【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

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第一部

9話 ゴーレム大騒動

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 ****



「あっ! もう結構乾いたんじゃねぇか?」


 日干しを始めてから五日後。
 ゴーレムの体は叩いてもヒビが入らず、カッチリと石のように固まっていた。

「よっしゃー!! とうとう固まった!!」

 ジニは一人歓喜の声を上げた。
 
 早速落とさないよう慎重にゴーレム達を工房内へと運び、最終仕上げに取りかかる。


「えーと。火の魔法エファルで体を炙る、か」


 ジニは作業台に置いてある一体のゴーレムに手をかざし、「火の魔法エファル」と呪文を唱える。

 ジニは操作の魔法以外の魔法に関して言うと、軒並み平均以下の能力しか持っていない。
 だからだろうか、彼の手のひらから放たれた炎はどこかヒョロヒョロで、大豆もやしのようにか弱く儚げだった。

(……無理かも……)

 早々に悟ったジニは、そばにいた他の開発部員に頼んで火の魔法エファルを使ってもらい、事なきを得た。

 こんがりといい色付きになったゴーレムは、強度が増したようにも思える。
 だが、次の着色作業によってもっといい色付きになることだろう。

 顔料を使って顔を描く。
 目はつぶらな黒丸で、口は三日月のようにニッコリと。
 人の形だけ象り無機質だったゴーレムは、徐々に体まで彩りを帯び、存在感を増していく。


 そうして色付けすること二時間半。
 とうとう、四体のゴーレム全ての着色が終了した。


「あとは操作の魔法エンピュートをかけるだけか」
「はいっ! じゃっ、いっきまーす!」


 アレイシオ立ち会いの元、ジニはゴーレムに元気よく操作の魔法を纏わせた。
 これで、全工程は終了だ。

 そしてジニの合図によって、ゴーレム達はいよいよ可動を開始する。
 彼は四体のゴーレムに向かって大きく手を叩いた。


──ピクンッ!


 手を叩く音に反応し、一体、また一体と、ゴーレム達はぎこちなく手足を動かし始める。
 だが、操作の魔法をかけたおかげか、すぐにその動作もスムーズになっていく。

「あーっ! 動いた、動いた!!」
「おおっ、上手くいったな!」

 動くのは当たり前だが、自分で一から作ったものであるからか、妙に感動が込み上げてくる。
 
 ゴーレム達は次第に立ち上がると、キュルンとした小さな黒目でジニを見つめた。

「おっ? 俺のこと分かってんの? あっはは! そうだよ、俺がお前らの父ちゃん!」

 ジニはガハハと笑い、無垢な四体のゴーレムを見遣う。 


 そんな時だった。


 ──ギンッ!!


「ん?」


 キュルルンキュートなゴーレム達の瞳が、突然厳しい目つきへと変化した。
 いや。正確には、変化したような"気がする"だが。

 ゴーレム達は、作業台の傍に置かれている自らの体を成形するのに使われていたヘラを各々手に取り、肩に担いだ。


 その様子はまるで、これからカチコミに行くと言わんばかりに荒々しく──!


「おいおい、どうしたっ!? 何かすっごい雰囲気怖いんだけどっ!!」

 突然のことに動揺し狼狽えるジニを見て、ゴーレム達は仲間内で目配せをすると、彼に向かってヘラを構える。


「えっ……ちょっ…………!」


 ギクリと嫌な予感を感じ取った時にはもう遅く、ゴーレム達は一斉にジニに飛びかかった。

「う゛わ゛ーーーーっ!!」

 ベチベチとヘラで脇腹を叩かれ、ジニはその地味な痛さに悶絶する。

「エラ!?」

 状況を把握しきれていなかったアレイシオだが、奇襲を受けるジニの様子を見て只事ではないと理解した。
 すぐさま彼に手を伸ばし、救出を試みる。


 ──ギロンッ!


「あっ」


 アレイシオの行動に気付いた一体のゴーレムが、今度は彼に狙いを定める。そして──


「わ゛ーーっ!!」
「カロンさーん!!」


 アレイシオもまた脇腹に攻撃を受け、悶絶した。


「ちょっと! 何かここ、ヤバいことになってるよ!」
「部長、エラ! 今助けるぞー!」


 騒ぎを見にきた他の開発部員らの力を借り、何とか二人は救出された。

「す、すまない……助かった……」

 ゼイゼイと呼吸を乱し、アレイシオは自分を救出した開発部員に礼を言う。

「礼なんかいいですって。それより、何なんですか? アレ……」
「えーっとだなぁ……」

 アレイシオは伸びているジニを一瞥し、言葉を噤んだ。


「……とりあえず、皆を避難させてから話そう」



 ****



 そんなわけで開発部員達は一旦作業を中断し、全員工房の外へと避難する。


「エラ君!! あなた一体、あのゴーレムに何をしたの?!」


 魔法道具開発部副部長の金髪カールレディ、パディー・ゴードンは、鬼気迫る表情でジニを詰めた。

「何もしてないですよ! 普通にゴーレム作っただけなのに、こんな……!」
「何もしてなくてこんなことになるわけないでしょう!!」
「ええっ!? でも、そう言われたって……」

 半泣きして叫んだおかげで自分の大声が脇腹に響き、途端に痛みがぶり返す。

「………ッだぁ!! と、とにかく……俺は真っ当に手順踏んで作っただけなんですって!!」

 脇腹をさすりながら、ジニはパディーに反論した。

「だが、エラ。前に椅子に操作の魔法エンピュートをかけた時のことを覚えてるか? あの時、椅子がお前のことを蹴ってたろう。そんな感じで、今回もゴーレムに攻撃性が宿ったなんてことはあり得ないのか?」

 アレイシオはあの日の情景を思い出し、ジニに問いかける。

「えぇ?! だっ、だとしても、他の人に攻撃なんかしないですよ!」

 ジニが操作の魔法エンピュートをかけた物質は、たまに彼の素行を表したかのように、やんちゃな気質を見せることがある。
 だがそれでも、使用者本人の意思に反して他者を攻撃するなんてことは、今の今まで一度もないのだ。
 その事実を知っているからこそ、ジニは己の力を信じ、眉を吊り上げる。

「ふーむ……。となると、ゴーレムは何だってあんなに大荒れしちまったんだ……」

 考え得る可能性が絶たれ、アレイシオは頭を抱えた。周りの開発部員達も、考察を巡らせ悶々とする。

 
「エラ君。そもそもあのゴーレムは、どんな材料を使って作ったものなんだ?」


 開発部員の一人である男性、フェリクス・モーガンが眉根を寄せてジニに尋ねた。

「えーっと、から取った土と、ようひしっていう紙と、俺の血です」

 ジニは皆のいる場所から少し奥側の空き地を指差す。
 そこはポツンと生える一本の大きな落葉樹が日陰を作り出す、煙草を喫む開発部員御用達の憩いの休憩スペースだった。

「……あの木の真下の土か?」
「そうです」
「………………」

 ジニの返答を聞き、フェリクスはますます眉根を寄せた。


「うわぁっ! な、何かあのゴーレム達、ますます厳ついことになってるぞ!」


 こっそりと工房の窓から中の様子を探っていた開発部員が、声を張り上げる。
 
「俺も見ていいですか?」
「ああっ!」

 ジニは場所を代わってもらい、中を覗いた。

 四体のゴーレムはいつの間に拵えたのか、黒い特攻服を羽織り、鋭利な三角サングラスをかけ、煙草ヤニをふかし、ガラ悪く蹲踞そんきょしている。


「不良になってる!!」

 
 ジニは顎が外れるほど驚愕した。


「不良? ……そうかっ!」

 先程から終始考え込んでいたフェリクスが、バッと顔を上げた。

「モーガンさん、そうかって?!」
「何でゴーレムが部長まで攻撃してしまうほど凶暴化してしまったのか、その理由が分かったんだ!」
「な、何ぃーー!? 本当ですか!!」
「ああ!」

 自信のある顔付きで、フェリクスは力強く返事をした。

「それは、これだよ」

 先程ジニが指差した木の下へ移動し、フェリクスは手で軽く土をほじる。
 すると、煙草の吸い殻が何本も掘り出された。

「ほら、土の中にこんなに吸い殻が」
「わっ、本当だ!」
「ここでふかしてるヤツら、毎回吸い殻をちゃんと捨てていかないからなぁ。だから、ゴーレムに使用した土にも混ざってしまったんだろうな」
 
 フェリクスはジロッと開発部員を見回す。
 何人かは彼から目を背けた。

「で、そんな不純物の混ざった土で作ったゴーレムと君の操作の魔法エンピュートの効果。二つの事象が混ざり合った結果、ゴーレム達はあのように不良化し、他人へも危害を加えることになったんだよ」
「なるほど……」

 フェリクスの説得力溢れる推理に、ジニはほうっと感心する。

「モーガンの言ってることは正しそうだな。ほれ、本のこの部分に、『不純物を含んだ土を使用すると、ゴーレムに不具合が起こる可能性があります』って書いてある」

 逃げる間際に持ってきていた"やさしく解説! ゴーレムづくり"を読み、アレイシオはフェリクスの発言に確信を持つ。


「……ん? 待てよ、てことは……」


 全ての謎が解け、ジニは今一度、ポクポクと状況を整理する。


 自分の目視確認不足で土に異物混入
 ↓
 ゴーレム成形  
 ↓
 攻撃性を含む自分の操作の魔法エンピュートを付与
 ↓
 合体
 ↓
 不良ゴーレム爆誕
 

「…………~~~~ッ!!!! 結局、俺のせいじゃねぇかよ!!!!」

「そうだな」


 ジニは雲一つない青空に向かって大絶叫した。

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