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はしがき 白狐を従えし者、月下に消ゆ
第四節 転生の刻
しおりを挟む深き闇の中で、安倍晴明は目を開いた。
そこはこの世でも、あの世でもなかった。
白霧が漂う虚空に、ただ星々の残光が浮かぶ。
「……ここは、星の胎か。」
その声に応じるように、光の中から白狐が現れた。
だがその姿は既に、獣ではなかった。
人の姿を模した霊体──巫女の如き衣を纏い、黄金の瞳で晴明を見つめていた。
「主よ。時は満ちました。次なる世へと、御身を送りましょう。」
「転生、か。」
白狐──否、神使は頷く。
「この世界では、陰と陽の理は失われつつあります。だが、魔獣と呼ばれる存在が、式の代わりに力を担っております。」
晴明は少しだけ目を細め、霧の中に幾多の世界が重なるのを見た。
「別の理、別の命……よいだろう。今度はその理を以て、新しき術を紡ぐのみ。」
神使は微笑んだ。
「御身の魂は、魔獣使いとして目覚めるでしょう。その才、必ずや陰陽の道を新たに開かん。」
「ならば、その名を新たに刻むがいい。安倍晴明、陰陽師より──魔獣使いとして。」
そう語ると、晴明の身体は光に包まれ、霧の海に溶けていった。
その光は、やがて異世界の空に、ひとつの流星として現れる。
新たなる命が、幕を開ける。
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