愛していると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?

セトガワ

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それサクラでしょ

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【Gap30%】で設定しました。
 あんまり敏感だと、社交辞令とかにも反応するので戻しておく。
 それにしても今日は生徒が少ない。
 その原因は、すぐにわかった。
 廊下に人だかりができていた。

「肩が痛いって言ってんだろ、治療代払えよ!」
 
 三人組の男子が、気弱そうな生徒に詰め寄っていた。
 ヤンキーとは言わないが、ここにも不良みたいな生徒はいる。
 絡まれてしまったのだろう。
 
「ごめんなさい、許してください……」
 
 必死に謝ってはいるものの、興奮した男子たちは胸ぐらを掴む。

「だったら一発殴らせろ!」
 
 男子が右手を振り上げたとき──

「もうやめなよ」

 涼しげな声音と共に、拳を捕まえた生徒がいた。
 清潔感のあるライトブラウンの髪に、エメラルドを彷彿とさせる瞳。
 女子よりも滑らかな肌に、均整の取れた体型。
 爽やかを極めたような美少年——バイスだ。
 
「どうしても怒りが治まらないなら、僕を殴ればいい」 

 バイスは相手の手を離すと、殴られる準備があるとばかりに頬を少し向ける。
 それでも瞳は、相手をしっかりと見据えている。
 そこに精神の強さを感じる。
 不良もしばらくは睨んでいたが、結局は自ら目を逸らす。

「チッ、シラけたぜ。もういい」
 
 不良たちが立ち去ると、野次馬たちから拍手や歓声が起こった。
 でもバイスはそんなの気にかけることもなく、気弱な少年の元へ。

「怪我はない?」
「は、はい。バイスさんのおかげで、助かりました……」
「うん、よかった。また彼らになにかされたら、僕のところに来なよ。君を守るから」
「ありがとう、ございますぅ……!」
 
 少年は感動して、目尻に涙を浮かべる。
 感化されたように女子たちも軽く泣き出す。

「バイス様ぁ……」
 
 四人のサブパートナーは、全員人気がある。
 その中でもトップを決めるなら、このバイスになる。
 女子だけでなく男子からの人望も厚いのが特徴だ。
 
「みんな、どいて。僕の大切な人が登校してきたみたいだ」
 
 目敏く私を見つけ、バイスがこちらに走ってくる。

「おはよう、ソラリス様! あ、なにか付いているよ」
 
 肩口についた糸くずを、バイスは指で優しく取り除く。
 パーフェクトスマイルを浮かべながら。
 私が礼を述べると、彼は手を繋いでくる。

「教室まで送るよ」
 
 同じ学年だけど、クラスは違う。
 手繋ぎは断ろうと思ったが、変に拒否感を出すのも不自然か。
 というのも、原作のソラリスは彼に最も夢中だった。
 他の三人とは違って、バイスには原作通りのキャラで攻めた方がいい。
 警戒心を持たれたくない。

「先ほど、すっごくカッコよかったですわ! あんな人たち相手に、怖くないのですか?」
「……恥ずかしいけど、すっごく怖かったよ。ほら」
 
 そう言って、彼は震えた手を見せてくれた。

【Gap100%】

 でしょうね。

「では、勇気を振りぼって行動したと……。ますます素敵ですわ!」
「ああいうとき、僕はいつもこう考えるんだ。もし襲われているのが大好きな人だったら? すると、不思議と力が湧いてくる」
「そ、その、大好きな人って、誰ですの……?」
 
 どこか不安そうな表情を作り、私は尋ねる。
 視線はわざと相手からズラしておく。
 バイスは少しの溜めを作ってから、私の手の甲に短くキスをする。

「そんなの、ソラリス様に決まっているよ。大好きだよ」
「——ぁあぁああ~~!」
 
 自分でも意味不明な声を出しておく。
 
【Gap100%】

 しかしこの男、息を吐くように嘘をつく。
 さっきの不良だって、お金で雇って襲わせたはずだ。
 階段を上ると、踊り場のところに可愛い女子がいてバイスに話しかける。

「あのバイス様、今日の放課後ってお時間ありますか?」
「放課後は無理かな」
「じゃあ、明日でもいいです」
「明日も難しい。なにかあるなら、ここで言ってもらえる?」
 
 私に比べると、明らかに塩対応している。
 女子は私の方が気になるようで、チラチラと視線をよこす。

「ソラリス様もいらっしゃいますし……」
「ハァ……。悪いけど、本気で伝えたいことがあるとは思えないな」
 
 冷たく告げて、バイスが動き出す。

「あー、わかりましたわ。私、耳を塞いでいます。手短にお願いしますわね」
 
 指を耳に突っ込む。 
 ちょっとだけ緩めて、少しは聞こえるようにする。
 これに相手の口の動きを合わせれば、内容はわかる。
 女子は、深呼吸した。

「……バイス様にとって、ソラリス様が一番なのはわかります。でもわたし、どうしても諦めきれないんです!」
「なんか、誤解を招くね。諦めきれないとは?」
「ずっと好きなんです! 何年も前から!」
 
 女子の顔が紅潮している。
 Gapも反応しない。
 不良と違って、バイスのサクラってわけじゃなさそう。
 異常にモテるもんね。
 モテ男バイスは、女子に見せつけるように私の肩を抱き寄せる。

「君の気持ちには応えられない。僕が好きな人は世界に一人だけ。これが、答えだよ」
「うぅ……。わかり、ました……」
 
 女子は声を震わせ、顔をくしゃりと歪めた。
 私たちに背中を向けて、走り出す。
 少し可哀想だな……と横をみる。
 一秒。
 いや、もっと短いかもしれない。
 バイスの口角が上がった気がした。
 念のため、女子のチャートを確認する。

 フィルン・ラスタード
【総合値】-426

【嫉妬】-94
【憎悪】-93
【欺瞞】-90
【優越】-89
【侮蔑】-60

 欺瞞? 優越?
 なんでこんな項目になるの?
 レーダーチャートは私に対するもので構成されている。
 つまり、彼女は私を騙そうとしていた。
 さらに優越感も覚えている……。

 ——そういうことか!?
 バイスの態度と合わせて理解した。
 あの子もまた、サクラだ。
 でも金で雇われたのではなく、本気でバイスのことが大好きなのだ。
 さっきの告白も本気だから、システムが拾わなかった。
 優越感は、裏でバイスと繋がっていることから。
 共犯者みたいな感覚か。
 しかし、女心を弄ぶの真骨頂だよね……。

「もういいよ。というか聞いてたよね?」
 
 そっと、耳を塞いでいた私の指を外すバイス。
 
「聞くつもりはありませんでしたわ……。でも思ったより声が大きくて」
「公爵家ほどじゃないけど、うちの家も成功している。そういうのに惹かれる女子は多いみたいでね」
「家柄じゃなく、バイス様本人の魅力ですわ」
「魅力か……。僕は貴女にだけ通じる魅力が欲しいよ」
 
 バイスは涼やかな目元で私を見つめ、髪を指で優しく梳かしてくる。
 私は感極まったように彼の腕を抱きしめ、頬ずりした。
 やりたくないんだけどね!

 さて、ここからが大変だ。
 最初の大壁──
 原作でのバイスは、そう呼ばれていた。
 ゲームをプレイした初心者たちを悉くバッドエンドに送り込んだからだ。
 でも残念。
 私にあなたの初見殺しは、通用しない。

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