せっかく異世界転移したのに、もしかして俺は弱いのか!?

化茶ぬき

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第一章

第19話 ゴーレム戦

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 天井から落ちてきたものが地面から粉塵を巻き上げたおかげで視界が悪く全容を確認できないのだが、サイズ感はオーガと同じくらいだ。視界の端、煙の中で揺れる何かに気が付くと、影が頭上を通り過ぎて巻き起こった風が煙を晴らした。

 姿を現したのは体長三メートルを超える巨大な鎧兵だった。

「……ねぇ、ロットー。これってゴーレム、だよね?」

「ああ、まさかこんな古代の遺物を見ることになるとはな」

「俺の知っているゴーレムとは違うようだが――古代の遺物?」

 ゴーレムと言えば岩や土で造られた魔法生物、もしくは意志の持たない人形というイメージだったが、目の前に居るのは鎧を身に纏い自らの意志で動く魔物だ。認識した途端に全身から血の気が引いたのがわかった。

「何百年も前に滅んだと言われている魔物だ」

「じゃあ、目の前に居るは最後の一体ってわけか。俺の居た世界なら保護する対象だと思うがそうも言っていられないんだろうな」

「保護なんて無理だよ。ゴーレムはその凶暴さが理由で、他の魔物から淘汰されたと言われているから――戦うしかない!」

 振り下ろされた両刃の斧を避けるように俺とサーシャ、ロットーが左右に分かれると床に減り込んだ斧がコンクリートを弾き上げた。

「ロットー! グールのときと同じように腐らせられるか!?」

「たぶん無理だ! 鎧にナイフは刺さらない!」

 そりゃあそうだ。じゃあ、サーシャは? と視線を送ると丁度構えた弓から光の矢を放つところだった。

「ん! 硬い! ちょっとしか刺さんない!」

 だとすれば俺の持っている剣や斧では傷付けることもダメージを与えることも難しいだろう。こちらの攻撃が通らなくても、向こうは見るからに臨戦態勢で背を向けて逃げる隙も与えてくれそうにない。踵を返せば、すぐにでも体を真っ二つにされそうだ。

「なんにしても戦うぞ! 倒すことだけを考えろ!」

 とはいえ、ゴーレムの倒した方といえばコアやら核やらを壊すってのが定石だが、全身が鎧に包まれていてはどうしようもない。なら、倒さない方向で話を進めるのはどうだ? ゴーレムの先にはドアがあって、その先に誘拐されたセリアンスロォプがいるのであれば何かで気を引いている隙にドアを抜け、誘拐屋のバッジを倒して連れ帰る。おそらくは、それが今できる最善手に違いない。

 そうと決まれば狙いはゴーレムを倒すのではなく動きを止めることが重要になる。的確に振り回してくる斧を避けて、近寄りつつ脚に向かってこちらの斧を振り下ろせば――その硬さに弾き返されて手からすっぽ抜けてしまった。

「栞! 危ない!」

 ロットーの声でどこかへ行った斧を追う視線をゴーレムのほうに戻せば、振り上げられた脚がこちらに迫っていた。

「くっ――っ!」

 咄嗟に腰に差していた剣を抜いて盾にすると、吹き飛ばされたものの衝撃は軽減されたように思える。剣は折れてしまったが、死ぬよりは良い。それにまだ剣針がある。

「栞、大丈夫か?」

 駆け寄ってきたロットーは片手に短刀を握っているが、使えないと判断したナイフはレッグポーチから取り出してもいない。ゴーレムはサーシャが放つ矢で牽制されているから今が話すタイミングだな。

「ロットー、オーガの時のようにゴーレムの体を穴に落とせないか? それか片脚だけでも良い」

「ちょっと待て。今、確かめる……駄目だ。一部だけでも腐らせて穴を開けようとすれば、たぶん床が全部が抜ける。だから、上のホールの時のように穴を開けて下の階に逃げようとするのも同じだ。全部が落ちて、ゴーレムも一緒に落ちるから使えない。アタイは役立たずだ」

「どうかな。役立たずかどうかはこれからだろう。さっきは倒すことだけを考えろと言ったが方向転換だ。倒さずに足止めをする。一瞬でも動きを停められたら、すぐにゴーレムの奥にあるドアから先に進むんだ」

「……わざわざ倒さなくても、誘拐されたセリアンスロォプを救い出せればいいのか!」

「そういうことだ。サーシャ! 聞こえていたか!?」

「オッケー! でも、どうやって足止めするの!?」

「何か妙案があれば即採用するぞ!」

 振り下ろされた斧を避ければ、俺とロットーは離れてそれぞれ三方向からゴーレムと相対することとなった。こういう場合、パターンとしては二つ思い浮かぶ。一つは、一人でも奥の部屋に行ければゴーレムも動きを停止するパターンと、その逆に凶暴になるパターンだ。前者なら躊躇うことなく進むが、後者の可能性があるのなら全員で先に進む道を選ぶ他に無い。

 ロットーとサーシャのほうを交互に確認しても、互いに苦い顔をするだけで案は無いらしい。

 考えろ――使えるものは? 『異能力』は? 俺には頭を使うことしかできないんだ。この場を切り抜ける策を練り上げろ。

 現状ではロットーの腐食は使えない。仮に床を落としたとしてもゴーレムも一緒に落ちて逆にこちらが不利になる可能性が高い。サーシャの日光の矢はゴーレムの鎧に刺さりはするがダメージを与えることは出来ていない。俺はそもそも戦闘向きの『異能力』じゃない。蔵書も使えるが、今のところは火吹石に剣に斧に鎖だ。鎧をどうにかできる武器は無い。強いて言えば、関節の継ぎ目を狙うくらいだが、そんなことが出来たらとっくにやっている。体がデカい――ただそれだけで、こちらの意図したことの半分以上は適わないんだ。

「……鎧?」

 このゴーレムは頑丈な鎧をんだろう? つまり、鎧の中には中身があるということだ。なら、やりようはある。ここからは上でのグール戦で学んだことの応用だ。意志があるのなら脳があるということで、こちらに狙いを付けて攻撃してきているということは、目が機能しているってことだ。顔すらも鎧で覆われているが試す価値はある。

 出てこい――斧!

「……あれ?」

 ゴーレムの攻撃を避けながら蔵書の力で斧を出そうとしたのだが、何も変化が起きていない。そういえば、実際に蔵書の力を使おうとしたのは初めてだった。なんだったか……使う意志を持つこと、だったか? 要は使うことをイメージすればいいんだろ?

「よし――来い!」

 握るように掌を閉じれば、何も無いところに先程どこかに吹っ飛んだ斧が姿を現した。その現象に感動を覚えていると、同時に向けられた視線を感じた。

「そっちに行ったよ! 栞!」

「それでいい! 俺を見ろ、ゴーレム!」

 横薙ぐ斧をしゃがみ込んで避けた直後、振り上げた斧をゴーレムの顔面に目掛けて放り投げた。すると、ゴーレムは鎧の腕で斧を弾いた。これで決まりだ。

「サーシャ! 弓を仕舞って下がれ!」

 言いながら両手を合わせて上げるような仕草を見せると意味が伝わったのか頷いて弓を背中に仕舞いながら俺の後ろへと下がっていった。その間の牽制を頼もうとロットーに視線を向けると、すでに伝わっていたのか慣れていない手でゴーレムに向かってナイフを投げていた。

「栞、どうすればいいの!? サーシャの矢はゴーレムには――」

「サーシャの『異能力』は日光だろ? だったら、ゴーレムの顔の前で目を晦ませてやれ!」

 そう言うと、理解できたのか全速力で俺に向かって来たのに合わせて体の前で手を組んだ。

「い――ってこい!」

 力一杯に持ち上げたサーシャがこちらに気が付いたゴーレムの目の前まで行くと、開いた両手を合わせた瞬間に眩い光が顔全体を包み込んだ。その隙を逃さず、最短距離でゴーレムの脇を抜けてドアの前に辿り着いた。

 ドアノブに手を掛けて開けるよりも先に左右を確認すれば右からはロットーが、左から――ではなく、上からゴーレムを飛び越えたサーシャが下りてくるのが見えた。のだが、その奥から迫ってくる巨大な拳を捉えてしまった。

「――鎖!」

 腕を振るいながら鎖を出現させると、まだ地面に着地していないサーシャの体に巻き付けて、その勢いのままロットーのほうへと放り投げた。残っていた手で剣を出そうとしたが間に合わないことに気が付いて剣針を体の前に差し出そうとした瞬間に、ゴーレムの拳が体に直撃した。

「っ――!」

 衝撃でドアを突き破ったのがわかった。

 これでとりあえず第一目標達成だ。死なずに気を失っていないのは痛みのせいもあるが、おそらくドアが緩衝材になって衝撃を和らげたのだろう。倒れた体を起き上がらそうと目を開けたとき、目の前にあったのはゴーレムとは別の恐怖だった。

「お、あぶっ――」

 体長一メートル以上はある狼が俺の体の上に乗って、今にも噛み殺そうと牙を剥いてきた。だが剣針を持っていたおかげで喉元ギリギリで防ぐことが出来た。こっちもピンチではあるが、二人は? 

 狼越しにドアのほうに視線を送れば、サーシャを抱えたロットーがこちらに入ってきた。良かった無事か。その奥のゴーレムは姿こそ残っているが、まるで事切れたように動かなくなっていた。

 それはそうと――

「ロットー、サーシャ! こいつをどうにかしてくれ!」

 ゴーレムのほうを気にしていた二人はこちらに気付いていなかったようだが、狼を視界に捉えるとロットーは短刀と持ち、サーシャは弓を構えたのだが――何故だか目を細めて疑問符を浮かべたロットーが弦を引くサーシャの手を止めた。

「違う。栞、それは――『異能力』だ」

「……はぁ?」

 ロットーの言葉に怪訝な顔を見せると、狼は途端に牙を納めて二人のほうを確認するように振り返った。それから、こちらを向いて俺の顔を見た後に腕に付いているリングを確認した。

 そして、ようやく離れた狼が俺とロットーたちの間で立ち止まると、四つん這いの体を起こすのと同時に全身を覆っていた灰色の毛がワンピースへと変化して、長い黒髪の少女が現れた。

 頭には獣の耳を付け、ワンピースの後ろからは太い尻尾が垂れ下がっている。おそらくは狸、かな。

「じゃあ――誘拐されたセリアンスロォプってのは……?」

 黒髪の少女はロットーたちと俺を交互に確認して、どちらとも目を合わせないまま、ゆっくりと、けれどしっかり頷いて見せた。
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