未来からやって来た子孫が言うことには、私は国王になれずに破滅するらしい。

小笠原 ゆか

文字の大きさ
7 / 14

聖女の下僕

しおりを挟む
こうして私の近くに居座ることを宣言した自称聖女――もとい、リゼットは、私の執務室に住み着くようになった。自分の未来をより良いものにする為に、私の檄を飛ばすことが目的だ。

私の行く先々について回り、言動に問題があった瞬間に口を出してくる。自分の明るい未来の為に、私を徹底的に矯正しようとしているらしい。

『間抜けのテオフィル。アンタは自分が世界で一番賢いと思っている世界で一番間抜けな男よ』
「……酷い言い草だ」
『紛れも無い事実を言ってるだけよ。文句言われたくなければ誠実に、謙虚に生きなさい』

リゼットの言うように、ナタリーの件に関して言えば私の驕りが招いたといっても過言ではなかった。誰が撒き散らしたともしれぬ噂を真に受けて勝手に彼女を悪女と断じた結果、侯爵家から助け出すのが遅れてしまったのだ。ぐぅの音も出ない私は大人しくリゼットの言葉に従うことにした。


『ダッサ。センス無さ過ぎ。やり直し』

『いくらアンタの目の色が青だからって、馬鹿の一つ覚えみたいに青色のドレスばかり贈るんじゃない!ナタリーだって他の色のドレス着たいわよ!アクセサリーや髪飾りに青を入れるとか、頭使いなさいよ!!』

『【誰も私自身のことは見てくれない】ですって!?当たり前でしょ!!そもそも王子様の肩書ぶら下げてる人間の機嫌を損ねたら一回でも破滅よ』

『は?ヤキモチ焼いて貰いたい?くだらないことやってんじゃないよ!捨てられるわよ!』

『ちょっと!アンタの側近の態度は何?将来ナタリーを守る女性達が全然幸せそうじゃないわよ!態度を改めさせなさい!』


物理的にも心情的にも耳に痛い言葉ばかりだった。
だが、リゼットの言葉に従って行動をしていると周囲は私の変化を好ましく見ていることに気づいた。第一王子として、いずれは王太子となり、国を盛り立てていく覚悟が出来たのだと皆が喜んだ。

そしてナタリーとの関係も随分と良くなった。会話も覚束ない私達ではあったが、横からリゼットが早く話せとせっつくせいで、以前までの茶会とは違って私が探り探り話題を振るようになり、私とは違って気遣いの出来るナタリーのお陰で何とか会話を続けること出来るようになったのである。あれほど苦痛な交流が、今では何より幸せな時間になるとは夢にも思わなかった。


また、リゼットはナタリーのことだけでなく、国政のことにも口を出して来た。

『今、王宮で議題に上がってる公共事業に関する法案だけどアレって誰の為なの?王国民の為って言うけど、本当にそうなの?アンタも勉強して、ちょっと議論に参加しなさいよ』
「……私はただ脇目も振らずにナタリーを愛せば良かったんじゃなかったか?」
『アンタを立派な王にして王国が潤えば、アタシが贅沢できるチャンスが広がるんだから当然でしょう』

勉強は元々嫌いではなかったから、こちらも大人しく従った。
改めてリゼットの言った法案に調べてみれば、貴族達の利権に塗れたもので一般の国民には利の少ないものであった。しかし全面的に否定してしまえば角が立つから、貴族達への金の流れを減らし、国民への再分配されるように取り計らうように根回しすることに成功した。

『王子だからって矢面に立ち過ぎると専横的だって煙たがられるわよ』というアドバイスに従って、周囲を動かしながら、納得の上での採決だと思わせるように立ち回ることが出来たのだ。

自分の思い通りに進んだことに満足したのか、リゼットはその煩い口を閉じて、お気に入りの長椅子に寝転んで昼寝を始めたのだった。


リゼットの言葉に従うのが当たり前になった日常の中で、私は唯一反抗したことがある。

『間抜けなテオフィル』
「なぁ、その【間抜けなテオフィル】っていうのは止めてくれないか。テオフィルという名前は両親がつけてくれた大事なものだ」

両親がつけてくれた名前だから、いくら私自身が真実間抜けだとしても枕詞として使われるのは嫌な気持ちになった。リゼットも理解してくれたのか、少しだけ難しそうな顔をした後に『分かった』と頷いてくれた。

『そうよね。親からもらった名前だもんね。……でも、長いからテオで良いわよね』
「あぁ。これからもよろしく、リゼット」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

どうやら婚約者の隣は私のものではなくなってしまったようなので、その場所、全てお譲りします。

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...