次女の物語

すなたろう

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リルディス

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 戦争終結前のこと。
「どうしてこんなことに」
子供たちに教えるため、毎日通った教会の孤児院の学校が、敵国からの侵入者に爆発物を投げ込まれ、無惨にも潰れている。リルディスは立ちつくした。
「私が父を止められていたら。」


 戦争は終わり、今、王宮の国王執務室には、先の戦争を始めた元王弟エルンストと、戦争を終わらせた新国王フレデリクと新宰相のカール、それに、前国王のジグムンドがいる。
「我々の妻があなたとお話ししてみたいと申しておりまして、よろしいでしょうか?」
とフレデリクが尋ねた。麗しい姿形を持つエルンストは、女性にうっとり見られるのが常なので『はいはい、サービスしますよ、お安いご用』と思いながら、
「はい、もちろん結構です。」
と答えたが、カールに、
「お話と言うか、お小言と言うか。」
と言われ、エルンストは『サービスどころじゃなかった、私が大国エスドートの陰謀にまんまと引っかかり、ルカム王国との戦争を押し進めたために、フレデリクとカールにひどい目に合わせたから、奥様方は私を非難したいってことか。』と恥じ、
「はい。いかようにも。甘んじて受けます。」
とエルンストは殊勝に言った。
「では、ご無事で。」
ジグムンドが笑いをこらえながらエルンストに言い、三人は退室、そしてその部屋に王妃エレオノーラと宰相の妻フランツィスカ、前国王の妻パウラの三人が入室した。

 エレオノーラがまず、
「あなたが始めた戦争のせいで、私の実家の音楽担当が死んでしまいました。」
と言うと、エルンストは、
『お前の実家の音楽担当?王妃になれたんだから、いくらでも実家にもっと良い音楽家を送り込めるだろうに』とイライラするのを上手に隠し、エレオノーラに、
「王妃様のご実家はどちらでしょうか?」
「エルンストさん、私のことは王妃様ではなくて、エレオノーラさんと呼んでください。」
「え?」
「エレオノーラさん、です。フレデリクが国王就任後は、敬称は「さん」付けが推奨されておりますので、エレオノーラさん、でお願いします。」
「あ、そうでしたね、失礼しました。」

 エルンストは、新国王の体制になって、敬称を「さん」に統一する件も自ら積極的に取り入れていたのだが、女性にも適用するとは思い至らなかった。
 新国王フレデリクの姉で新宰相の妻のフランツィスカが、
「エレオノーラのお父様はツェリェ伯爵ですわよ、ほら、あなたが反逆者扱いをした、」
と意地悪く言った。エルンストは青ざめた。エルンストが初めてエレオノーラを見た時、エレオノーラが元兵士たちに紛れて、みすぼらしい男に変装していたので、ツェリェ伯爵令嬢エレオノーラと結びつかなかったのだ。
「失礼しました。ツェリェ伯爵様に、私が深く謝罪したい旨、お伝えいただけませんでしょうか。」
おびえるエルンストを眺めながら、
「エルンストさんは、もしかしてあなたが始めた先の戦争で片足を無くした宰相カールの妻である私の、弟が誰かご存知ないということはございませんわよね。」
さらに青ざめたエルンストが、
「存じ上げません。知見が足りず申し訳ございません。」
パウラが、見ていられず、
「フランツィスカさんの弟は、新国王フレデリクさんです。エルンストさんは、王宮でずっとお育ちでしたから、王宮の外の、貴族子女のことまで詳しくないですわよね。元王太子のフェルディナンドさんも、王宮の外のことをあまりご存知なかったので、今、その教育も受けていらっしゃいますのよ。」
と言うと、エルンストはまたイライラしてきた。『私は戦争責任に真っ向から向き合って反省している。しかし、こんな女どもに文句を言われ、更に女に庇われるとは。』と情けなく思うと、愚痴がこぼれた。
「元王太子殿下が羨ましいです。私は12の歳で、奸臣に取り込まれ、14歳でその奸臣ペロトネル公爵の娘と婚約させられ」
と、ぼやき始めた。エレオノーラがぼやきの途中で口を挟む。
「エルンストさんは14歳の時にご婚約されたのですか!奥様のリルディスさんは、その時何歳だったのですか?」
「え?えっと9歳差だから、」
「え?21歳ですか?それとも、まさか、5歳で婚約させられたのでは、ない、ですよね」
エレオノーラはおそるおそる聞く。エレオノーラも知見がかなり不足している。
「私が歳上ですが。」
エレオノーラは、驚いて、
「5歳の幼児が!親に婚約者を決められてしまったのですか。」
「あ、ああ。」
「それでいったい結婚はおいくつの時に?」
「成人して18歳の時です。」
「では、婚約期間が13年、長かったですね。」
エルンストは、しばし戸惑ったが、
「違う、私が成人するのを待って、すぐに結婚させられました。」
「そ、そうすると!リルディスさんは、9歳で!結婚させられた、のですか!!」
「はい。」
「ひどい!ひどすぎる!児童虐待も甚だしいですね!未開の地では、いまだにそういう部族もあるようですが!それで、奥様は今おいくつなのでしょう?」
「えっと、いくつだったかな」
「エルンストさんは今おいくつですか?」
「私は、32歳だが。」
エルンストは『もうこの女は勘に触る、無礼な女だ、私は無理やり結婚させられたのに』と思っていたが、
「では、リルディスさんは、23歳ですか!まだそんなにお若いのですね。23歳にして結婚14年とは!」
とエレオノーラが、ただただ驚くので、『確かにリルディスは、ほんの子供で結婚させられたのだ。』と思い至った。

 エルンストはいつも通り前々国王である兄を見舞った後、王宮の自室に帰ると、妻のリルディスが、
「エルンスト様、お帰りなさいませ。」
と、いつも通り慎ましやかに微笑んで出迎えた。エルンストは、いつも通り妻には目もくれず自分の書斎に向かおうとしたが、エレオノーラとのやり取りを思い出し、
「ああ。」
と、妻にうなずいて見せた。すると、妻が、ギョッとして、慌てて、
「お帰りなさいませ、エルンスト様。」
と、先ほどと同じことを言った。エルンストは、しばし考え、『いつも私が返事をしないから、うなずいただけで驚いたのか。』と思い至った。

「今日は何をしていた?」
何か妻に話しかけようとしたが、話しかける言葉が見つからず、部下に話す類のフレーズを、エルンストは妻に投げてみた。
「え?はい、え?私ですか?」
妻が慌てている。というか、うろたえている。
「いや、いいんだ。ちょっと話がしたかっただけー」
いたたまれなくなり、エルンストは最後まで声に出せずに書斎に逃げ込んだ。

 書斎で妻とのこれまでを考えた。まず12歳の頃からペロトネル公爵がすり寄ってきて、
「あなたは誰よりも文武に優れ、才能に満ち溢れておられる。あなたが次期国王になるべきです。」
と囁かれた。その頃には、可愛がってくれる兄には申し訳なく思うくらい、自分の容姿に魅力があることに気づいていた。女性どころか男性まで自分の言いなりだったので、ペロトネル公爵の言葉に抗いながらも納得してしまったのだ。その後は、まわりをペロトネル公爵の息のかかった者で固められ、自分はあやつり人形と化した。まだ幼かったペロトネル公爵次女と婚約した頃は、婚約者をどう扱えば良いかわからなかった。結婚後、会食やら地方に住む貴族への訪問やらを、ペロトネル公爵の指示通りこなしたが、妻を連れ歩かないよう言われたのは、妻が幼すぎて、いかにも政略結婚と見られるからか、それとも私の女性人気を上手く使うためだったのか。
 結婚して数年後、父である国王が亡くなり、兄が順当に即位すると、ペロトネル公爵は、あからさまにがっかりし、私を非難して遠ざかった。『私が全てお膳立てしてやったのに、この役立たずが。』と言われて、『俺が一度でも国王を望んだか?ペロトネル公爵が全て勝手にやったんだろうが』と思い、妻への嫌悪感を抑えるのに苦労した。
 その後、また私がペロトネル公爵に上手く操られていた頃、ペロトネル公爵に子供は?と聞かれたので、数回夫婦の関係を持った。あの時、妻は少し女らしくなっていたが、いくつだっただろうか。そうか、今、23歳なのか。

 夕食時。これまでは会話をしようと思ったことは無かったが、
「今日、王妃に聞かれたのだが。」
と、エルンストがリルディスに話しかけた。
「は、はい。」
リルディスは椅子からビクッと、飛び跳ねたように見えた。
「お前が、23歳にして結婚14年とは、と驚いていた。」
「は、はい。」
「お前が5歳で婚約、9歳で結婚させられたのかと、それはそれはびっくりしていた。」
「そんな、結婚させられたのは、エルンスト様でございます。私の父に無理やり、子供だった私をあてがわれて。」
エルンストは、5歳の頃のリルディスを思い出そうとした。今までリルディスのことで頭を使おうとしたことは無かった。使いたくなかった。しかし記憶を必死で掘り起こして、思い出した。恥ずかしそうにお辞儀をして表情をくるくる変える魅力的な女の子の姿を。
「可愛い女の子だったよ。」
脳裏の女の子と目の前の妻と比べてみる。今のリルディスは、見る影もなく、無表情で、自信がなさそうな、暗い顔をしている。妻が哀れに思えて来た。
「その、済まなかった、私は、お前より9歳も歳上だが、私は精神的に幼過ぎた、許してくれ。」
「そんな、あなたから謝罪など、あなたのような、誰もが妻になりたがるような方の妻に、私などがなってしまったのですから、お詫びするのは私です。」
慌てながらも自分をフォローしてくれる妻を尊敬してしまう。
「リルディス」
妻がまた椅子から飛び跳ねた。
「そんなに怖がらないで欲しい。」
「怖がってなどいません。あなたが、その、私の名前を、初めて呼んでくださったので、嬉しくて」

 エルンストは恥ずかしさのあまりその場から逃亡しようと思った。が、意を決して、リルディスに向き合った。
「今夜、そなたの部屋に行っても良いだろうか?」
と尋ねた。
妻は青ざめて、椅子から落ちそうになった。

 夜になり、リルディスの寝室を訪ねる。数回抱いた時のことを必死で思い出す。兄が即位し、妻の父親が捨て台詞と共に去って行ってから、自分が女遊びに明け暮れたことが思い出された。寄ってくる女は山ほどいたので、出来るだけ身分が高くて、出来るだけ美しく、出来るだけ才能のある女を選んで関係を持った。妻が女らしくなった頃は、どの女と寝ていた頃だった?とにかく、自分にとって妻が取るに足らないと思いたかったのだと思う。だから、女性と言うよりまだ少女だった妻の寝室に初めて入った時、そっけなく抱いて、すぐに寝室を後にしたような。我ながら、どんなに少なく見積もっても、鬼畜、だな。

 妻の寝室に入ると、妻は、寝間着で立って待っていた。妻に笑いかけると、妻はぎこちない笑顔を作った。妻に、
「長い間そなたをおろそかにして済まない。もう、遅いかもしれないが、これからは大切にすると誓う。」
とささやいた。拒絶されていないようなので、そっとハグをしてみた。妻もハグを返してくれたのでそっと頬にキスをする。妻の頬が染まる。
「共に寝て良いか?」
無理強いするのだけは避けなければと思いつつ、聞いてみた。妻は更に頬を染めてうなずく。私のような夫だと、妻も愛人を持つのが常だが、私の妻は、そういう類は苦手なのかもしれない。それを嬉しく思ってしまい、嬉しく感じた自分の浅ましさを嫌悪した。
 妻の身体を横たえ、妻の頬を愛しく撫でていると、自然と口から、
「長い間、済まなかった。」
とまた謝罪の言葉が出た。
「あなたが謝らないで、私の父がー」
と言い出す妻の口を、そっとキスで塞ぐ。優しく優しく妻の身体に触れる。『これが初めての時にできていたら』と後悔で胸が塞ぐ。

 明け方まで、妻がまどろみから覚める度に、
「愛している。私にやり直す機会をください。」
と囁いた。リルディスはあどけない笑顔になりまた眠った。

 自分はこの可愛い人と人生をやり直すことができるのだろうか?もしできるとしたら、なぜ自分だけ許されるのだろう。王族だから?容姿に恵まれたから?でも自分が間違いを犯し続けたのは、王族で容姿が良かったことが原因だ。嫌と言うほど身に染みている。もしやり直せるとしたら、私の妻が、リルディスという奇跡のような人だからか。

 その後、エレオノーラに会った時、エルンストは、
「エレオノーラさん、先日は、リルディスが婚約、結婚した時の、年齢を聞いてくれてありがとう。おかげで、リルディスとやり直すことに間に合うかもしれません。感謝申し上げます。」
と礼を言った。エレオノーラは、エルンストの雰囲気がガラリと変わっていて驚いた。
「あなたは誰?」
エルンストは苦笑しながら、ふと、
「リルディスを喜ばせる方法がもしあれば、教えていただけないだろうか。」
と聞いていた。エレオノーラは一生懸命考え、
「一般的には、プレゼントをしたり、愛の言葉を毎日かけたりですが。」
「そうですね、そうしてみます。」
「私の場合は、必要とされることが一番嬉しいです。」
「必要と?」
「はい。フレデリクは、いまだに前線での記憶が突然蘇って、夜中に悲鳴をあげて飛び起きます。そんな時、私が背中を撫でてヨシヨシしてあげると、フレデリクが落ち着いてきて、今度は、自分は国王として、正しいことをしているのだろうか。国民が飢えたり、戦争が始まったりしないだろうかと、ぐちぐち言い出すので、今度は頭を撫でて、大丈夫、できるとこまでやってみましょうね、フレデリクが失敗しても、次の人がフレデリクより、良くしてくれますからね、と何度も言うと、また眠るんです。」
「フレデリクはそんな気弱なヤツなのか?いつも自信たっぷりに見えているが。」
「私のおかげで頑張れているのです。」
エレオノーラは胸を張った。
「弱虫を夜な夜な励ますのが、お前にとって一番嬉しいことなのか?」
「はい。私にしかできないので。」
「ふーむ。」
エルンストには、ちょっとよくわからない。
「他には、ちょっとしたスキに、ハグしたりキスしたりされると嬉しいです。」
「ちょっとした隙?」
「例えば、階段を二人で登っていて、周りに誰もいないことに気づくと、すかさずチュッって。」
「そんなこと?お前たち夜も共に寝ているのだろう?」
エルンストは、どんどんぞんざいな言葉遣いになり、エレオノーラは頬を染めて、
「それとこれとは違うの!わっからないのかなあ、結婚14年には!」
と、トンデモ発言を吐いた。

 翌日エルンストは、リルディスを王宮の庭へ散歩に誘ってみた。
「私は今謹慎中で、旅行に連れて行くこともできない。旅行に行く機会はこれまで散々あったのにな。今日は穏やかな天気だし、庭の中だけだが、共に歩いてくれないか?」
「嬉しいですわ、あなたとお散歩できるなんて。」
「私もリルディスと歩けるのが嬉しいよ。」
 リルディスはどんどん美しさを取り戻している。思えば結婚後、ずっと身を縮めて、ビクビクしている姿しか見てこなかった。長年、自身の夫にビクついていたのか。実の父親にもだったのだろうか。

 リルディスをエスコートして庭を歩く。リルディスの顔を見て、5歳の頃のくるくる変わる表情をまた見たいと思う。
「私たちは結婚14年だが、新婚、いや、付き合いたての恋人同士のようだな。」
リルディスの顔が、赤く染まる。可憐だ。
「あまり見つめられると、」
とリルディスが恥ずかしそうにする。
「あ、済まない。リルディスの顔を明るい陽の下、間近で見るのが嬉しくて。」
「クラクラします。」
と、赤い顔で目を伏せる。
「リルディス、具合が悪いのか?」
と慌てると、リルディスは艶やかな笑みを浮かべ、
「初めてお会いした時から変わらず、エルンスト様の美しい顔で見られるとクラクラします。」
と、告白された。エルンストは、自身の美しい容姿を、初めて神に感謝した。
「リルディスが、いつも何をして過ごしているのか聞いても良いか?この前聞いた時には、答えてもらえなかったが。」
「あ、いえ、答えたくなかったのではないのです。あの、毎日大したことをしていないので。答えられるようなことは。」
 エルンストは、あずまやのベンチに誘った。
「リルディス、朝食後はまず何をする?」
「え?」
「大したことを聞きたいわけではない。考え事をするでも、本を読むでも。リルディスのことは何でも知りたい。」
「え、あ、はい。あの、戦争までは、毎日、教会の孤児院に行って、子供たちを教えていました。」
「大したことではないか!」
「そ、そうですか?あの、私、その、友達が一人もいなくて、お茶会などにも誘われず、話し相手もいませんので、ある時、頭が変になって、王宮からこっそり抜け出したのです。街を歩くのは、あの時、生まれて初めてだったので、少しワクワクしてしまい、教会を目指して歩いたら、子供たちが学校で勉強をしていました。私は、学校に行ったことも無かったので、見ているだけで楽しくて。しばらく見ていると、シスターが手招きしてくださって、それ以来、学校で教えています。」
エルンストは、胸がズキズキ痛む。
「それは、そなたが、いくつの時だったのだ?」
「10歳です。」
胸はズキズキどころか、グサグサ刺さる。結婚一年、リルディスが10歳の時、孤独で頭がおかしくなりそうだったのか。
「では、リルディスと生徒たちは、歳が変わらなかったのでは無いか?」
「結婚する9歳までに、一般教養から、王族に嫁ぐ花嫁教育まで詰め込まれました。私、勉強だけは得意だったので、年上の子供にも教えることはできました。でも、戦争で教会の学校が壊れてしまったので、今は再建のための資金を募るお手伝いをしています。」
エルンストは、もう罪悪感の塊だ。リルディスの唯一の居場所まで、自分のせいで破壊されてしまったのか。痛ましく思いながらリルディスを見た。リルディスがまた頬を染めてうつむいた。ふと、エレオノーラのアドバイスを思い出し、そっとハグをした。
「エルンスト様。」
リルディスは驚いて、目を見張る。
「あ、つい」
と言うと、リルディスが実に嬉しそうに微笑んだ。エルンストはまわりを見回して、リルディスの頬にキスをした。
「え?」
と、リルディスはあたふたしながら、まわりを見まわして、
「誰に見られるかわかりませんわ。」
と、可愛くにらまれた。5歳の頃のリルディスを取り戻すことに、少しだけ成功した。
「学校の再建を私にも手伝わせて欲しい。リルディスが子供たちに教えている姿を見てみたいから。」
「嫌です、シスターたち全員、年長の女の子も、あなたに夢中になってしまうわ。」
と、恥ずかしそうに、エルンストの胸に顔を埋めてくれた。リルディスの顔が見えず、エルンストの本音が溢れ出す。
「私は、許されないことをした。善政を敷いていた国王にはむかい、良い人を悪人に仕立て、戦争を始め、多くの命を奪い、傷つけた。リルディスの大切な場所まで壊した。私に償う力は無いが、許されるならば、命のある限り国のために尽くしたい。リルディス、あなたの力を貸してください。」
「私も、父を、止める事ができなかったと後悔しています。私も、許されるならば国のために尽くしたいです。エルンスト様と助け合って。」
エルンストは、あくまでも自分を責めないリルディスが恐ろしくなってきた。この人は私を救済するために神が遣わせてくれた方か?しかし私にそんな価値は無い。あるいは、私を完膚なきまで罰するために遣わされたお方なのか?
 過去をあらためて振り返る。私におもねって擦り寄って来た者たちを遠ざけ、この賢いリルディスに教えを乞うていたら、私にも、国王、王太子を良く助ける存在になれる機会はじゅうぶんにあったのだ。

 いろいろな思いが込み上げて、言葉が思いつかず、
「ありがとう。」
とだけ言った。
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