パピヨン

ひづる

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告白

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篤--------。



今思えば、全て合点がいく。俺を呼び出したお前が急に外出したと言われた時、何故気付かなかった?
マンションの入り口で俺はお前に到着を告げた。なのにすれ違う事なく、お前は外出したと--------。
ドアを開けた瞬間、目にした少年の姿に翻弄され俺の思考はその時からお前に操られていたんだな。



「教えてくれ。何故、あいつを殺したんだ?」



お前は俺に近寄ることもなく、傍らに少年を置いて問いかけてきた。






不思議だな・・・。

あんなに瓜二つだと思っていたのに、今では別人だと分かるよ。
姿形は似ていても、あの独特なオーラは消え普通の綺麗な少年に見える。

思い込みって怖いもんだな。



「俺にとって、あいつがどんなに大切な存在が、お前は知ってたじゃないか。」





--------ああ、知っていたよ。だからじゃないか・・・。

そんな哀しい瞳で俺を見ないでくれ。


篤--------。

何から話せば、いいんだろう?


何が知りたい?

何故俺があいつを逝かせたのか?--------それともどうやってやったか?




そうだな・・・。

俺は初めて会った時からあいつが憎かった。
ずっとお前の側にいて、お前を理解し守ってきた俺からあいつは一瞬でお前を奪って行った。


篤--------。

お前の口からあいつの名前が出てくるたび、俺は胸がかきむしられる程、苦しかった。



なのに平然とお前の隣で親友を演じなければならず--------。






--------地獄だったよ、毎日が。

刑事の仕事にのめり込んで忘れようとしても、頭の中にお前とあいつの姿がちらついて、日に日に俺を蝕んでいった。
そして、そんな俺の事をあいつは見抜いていた。

見抜いて俺を憐れんでいた。





映画が大ヒットし、あいつがスクリーンの外でも"パピヨン"


そのままに世の中を席巻し、多くの男達はあいつの足元にひざまづいた。




篤--------。お前が・・・。

お前がそんな堕落した奴らと同じになるのが俺は許せなかった。



お前は、

『小説と現実は違うよ』と笑っていたが、俺にはそんなふうに思えなかった。




ああ・・・。

俺は、本当にあいつが憎かった。


憎くて憎くて殺してやりたいとずっと思っていた。





でも、篤。信じてくれ、これだけは。


俺はあいつを殺しちゃいない。



あいつは自分で自分の死を選んだんだ--------。






確かにあいつの心臓に刃を突き立てたのは俺だが、それはただの儀式だ。






あの日--------。


あいつに呼び出されて俺はあいつの部屋に行った。
そこであいつはこう言った。



『あんたは大きな勘違いをしてるよ。』


『先生はね、小説の中のパピヨンを愛しているけど、それは僕じゃないよ。』


『僕は先生の頭の中の存在なんだよ。』




--------僕はね・・・もう実体が無くなっちゃって、自分で自分が分からないんだ--------。



そう言ってあいつは儚げに笑った。



『僕はあんたが来る前に睡眠薬を飲んだんだ。以前から不眠のために処方してもらってたからね。』




テーブルの上のコーヒーカップは飲み干されていた。
その横にはむき出しの銀のナイフが置いてあった。


『僕はもうすぐ眠っちゃう。かなりの量を飲んだから又、目覚められるか分からない。

--------ねぇ、俺の言ってる意味分かるよね?』



あいつは気怠そうに言った。






最後の言葉はまるでスクリーンの中の



"パピヨン"



そのものだった。











--------そうだ。




俺達三人の関係をリセットするために、やる事は一つしかなかった。
舞台を降りたがっていたあいつのために、せめてものはなむけを・・・。









ほどなくして眠り込んだあいつをベッドに運び、手首を切り、そしてとどめを刺した。
まるでコレクターが標本の蝶をピンで留めるように--------。


仕上げに美しく着飾らせるようにワインを振りかけた。





そして俺は脳をフル回転させ、アリバイを組み立てた。







--------なぁ、篤。知ってるか?

あいつはまるで俺の行動を予測していたかのように、携帯のロックを解除してたよ。

銀のナイフといい、小道具の準備は万端だったわけだ。


あいつはね、俺が来た事を隠すために、部屋の玄関モニターのスイッチさえ切っていた。

だからマンションの入り口の防犯カメラに自分が写っているのは何とでも言い訳が作れた。


呼び出されて部屋には行ったが、暫く待っても応答が無かったので帰ったと言えばいい。




俺はあいつの携帯をハンカチでくるみ胸ポケットに入れ、同じように部屋の鍵をハンカチで包み、ドアの外に人気が無いのを確認して鍵をかけてマンションを出た。




そして胸ポケットから取り出したあいつの携帯から俺に電話をかけて履歴を残し、次は俺があいつに電話をかける動作を数回行った。


その後で、俺はお前に電話をかけた。
引きこもり気味なお前はめったに外出しない事を知っていたから、アリバイに利用させてもらったよ。



『あいつの様子がおかしい--------。』


『何度かけ直しても出ない--------。』


『お前からもかけてみてくれ。』






篤。



お前からの着信音は"パピヨン"のテーマ曲なんだな。

あいつの携帯からその曲が流れる度、まるでお前の慟哭のように思えたよ。








程なくしてお前の車が到着し、俺はお前と一緒にあいつの部屋へと急いだ。



息せき切って合鍵で部屋に入るお前の背中を俺は冷静に見ていた。
お前に気付かれぬように鍵をシューズボックスの上に置いた時、あいつの名を呼ぶお前の声が聞こえた。




『どうした篤!?』


今までに聞いた事のないようなお前の声--------。




悲鳴にも似たそれに導かれるように、俺は寝室へと足を進めた。
その時の俺は、いったいどんな顔をしてたんだろうね。




寝室での惨劇を目にしてお前の気が動転している間に、俺は警察に連絡をいれて、そっとあいつのスマホをテーブルの上に置いた。








それから--------、それから後の事は良く覚えていない。散らばったパズルのように記憶が曖昧だ。



ただ。

ホッとした事を覚えている。


これで又お前の一番近い場所で生きていける--------と。


スキャンダラスな世界からお前を守り、お前の信頼を得て、俺は再び息をする事ができた。


動機があっても機会がなく、機会があっても動機のない幾人かの容疑者達はいつしか事件と共に忘れられていった。







そして10年--------。





何故今頃になって、お前は穿り返したんだ?




うやむやのままに葬り去られていたものを--------。
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