【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

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幕間短編

タンゴイ調達記 8

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  ****


 ここは、ロドエはケンドラ州にある平凡な街、ウィノア市。にある、魔法製品製作会社ハイネ・カンパニーの本館。

 そこに、顰め面でイーノックに話しかける少年が一人。

「ねぇ、マーレイさん。魔材調達部って、いつタンゴイから帰ってくるんですか?」

 誰かと言えば、ジニこのおとこである。

 彼はもうかれこれ二週間以上、タンゴイ遠征に行ってしまったマーシアと顔を合わせられていない。

 彼女に会いたすぎて、話がしたすぎて。
 とうとう痺れを切らしたジニは今日、本館にある魔材調達部の執務室に向かい、イーノックをとっ捕まえてタンゴイ遠征組の話を聞こうとしていた。

「そうだなぁ。皆んながタンゴイに行って、今日でちょうど二週間だろ? 部長からは二週間の滞在って伝えられてるし、そろそろ帰ってくるんじゃないか?」
「えー、アバウトだなぁ! じゃあ帰ってくんのに、もう何日かかかる可能性もあるってことですか?!」
「まあまあ、そんなに焦るなよ。遅かれ早かれ、ウォルジーちゃんは必ず帰ってくるんだからさ」
「べっ!? べべべ!? 別にウォルジーのこと待ってるとか、そんなことねぇし!! ってこともねぇけど……。いや! ねっ、ねぇし!! ねぇし!!」

 イーノックに内兜を見透かされ、ジニは狼狽え舌を噛みながら、必死で誤魔化す。

 と、その時。
 執務室の奥から電話の音が聞こえてきた。

「……はい、こちらはハイネ・カンパニー魔材ちょうた……おや、部長。ええ、ええ……おや、そうですか。ええ……」

 電話に出たアシュリーは、時折相槌を打ち、相手の話に耳を傾ける。
 そして、電話が終わると彼はジニとイーノックの元にやってきて、内容の報告をしてくれた。

「エラさん。たった今、モンド部長から連絡がありました。遠征に行かれている皆は、明日、ロドエに帰国するそうです」
「マジっすか!」

 ジニは拳を振りかざす。

 ようやく、マーシアに会える。
 そう思うと、彼の心の中でファンファーレがやかましいくらいに鳴り響いた。

「ですが、皆遠征で疲れているので、休みを取ります。出社は、早くて三日後くらいですかね」
「へええぇ…………」

 心のファンファーレが、途端に悲哀に満ちた音楽に変わる。


 ****


 そんなこんなで、数日後。
 本館の通路にて。


「ウォルジーーーー!!!!」
「! エラ様、おはよ……」
「ウォルジー、久しぶり! 元気だったか? タンゴイいる間、風邪ぶり返さなかったか? 飯はちゃんと食ってたか? よく眠れたか? 疲れは溜まってないか?」
「あわわわ……え、えぇと……」

 出会い頭にジニから矢継ぎ早に質問され、マーシアは困却した笑みを浮かべる。

「大丈夫です。諸々、何も問題ありませんでした」
「そりゃよかった!」

 ジニは大いに息を吐き、安堵の表情を見せる。

「マーシア、戻ってきたの!?」
「アデル様! お久しぶりです」
 
 ちょうど、アデルもやってきた。

「そうそう! お二人に、お土産があるんですよ。今、お渡ししますね」
「えっ、本当!? やったぁ!」
「えー! いいのかよ!」

 キャッキャと沸いている二人の横で、マーシアは手に持つ大きな手提げ袋をキャビネットに置くと、中の土産物を取り出す。

「アデル様には、こちらを」
「わっ、素敵な扇! こんな良いものいただいちゃっていいの?」
「うふふっ、勿論です。日頃の感謝も込めていますので」
「わーい! マーシア、ありがとう! あ~、仰ぐといい風来るよ~!」

 アデルは早速扇子をはためかせ、気持ち良さそうにうっとりと目を細めた。

「そして、エラ様にはこちらのものを」
「えっへー! 超楽しみ!」

 ジニは、ワクワクと胸を高鳴らせる。

 
「よいしょっ、と……」

「……ん? ウォルジー……何、それ……?」

 
 マーシアが手提げ袋から取り出した物を見て、ジニは顔を顰めた。


「はい。こちらは、【木刀】です! 土産物屋の店主様から十代の男性に人気が高いとお聞きし、即決で購入してしまいました!」
「ぼ、ぼぼぼ、ぼくとう……?!」

 ジニは呆然と、ニッコニコ笑顔のマーシアから木刀を受け取る。


「エラ様、いかがでしょうか?」
「え、ああ……凄いな、これ……。表面スベスベでね……しっかり丈夫そうでね……」

 心ここにあらずな面持ちで、ジニは木刀を無心で撫で付ける。

「実は、木刀を一目見た瞬間に、エラ様のお好みなのではないかと直感が働いたのです! うふふ、お気に召してもらえたようで、よかったです」
「……あ、そう……。俺って、木刀好きそうな男に見えるんだあぁ……」

 遠い目をするジニの横で、アデルは必死で笑いを堪え、プルプルと肩を震わす。


(そういうの、十四歳で卒業したんだけどな……)


 自分はまだマーシアに、木刀を手にしてはしゃぐ年頃の少年だと思われているらしい。
 ヒュルリラと、冷たい風が身体を吹き抜けたような気がした。
 
「エラ様。こちらは思わず決闘心を焚き付けてしまう見た目をしていますが、いつかのゴーレムちゃんのように、決して乱暴なことに使ってはいけませんよ」
「使いませんとも…………」


 もっと、大人の男になろう。
 ジニはそう心に決めたのであった。


 ****


 その日の仕事終わり。
  

「ところで、ウォルジー。タンゴイ調達はどうだった?」

 ジニはマーシアの顔を覗き、目を輝かせながらそう問うた。
 
「はい。それはそれは……色々なことがたくさんありました」

 マーシアは楽しかった旅の思い出に記憶を馳せ、空を仰ぐ。
 つい先日帰国したばかりなのに、すでに懐かしい気持ちが溢れてくる。

「マジ? どんなことがあったのか聞きたい! 聞かせて、聞かせて!」
「うふふ、勿論! ではまず、どれからお話しましょう……。人力車に乗った時のお話か、一日目のお宿でいただいた、熊鍋のお話か……」

 サラッととんでもないワードが聞こえ、ジニはギョッと目を開く。

「はっ、クマ?! クマって、あの熊?!」
「はい! 森に棲んでいる、あの熊です!」
「ちょおおっ!? おっ、お前! なんちゅうもん食ってんだよ!!」
「ええっ?! で、ですが、とっても美味しかったですよ……?」
「いや、美味いとか美味くないとか、そんなんじゃなくって!!」

 自分の目の前にいるお嬢様が、珍味を食べることに慣れすぎている。
 ジニは、開いた口がしばらく塞がらなかった。
 
 ちなみにこの直後、マーシアはジニに、朝食に出たドデカオオサンショウウオの干物の話もとしてあげた。
 彼が卒倒寸前になったのは言うまでもない。


 そしてその後も、ワビシ村での一時に、いなり寿司作り、妖狐の櫛がけイベント……。
 積もる話を、マーシアは終始楽しそうにジニに語った。
 
 ジニもまた、彼女の話を聞いて困惑したり突っ込みを入れたりしながらも、大口を開けてずっと笑っていた。

  
 異国の地、タンゴイでの思い出。
 
 それはマーシアの心にいつまでも残る、甘酸っぱくてもふもふな、何とも愉快な旅の記憶。


【タンゴイ調達記・完】

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