【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

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第一部

24話 カッコいいこと

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 翌る日の朝のことである。


「──すると突然、穴掘りをしていたベルちゃんが、私に向かってお喋りをし始めたんです」
「うん、うん!」

 この日、会社近くの道でバッタリ出会ったジニとマーシアは、先日彼女が見た夢の話で盛り上がっていた。

「そして……うふふ。そのベルちゃんの声が、とってもよく知っている方の声だったもので、私、夢の中で驚いてしまったんです。エラ様、一体どなたのお声だったと思いますか?」
「えっえ~? だーれだろ~う??」

 マーシアの目は、穴が開きそうなほどにジッと、ジニのことを見つめている。

 ジニだって大体分かっているのだ、その声の正体が誰なのかなんて。
 けれどもあえて、こうして分からないフリをし、彼女の前ですっとぼけてみせている。
 

 なぜならば──


(こうすることによってウォルジーが!! 俺のことを見つめてくれるからです!! あ゛あ゛あ゛!! もっと!! もっともっと、その丸いキラキラした瞳で、俺を見つめてくださああああい!!!!)


 彼の胸中が、ずっとこんな調子だからである。
 

「正解は……何とエラ様、あなたのお声だったのです!」

 マーシアの弾んだ声で我に返ったジニは、彼女の話に合わせて驚いたフリをする。

「ええ~!? いや~、マジかよ~!! そりゃ予想も付かなかったわ~~!!」
「うふふ、まさかご自分だとは思いもしませんものね。ベルちゃんの姿でお喋りをするエラ様、何だかおかしくて、可愛らしかったですよ」

 それを聞いたジニの口角は、片方だけピクリと反応した。

「可愛っ……?! ……か、可愛かった? 俺?」 
「はい!」
「えっ……へへ~! そ、そうか~! えへ、えへえへえっへへへへぇ!!」
「うふふ」
「えへへへへへへ…………」

 ジニは笑った。ひたすらに笑った。
 笑っていないと、可愛いと言われたことへの嬉しさに感情が爆散し、理性が保てなくなってしまいそうだからである。



 ****



(ヤバいヤバいヤバいヤバい…………!!)


 本館でマーシアと別れるなり、ジニはヘタリとしゃがみ込んだ。

 彼がヤバがっている原因は、他でもない。
 恋焦がれる可愛いあの子、マーシア・ウォルジーさんとのことである。


"マーシアに、自分を好きになってもらう"


 その決意をしてから、早いもので一週間以上が経過していた。

 ジニはマーシアへの恋を自覚して以降、日に日に彼女に対する想いが強くなっていった。
 となれば、マーシアに自分の良いところを見せるなり、デートに誘うなり、彼の性格上どうにでもアクションを起こせそうなものなのだが、それが何と全く出来ていない。

 その理由は、これである。


(なあああ、もうダメだ!! 最近ウォルジーと話すと舞い上がっちゃって、全っ然会話が続かねぇ!!)


 そう。

 想いが強くなった結果、ジニがマーシアにデレデレしすぎていちいち会話の合間にオーバーリアクションを盛り込んでしまうため、二人の関係を進展させる重要な話題を入れられる余地がないのだ。

 一応、ジニも頑張ってはいる。
 感情を抑えたらすぐに気持ちを切り替え、あわよくば食事の一つにでも誘えるような話題を頭の中で用意し、次へと臨んでいるのだ。


 だが。


『エラ様!』

(はわわわわ~~ッ!!!!♡♡)
 

 困ったことに、マーシアの笑顔を見るとそれだけで彼は一発ノックアウト。語彙を失う。
 だから、結局いつだってデートの誘いにはこぎ着けられず、彼女の笑顔に悶絶しながら、ただ必死で理性を保つことしか出来ないのである。

 そんな具合なので、現状ジニはマーシアに良いところを見せられるわけでもなく、デートに誘えるわけでもなく、ただひたすらにマーシアという光を摂取して生きる、哀しき光合成野郎と化しているのだ。

(こんなんでウォルジーが俺のこと好きになるかぁ!! せめて何か、アイツの前でカッコいいことの一つでも決めてやんねぇと、俺は一生"ベルちゃんみたいな男"としか見られねぇぞ!!)
 
 何せ彼女の夢にて、とうとう自分とベルは融合を果たしてしまったのだ。
 彼女の中で、自分に対する犬の印象がますます強まっているに違いない。
 
(でもなぁ……。カッコいいことっつっても、何したら犬から脱却出来んだろう……)

 ジニは自分の思うカッコいいことについて、真剣に考えてみた。
 
 軟派な台詞で女性を口説く。スーツを着こなす。 煙草を吸う。酒を呑む。喧嘩が強い……。


「絶対違う!!」


 思わず声に出た。
 これではただのチンピラである。

 結局、カッコいいことに関しても上手く定められず、ジニは頭を唸らせた。


「ねえ、エラ君。そこで何してるの?」
「わ゛あ゛っ!?」


 唐突に誰かに声をかけられ、ジニは肩を跳ねさせる。

「……あ、何だ。ブラウナーか」

 声の主はアデルだった。
 アデルは訝しげにジニを見下ろし、眉根を寄せている。

「そうだよ。それより、こんな廊下でうずくまっちゃって、どうしたの? お腹痛いの?」
「違う。俺は今、猛烈な悩みを抱えてんの……」
「……えっ、悩み……? エラ君が、悩み……?」

 アデルは信じられないと言った風に口元に手を当て、張り詰めた表情でジニを見据える。
 
「俺がとは何だよ!」
「だって、エラ君悩みを抱えるような人には到底見えないから……。な、何があったっていうの?」
「お前、結構言うのな……。いや、実はさ──」
 
 
 ジニはかくかくしかじか、アデルに事の経緯を話した。


「──ふーん、なるほど。マーシアの前でカッコいいことをして、自分に振り向いてもらおうと」
「そう! 女の子って、どんなことしてもらったら、ソイツのことをカッコいいって思える? ちなみに、ブラウナー的にはどう?」
「うーん。そうだなぁ……」

 アデルはしばらく小首を傾げて考え、やがて顔を上げた。

「自分の代わりに重い物を持ってくれるとか、困っている時に手を差し伸べてくれるとか、そんな小さな優しさを与えてくれる人が素敵って思うかな」
「はっ?! そんな地味なことで?!」

 ジニは仰天した。
 そんなことを出来る人物なら善人ではあるだろうが、カッコいいとはまた違う気がする。
 
「あのねぇ! 地味かもしれないけど、それってすっごく大事なことなんだよ!? 優しさの欠片もない男の子を好きになる女の子なんて、この世に存在しないんだからね!」

 ジニの発言に機嫌を損ねたか、アデルは若干怒り交じりに彼に言葉を返す。

「ごめん、ごめんって! じゃあ何だ、つまりそういう小さな優しさを見せられると、女の子はキュンッてするってことか?」
「ときめくかどうかは分かんないけど、少なくとも印象はいいと思うよ。今度マーシアが困ってる時に、さりげなく助けてあげたら?」
「確かに、絶対良い奴のほうが好きになってもらいやすいもんな。俺の印象を、犬から人間に格上げするのにもピッタリだし!」

 ジニはグッと拳を握りしめた。
 そんな彼の様子を眺め、アデルはポツリと呟く。

「……エラ君、本当にマーシアのこと好きだったんね」
「何ぃっ?! そりゃどういうことだ!!」

 突然のアデルからの指摘に、ジニは顔を真っ赤に声を荒げる。

「いや……申し訳ないけど、エラ君がマーシアに対して、遊び感覚で付き合ってるところがあるんじゃないかと疑ってたからさ。でも、今の話を聞く限り、思ってたより凄い初歩的なことで悩んでたから、ちゃんとマーシアと関係を積み重ねようと努力してたんだなって思って……。ごめんね、勝手にエラ君の想いを疑ったりして……」

 アデルは感慨深そうにジニを見つめた。

「……それ、謝ってるのか? 貶してるのか?」

 ジニは少々疑問に思い、アデルに睨みを利かせる。

「とにかく、マーシアのことが本気って知れてよかった! 陰ながら応援してあげるから、頑張ってね!」
「うぅっ! サンキュー、ブラウナー!」

 アデルはジニにエールを送り、工房へと去っていった。


「よしっ!」
 

 早速、ジニはアデルの助言を実行に移すべく、気合いを入れた。
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