【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

文字の大きさ
62 / 62
第二部

13話(52話) 大いなる前進

しおりを挟む
 
 ****



 数日後、仕事終わりのマーシアは、ハイネ・カンパニー製作工房に顔を覗かせていた。


「……カルリエド様……!」
「ウォ、ウォルジーさん……。どうしたの……?」
「カルリエド様。今、お時間よろしいですか?」


 何故なら、ファビオにどうしても伝えなければいけないことがあったからだ。


 二人は先日と同じベーカリー横の椅子に座った。


「……話って、何?」
「はい。先日のお話に誤りがあったので、そちらを訂正しに参りました」
「……? て、訂正……?」

 訳も分からず目を泳がせるファビオに対し、マーシアはポツリと言葉を溢す。

「先日お話をお聞きした際、カルリエド様、おっしゃっていましたよね? 寝ても覚めても、アデル様の笑顔が頭に浮かんでしまうと」
「う、うん……」
「それに対し、私はあなたが潜在的にアデル様とお友達になりたいと思っているのではないかとのアドバイスをいたしました。ですが、それが間違っていたのです」
「え……?」

 ファビオはキョトンと訝しげに眉を顰める。
 マーシアは小さく一息吐くと、彼を見据え、こう言い放った。

「カルリエド様は、アデル様に恋をしているのだと思います」
「……こ、恋……?」

 他人のことながら、心臓がドキドキする。
 マーシアは平静を装い、言葉を続けた。

「恋をすると、ふとした時にその人のことが頭に浮かんでしまうんです。笑ったお顔が愛しくて、ずっと頭に描いてしまうんです……」
「……そ、そ、そんな……」

 ファビオの唇は震えている。
 それがどんな感情を表しているのか、見ているだけでは判断が付かなかった。

「アデル様とお話しがしたかったというのも、彼女に会って会話をし、彼女のことをもっと知っていきたいという、気持ちの表れなのだと思います」
「…………」

 ファビオは何かを考え込むように、黙りこくってしまった。

 
「……俺、今まで友達らしい友達なんて出来たことなくてさ……。だから、友情がどんなものかって、よく分からないんだ……」

 
 そして、彼はゆっくりと寂しげに言葉を紡ぐ。

「まさか、ブラウナーさんに抱く感情が、恋愛感情だなんて思わなかった……。てっきり、俺の中に初めて芽生えた、友情意識なんだとばっかり思ってたから……」
「……カルリエド様……?」

 ファビオはふっと視線を落とす。
 どことなく、その表情には翳りがあった。

「……どうしよう……。俺なんかが、人を好きになっていいわけいけないのに……」
「えっ……?」

 ファビオの衝撃的な発言に、マーシアは思わず息を呑む。

「い、一体どういうことですか? 人を好きになってはいけないだなんて……」
「だって俺、交じり者バインシーだよ……? 普通の人間じゃない。蝙蝠としても生きる、気味の悪い、呪われた人間……。そんな奴が誰かを好きになるだなんて、ダメだ……。おこがましいにも程がある……」

 ファビオは俯いたまま淡々とそう話すが、その声色に悲しみが含まれていることは、まるで手に取るように分かる。

「カルリエド様、そんな……そんなことをおっしゃってはダメです。オグデン部長からお聞きしました。あなたは今、少しずつ幸せになろうとしているのだと……。それなのに、自らを貶めるような言い方をなさっては……」

 マーシアはファビオを悲痛の面持ちで励ますが、彼はフルフルと首を横に振った。

「そ、そう言ってくれるのは、嬉しいけど……。でも、仕方ないよ……。俺は、普通じゃな——」


「もーー!! そんなこと言わないでよ!!」

「……?!」


 ファビオがまたも自嘲的な言葉を紡ごうとした時、突然二人の後方から威勢の良い声が聞こえた。

「……!? ア、アデル様!?」

 マーシアが振り返ると、仁王立ちをして下顎を突き出す、アデルの姿があった。

『…………ッ、ッ!!』

 ファビオは、息をするように蝙蝠と化していた。

「アデル様、どうしてこちらに……」
「ただ立ち寄っただけだよ、ここのパン買って帰ろー、って思ってね。けどそしたら、二人がなーんか神妙な顔して話しをしてるじゃない? それで、何かあったのかなーと思ってこっそり聞き耳立ててたら、何と! カルリエド君が、私に恋してるっていうのが聞こえちゃってね!」
『…………!?!?』

 どうやら、アデルはここまでの会話を一言一句全て聞いていたようだ。

「まずはカルリエド君、人間の姿に戻ってもらえる?」
『…………ッ』

 アデルの声色が、何だか怖い。
 ファビオはゾクリと慄き、逆らうことをせず人間の姿に戻った。

 アデルは目を眇めると、蠱惑的な青色の瞳で固まっているファビオを見つめ、口をへの字に曲げた。

「ねえ、カルリエド君。さっき自分のこと、気味の悪い呪われた人間だって言ってたね?」
「い、言いまし、た……」
「そんな自分なんかが、人を好きになるのはおこがましいとも言ってたよね?」
「ははは、はい……」

 アデルの妙な圧に気圧され、ファビオは青ざめながら彼女の問いかけに返事をする。

(こ、この状況は、一体……)

 マーシアには、ただハラハラと彼らを見守ることしか出来なかった。


「……バカァ!!!!」
「ッ!?」


 突如、アデルは叫んだ。

「バカバカバカッ!! 何で、そんなこと言うの!? 勝手に自分は人を好きになっちゃいけないだなんて決めつけて!! 普通じゃないから、ダメだって!!」
「え、え……? え…………?」

 矢継ぎ早に言いたいことを全部言い切ったアデルは深呼吸をし、キッとファビオを睨んだ。

「何も行動しないまま、諦めないでよ! 私は今のを聞いて、私を好きになってくれたカルリエド君のことを、もっとよく知りたいと思ったのに! 好きなら、私に気持ちをしっかり伝えてよ!」
「…………っ!」

 アデルの言葉を聞いたファビオは、唇を結んだ。

「……ほ、本当にブラウナーさんは、構わないの……? 俺が今、あなたに気持ちを伝えても……」
「構わないよ! さあ~っ、ドンとこい!」
「ひぃっ……!? は、はい……!」

 おとこらしく拳で胸を叩くアデルを目の当たりにし、ファビオは腕を震わせ、覚悟を決めた。


「ブ、ブラウナーさん……。俺、は、初めて会った時から、あなたのことが忘れられなかった……。きっと、一目であなたに惹かれたんだと思う……。だ、だから、その…………」


 声も全身も震えているが、ファビオは自分の気持ちをゆっくりと確実に言葉にしていく。
 アデルは紡がれゆく彼の告白に、静かに耳を傾ける。

「ブラウナーさん……。俺、あなたが好きです。あなたと、もっと仲良くなりたいです……。なので、こ、今度……俺と一緒に、お茶にでも行ってもらえませんか……?」

 ファビオは、今にも卒倒しそうな顔をしている。そんな彼とは裏腹にアデルは歯を見せ、いたく無邪気な顔で彼に微笑みかけた。

「……はい、喜んで!」
「……っ!」

 ファビオは息も絶え絶えに、へたりとその場にしゃがみ込んだ。まだ、告白の返事に現実味が湧いていないようだ。
 
「よかった……よかったです! カルリエド様……!」
「あ、ありがとう、ウォルジーさん……!」

 蚊帳の外からひっそりと祈るようにして両手を握っていたマーシアは、ファビオに拍手を送り、その勇姿を称える。
 何だか、熱いものも胸に込み上げてきた。

「ふふん。じゃあ、カルリエド君……いや、君! 近々カフェにでも行って、ゆっくりお話ししようか! 君のこと、たっくさん私に教えてね!」
「は、は、はい……!」

 ファビオとアデル。
 二人の関係は思いがけず、トントン拍子で進展した。



 ****



「マーシア、あなたがファビオ君の相談に乗ってくれたおかげで、私達少しずつ仲良くなっていけそうだよ。本当に、ありがとね」
「いいえ、とんでもないです。というよりも、私は本当に、ただ座っていただけのような気が……」

 精々、固唾を呑んで見守るくらいのことしかしていない。
 にこやかにお礼を言うアデルに対し、マーシアは困惑げに返事を返した。

「けど……間違いなく、ウォルジーさんが俺にブラウナーさんへ気持ちを伝えるきっかけをくれた……。ありがとう」

 ファビオはマーシアに向かってぎこちなく微笑み、言葉を続ける。

「一つ聞きたいんだけど……。どうして俺が、ブラウナーさんに恋をしてるって分かったの……?」
「それは……」

 マーシアは地面を一瞥するように目を伏せ、ほんの一瞬だけ口ごもる。
 だがすぐに、気恥ずかしげに口を開いた。
   
「私も、あなたと同じだったからです」
「同じ……?」
「はい」

 ファビオは、マーシアの顔に視線を移す。
 
「…………っ」

 そのはにかんだ表情を見て、ファビオはすぐに、どういうことなのかを理解した。

「そっか……。叶うといいね……」
「ふふっ、はい!」
「えっ、マーシア! それって、ひょっとして——?!」


「おーい! ウォルジー!」


 勘付いたアデルがワクワクとマーシアに問いかけようとした時、高らかでエネルギッシュな大声が聞こえた。

「……! エラ様!」
「やっほ! ウォルジーも、ここでパン買うの? ……って、あれ?! ブラウナーとカルドリルじゃん!? 三人で何してんだ!」

 一拍遅れでアデルとファビオの存在に気が付き、ジニは目を見開く。

「今、三人でお話しをしていたんです。とっても、大切なお話しを」
「ははっ、何だよそれ! どんな話?」
「……ふふっ、それは教えません!」
「おい!!」

 マーシアは、先日ジニが魔法図書館でやったのと同じように口元に指でバッテンを作り、いたずらに微笑んでみせる。
 
「教えてくんねぇってか!? ふーん、そこのお嬢さん、随分と意地悪してくれんじゃねぇかよぉ。いいもんねー!! ブラウナーとカルドリルに聞いちゃうもんねー!!」
「教えないよ」
「……俺も、言えない」
「おい!!!!」
 
 二人の薄情な応対に、ジニは大絶叫した。

「ふふっ、ふふふ……」
「コラ!! 笑ってんじゃねぇーーッ!!」

 自分を見て涙が出るほど笑っているマーシアに、ジニはまたも叫びまくる。

 その後もツボに入り笑いが止まらないマーシアに対し、ジニは満更でもなさそうな顔をしておふざけをしてみせた。
 それによって、マーシアはまた笑い……。
 しばらく、彼女の笑いのツボは治まりそうにない。

 そんな二人の様子を見ていたアデルは、コソッとファビオに話しかける。

「……これは、そういうことだよね?」
「うん……。そうだと思う……」

 二人はもう一度、ジニとマーシアを見据えた。

 彼らは心底楽しそうに笑い合い、その瞳は、互いにどこか愛しげだ。


「……ねぇ、ファビオ君。カフェ、楽しみだね」
「ひゃ……?!」


 何がアデルを突き動かしたか、彼女は小悪魔的な笑みを浮かべ、ふいにファビオの耳元でふわりと囁く。


「ね?」
「は、はい……」

 
 上目遣いに顔を見られ、ファビオは顔中真っ赤にしながらただ頷く他なかった。
 もしかしたら、自分はとんでもない人を好きになってしまったのかもしれない。
 

 こうして、二組の男女はそれぞれ賑やかな時を過ごした。
 関係は積み重なり、少しずつ前へ前へと歩み出す。 


 ただこの後、ジニとマーシアふたりの元にちょっとした波乱が巻き起こるが、それはまた別のお話——
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

四ツ橋ツミキ

第一部完結、お疲れさまでした!すこーしずつだけど確実に進んでいく2人の関係性に、最後までニヤニヤさせていただきました(∀`*ゞ)エヘヘ  周りの個性的な人達との絡みも面白くて、とても楽しく読み進めました。次の部も楽しみにしています!

2025.09.24 一三三

わー!ツミキ様、ありがとうございます😭
第二部開始前に幕間の短編も投稿していきますので、ぜひお時間のある時にお楽しみいただけたら嬉しいです✨

解除
四ツ橋ツミキ

こんにちは!前回の感想にお返事くださってありがとうございます。またやってきました(*'▽')17話まで読んだところなのですが(読むの遅くてすみません)、ゴーレム騒動を経て二人の気持ちが変化していく様子にキュンとしました。その方向性がおたがい違うのが、すごくすごくいい感じです……。ジニ君頑張れ!という気持ちはありつつ、マーシアちゃんにはこのまま翻弄していてほしいwまた来ます!都度感想書いてしまうかもしれませんが、お返事はホントになくてもぜんぜん無問題なので、無理なくお願いしますm(__)m

2025.08.23 一三三

つみき様!そ、そんなに読んでくださったんですね……!遅いだなんてとんでもないです!本当に、この作品をここまで追っていただきありがとうございます😭
そしてご丁寧な感想、凄く執筆の励みになります✨
気まぐれ更新ではありますが、ぜひ今後もまったりお読みいただけると嬉しいです☺️

解除
四ツ橋ツミキ

近代社会でも有用に使われている魔法がある、そんな世界観にとてもわくわくしました。主役の2人の初々しさにもほっこりします。また続きを読みに来ます!

2025.07.30 一三三

つみき様!お読みいただきありがとうございます☆
コメディベースな作品となっておりますが、彼らの恋模様もしっかりと描いていきますので、これからも楽しんでいただけると嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※毎週火曜・金曜日の夜に投稿。作者ブル

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

そのまさか

ハートリオ
恋愛
「そのまさかですわ、旦那様!」 ーーベナ・マギネは、16才の誕生日の前日、ギネオア邸3階からロープで脱出しようとして失敗、その際、残念前世をうっすら思い出し、今世をちゃんと生きようと、先ずは旦那様を色仕掛けで骨抜きにしようとトッチラカル・・! 前世が残念な事もある・・・何のスキルも無い事だってある・・・そんなベナが全力でトッチラカリます! 設定ゆ~るゆるです。緩い気持ちで読んで頂けると助かります。 第15回恋愛小説大賞にエントリーしました。 読んで、良いなと思ってもらえたら、投票お願いします。 短編ではないので長編選びますが、中編だと思います。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。