次女の物語

すなたろう

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私のやりたいことは

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 絵姿と外交団グッズは、思った通りたくさん売れた。が、アレクサンデルの絵姿だけは、あまり売れなかった。アグネスが、本人より嫌味な感じに描かせたからだ。
「ごめん、そんなつもりは無かったんだけど、危機管理意識が働いたみたいで。」
「おう、俺も万が一、俺の人気が出て出自がバレたらとビクビクしてたんだよ。」
「私は、アレクサンデルが他の女性に目移りするのが怖かったみたい。」
「だから、そういう破壊力のある言葉をところ構わず発射するなよ。」
じゃれ合う二人を、周囲は少し呆れた目で見るようになっていた。これまでは隠れて付き合っていた二人を皆が温かく見守ってきたが、最近の二人は少し目に余る。

 自信に満ちた女性たちの絵姿も売れた。髪型からドレス、小物まで真似をするファンが増えていった。
「男性の装飾品より、女性用の髪留めやネックレスなどの装飾品の方が売れていますね。外交団メンバーそれぞれが愛用する手帳やペンなどの筆記具は男女差は無いようです。」
「男性のクラヴァットとピンブローチも女性が買っていくと聞きましたよ。自分のパートナーに贈ったり、男性用を女性が着けたり、絵姿と一緒に飾ったりしているとか。飾るためと使用するための2つ買う人もいるそうです。」

 外交団グッズの商品開発会議に参加した王妃エレオノーラが、
「ヘンリエッテとアグネスの、絵姿と筆記具も売れてるんでしょ?」
と、アグネスとヘンリエッテに声を掛けた。エレオノーラは大きなお腹を抱えている。
「そうなの。私はソフィアって名前の人気者よ。」
「エレオノーラ、あなたの頭の中で生まれた相互援助ネットワークで、私は国際スターになっちゃったわ。」
「ヘンリエッテもアグネスも、エスドート語がスラスラ話せるんでしょ?かっこいいなあ。」
「あら、エレオノーラも語学をなさいよ。生まれた子どもに英才教育ができるわよ。」
「私には、語学の才が無いみたいなのよね。」
エレオノーラがしょんぼりする。ヘンリエッテが、
「私の父は、娘をできるだけ高位の貴族の嫁にすることしか頭に無かったけれど、私が相互援助ネットワークの総裁として実績を積んだから、父が私に結婚しろと言わなくなったわ。エスドート王国との外交に参加したことで、父が私を見直したみたい。本来ならエレオノーラがここで賞賛されるはずなのに、あんなに才気活発だったあなたが、国王の妻、王太子の母として暮らしていくのかと思うと胸が痛むわ。もちろん王妃様よ、私が目指していた最高の地位なのにね。でもエレオノーラの才能が生かされないのではないかと思うと、もったいないと感じて。」
会議に参加していた前王妃パウラが、
「ヘンリエッテ、エレオノーラのお腹の中の子が男の子でも、王太子ではないのよ。王太子は今のところ、前々国王のご子息フェルディナンドさんなの。」
「そうだった、つい、国王の息子が王太子だと思ってしまうのよね。」
「私は、フレデリクの理想を実現させるためにお助けしたいし、この子を立派に育てたい。でも今ね、自分の欲が湧いて湧いて。あちこちに行ってみたいし、やったことないことをやってみたい。今、私が考えてるのは、実家のツェリェ領に結婚式場付き保養地を作ること。」
アグネスが、疑り深い顔で、
「それ、自分たち国王夫妻が式を挙げた教会でございますって宣伝するの?」
「そうよ。何か文句ある?」
「いえ、何もありません。思う存分、己の欲にまみれてください。」
と、アグネスが笑う。ヘンリエッテが、
「素敵ね。私、いつか結婚するなら、愛する人と二人、ツェリェでこっそり式をするのも良いな。」
「その後、しがらみにまみれて領地で披露宴すれば良いわよ。ツェリェで挙式と新婚旅行まで済ませてからね。ゆったりくつろげる保養地を作らなきゃ。」
「エレオノーラの商売根性には負けるわ。」
「豪商アグネス様のお褒めに預かりまして、光栄ですわ。」
パウラが、
「私もツェリェに行ってみたい。ジグムンドとゆっくり休暇を楽しみたいわ。」
「パウラ、嬉しい。いつでも来て。保養地を作らなくても、私の実家に泊まって。そうだ、みんなで泊まろうよ。パウラが何かしたいって言うの、珍しいわ。」
「そう?」
「いつもジグムンドさんが『パウラに相談する』って言ってるから、パウラがこの王宮の影の支配者のように感じてるんだけど。」
「やめてよ、エレオノーラ。私は何も言ってないわよ。ジグムンドが、全部考えて決めてる。私は聞いているだけよ。」
「そうかなあ。」
エレオノーラは、パウラが国の決定権を握っているのではないかと、まだ疑っている。
「私は、散々ツェリェには行ったけど、結婚式場付き保養地関連の商品が作れないか、保養地ができあがる前に視察するわ。」
「アグネス、アレクサンデルと一緒にゆっくりご滞在を。」
「ありがとう。でも多分ゆっくりはしないと思う。」
「そうね、アグネスは日帰りしそうね。」
皆で笑う。

 「私、やりたいことがどんどん変わった。戦争の前後、妊娠の前後で。」
エレオノーラがしみじみ言うと、同級生だったアグネス、ヘンリエッテ、パウラもそれぞれ、学院に入学した頃から自分のやりたいことも変わったことを感じた。
「エレオノーラは、お兄さんのそばで一生いたいって言ってたね。」
「そうだった、兄さえ居たら良かったのよ、あの頃までは。あ、でも今も兄の顔は大好き。兄の絵姿、買わなきゃ。」
「エレオノーラ、自分そっくりの兄弟の顔が好きって、気持ち悪いんだけど。」
「全然違う、兄の顔はね、まつ毛が瞳に影を落と」
「はいはい、アルヌルフさんの美貌は知れ渡ってるから解説してくれなくても大丈夫よ。」
「こんな話してると、あの頃と変わってないこともいっぱいあるね。」
元同級生の4人は、会話が楽しくて笑いっぱなしで、ずっと話していたいが、それぞれ後の予定が詰まっているヘンリエッテとアグネスは、部下たちが待つ職場へ去っていった。

 外交団メンバーのグループ絵姿も売れていて、エルンストをセンターに立たせた外交団の絵姿はすぐ品切れになるので、時々構図を変えた物を作っている。

 「今度、今までの絵姿を全部セットにした限定豪華版を、最高級のインク、最高級の紙で印刷して、売りに出したい。」
フランツィスカが、鼻の穴を膨らませて、宣言した。
「よろしいですね。限定豪華版の箱にもこだわりましょう。」
ハンレニーが、力強く賛成する。
「全部で何枚になるの?」
エレオノーラが聞くと、
「今まで売ってきたのが、27種類。それに、今回のセットにだけ入れる絵姿を3枚でどう?」
フランツィスカが考えながら言うと、
「良いですね。」
と、パウラも賛成する。
「既にかなりの売り上げで、事前の目標額の一桁も二桁も上回っている今の段階で、価格設定は?」
ハンレニーが煽ると、
「ふふふ。数を抑えて、価格は勝負に出るのはどうかしら。」
フランツィスカが悪い顔で笑うと、
「さすがです。絶妙にくすぐって来ますね。」
とハンレニーも悪い顔で笑う。

 しかしエルンストの熱烈なファンが、エスドート王国を再度訪問中のエルンストに睡眠薬を盛って捕らわれた時点で、路線を変更した。
「熱心なファンの方に向けた本を作りましょう。外交団メンバーの絵姿と人物の紹介文を載せて、メンバーが妻を大切にしていることを周知させるの。」
自身の絵姿もそこそこ売れて、気持ちの悪いファンレターがたまに届くフランツィスカが提案して、これ以上の絵姿の売上げを狙うのは止めることになった。
「売上げが上がれば上がるほど、もっと儲けたくなる心理は、恐ろしいわ。麻薬のようね。もう、戦後復興の資金はある程度貯まったし、儲けることに執着しないように気をつけましょう。」

 今度は、評判の物書きたちが宮殿に集められ、外交団メンバー紹介本編集部が立ち上がった。
 外交団キラキラ男子は愛妻家ばかりで、子供も居たりもうすぐ生まれるということを、いかに過激なファンたちを刺激しないように、できれば穏やかなファンになってもらえるように、という難しい文章を、皆で考えた。


 外交団メンバー紹介本は間をおかず、エスドート王国を始め、各国で売り出され、結果、最高の売上げをもたらした。フォルスフッド王国は、夫が妻を、妻が夫を大切にしていて、お互いに意見を平等に言い合えると広まったことは、売上げ以上の収穫だ。
 また、エルンストの妻リルディスが、教会の孤児院で、長年幼い男の子や女の子を教えているという解説とともに聖母のような絵姿を紹介本に入れたのが成功した。貧しい者も、男の子も女の子も教育を受けている姿は、効果的に、ヒタヒタと各国の人々の頭を浸食した。
「フォルスフッド王国では、誰もが学校で学べるんだってよ。」
「良いよな。俺もフォルスフッドに生まれたかった。」
「私も。」

 フォルスフッド王国では、実際には平民の子供が通う学校はまだ少なかったのだが、国王フレデリクは、大急ぎで各領主に学校を作るように依頼した。カールは、
『領民の識字率が上がったら、褒美が出るんだってよ。』
という噂を撒き散らしつつ、絵姿の売上げから捻出した褒美を、領主たちにチラつかせて、学校は各地で一気に増えたのだった。
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