1 / 62
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む
雲一つない青空の下、高くそびえる摩天楼の窓を、空飛ぶ箒に跨った男性清掃員が鼻唄混じりにモップで磨き上げていく。
だが、彼は魔法使いなどではない。
魔力を持たない、一般人の男性だ。
よく見れば、周りのビルでもあちらこちらに彼の清掃員仲間が箒に乗り、窓の清掃を行っている。
勿論彼らも、魔法使いではない者達だ。
ではなぜ、彼らは箒で空を飛んでいるのか。
"人を明るく楽しくさせる魔法道具を作る"
それは、ある人物の掲げた目標が、魔法を使えない人々でも空を飛ぶことが出来る、夢の箒を実現させたからである。
****
これより数年前、近代化の進んだここロドエという国で、魔法は翳りを見せていた。
なぜかと言えば──
「魔法がなくても、科学の力で事足りるんですよね」
そう。今の世の中、大変楽なのだ。
掃除機がある、洗濯機がある。
電話にラジオ、水を出すなら蛇口を捻ればそれでいい。
街の景色だって様変わりした。
馬車をとんと見かけなくなった代わりに舗装された道路を行き交う車。地下も地上も共に駆け抜ける鉄道。街中に張り巡らされる電信線。
そして、色彩豊かなファッションを楽しむ、お洒落な群衆。
要するに、魔法がなきゃないで不便に感じることが少なくなったのだ。
けれど、そんな世の中になってめっきり魔法が消えてしまったかというと、そうでもない。
魔法使いは日常で魔法を使わなくなったかもしれないが、仕事で魔法は生きている。
魔法薬調薬師に魔獣医師、魔法服デザイナーや魔法生物の研究……。
中でも一番就職人口の多い職業は、【魔法道具職人】。不思議で便利な力を持った道具を生み出す、魔法使いならではの職業だ。
ロドエにも、魔法道具製作を行っている会社が幾つもある。
ケンドラ州はウィノア市にある魔法製品製作会社、【ハイネ・カンパニー】もそのうちの一つだ。
たまにヒット商品に恵まれる運の良い会社で、中でも【無限収納トランク】と名付けられた幾らでも物を詰め込めるありがたいトランクは、魔法道具職人界を沸かせたこともある。
そんなハイネ・カンパニーには明日、三人の新入社員が入社する。
「ヤベェ!! 明日持ってこいって言われた書類なくした!!」
自宅アパートメントの一室で、重要書類をなくし慌てふためくこの少年も、立派な新入社員のうちの一人なのだ。
やがて彼は部屋中引っ掻き回して書類を見つけ、安堵の息を吐くだろう。そして疲れて爆睡し、家を出る時間ギリギリに起床する。
死に物狂いで会社に駆け込んだ彼は、どうにか遅刻を回避し、就業説明を受ける部屋へ急ぎ、空いている席に座り、またも安堵の息を大きく吐くのだ。
そうしたところで、彼は気付く。
自分の隣に座る、柔らかな空気をまとった黒髪の少女に。
これは、発展していく時代の中で巻き起こる、若い魔法使いの成長を描いた、愛と魔法の物語──
だが、彼は魔法使いなどではない。
魔力を持たない、一般人の男性だ。
よく見れば、周りのビルでもあちらこちらに彼の清掃員仲間が箒に乗り、窓の清掃を行っている。
勿論彼らも、魔法使いではない者達だ。
ではなぜ、彼らは箒で空を飛んでいるのか。
"人を明るく楽しくさせる魔法道具を作る"
それは、ある人物の掲げた目標が、魔法を使えない人々でも空を飛ぶことが出来る、夢の箒を実現させたからである。
****
これより数年前、近代化の進んだここロドエという国で、魔法は翳りを見せていた。
なぜかと言えば──
「魔法がなくても、科学の力で事足りるんですよね」
そう。今の世の中、大変楽なのだ。
掃除機がある、洗濯機がある。
電話にラジオ、水を出すなら蛇口を捻ればそれでいい。
街の景色だって様変わりした。
馬車をとんと見かけなくなった代わりに舗装された道路を行き交う車。地下も地上も共に駆け抜ける鉄道。街中に張り巡らされる電信線。
そして、色彩豊かなファッションを楽しむ、お洒落な群衆。
要するに、魔法がなきゃないで不便に感じることが少なくなったのだ。
けれど、そんな世の中になってめっきり魔法が消えてしまったかというと、そうでもない。
魔法使いは日常で魔法を使わなくなったかもしれないが、仕事で魔法は生きている。
魔法薬調薬師に魔獣医師、魔法服デザイナーや魔法生物の研究……。
中でも一番就職人口の多い職業は、【魔法道具職人】。不思議で便利な力を持った道具を生み出す、魔法使いならではの職業だ。
ロドエにも、魔法道具製作を行っている会社が幾つもある。
ケンドラ州はウィノア市にある魔法製品製作会社、【ハイネ・カンパニー】もそのうちの一つだ。
たまにヒット商品に恵まれる運の良い会社で、中でも【無限収納トランク】と名付けられた幾らでも物を詰め込めるありがたいトランクは、魔法道具職人界を沸かせたこともある。
そんなハイネ・カンパニーには明日、三人の新入社員が入社する。
「ヤベェ!! 明日持ってこいって言われた書類なくした!!」
自宅アパートメントの一室で、重要書類をなくし慌てふためくこの少年も、立派な新入社員のうちの一人なのだ。
やがて彼は部屋中引っ掻き回して書類を見つけ、安堵の息を吐くだろう。そして疲れて爆睡し、家を出る時間ギリギリに起床する。
死に物狂いで会社に駆け込んだ彼は、どうにか遅刻を回避し、就業説明を受ける部屋へ急ぎ、空いている席に座り、またも安堵の息を大きく吐くのだ。
そうしたところで、彼は気付く。
自分の隣に座る、柔らかな空気をまとった黒髪の少女に。
これは、発展していく時代の中で巻き起こる、若い魔法使いの成長を描いた、愛と魔法の物語──
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※毎週火曜・金曜日の夜に投稿。作者ブル
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
そのまさか
ハートリオ
恋愛
「そのまさかですわ、旦那様!」
ーーベナ・マギネは、16才の誕生日の前日、ギネオア邸3階からロープで脱出しようとして失敗、その際、残念前世をうっすら思い出し、今世をちゃんと生きようと、先ずは旦那様を色仕掛けで骨抜きにしようとトッチラカル・・!
前世が残念な事もある・・・何のスキルも無い事だってある・・・そんなベナが全力でトッチラカリます!
設定ゆ~るゆるです。緩い気持ちで読んで頂けると助かります。
第15回恋愛小説大賞にエントリーしました。
読んで、良いなと思ってもらえたら、投票お願いします。
短編ではないので長編選びますが、中編だと思います。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる