味で言うと人間よりも動物の性に近いのかもしれない。
橋の中ほどまで来た時に橋の下を覗き込めば、深淵が広がっていた。
「……この渓谷ってどこまで深いんだ? 底を確認したことは?」
「聞いたことが無いな。ここは魔物が住んでいるわけでもないし、大して困らないから放置しているんじゃないか?」
何か問題が起きてからじゃないと動き出さないのはどこも同じらしい。
「はっは、どの世界も同じだな。橋を過ぎたらどれくらいで街に着くんだ?」
「ん~……たぶん二、三時間? ここら辺からはほとんど覚えてなくてね」
まぁ、何から何まで知り尽くしているのも面白くは無い。一つ一つ解き明かしていくのも異世界転移の醍醐味だろう。
橋を渡り切った先には森があった。
木のサイズが屋久島の縄文杉くらいに大きいが、それを除けば普通の森だ。街が近いせいもあるのかもしれないが、魔物がいないだけでなく野生の動物もいない。強いて聞こえてくるのは鳥の鳴き声くらいか。
「そういえば種族によって礼儀の違いとかあるのか? さっきは普通に手を差し出してしまったが体の接触禁止、とか」
「ピクシーには特に無いな。強いて言えば性転換するとき何者にも見られてはならない。とか? でもこれは各々の問題で礼儀では無いな。これから行く街のセリアンスロォプにも、これと言って聞いたことは無い。まぁ多分、わかりやすく無礼な態度を取らなければ大丈夫だろう」
「ふぅん。そんなもんか」
国が違えばしきたりが変わるように、世界が違えばそれだけ大きく変わると思ったのだがそうでもないらしい。明確な敵の存在の有無こそ違うが、それ以外では似たり寄ったりだな。
「――くすくす」
含み笑いのような声に足を止めると、ロットーと目を合わせて疑問符を浮かべた。
振り返り、周囲を見回して木々の間にまで注意を払うが姿は見えない。
「――くすくす」
二度目の笑い声に今度は出所がわかって木を見上げれば、逞しく伸びた太い枝の上に寝転がる者がいた。それを確認するや否やすぐにしゃがみ込んで地面に手を着くロットーと、剣針を構える俺はたった一度の戦闘経験で随分と警戒心が増したように思える。
「くすっ――そんなに警戒しなくていいよー。敵じゃあないからねー」
木の枝から飛び降りてきたのは年端もいかない少女のようだった。その服装は見るからに狩人のようで、背中には弓を背負っているが矢筒は見えない。そして何よりも目を引くのが――尖った耳だ。十中八九、七つの種族の一つ、エルフじゃないか?
「変な組み合わせがいるなー、と思ったら声が漏れちゃったよ。でも、まさかヒューマーとピクシーが一緒に行動しているなんてねー。しかもそっちは逸れ者」
「そういうあんたはハーフエルフか」
「そそっ、ハーフエルフで――そっちと同じ逸れ者ねー」
そう言いながら見せてきた腕にはロットーと同じギルドリングが嵌められていた。
「……ハーフエルフ? 普通のエルフとは違うのか?」
想像は付くが、当然の疑問を口にすると目の前に居るハーフエルフは首を傾げて疑問符を浮かべながら俺の腕に視線を落とした。
「……?」
「ああ、そうか。栞のギルドリングを作るまでは説明が必要なんだな。とりあえずは自己紹介だ。アタイはロットー。ピクシーだ」
「俺は――栞でいい。別の世界から来た人間だ」
「んん? ニンゲン? 別の世界? んんっ――ま、措いといて。サーシャはイル・サン・ミナール・アスヴァンチサーシャ。エルフのハーフエルフ。長いからサーシャでいいよー。で、栞だっけ? 別の世界から来た、って?」
ぐいぐいと近寄ってきて顔を寄せてくるが背が小さいのもあって上目遣いで見上げられている。俺より二十センチくらい低いから百五十センチくらいか。
「いや、言葉通りだが……俺の腕にリングが無いのが証明らしい」
「ん~、確かにねー。ていうか、実は昨日の夜にオーガと戦っている時から知っていたけどね。面白そうだと思ったから手を貸しちゃったし」
「手を――ああ、やっぱりオーガの顔にあった痕はこちら側からの攻撃だったのか。あの時は助かったよ、サーシャ」
「いやいや~、サーシャも楽しめたよ~。まさかオーガを内側から焼き殺すなんて思ってもみなかったし、そっちのピクシーも良い感じだったね~」
「そりゃどうも。で、あんたはこんなところで何をしていたんだい?」
「オーガが出たって聞いたから様子を見に来たんだよ。まぁ、サーシャはまだギルド登録してないから依頼も受けられないんだけどね~」
登録してないのかよ。まぁでも正式に依頼を受けていたら大回りすることになっていたから、あの時あの場所でオーガに攻撃は出来なかったわけか。その点には感謝すべきだな。
「じゃあ、とりあえずありがとう。俺達は街に行くよ」
「何をしに?」
「俺は鑑定を受けに」
「そっちのピクシーは?」
「アタイはギルド登録をしに」
「俺がこちらの世界でいうヒューマーなら、俺にも『異能力』があるはずだからな」
「ふ~ん、ならサーシャも付いてく!」
その言葉に、すでに歩き出していた足を止めた。そして、何故だか俺よりも先にロットーが振り返って口を開いた。
「はぁ? なんであんたが付いてくんの? 関係ないでしょ」
「サーシャが助けたんだから関係なくはないでしょ。それにヒューマーもどきと逸れ者のピクシーのチームなんて面白そうだからね!」
「いや、別にチームというわけでは――」
「そうチーム! だから、逸れ者のハーフエルフは必要ない。だろ? 栞」
「え、あ~……」
なんだこの状況は。予想だにしていなかったハーレム展開のようだが、まったくもって興奮しない。というか、そそられない? なんにしてもピクシーとエルフが種族的にどうのではなく、この二人の相性があまり良くないように見える。
「ほら、断らないってことは良いんだよね? じゃあ、サーシャも一緒に行く~」
「栞? アタイよりもこんなチンチクリンが良いのかい?」
「いや、良し悪しは別に……というか、一緒に街に行くくらい構わないんじゃないか? 何か問題なのか?」
「問題ってわけでもないけど……なんか、気に食わない」
不貞腐れたように視線を逸らしたロットーを不覚にも可愛いと思ってしまった。可愛い、とは思うが……どうして不機嫌になってしまったかの理由はわからない。本ばかりを読んで人と接してこなかった皺寄せがこんな風にやってくるとは思いもしなかった。登場人物の感情ならば作者のイメージが文字の羅列に現れるからなんとなく理解できるが、実際に生きている者が相手になると途端にわからなくなってしまう。仕方がないと言ってしまえばそれまでだが――少なくとも俺は、その感情を知りたいと思っている。いや、より正確に言うのなら感情は知っている。問題は、読み取れない力のほうだ。
ともあれ、増えた隣人のおかげで賑やかになりそうだ。旅とも言えぬ旅であり、どこまで続くかはわからないけれど、旅は道連れ世は情けだ。今を楽しみつつ、俺の存在価値を確かめに行こう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます
水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。
勇者、聖女、剣聖――
華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。
だが――
この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。
最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。
識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。
「今日からお前はレイナだ」
これは、勇者ではない男が、
メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。
屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる