なんとなく起業に付き合ったら、楽しい毎日だったお話

すなたろう

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腹をくくる二人

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 珍しくコウヘイから残業の許可が出たので、ユウとリンは、遅くまで残って、落ち着くところまで仕事を終わらせて帰っていった。
「珍しいですね、コウヘイがこんな遅くまで彼女たちに仕事させるの。」
「はい、若い女性たちを守らなければと思い過ぎて、仕事の積み残しが重なって、彼女たちを追い詰めてしまったのかと、反対に心配になりました。我ながら一貫性が無くて恥ずかしいです。」
「僕もこの前キャリーケースの買い物で気分転換になればと思ったけれど、余計に二人の負担になってしまい反省しました。」
「今日もリンはユウとダイキのフォローが鮮やかで。」
「リンにもコウヘイにも、本当に申し訳ないです。最近は、リンにも見えるように、ユウへの愛情表現を頑張ってるんです。リンへの感謝を込めて、リンに安心してもらえるように。リンは僕がユウに夢中だと見せると喜びますよね?恥ずかしいんですけど。28の男が、19才の才女にね。なんでしょうね、あの二人。魅力があって能力があってパワーも抜群で、なんだって手に入れられる二人なのに、たまに見てて切なくなってしまう。」
「私も二人を見ていて、なぜか応援したくなって、手を差し伸べたくなります。非力な私が。でも、必要ないでしょう。彼女たちは、自分たちの力であがいて、更に強くなって魅力が増すのでしょう。」
「そうですね、コウヘイ。彼女たちが自分たちであがいているのを見守ればいいんですね。もし二人の力でも乗り越えられない時に、手を差し伸べれば良いんですよね。そんな機会が来るとは思えないけど。」
「ダイキ、それでも、私たちは、彼女たちを温かく見守り、支える存在を目指しましょう。ダイキは難しいタスクに燃えるでしょ?」
「はい、そうです。簡単なことは好きじゃない。頑張りますよ、コウヘイ、力が湧いてきました。」
「あの、ダイキ?こんなこと言うとユウにもダイキにも失礼なんですが。」
「聞きたいです。お願いします。」
「ユウは6才から新しいお母さんに育てられたとか。」
「はい、すぐに大好きになって、以来お母さんと相思相愛だと。」
「6才の時も、5才まで実の母親に育てられていた時も、かなり賢い子だったと想像しますが」
「でしょうね。胸が痛みますが、そのおかげで、今のユウが出来たと思って、ユウのことをかわいそうと思わないようにしています。」
「新しい大好きになったお母さんに対してユウは、何度も嫌われないかハラハラしては、大丈夫だったとホッとしていたかもしれません。」
「あり得ますね。」
「ダイキに『こんなこと言ってしまったけど大丈夫だったかな?』『今のも大丈夫だった私は愛されている』と確認して安心するを、毎回無意識にやっているとしたら?」
「それ!最高です!それ採用!実際は違ってても、そう考えたら、ユウに爆弾を何回落とされても、死なずに済みそうです。わぁ素晴らしい設定だ!ありがとう、コウヘイ!僕の命の恩人!」
「ただし、実際そうでも、違ってても、もし今の私の話をユウが知ったら、ダイキも私も鈍器でやられますので、くれぐれもユウには悟られないでください。会社のキッチンにも包丁ありますしね。」
「包丁?」
「前にリンから『ユウが爆発したのは嫉妬心からだと、コウヘイからダイキに伝えて欲しい』と頼まれた時に、」
「あの時もリンには、多大なるご恩を受けました。」
「リンが、『ダイキに伝えたことがバレたら、寮の包丁で刺されるから、おもちゃのナイフに換えておく』と言ってました。」
「リン様、あの時もお世話になり、ありがとうございました!」
「私はあの時も、ただ話を聞いただけなのに、リンから涙ぐんで感謝されて、もうどうしていいかわからなくなりました。」
「コウヘイ、恋に落ちました?」
「そんな資格は僕には無いです。ただ茫然としていただけです。」
「資格?コウヘイは、誰よりも資格があると僕は思います。心が広くて、優しくて、誠実で、頼りになります。人として誰からも尊敬される人です。」
「私は・・私は高校の時に友達とのトラブルで、とんでもなく恥ずかしい写真をネットに晒されました。もう家から出られなくなって、何度も死のうと思ったけれど、死ぬこともできずに、ただ耳を塞いで震えていました。地方の大学に少し通いましたが、僕がダメ人間なのを、察知した人が、怪しいセミナーに引き摺り込もうとしてきたので、また、自宅の自分の部屋に閉じこもりました。両親が資格を取ったらと参考書を買ってきてくれたので勉強し、簿記を取って就職してからは、ご存知の通りです。30まで人生を棒に振ってきました。情けない人生です。恋なんて、あのリンとなんて、考えられません。」
「コウヘイ、コウヘイは今まで1日も、1分、1秒だって無駄になんかしていません。耳を塞いで震えていた一瞬一瞬の苦しみが今のコウヘイを作ったんです。ユウがお母さんを試すようなことをわざとしたかも知れない、それも今のユウの一部です。リンだって、荒れてる母親や弟に一度くらいはひどい言葉を言ってしまい、後悔しているかもしれませんよ。それは無駄な時間じゃない。リンの魅力の一部です。幸せに学校生活を送った時間だけが有意義じゃない。大企業に就職してどんどん出世している時間だけが無駄じゃない時間ですか?そんな人だけ、恋をする資格を持っているんでしょうか?」
「・・・」
「僕は、アマノの『ミャンマーに学校』、リンとユウの『キャリーケースにヨーロッパの小洒落たホテル』で火がついて、ケンケン動画を膨らませた教育システムで『世界にはばたく森企画』という妄想に夢中になり、結果、3人を疲労困憊させて追い詰めました。『彼女たち、この頃無駄話をしていないからキャリーケースを仕事中に買いに行かせたら楽しんで帰ってくるんじゃないかな』と頭に浮かび、二人が買いに行ったら、『僕、上手く行かせてあげられたな、どんなの選ぶか楽しみだな。』と喜んでいました。結果、シンプルで使い勝手が良くて長く使えそうな、会社の備品として最適な物を、二人に歩き回らせて買って来させただけでした。二人の仕事は更に回らなくなって更に疲れさせました。自分が楽しいことしか考えない僕は、人に迷惑をかけないよう一人で生きていくしかない人間です。僕こそ資格は無い。」
「ダイキ、リンはユウと一緒に働けるようになったのはダイキのおかげだといつも感謝しています。リンは、弟が心配していたケントも助けてくれたと。ケンシンはあんなにポジティブ思考なのに顔にコンプレックスがあった。けれどもここで克服しました。そして僕がダイキに救ってもらいました。リンに、『ダイキはコウヘイを傷付けたかもと、あたふたして日本語も変だった』と教えてくれました。それくらい私に力を注いでくれたんです。人として誰からも尊敬されるのは、ダイキです。」
「ありがとうございます。」
「そんなにダイキにも、リンにも、ユウにも、ケンシンにも励ましてもらい続けていても、『私はどうせあの部屋に逃げ込むしかできない弱い人間だ』という声がずっと聞こえてくる、どうしようもなくダメな人間です。」
「コウヘイ、それだけ深く傷ついていたということです。深く傷ついた人がもしそこから這い上がれたら最強です。だからあのパワフルコンビからも尊敬されているんです。」
「・・・」
「大人のフリをしていても中身がバレバレの僕は、ユウに恋愛もさせてもらえず、ユウのご両親に挨拶に行って、子種をあげるんです。子種をあげる方法は任せてもらえるみたいですが。」
「ダイキは前の会社からユウと仲が良かったのでしょう?気が合ってたのでしょう?」
「いや、とんでもない。僕は前の会社では、不健康に太って風呂もろくに入らず臭くて、嫌われ者でした。仕事は好きだったけど、人付き合いは嫌いだったので放っておいた。それなのになぜかうっかりユウをこの会社に誘ってしまったら、素直についてきて、僕の世話をやいてくれた。僕はユウの言動が面白くて毎日楽しかった。でも人を好きになるというのが良くわからなかったので、恋愛感情は無いことをずっとアピールしてたのに気がついたらこの状態だ。ユウが僕から離れたくなった時、いつでも手放せるように仕事のスキルを身につけさせたのに。いつのまにか僕は、ユウが望むこと何でも叶えてあげるヒーローになりたくなったんだ。」
「それが恋愛感情じゃないのかな?」
「そうなのですか?」
「好きになってしまったら、ただ見ているだけじゃなくて、自分が相手を幸せにしたくなるものではないのかな?」
「それなら僕はまさに恋愛真っただ中ですよ。ユウがあがき出したら、僕はすぐに飛んで行って救い出したい。実際には迷走してみんなを暴風雨に巻き込んでますけど。」
「きっと恋愛感情だと思います、激しめの。」
「そうか。そうなのか。」
「ダイキ、ユウが恋愛をさせてくれないなら、昔の夫婦になれば良いですよ。」
「昔の夫婦?」
「昔の夫婦は、親が結婚を決めて、親に挨拶に行って、婚礼の席で初めて自分の妻と会い、家のために子供を作るというパターンも多かった。そして相性の良かった夫婦は、その後互いに慈しみ、ちょっとしたことで相手をもっと好きになり、初めて二人きりでデートをして、恥ずかしいけど手を繋いで通りを歩いてみたというような話を読んだことがあります。」
「それだ!コウヘイ、また素晴らしい設定をありがとう!それならできそうな気がしてきた。よし、待ってろユウ!子供が大きくなってからデートして恋人繋ぎしてロマンチックな夜景で照れてる顔にキスしてやるからな!その頃でもユウは可愛いんだろなぁ。僕は何度も何度もユウの爆弾受け止めて、心臓はコウヘイのおかげで止まってないけど、髪の毛は寂しくなってるんだろうなぁ。若い時、不摂生するんじゃなかったなぁ。」

 その後、ダイキは、クエンの両親、ブータン人留学生のナムゲルとジグミに、会社に来てもらって仕事の基礎を教え込み、『もっともっと教えたいのに時間ない!』と叫びながら森企画ウチデノコヅチの素である本業の、簡単な部分だけリモートで下請けをしてもらうことになった。下請けや分業はダイキが『この森企画はそんなことは一切しません。そんなこと誰も幸せにしない。僕は歯車を作るために会社を作ったんじゃない』と豪語していたのに。そして、分業システムが軌道に乗ると、ダイキが『同じような仕事はつまらない』って避けてた本業の仕事の営業を、ダイキがやって山ほど仕事を取って来て、ガンガン仕上げた。リンが作ったのも自分の好みに直した。リンに気を遣って直さないようにしていたのに。


 そんなある日、
「ダイキ、忙しいのは重々承知しておりますが、少しだけ私の英作文を見てもらえないでしょうか?」
「ユウ、今ちょうど暇ですよ、見せてください。」
むちゃくちゃ忙しくてあれもこれも中途半端でテンパッているダイキが、ユウには余裕を見せて言う。
「あの、これを今度の国際リモート会議で発言してみたくて。」
「ああ、なるほど、良いですね。教育の前に、危険回避ですか。」
「はい。興味本位の薬物や、逃れられないと思い込まされての売春、詐欺行為に、どれだけ自分と家族と友人に悲惨な未来が待っているかを、目を輝かせて教育を受ける人たちに、私自身の言葉で、脅しをかけたくなりました。」
「さすがユウ、素晴らしいと思います。」
「まず自分で英作文をして、そのあとリンに直してもらったのですが。」
「ダイキ、それでネイティブに伝わりますか?翻訳アプリ2種類で確認してみたのですが。」
リンも真剣に聞く。
「そうですね、英語のことはあまりアドバイスできないけど、あの会議に参加しているメンバーは、英語ネイティブではない人も多いので、もっと簡単な文にした方が良いかもしれない。細かいニュアンスは諦めて、短い文で言いきって、みんなに伝わっているか反応を見てから、次に進めてを繰り返した方が、伝わると思います。出来上がったら、ナムゲルとジグミに聞いてもらって、二人に伝わったか聞いてみるのはどうでしょう。」
「そうします。ナムゲルとジグミは、英語も日本語も勉強中だから、喜んで手伝ってくれそう、ダイキ、ありがとうございます。」
「ユウすごい!私も何か発言してみたくなってきた!必死で聴き取るばかりじゃなくて。」
「リン、発言すると、リスニング力もアップしますよ。僕が今、それを実感してるから。コウヘイもぜひ。テーマが思いつかなければ、発言者への感想を何パターンか練習しておいて、誉めたり、それはちょっと違うのでは?と、反応してあげるのはどうでしょう。僕は、はじめそれだけでした。今では、感想を言うパターンも増えました。反対意見でも、反応があると発言者は喜びますよ。」
「なるほど、やってみる!」
リンが、がぜん、やる気を出した。
「ケントにも言っておこう。いつもケンシンばっかり発言してるから。」
と、ダイキが言うと、
「あ、そうだよ、二人で発言してる気がしたけど、ケントの英語、聞いたことないかも。ケントはそういうところも器用よね。」
と、リンも言う。ユウは、
「でも、ケントにもケンシンにも、惚れ惚れしちゃう。元気良くて、楽しそうで。二人が、自分たちは良いもの作ってるって自信持ってるからかな。小学生たちが積極的に参加してるのは、二人のおかげかも。」
「ユウとリンにも熱い視線を注いでますよ、あの子たち。」
と、コウヘイも、あれもこれも仕事を抱えてテンパっているものの、余裕をぶちかまして会話に参加する。
「日本チームの写りの良さ、輝かしいよね。ケンケン、光る君、美女二人、見た目だけでノーベル平和賞取れちゃう。」
リンがうっとり言うので、ダイキが、
「その日本チームには、僕も当然入ってますよね?リン。」
ユウがリンの代わりに答える。
「もちろん、ダイキが一番素敵です。さすが、私が選んだ人です。」
「ユウ、ありがとう。」

 次のリモート会議でユウが発言をしたら、みんなが拍手喝采。リンもコウヘイもケントも、どんどん英語でレスポンス。リンはユーモアを交えるという高度な技まで披露し、大いに会議が盛り上がった。


 それからしばらくwebデザインだ、人事システムだ、教育システムだ、と慌ただしくしていたある日、ユウが緊張した顔をして、
「コウヘイ、お時間がある時に、少しお話を聞いていただけたら、ありがたいのですが。」
「いつでも大丈夫ですよ、ユウ。どこでお話します?」
「ありがとうございます、コウヘイ。どこでも構わないのですが、すぐ近くのコーヒーショップに行ってもらっても良いですか?」

 コーヒーショップで飲み物を買って席につく。
「本人がいない所で人の話をするのは良くないのですが、リンのことです。」
「はい。何でしょう。」
「リンはコウヘイが来てからというもの、あなたのことばかり話しています。最初はいつもの軽口でしたが、途中から『コウヘイにお付き合いして欲しいと頼んだら、きっと自分の願いを叶えてくれるだろう。が、しかし、コウヘイに、好きでもない私と付き合わせるわけにいかないから絶対言わない。』というような、禅問答ばかり聞かされています。」
「・・・」
「明日はリンの二十歳の誕生日です。」
「もちろん知ってます。プレゼントを渡すべきか、渡すにしても何にすれば良いのか、まだ悩んでいます。」
「私は、リンがして欲しいこと全部したい。でも、リンが本当にして欲しいことは、私じゃなくてコウヘイに優しくされることを、誰よりもわかってる私は、これ以上黙って、同じ禅問答が繰り返されるのを聞くだけ、というのが耐え難くなりました。」
「・・・」
「もし、コウヘイが、リンに少しでも好意を持っているなら、明日、どんな形でも良いので、誕生日を祝ってあげてくれませんか。方法はお任せします。」
「・・・」
「私は今この時点で、これが最善の道だと信じてコウヘイにお願いしました。ただそのことでリンが傷つくことになるかもしれません。その時は私は全力でリンを支えます。」

 コウヘイがフラフラしながら社に戻り、ダイキを呼び寄せた。
「ダイキ、私もユウに、方法をお任せされてしまいました・・・」
「え?ええ?まさか子種?」
「えええええ?やめて下さい。私はあなたほど肝が座ってないんです。ノミの心臓なんです。毎日いっぱいいっぱいで、そこにユウにミッションインポッシブルを与えられて、ダイキまでトドメ刺さないで。」
「すみません。僕もユウに方法を任された時は心臓が止まりました。あまりにインパクトがあって、今でも時々フラッシュバックするので、つい今も口から出してしまいました。それで、何の方法を任されたんですか?」
「それが・・・」
コウヘイが、ユウに言われたことを、そのまま再生する。
「ほぼこの通り言われました。どう解釈して良いかわからないので、ユウが言った通り言いました。抜けてるかもしれないけど。どう受け取って良いかもわからないのに、方法なんてわかるわけが無いです。ユウは、私ごときにどうしろと?」
「ユウはコウヘイに、これをこうして欲しいと考えてないですよ。言葉通りです。コウヘイがリンにしたいことをして欲しいのだと思います。」
「あの、強くて賢くて美しい人を、抱きしめて、私だけの物になって下さいってお願いしたら良いんですか?願えばたちどころに最善の方法で叶えてくれるあの人に?」
「お二人よく似てますね。似た者カップル誕生です。二十歳の誕生日に。いかにもリンが夢に見そうなシチュエーションじゃないですか?」
「でも私はリンに告白できるほどの人間になるにはまだまだかかります。一生無理かもしれない。」
「それも言っちゃったら良いのかな。心のうちを全部包み隠さず言って、願いを叶えてもらうのも違う気がしてるって言って。違うかな?どうなんだろう?好き同士の二人が告白し合うって、ものすごくシンプルなのに、なぜインポッシブルなんだろう。前にリンから言われたのは『二人がお互いをよく理解していて、互いに尊敬し合って、尊重し合ってるなら、それで充分』だったかな。」
「・・・」
「ユウが、人を動かそうとするのはあまり見たことが無いんです。ユウは誰かが困ってても、ただ見守っているだけで。それでも、リンがコウヘイのことを好きなのに何もできないでいるのを、見ていられなくなって、コウヘイにお願いしに来たんです。コウヘイ、僕も全力で支えるので、何も考えずに、リンにしたいことをして下さい。応援します。方法はお任せしますよ。」
「えええええええ?」


 そんなこんなであれこれあって、翌日夜、寮で、
「ユウ、ごめんねこんなに遅くなって。」
「全然!遅くなったのも嬉しいよ。うまくいったんだね。とろけそうな顔して。全部話して!!」
「全部聞いて!!」
「まぁまず健康茶でも飲みなさい。」
「あ、喉乾いてた、あのね、まずきれいなレストランに行ってね。」
「まぁ、テンプレ。」
「それでね、それでね、」

 翌日午前中、幸せいっぱいのリンが新規の会社に挨拶と打ち合わせに行った。
「コウヘイ、あなたのおかげで睡眠不足になりましたので、愚痴を聞いていただきたいです。」
「はい、ぜひ!聞かせてください!」
「夕べ遅くにリンが来て、もちろん私もリンを待っていたんですけど、まぁ長いのろけを聞かされて。全く人ののろけを聞かされている時間ほど無駄なものはないですね。でも人が切望していたものが叶った瞬間をリアルタイムで見られて、こんなに嬉しいものなのかと驚きました。そこで、ここからはダイキにもお願いなんですけど。」
「はい、なんでしょう?」
「私もリンにのろけ話を聞かせたくなりました。リンと延々とお互い恋バナをしたら、リンは絶対喜びます。なので、私をダイキの可愛い彼女にしてください。」
「え?はい、もちろんです。嬉しいです。」
半信半疑なダイキ、ホッとするユウ。
「ありがとうございます。リンが嫌がる、変なことを言い出すユウはお休みさせて、キャラクター変更今から大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です!やったー!コウヘイ、ありがとう!僕、棚ぼたゲットだぜ!だよね?!」
「ありがとうございます。夕べからそのことを考えると、結構楽しくて、私は、それにも驚きました。」
「僕も驚いてる、いつから?今からですか?」
「いつからにしましょう?途方に暮れます。キャラ変のタイミング?ハードル高いですね。脂汗が出てきた、そこまで考えておいてから言えば良かった。とりあえず、ラブラブデート?」
「良いですね!昨日コウヘイがたどったコースをなぞりますか?」
「ううっ。きれいなレストランは乗り越えられないハードルかも。そうだ、コウヘイ、ダブルデート、お願いできますか?それならなんとかなるかもしれません。ダイキの可愛い彼女ユウちゃん爆誕です。」
「うわー昇天してしまいそう。」
ダイキはコウヘイとハイタッチ。

 リンが帰って来た。
「ダイキ、引き止められてずいぶん遅くなりましたが新規のN社、大型案件になりました。森企画が初期に手がけたA社やB社の頃から、ずっと森企画が気になっていて、いつかうちに頼みたいと思っていたそうです。N社全て任せたいと言っていただきました。」
「そうですか。それは大手柄ですね。」
「ダイキは、同じような仕事つまらないって前は断ってたのに。」
「はい。でも教育システムで世界に羽ばたくためだったら、喜んであくせく働きますよ。しばらくあっちは持ち出しだから。でも、必ず収益が出る仕組みを作ろうと、ケンシンとアイデアをしぼっています。企業とタイアップして、その企業も収益が上がるように工夫できれば、『三方良し』どころか、八方美人を狙えます。」

 そして迎えたダブルデート当日。
「恋人繋ぎでもします?」
「望むところです。よろしくお願いします。」
ユウがダイキに、柔道の試合前のような礼をして、二人は手を繋ぐ。
「すみません、手汗が出てきました。やはりキャラ変は、私には無理」
「いえ、これは僕の汗です。力加減がわからなくて。今日は展望台に登って夜景を見るコースだそうです。」
「うげっ。」
「ユウ、展望台のチケット買うよー。」
ユウは、ホッとしてダイキの手を振り払い、リンの方に走る。
「はいよ、リン、いくら?高っ!」
追いついたダイキが、
「ここおごっちゃダメなの?」
「それをしたら蔑むってご存知ですよね、ダイキ?」
「ユウ、私はコウヘイに奢ってもらっちゃったよ。」
「リン、ユウを逃げないように捕まえてて。」
ダイキがチケット2枚を大急ぎで買って、無事にエレベーターにユウも押し込んだ。展望台に着いたら、
「きゃーキレイ!!」
とリンとユウが走って窓にへばりつく。
「下見たら怖い!」
「下は見ない!ほら、あれ、東京タワー、キレイ!!」
「うちのビルはどこ辺り?」
「えっと、あの建物があそこにあるから・・」
とあちこち走り回る。コウヘイとダイキが、
「ダイキ、あの可愛い生き物を眺めて、この上ない幸せに浸る自分に酔いしれますね。」
「はい、ウイスキー1本は空けた気分です。まっすぐ歩けるかな。」
リンが、遠くから、
「ねぇコウヘイ、ユウと二人の写真撮って。」
「はい。」
リンとユウが可愛くポーズ。
「今度は4人で。」
「はいはい」
ダイキのスマホで、4人でピースの自撮りをする。
「次はユウ、コウヘイと私の二人のをお願い!」
「らじゃ」
「もう1枚、いや何枚か撮ってて。」
「承知」
コウヘイとリンが、おすましして並んで立つ姿を、ユウが縦にしたり、アップにしたりして撮る。ダイキがこっそり、
「ユウ、次はきっと僕たちだよ。」
「ぎえっ」
「ユウ、ありがと。今度はダイキとユウね、そこ、もうちょっと右、もう少し寄ってくれる?」
と何枚も構図を変えてじっくり時間をかけてリンが撮る。
「私よりコウヘイの方が上手かも。コウヘイも撮ってあげてくれる?」
「いやもう勘弁してあげて。ユウが酸欠で倒れそう。」
ダイキが溺れそうになってるユウを助けてあげる。
「早くここから脱出したい」
「あれ?ユウ、ここのチケットいくらだっけ。もう出ちゃうの?」
「うわっダメだ、もっと元を取らないと。ここ、ボリ過ぎだよね?ってダイキの奢りだった!!でも人のお金でも元は取る。」
と、ダイキとしっかり手を繋ぎながら、あちこち見てまわった。


 そしてそして、ついに、海外出張の日が来た。スイスで開かれる各国教育システムの国際会議に4人で出席する。
「別にわざわざ行かなくてもリモート出席で良いのにね。」
「ユウ、ダイキは私のイメージがモチベーションになったから、キャリーケースをカツカツ引いて歩く、私のイメージが具現化したところを眺めたいんだって。離れた所から撮ってくれてるの。」
「私は撮影許可してないけど?他に写っちゃう人は大丈夫?」
「このフロアなら、観光客のフリして撮れば大丈夫っぽい。ほら、あちこちみんな撮ってる。」
「私、ヒールのある靴履いたことないからカツカツかっこよく歩けないよ。」
「ユウ、あそこの自動ドアまでお願い。この場面終わったら、さっき預かったユウのスニーカー出してあげるから。」
二人して気分をあげてカッコよく歩く。
「ダイキ、どうだった?見せて」
「これでいかがでしょうか?」
「キャーすごい!加工して無いよね。私たちかなりイケてる!」
「すごい、リンのイメージ、本当に再現しちゃった。」
「別角度の動画もあります。」
「え?コウヘイも撮ってくれたの?わぁ!こっちも良い!姿勢大事ね。ヨガやってて良かった!」
「この頃手抜きして、寮で高校のジャージ着てやってたのにね。継続は力なり。」

 さてさて、国際教育プログラム会議。4人全員どうにかこうにか発言できた。
「ユウの教育以前の危機管理。一番反響が大きかったんじゃない?」
「ま、他の人が教育の話してたのに、違うこと言ったから、つめあと残しちゃったかも。」
「リンのも素晴らしかったですよ。『家でもどこでも可能な高等教育』英語が流暢で。」
「ダイキありがとう。カッコよくスピーチする自分イメージをモチベーションにしました。」
「私、コウヘイのも感動した。」
「ユウありがとう。ユウが、これだけは言いたいと英語発言を始めたのを見て、私も、自分がこれだけは言いたいのは何かと考えて原稿を作りました。」
「だからですね。僕も感動しました。傷ついた子供をケアするプログラム。焦ってはいけない、時間がかかっても取り戻せる。会場全体シーンとなって皆、真剣に聴き入っていました。」
「ダイキ、ありがとうございます。皆さんのおかげで私もここまで来れました。」
「僕のセキュリティ関連はどうでした?少しは伝わったのかな?」
「ダイキ大丈夫、伝わってた。わかりやすくて、一斉にみんなメモを取りだしたよ。ダイキのところ、世界で何度も再生されるよ。みんな熱意はあっても、ネットウィルス関連怖がってても、対策の方法がわからなかったり、調べてもネット関連の難しい言葉が出てきて挫折しちゃう人多いから。」
「ユウ、ありがとう。」
「リン、楽しかったね!私も英語のキーワードが少し聴き取れるようになったから、参加してる感あった。」
「ユウ、私も最高だった!仕事ができる風の私たちが国際会議に出席しちゃってる姿に酔いしれた!」

 さてさてさて、慌ただしく帰国して、疲れているのに短めの反省会をするユウとリン。
「だいたいこんな美女二人を目の前に置いて、美しいスイスの山々が見える小洒落た小ぶりのアットホームなホテルで、手も出してこないあいつら何?私は子種欲しいって言ってるのに。」
「ユウ、ダイキもコウヘイも、私たちを大切にしてるのよ。コウヘイは、せめてうちの親に挨拶してからにしたいんだって。愛する人に大切にされる自分に酔いしれるわ。」

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