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1杯目 2年目の春
10 放課後
しおりを挟む「おっはよー!平岡っち!昨日振りだね~!」
「おはよう、入野さん!」
「本、もう読んだ?」
「まだだよ、でもあと半分くらいかな。」
「読むのはや!」
「何系の本なの?」
「ミステリーだよ!」
「ミステリーかぁ!ふむふむ。あたしも名探偵になれかな!キリッ」
「いや、そんなどや顔されても。まぁーなれるんじゃなーい。」
「もー!少しはノッてくれたっていいじゃーん!」
「ホームルーム始まるよー。」
「もー!!」
ーキーンコーンカーンコーン
いつものベンチでは。
「もう桜散っちゃったねー。」
「そうだね。まぁ桜は散ってこそきれいなんだけど。」
「散らない桜もあるらしいよ。なんて言ったかな・・・あっ思い出した!寒緋桜(かんひざくら)っていう桜!沖縄らへんにあるらしいよ!」
「散らない桜かぁ。それは見てみたいな。いつまででも見ていられそう。」
「でも沖縄は遠いなぁ。」
「一緒に見に行けたらいいね!」
「うん、そうだねぇ。ん?今なんて??」
「ねぇ、放課後ひま~?」
塾があるけどまぁ休めるし、いいかな。
「うん。暇だよ。」
「それじゃぁさ!ちょっと付き合ってよ!」
「えっ!付き合う?」
「うん!ちょっと行きたいところあって。」
「あぁ、うん。僕でよければ!」
「よし!決まりねー!!にひひひ!楽しみ~!」
ーそして放課後。
「入野さん、どこ行くの?」
「んー?行ってのお楽しみ~」
「誰かと放課後に出かけるの、初めてだな。ほんとに僕でよかったの?」
「平岡っちだからよかったの!」
「そ、そうなんだ。」
なんだろ。この気恥ずかしい感じは。
「平岡っちは音楽とか聞く?」
「うーん。あんまり聞かないかな、今のポップな曲とかは。」
「安藤先生のドラマ化した曲とかは聞くけど、なんで?」
「いや~、サラサーテ知ってるからクラシックとかも聞くのかなぁーって。」
「あー、うん!どっちかというとクラシックの方が聞くかな。」
「ふむふむ。誰が好き?どんな曲とか?」
「そうだなぁ、ベートーヴェンとかフォーレとか、かな。王道かもだけど。」
「ほほう!なかなか通ですなぁ。ベトちゃんだったらどの曲が好き?」
ベートーヴェンのこと、ベトちゃんって略すの!?
「運命とか月光とかが有名どころだけど、僕は熱情が好きかな。1楽章もいいんだけど、2楽章の落ち着いた雰囲気から急に始まる3楽章の荒々しい感じがめちゃくちゃ好き!」
「あ、ごっごめん!また早口で喋っちゃった。こんなのキモいよね。」
「ん~~~!!わかる!!わかりすぎてもう涙出る~!!」
「え、わかるの??」
「わかるよ~!あたし、こう見えてピアノ弾けるんだから!」
「そうなの!?それはまた突然のカミングアウトだね。」
「あの3楽章のごっつい感じとか病んでる~って感じとか最後の弾き切れる感じとか、もう最っ高~にアゲ~!!って感じ!」
こんなに早口で喋る入野さんにかなり圧倒される。
「それは僕もめっちゃわかる!!」
「にひひひ~。やっぱり平岡っちについて来てもらってよかったぁ~!!」
「着いたよ!ここ、楽器店、楽譜買いに来たの!」
「あぁ、なるほどね!」
「楽器店は初めて来たな。何の楽譜買いに来たの?」
「特に決めてはなかったけど、平岡っちと話してるうちに決めた!熱情、弾いてみる!!」
「大丈夫?かなり難しいって聞くよ?」
「大丈夫!3大ソナタの2つは弾いたことあるからちょうどよかったんだよ。挑戦してみる!!」
「楽譜あった!会計してくるね~!」
あの入野さんがこんなに話してくれるなんて相当好きなんだろうな。
ピアノ弾く姿はあんまり想像できないけど。
「お待たせ~!」
「それじゃメテオバックス寄ってこー!なんか喉乾いちゃったー!」
メテオバックス。それは陽キャや仕事できますよ的な人が集まるカフェ。
「あーうん。行こっか!」
流されるまま来てしまった。
おしゃれだー。僕とは無縁の世界。
「あたしマンゴーフラペチーノで!平岡っちはー?」
「あ、えーっと、僕も同じので。」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
「平岡っち、もしかして初めてでしょ?」
「初めてだよ~。」
「だと思った!あたしの奢りね!付き合ってくれたお礼!はい!どうぞ!」
「ありがと。」
「今日はありがとねー。あたしに付き合ってくれて!」
「入野さんの頼みだもん。いつでもいいよ。」
「なにそれ!これから放課後デートいつでもしてくれるのー!平岡っち積極的~!」
ほ、放課後デート!?
今更気づいた。これはデートだ。放課後デートだ。
今僕は入野さんと放課後デートしている!?
なんだこの状況!?意識してしまう!?
「うそうそ~!でもまた付き合ってね~!」
うそなのか?
もう寿命が縮まる~。
でもまたこうして放課後に遊ぶのも悪くない。
入野さんともっと一緒にいたいから。
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