愛していると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?

セトガワ

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腐った香水

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アーサー・ロルトニア
【総合値-452】
 
【侮蔑】-95
【悪意】-92
【画策】-90
【利用】-88
【嘲笑】-87

 酷すぎる!
 これで、婚約者候補サブパートナーなのだから驚くよね。
 この世界、一度婚約すると破棄のハードルが高い。
 そのため、サブパートナー制度で、本物の婚約者を選ぶ猶予期間がある。
 数人くらいは、候補を作れる。
 ソラリスには四人いた。
 その内の一人が、アーサーだ。
 あちらにも、サブパートナーは複数いる。
 ただ互いの親の意向もあり、ソラリスとアーサーは婚約のプレッシャーを強くかけられていた。

「アーサー様よ、素敵ねぇ……!」
 
 女子たちが自然と集まってくる。
 熱視線は、常にアーサーに送られている。
 みんなに注目されたのを確認したアーサーは、私の前でなにかを取り出す。

「今日は大切な君に、大事なプレゼントがあるんだ」
 
 蓋のされた小ビン。
 厚めの吹きガラスで作られており、正面には金細工が施されてある。
 盾と咆吼する獅子を組み合わせたもので、これは王家の紋章を示す。
 中には、薄緑色の液体が入っている。

「王家が愛用する香水だよ。君のために、特別に調合させた。好きに使ってくれ。君のような高貴な人に、ふさわしい」
 
【Gap100%】

 このイベント、よく覚えている。
 中身はスカンク草という、臭い草の絞り汁だ。
 蓋を開けた瞬間、ソラリスが恥をかく。
 この男は、ソラリスからパートナー解消するように仕向けている。 
 悲しいのは、原作ではソラリスは四人のパートナーたちに重度に依存していた。
 いわゆる、メンヘラだった。
 アーサーも、ソラリスを操れると高をくくっている。

「嬉しいですわ、アーサー様。でもその香水、とある草の絞り汁に似ていますわね」
「ッ!? ……し、絞り汁とは? 意味がわからないよ」
「失礼。そんなわけありませんわね。話は変わりますが、少し手首を見せていただけます?」
「……こうかい?」
 
 話は変わってないんだよね。
 私は素早くビンの蓋をあけ、ちょんとアーサーの手首に香水を少しつける。

「うわ!? なにをするんだ!?」
「あら、お揃いの臭いにしようかと思いまして」
「いや、その……お揃い——ウッ!?」
 
 少し遅れてやってきた臭いは、想像以上にキツい。
 馬糞にドブ川の水をかけ、さらに使い古した油を混ぜたような——要するに意味わからないほど臭い。
 私はすぐに蓋を閉め、アーサーから離れる。

「あら、素敵な香りですわね~」
 
 ハンカチで鼻を押さえつつ、感想を述べた。
 
「そ、そうだろ……。気に入ってもらえて嬉しいよ。それじゃ、僕はもういくね」
 
 アーサーは脱兎の如く走り出す。
 すぐにでも洗い流したいのだろう。
 彼に盲目な女子たちですら、残り香に顔を歪ませる。

「なんか臭くない?」
「アーサー様の……? そんなわけ、ないよね」
 
 
 私は学校に入るとゴミ箱に小ビンを捨て——ようとして、手が止まる。
 待てよ。
 悪意が-92、画策が-90だった。
 単なる嫌がらせにしては、数値が高すぎない?
 イベントでは、これを回避すると小ビンをアーサーに返す内容だった。
 でも私は回避したものの、まだ持っている。
 もしや……。
 捨てることまで考慮してるのでは?
 誰かに捨てるシーンを見られたとして。
 王子からの贈り物を捨てた不敬な女。
 そういうレッテルを貼れる。
 周囲を確認すると、物陰からこちらを覗いている男子がいた。
 目が合うと、わかりやすく下を向いた。

「そこのあなた、動かないで!」
 
 逃げられそうだったので、先制した。
 相手は動揺している。
 小走りで近づき、質問をぶつける。

「そこで、なにをしていたの? 私の行動を監視していたのかしら?」
「なんの話か、よくわかりません。僕は外を見ていただけです。失礼します」
 
【Gap100%】
 嘘つきだと頭上に表示させ、彼は走り去っていく。
 
「ふー、危ない、危ない」
 
 あやうく引っかかるところだった。
 
 ☆

 昼休みになると、私は食堂の一番目立つ席を陣取った。
 取り巻きのご令嬢たちが、周りを囲むように集まってくる。
 本人の意志もあれば、親に私とは仲良くしろと命じられているパターンもあるだろう。
 ソラリスの家は、王都のみならず、国の経済にも相当な影響を与えているからね。
 取り巻きの【Gap】も酷いけれど、いまは利用させてもらおう。
 
「ソラリス様。アーサー様に、なにか頂いたと聞きました」
「これよ。素敵でしょう?」
 
 私は例の小ビンを、懐から取り出して見せる。
 高級な王家のビンに、どこか幻想的な薄緑色の液体。
 開けたら地獄だと、予想できる令嬢がいたら友達になりたい。
 
「まあ! 幻想的ですわ~」
「そうでしょう。アーサー様が、私のような高貴な人にふさわしいって!」
「きゃあ~! 羨ましいです!」
 
 これは嘘じゃない。
 取り巻きたちのチャートは、いまのところ嫉妬がぶっちぎりで高いしね。
 
「ソラリス様は、やっぱり溺愛されていらっしゃるのね。もう婚約は確定みたいなものですわ!」
 
 恋バナに色めき立つ令嬢たち。
 どこの世界も、あんまり変わらないのかな。
 私はニコニコと機嫌良さそうにしていると、視界の端にアーサーを捉えた。
 食堂の入り口で、こちらを睨んでいる。
 顔色が悪い。
 まだ臭いが取れてないのかな。
 気になるのは、チャートの項目が入れ替わっている。

【焦燥】-90
【困惑】-88
【画策】-86

 ん?
 小ビンを捨ててないことに焦っている?
 または、臭いと知ってて自慢している私が理解できないのか。
 どっちにしても、この小ビンは絶対に回収したいはず。
 そのために、悪巧みを考えている感じか。
 逆に私の方は、監視の目を外したい。

「ねえ、一つお願いがあるの。あそこにアーサー様がいるでしょう。彼の注意を引きつけておいて」
「構いませんが、どうしてですの?」
「これをつけて、彼の前にいきなり現れたいの。だから、私を見ないように。ね?」
「任せてください。いきましょう!」
 
 女子たちが一斉に立ち上がり、アーサーの元に駆け寄る。
 わちゃわちゃとして、こちらの注意を逸らす。
 その隙に反対側から出て、誰もいない体育館の裏庭に向かう。
 あとは、アーサーに見つからないようにする。
 少し、昼寝でもしようか。
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