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第二章 極寒の王国~ハイランド王国編~
第三十四話 新たな家族の居場所~ハイランドに隠れていた者たち~(後編)
しおりを挟む環中宮に戻った一行を、静寂と脈動する光が迎えた。
王座の前に立つオべリスの手には、漆黒の短剣が握られていた。儀式の始まりを告げる象徴。
「それじゃ、テイムして上位種に進化させてあげるね。」
その声に、一同が背筋を正す。
「これは、僕の血を一滴を通し、君たちを強くさせる。」
まずは、ギムロックとベルデンが前に進み出た。
ドワーフの誇りと職人魂を秘めた瞳は揺るぎなく、オべリスの前に膝をつく。
「その手で打つならば、魂もまた鍛え上げる覚悟がある。」
オべリスは短剣で自らの掌を傷つけ、滴る血をそれぞれの額へと落とした。
次の瞬間──灼熱の金属音と共に、ギムロックの体が炎に包まれる。
赤黒い光の渦が彼を覆い、甲冑のような岩金属の装甲が身に浮かび上がった。
「種族名はインゴルヴァン・ドワーフだ。」
ドワーフの上位種、炉の精霊と魂を結んだ武具鍛成の使徒。
その姿は、まるで歩く工房のように力強く、周囲に熱気をまとっていた。
彼らの眼差しには、闘志と共に確かな誇りが宿っていた。
次に、ラステンが無言で前に進み出る。
ゴーレムの巨体はゆっくりと跪き、青白い魔石コアが脈動する。
血が触れた瞬間、地響きのような轟音が起こり、ラステンの体表を覆う石が変質を始めた。
煌めく灰青の結晶と、刻まれた古代文字が浮かび上がる。
「種族名は、グランドルム・ゴーレムだ。」
彼の存在はまるで“動く大地”のようで、頼もしさに満ちていた。
続いて、モグラル。
「モグ……(どきどき)。」
小さな体を震わせながら、前に出るモグラルに、オべリスは優しく微笑んだ。
「君のような存在も、未来を担う柱になる。」
血が落ちた瞬間、地中から湧き出るような魔力がモグラルを包む。
地層が螺旋状に浮かび上がり、小さな体は光に包まれて変化していく。
やがて、精緻な岩装をまとった姿がそこに現れた。
耳は少し長く、瞳は琥珀色に輝き、足元からは土の霊気が立ち上る。
「種族名は、エルグノーム・ゴーレムだ。」
「モ、モグ……?」
その声はかすかに高く、どこか知性を帯びていた。
周囲から小さな驚嘆と、微笑が広がる。
最後に、ヴァレックとシヴァルが並び立つ。
ヴァレックの背からは傷ついた翼が広がっていた。
だが、彼の目は誇りに満ちていた。
血が触れた瞬間、闇夜を裂くような風が吹き抜け、彼の体が空気と一体化する。
黒曜石の羽根は鋼のような輝きを帯び、眼差しは冴え渡った。
「種族名は、ソルアルク・ガーゴイルだ。」
その立ち姿は、まさに空と夜の化身だった。
そして──シヴァル。
彼女はオべリスの前で、リネアを背負いながらも真っ直ぐに膝をついた。
「この命は、もう一度与えられたもの。だからこそ、私は未来を守る。」
その言葉に応えるように、オべリスが最後の一滴の血を落とす。
雷と雪が交じり合うような光が彼女を包み、白銀の毛皮がさらに美しく輝く。
両肩には氷の紋が浮かび上がり、瞳には月のような光が宿った。
「種族名は、白銀の雪豹だ。」
リネアがその背で、そっと囁いた。
「……シヴァル……。」
その小さな声に、シヴァルの瞳が揺れた。
オべリスは一同を見渡し、静かに言う。
「君たちは皆、変わったんじゃない。元々、その力を秘めていた。
僕はただ、それを解き放ったに過ぎない。」
光がゆっくりと収まり、環中宮に再び静寂が戻る。
だがその空気は、明らかに“変わって”いた。
それは、覚悟を決めた者たちに与えられた、新たな始まりの気配だった。
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