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懺悔
しおりを挟む「ふふっ・・・。まるで幽霊でも見たような顔をしてるね。」
確かに、体中の血が凍ったような感じだ。
たが、少年の口調が俺のスイッチをONにした。
「篤はいないのか?」
部屋の中にあいつの気配がない事にふと気づいた俺は、少年に尋ねた。
「先生は編集者の人に急用で呼び出されて出て行ったよ。」
少年は軽く肩をすくめ、そう言うとスタスタと歩いて行った。
俺はそっと玄関のドアを後ろ手で閉じた。
再びデジャヴが俺を襲う。
ああ・・・この後の言葉を俺は知っている。
--------先生はいないよ。
--------だから今は。
--------僕達2人きりだね?
あの時。
俺の頭の中に浮かんだのは何だったろうか?
玄関のシューズボックスの上に無造作に置かれた鍵。あの時もこんな風に放り出されていた。
「おまわりさん。いつまでそんな所につっ立ってるつもり?」
リビングの向こうから、からかうような少年の声が聞こえる。
俺は素早く頭の中で計算をした。
確率を。
成功か否か。
行くべきか退くべきか--------。
暫しの躊躇のあと、俺は足を1歩前へ出す。
--------今思えば、俺は冷静さを欠いていたのかも知れない。
甦ったパピヨンの存在が俺から正気を奪った。
俺はリビングに向かわず、寝室のドアを開けた。
「--------!?」
アンティークな室内灯に照らし出されていたのは、紅に染められたダブルベッド。
--------そう、あの日と同じ・・・。
あの狂気の時間が再び訪れた。だが主役はいない。いるわけがない。
俺が--------。
俺がこの手で消したのだから--------。
あの時、睡眠薬入りのコーヒーを飲んで眠る彼をこのベッドに横たわらせ、ほっそりした左手首を切り、そして深々とその胸に鋭利なナイフを突き刺した。
まるで尊い儀式のように。
ああ、そうだ。
美しく邪悪な天使にふさわしく、仕上げに赤ワインを降り注いでやった。
完璧に--------。
完璧にやり終えた筈だ。
--------なのに・・・。
俺は震える口元に手をやり、目の前の無人のベッドを凝視した。
--------どの位そうしていただろうか・・・。
「探し物は見つかった?」
背後からの突然の声にギョッとして俺は振り返った。
静寂さを身にまとい、部屋の入り口の壁に凭れるように彼は腕組みをして俺を見ていた。
そんな姿さえ、絵のように美しく。
見る物の心をかき乱し--------。
俺を犯罪者へと堕落させた"パピヨン"
「お前・・・。」
「見つかるわけないよね?」
全てを見透した眼差しで俺を射る。
「誰だ・・・?」
--------お前は誰だ?
「知ってるくせに。」
--------嘘つき。
彼の唇がそう呟いた。
ゆらゆらと陽炎のように俺は彼に近づき、ひらひらと舞う蝶を手に掴んだ。
「--------うっ!」
「華奢な首だ。」
本気で絞めたらひとたまりもないだろう。
なのに微かに眉をしかめたまま、怯えた素振りさえ見せない。
--------ああ、そうだった。
あいつは俺など恐れていなかった。命が尽きようが、幻になろうが、そんな事はあいつにとって些細なことだった。
だから、二度目の死など怖くも何ともないだろう。
「もう一度逝けよ。」
自分でも驚くほど冷淡な言葉が口をついた。
--------大丈夫だ。
一度死んだ人間を二度手にかけても罪にはならない。10年たって甦ろうとも、所詮お前は幻だ。
俺と篤の前に現れてはいけない存在なんだよ。
お前だって、分かっていたじゃないか・・・。
「篤が帰ってくる前に、全て片づけてしまわなきゃな。」
掴んだ首に一気に力を込めれば--------終わりだ。
さあ・・・終わらせよう。
「--------もう、やめてくれ。」
聞こえる筈のない声が不意に耳に飛び込んだ。
声の方に目を向けると、ベッド脇のクローゼットの前に篤が立っていた。
「篤・・・。」
いったい俺は、どんな顔で篤を見ていたんだろう。
そして、篤はどんな気持ちで俺を見ていた。
咄嗟に俺は掴んだ手を離した。
「あ・・・篤--------。」
「お前だったんだな。」
「ゴホッ・・・。--------先・・生、遅いよ。出て来るのが。」
少年は首元を押さえ、俺の手をすり抜けて篤の方へ走って行った。
せっかく捕まえた蝶は、ピンを刺す前に逃げてしまった。
「お前が--------お前があいつを殺したんだな。」
篤の声が遠くに聞こえる。同じ空間にいるというのに。
哀しみと怒りを含んだ声が、遠く・・・遠く--------。
俺は逃げた蝶の痕跡を確かめるように、掌に視線を落としていた。
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