15 / 52
第一章
第15話 準備
しおりを挟む
初めての依頼は誘拐されたセリアンスロォプの救出だが、引き受けたところですぐに件の深層の古城に向かうわけでは無い。
「まさか、最初の仕事で相手にするのが魔物じゃなくヒューマーってのは皮肉な感じもするが、防具とか武器は用意しておいたほうがいいんだろ?」
「多分な。基本的には街やその周辺以外には魔物が居ると思ったほうがいい」
「そうか。なら、用心しないとな」
とはいえ、おそらくレベル補正みたいなのが存在していると思う。ゲームとは違うが、魔物だって要は野生の獣と同じだ。圧倒的な強者や勝てないと感じる相手に襲い掛かってくることは無いだろう。
「栞、ロットー、お店こっちだよ~」
サーシャの案内で辿り着いたのは剣や盾、それに鎧などが売られている武具屋だった。単価がわからないから二人にいくら渡せばいいのか悩んだ結果、手持ちの硬貨を三等分して持ってきた布袋を取り出した。
「じゃあ、この金で必要なものを買ったら店の入口に集合だ。――一時間、くらい?」
「一時間だな。わかった」
「よしっ、一緒に見て回ろう、ロットー」
不意に時間のことを口にして今更ながら不安になったが、時間の概念は同じなのか。まぁ、複雑なことにならず助かった。
「さて――」
今の俺には武器と防具どちらも必要だが、どちらにより金を掛けるべきだろう。極論を言ってしまえば死なないわけだから防具はそれほど重要ではないのかもしれないが、死ぬ時は死ぬほど痛いことに変わりがないから、出来る限り良い防具が欲しい。対して武器だが、何よりも武道の心得も喧嘩すらもしたことが無い俺に扱える武器など限られている。それこそ剣針が良いところだったのだが……一先ずは防具を買ってから、武器については考えよう。
「盾か。ん~……扱える自信も無いしな」
全身を隠せるほど巨大な盾は重くて動かせないし、だからといって小さめで軽い盾は強度が不安で意味が無い。いや、そもそも動体視力が良くて相手の攻撃を見切れるなら装備を増やすのは動きを制限することになるのか。となると、鎧などの窮屈で動きにくそうな防具も除外される。選択肢として残ったのは、対魔物用に量産されているTシャツとズボン、それに『異能力』で作られたアクセサリー類か。スタミナアップとか耐久力アップとかは今すぐに必要って気はしない。というか、体力だけが付くってことはそれだけすぐには死ねないってことだろう? 矛盾しているかもしれないが、当然死にたくはないがどうせ死ぬのなら苦しまずに死んでから生き返るほうが良い。
「じゃあ、まぁ……Tシャツとズボンの一択か」
とりあえず、防具は――というか服装はこれに着替えて、次は武器だ。
ギルドに屯していたヴァイザー達も様々な武器を持っていたが、やはりこういう時のセオリーは自分に合った武器を探すことだろう。
今の俺の筋力と体力では刀などの長物にはこちらが振り回される。使うなら短刀やレイピアなどの軽い武器か、死ななことを前提とした遠距離武器の弓とかか? だが、現状では戦闘スタイルを確立していないから色々と試してみる手もあるが……問題はバランスだな。
ロットーの『異能力』は腐食。地面を腐らせて穴を作ったり、敵に直接触れればそれが攻撃にもなるが基本的には中距離戦闘スタイルだろう。サーシャの『異能力』は日光。汎用性の有無は本人次第だが使っているのは弓の長距離戦闘スタイル。で、俺の『異能力』は不死と蔵書。見切りの良さを思えば近距離戦闘がベストなのだろうが、あくまでも動体視力が良いというだけで戦えるわけでは無い。魔物相手なら俺が陽動してロットーが罠に嵌めサーシャが止めを刺す、もしくは俺とサーシャが逆でも良い。
「……たしか剣針の刃は付け替えられるとか言ってなかったか?」
バッグから刃の折れた剣針を取り出してみるが、見た目では付け替える方法がわからない。どうしたものかと考えていると、視界の端にこちらの顔を覗き込んでくる猫耳を付けた若い女のセリアンスロォプが居た。
「え~っと……?」
何も言わずに手招きをしてくる。服装からして店員らしく、素直に付いていくとそこには数種類の剣針の刃が並んでいた。長さと太さ、あとは材質にも違いがあるのか。どうしたものかと考えていると、店員がこちらに向けて掌を差し出してきた。剣針を渡せ、ってことか?
「じゃあ、はい」
剣針を手渡すと、柄を握った瞬間に驚いたような顔をしたが、慣れた手付きで柄の底を叩いて折れた刃を落とし、そこに新たな刃を填め込んだ。
「へぇ、なるほど。そうやるのか」
感心しながら見ているとこちらの視線に気が付いた店員はパッと剣針を渡してきて、ちょっと待っておくようにと身振り手振りで指示された。頷いて見せると、背を向けて何かを書いているかと思えば、紙を手渡された。
……何やら文章が書かれているが相も変わらずって感じだ。
「あ~、俺、字が読めな――い?」
紙から顔を上げれば、先程までそこに居たはずの店員がいなくなっていた。まぁ、とりあえず剣針の替え刃がわかって良かった。とはいえ、長さ的にバッグの中には仕舞っておけないし、折れたらまた新しい刃を買いに来るほうが良さそうだ。
「あとは念のために短刀と……煙幕玉?」
わざわざ自分の視界を遮る道具に意味があるのか微妙なところだが、逃げることを前提に考えるのなら買っておこう。何かの役には立つかもしれない。
防具を上下と剣針の替え刃、短刀と煙幕玉でいくらくらいになるのか代金の文字すら読めなかったが、持っている硬貨で足りないことは無いだろう。
「すみません、会計をお願いします」
レジに向かえば男のセリアンスロォプが居て、買う物を申告した。
「シャツにズボンに、替え刃と短刀、それに玉ですね。え~と、合計で――」
金を出そうと布袋をレジの上に載せれば、店員はその腕を見てギョッと目を見開いた。
「ブラッ、ク……え~、お代は結構です! どうぞ持っていってください!」
「いや、それは悪い。別にブラックリングだからといって特別扱いする必要はないでしょう。いくらですか?」
「いえ、本当に結構です! ブラックリングから金を取ったと知られればうちの評判に関わるので!」
よくわからない。ブラックリングから金を取ったことが評判に関わるってことは、悪い評判が流れるってことだよな? むしろ金を持っているブラックリングならいくらでも搾り取れるような気もするのだが。
「わかりました。じゃあ、訊いてもいいですか? ここの店員の、たぶん喋れない子にもう一度会いたいんですが、どこにいるのかわかりますか?」
「喋れない……ああ、それはうちの店員じゃないですね。いわゆる武器マニアの子で、よく店に来る客の武器を観察しに来ているんですよ。まぁ、特に害も無いですし、なんなら武器の紹介もしていってくれるので放置していますが、どこに居るのかまではちょっと……」
店員じゃなかったのか。だが、よく出入りしているのなら、また会うこともあるだろう。
「教えてくださりありがとうございます。せめてものお礼なので、これくらいは受け取ってください」
布袋に手を突っ込んで掴んだ一枚を拳に収めたまま差し出すと、渋々ながらも手を出してきた店員の手に無理矢理握らせて踵を返した。
「え、ちょっ、これ金貨――!」
いくらで事足りるのかわからないが、金貨ならそれなりの足しになるはずだ。
そそくさと店を出れば、外にはすでにロットーとサーシャが待っていた。
「あ、来た」
「栞~、どう? サーシャたちの服は? 似合う似合う?」
ロットーは大きな斜め掛けバッグはそのままにワイドパンツの左右にレッグポーチを付けて、上はミリタリー風のジャケットか。腰には短刀を付けているようだな。俺に比べて防御力が高そうだ。対してサーシャは胸当てを着けているものの胴回りは丸見えで、下はロングブーツにタイツまで履いているようだがスカートって、寒そうだな。
「ん、まぁ良いんじゃないか?」
そう言うと二人は途端に不機嫌そうな顔になったが、本音を隠したのが良くなかったのか?
「はぁ、サーシャ。栞にはそういうのを期待するだけ無駄だ」
「だね~。ま、いいよ。栞が戻ってくる前に向かいにあるお店でレーションも買っておいたから、いつでも出発できるよ!」
レーション――携帯行動食のことだな。落ち着いて食事を取るのも難しそうなこの世界では相当進化していそうだから見ておきたかった気もするが、買ってあるのなら野暮なことは無しだ。
「じゃあ、行くか。……の前に、地図とか無いのか?」
「西と東の出入り口にあったはず! でっかいやつ!」
それならばと、深層の古城がある西の出入り口に向かうと確かにあった。
「でかい……うん、でかいな」
目の前にあるのは見上げるほど大きなサイズの看板だった。この大陸のどこに何があるのかわかりやすく書いてある案内板のようだが、これでは書き写すのも難しい。今から戻ってどこかの店で地図を買う時間も惜しい――などと思いながらバッグの中を漁っていると一番下から出てきたやつのことをすっかり忘れていた。
「なぁ、栞。これを憶えるのか?」
「その必要は無い。画像として記録しておく」
取り出した携帯を見せれば、不思議なものを見るように首を傾げられた。まぁ、この世界に携帯が無いことは随分前から気が付いていた。さすがに全体を取るのは難しいから街を基準に左右を分けて撮っておこう。
パシャ――パシャ――と携帯から光が漏れると二人だけでなく、近くにいた近衛兵まで警戒するように驚いていた。
「……まぁ、こんなものか」
綺麗に撮れた。そして、この携帯による記念すべき一枚目と二枚目の写真であった。
「栞? いったい、何をしたんだ?」
「ん、ああ、そんなに怯えなくても大丈夫だ。見てみろ」
携帯の画面を見せると、及び腰ながらも二人は近付いてきた。
「これって写真? え、写真がこの機械の中に? ん?」
「つまり、この機械は写真のようにその一瞬を撮ることが出来る上に、撮ったものまでその機械で確認できるということか?」
写真という概念はあるがカメラはあってもデジタルカメラはまだ存在していないって感じか。それなら携帯の機能を説明しないほうが良さそうだな。実際、この世界では電話も通じないしデジカメとしてしか使い道は無さそうだし。
「まぁ、そんな感じだな。別の世界の技術だ」
「はぁ~、よくわからないな」
ああ、それは俺もこっちの世界に来てから良く思っている。
「え、え、ねぇ栞。もっと栞がいた世界のこと教えて!」
「また今度な。今は誘拐されたセリアンスロォプの救出を第一に考えるぞ」
気の利いた小説なら、このタイミングで先に起こる展開を予想したりするのだろうがお生憎様。今の俺に言えるのは一つだけ。
お願いだから――死なない展開を頼む。
「まさか、最初の仕事で相手にするのが魔物じゃなくヒューマーってのは皮肉な感じもするが、防具とか武器は用意しておいたほうがいいんだろ?」
「多分な。基本的には街やその周辺以外には魔物が居ると思ったほうがいい」
「そうか。なら、用心しないとな」
とはいえ、おそらくレベル補正みたいなのが存在していると思う。ゲームとは違うが、魔物だって要は野生の獣と同じだ。圧倒的な強者や勝てないと感じる相手に襲い掛かってくることは無いだろう。
「栞、ロットー、お店こっちだよ~」
サーシャの案内で辿り着いたのは剣や盾、それに鎧などが売られている武具屋だった。単価がわからないから二人にいくら渡せばいいのか悩んだ結果、手持ちの硬貨を三等分して持ってきた布袋を取り出した。
「じゃあ、この金で必要なものを買ったら店の入口に集合だ。――一時間、くらい?」
「一時間だな。わかった」
「よしっ、一緒に見て回ろう、ロットー」
不意に時間のことを口にして今更ながら不安になったが、時間の概念は同じなのか。まぁ、複雑なことにならず助かった。
「さて――」
今の俺には武器と防具どちらも必要だが、どちらにより金を掛けるべきだろう。極論を言ってしまえば死なないわけだから防具はそれほど重要ではないのかもしれないが、死ぬ時は死ぬほど痛いことに変わりがないから、出来る限り良い防具が欲しい。対して武器だが、何よりも武道の心得も喧嘩すらもしたことが無い俺に扱える武器など限られている。それこそ剣針が良いところだったのだが……一先ずは防具を買ってから、武器については考えよう。
「盾か。ん~……扱える自信も無いしな」
全身を隠せるほど巨大な盾は重くて動かせないし、だからといって小さめで軽い盾は強度が不安で意味が無い。いや、そもそも動体視力が良くて相手の攻撃を見切れるなら装備を増やすのは動きを制限することになるのか。となると、鎧などの窮屈で動きにくそうな防具も除外される。選択肢として残ったのは、対魔物用に量産されているTシャツとズボン、それに『異能力』で作られたアクセサリー類か。スタミナアップとか耐久力アップとかは今すぐに必要って気はしない。というか、体力だけが付くってことはそれだけすぐには死ねないってことだろう? 矛盾しているかもしれないが、当然死にたくはないがどうせ死ぬのなら苦しまずに死んでから生き返るほうが良い。
「じゃあ、まぁ……Tシャツとズボンの一択か」
とりあえず、防具は――というか服装はこれに着替えて、次は武器だ。
ギルドに屯していたヴァイザー達も様々な武器を持っていたが、やはりこういう時のセオリーは自分に合った武器を探すことだろう。
今の俺の筋力と体力では刀などの長物にはこちらが振り回される。使うなら短刀やレイピアなどの軽い武器か、死ななことを前提とした遠距離武器の弓とかか? だが、現状では戦闘スタイルを確立していないから色々と試してみる手もあるが……問題はバランスだな。
ロットーの『異能力』は腐食。地面を腐らせて穴を作ったり、敵に直接触れればそれが攻撃にもなるが基本的には中距離戦闘スタイルだろう。サーシャの『異能力』は日光。汎用性の有無は本人次第だが使っているのは弓の長距離戦闘スタイル。で、俺の『異能力』は不死と蔵書。見切りの良さを思えば近距離戦闘がベストなのだろうが、あくまでも動体視力が良いというだけで戦えるわけでは無い。魔物相手なら俺が陽動してロットーが罠に嵌めサーシャが止めを刺す、もしくは俺とサーシャが逆でも良い。
「……たしか剣針の刃は付け替えられるとか言ってなかったか?」
バッグから刃の折れた剣針を取り出してみるが、見た目では付け替える方法がわからない。どうしたものかと考えていると、視界の端にこちらの顔を覗き込んでくる猫耳を付けた若い女のセリアンスロォプが居た。
「え~っと……?」
何も言わずに手招きをしてくる。服装からして店員らしく、素直に付いていくとそこには数種類の剣針の刃が並んでいた。長さと太さ、あとは材質にも違いがあるのか。どうしたものかと考えていると、店員がこちらに向けて掌を差し出してきた。剣針を渡せ、ってことか?
「じゃあ、はい」
剣針を手渡すと、柄を握った瞬間に驚いたような顔をしたが、慣れた手付きで柄の底を叩いて折れた刃を落とし、そこに新たな刃を填め込んだ。
「へぇ、なるほど。そうやるのか」
感心しながら見ているとこちらの視線に気が付いた店員はパッと剣針を渡してきて、ちょっと待っておくようにと身振り手振りで指示された。頷いて見せると、背を向けて何かを書いているかと思えば、紙を手渡された。
……何やら文章が書かれているが相も変わらずって感じだ。
「あ~、俺、字が読めな――い?」
紙から顔を上げれば、先程までそこに居たはずの店員がいなくなっていた。まぁ、とりあえず剣針の替え刃がわかって良かった。とはいえ、長さ的にバッグの中には仕舞っておけないし、折れたらまた新しい刃を買いに来るほうが良さそうだ。
「あとは念のために短刀と……煙幕玉?」
わざわざ自分の視界を遮る道具に意味があるのか微妙なところだが、逃げることを前提に考えるのなら買っておこう。何かの役には立つかもしれない。
防具を上下と剣針の替え刃、短刀と煙幕玉でいくらくらいになるのか代金の文字すら読めなかったが、持っている硬貨で足りないことは無いだろう。
「すみません、会計をお願いします」
レジに向かえば男のセリアンスロォプが居て、買う物を申告した。
「シャツにズボンに、替え刃と短刀、それに玉ですね。え~と、合計で――」
金を出そうと布袋をレジの上に載せれば、店員はその腕を見てギョッと目を見開いた。
「ブラッ、ク……え~、お代は結構です! どうぞ持っていってください!」
「いや、それは悪い。別にブラックリングだからといって特別扱いする必要はないでしょう。いくらですか?」
「いえ、本当に結構です! ブラックリングから金を取ったと知られればうちの評判に関わるので!」
よくわからない。ブラックリングから金を取ったことが評判に関わるってことは、悪い評判が流れるってことだよな? むしろ金を持っているブラックリングならいくらでも搾り取れるような気もするのだが。
「わかりました。じゃあ、訊いてもいいですか? ここの店員の、たぶん喋れない子にもう一度会いたいんですが、どこにいるのかわかりますか?」
「喋れない……ああ、それはうちの店員じゃないですね。いわゆる武器マニアの子で、よく店に来る客の武器を観察しに来ているんですよ。まぁ、特に害も無いですし、なんなら武器の紹介もしていってくれるので放置していますが、どこに居るのかまではちょっと……」
店員じゃなかったのか。だが、よく出入りしているのなら、また会うこともあるだろう。
「教えてくださりありがとうございます。せめてものお礼なので、これくらいは受け取ってください」
布袋に手を突っ込んで掴んだ一枚を拳に収めたまま差し出すと、渋々ながらも手を出してきた店員の手に無理矢理握らせて踵を返した。
「え、ちょっ、これ金貨――!」
いくらで事足りるのかわからないが、金貨ならそれなりの足しになるはずだ。
そそくさと店を出れば、外にはすでにロットーとサーシャが待っていた。
「あ、来た」
「栞~、どう? サーシャたちの服は? 似合う似合う?」
ロットーは大きな斜め掛けバッグはそのままにワイドパンツの左右にレッグポーチを付けて、上はミリタリー風のジャケットか。腰には短刀を付けているようだな。俺に比べて防御力が高そうだ。対してサーシャは胸当てを着けているものの胴回りは丸見えで、下はロングブーツにタイツまで履いているようだがスカートって、寒そうだな。
「ん、まぁ良いんじゃないか?」
そう言うと二人は途端に不機嫌そうな顔になったが、本音を隠したのが良くなかったのか?
「はぁ、サーシャ。栞にはそういうのを期待するだけ無駄だ」
「だね~。ま、いいよ。栞が戻ってくる前に向かいにあるお店でレーションも買っておいたから、いつでも出発できるよ!」
レーション――携帯行動食のことだな。落ち着いて食事を取るのも難しそうなこの世界では相当進化していそうだから見ておきたかった気もするが、買ってあるのなら野暮なことは無しだ。
「じゃあ、行くか。……の前に、地図とか無いのか?」
「西と東の出入り口にあったはず! でっかいやつ!」
それならばと、深層の古城がある西の出入り口に向かうと確かにあった。
「でかい……うん、でかいな」
目の前にあるのは見上げるほど大きなサイズの看板だった。この大陸のどこに何があるのかわかりやすく書いてある案内板のようだが、これでは書き写すのも難しい。今から戻ってどこかの店で地図を買う時間も惜しい――などと思いながらバッグの中を漁っていると一番下から出てきたやつのことをすっかり忘れていた。
「なぁ、栞。これを憶えるのか?」
「その必要は無い。画像として記録しておく」
取り出した携帯を見せれば、不思議なものを見るように首を傾げられた。まぁ、この世界に携帯が無いことは随分前から気が付いていた。さすがに全体を取るのは難しいから街を基準に左右を分けて撮っておこう。
パシャ――パシャ――と携帯から光が漏れると二人だけでなく、近くにいた近衛兵まで警戒するように驚いていた。
「……まぁ、こんなものか」
綺麗に撮れた。そして、この携帯による記念すべき一枚目と二枚目の写真であった。
「栞? いったい、何をしたんだ?」
「ん、ああ、そんなに怯えなくても大丈夫だ。見てみろ」
携帯の画面を見せると、及び腰ながらも二人は近付いてきた。
「これって写真? え、写真がこの機械の中に? ん?」
「つまり、この機械は写真のようにその一瞬を撮ることが出来る上に、撮ったものまでその機械で確認できるということか?」
写真という概念はあるがカメラはあってもデジタルカメラはまだ存在していないって感じか。それなら携帯の機能を説明しないほうが良さそうだな。実際、この世界では電話も通じないしデジカメとしてしか使い道は無さそうだし。
「まぁ、そんな感じだな。別の世界の技術だ」
「はぁ~、よくわからないな」
ああ、それは俺もこっちの世界に来てから良く思っている。
「え、え、ねぇ栞。もっと栞がいた世界のこと教えて!」
「また今度な。今は誘拐されたセリアンスロォプの救出を第一に考えるぞ」
気の利いた小説なら、このタイミングで先に起こる展開を予想したりするのだろうがお生憎様。今の俺に言えるのは一つだけ。
お願いだから――死なない展開を頼む。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます
水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。
勇者、聖女、剣聖――
華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。
だが――
この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。
最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。
識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。
「今日からお前はレイナだ」
これは、勇者ではない男が、
メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。
屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる