【第二部投稿中】今を生きる魔法使いへ

一三三

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第一部

22話 たらい回しの原石

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 ****



「うーん……」
「いかがでしょうか?」
「そうだなぁ……」


 マーシアは自分の目の前でチャーム・ガーネットの原石を手に持ち唸る男性を、繁々と見つめる。

「うーーん…………よしっ、決めた!」

 男性は悩みに悩んで伏せていた顔を上げ、マーシアに原石を持った手を差し出す。


「ウォルジーさん!」
「はい!」


 男性は、ニコリと愛想の良い笑いをマーシアに向ける。


「これ、いらないっ!!!!」


「……あああぁ……」


 マーシアの口から、嘆きの声が溢れ出た。


 ──休み明けの月曜日のこと。
 マーシアは早速原石を何とかしようと、ジェローナに詳細を伝えて執務室を離れ、魔法服開発部を訪れていた。

 そこで魔法服開発部部長ヴィセル・マイヤーにチャーム・ガーネットの効果を説明し、どうにか役立てられないものかと頼んでいたのだ。

 で、たった今、彼にキッパリお断りされた。


「いや~。チャーム・ガーネットとやらの効果は申し分ないんだけど、如何せん研磨と加工をしてもらってからようやく魔材として使用出来るって手間を考えるとねぇ、こっちの魔法服の開発期間にも影響が出るし……。僕、キラキラした服大好きだから、『宝石いかがですか?』なんて願ってもない話、本当はすっごいお受けしたいところなんだけど……」

 ヴィセルはボリューム溢れる赤髪をいじり、口を尖らせる。
 確かに、そう言う彼のファッションにはあちこちに煌めいた装飾が散りばめられている。
 眼鏡のチェーンにも、紫色のストライプベストにも、首元にかかる蛇を模した謎のストールにも。

「そういうことでウォルジーさん、ごめんね。ウチの部署では、それは使わないや」
「とんでもないです。話だけでも聞いていただき、ありがとうございました」

 マーシアは原石をカゴにしまうとヴィセルにお礼を伝え、工房を後にしようとした。

「あ、そうそう。ウォルジーさん」
「はい、何でしょう?」

 ヴィセルに呼び止められ、マーシアは扉に向かった足を止める。

「このチャーム・ガーネット、魔法道具開発部にも当たってみるんだよね?」
「はい。この後お伺いして、一目だけでも見ていただこうと思っています」
「ふーん、そうかぁ……」

 マーシアの返答に、ヴィセルは何かをいたずらを思いついた子供のように、目を光らせる。

「ねえ。そしたらさ、君の知り合いにエラ君っているじゃない? 彼に会ったらどーしても伝えてほしいことがあるんだけど、ウォルジーさんに伝言をお願いしてもいい?」
「エラ様にですか? はい、勿論構いませんよ」
「あっは! ありがとう! そう言ってくれると思った!」

 ヴィセルは目を眇め、艶のある笑みを浮かべた。

「じゃあね、彼にこの言葉を伝えてくれる? 『エラ君、お仕事頑張って♡』って!」
「かしこまりました。必ずお伝えしておきます」

 随分とシンプルなメッセージだ。
 直接自分から伝えなくて平気なのだろうかとも思ったが、マーシアはヴィセルの申し出を快く承諾した。

「エラ君に言う時はこうやってあげてね。両手をこう、胸の前でギュッと握って祈るような……。いかにも、彼に元気をもたらす感じで」
「こ、こう、でしょうか?」

 ヴィセルのジェスチャーに倣い、マーシアも同じポーズを行う。

「そうそう。そして、顎を少ーし引いて上目遣いに彼を見上げて、ニッコリ笑い……。うん、いいね! そんな感じで、僕の言葉をで伝えてくださいな。エラ君きっと、喜ぶから!」
「? わ、分かりました、やってみます!」
「ありがとう。じゃ、よろしく頼むね!」

 満足げに笑うと、ヴィセルは手をヒラヒラと振り、工房を後にするマーシアを見送った。

「……んもう! ちょっと、ヴィセルさんっ! あんまりマーシアにちょっかい出しちゃダメですよぉ!」

 後ろで作業をしながら二人のやりとりを見ていたアデルが頬を膨らまし、ヴィセルを諌める。

「まあまあ、いいじゃない。初夏の風よりも爽やかな青春に、ちょっと手を貸しただけなんだから」
「だからって……。マーシアがエラ君に愛の告白をしたっていうのは結局嘘だったんですから、わざわざそんなことしなくっても……」
「ええー。でも、エラ君がウォルジーさんに恋してるっていう話は本当なんでしょ?」
「ま、まあ……そうらしいとは聞いてますけど」

 噂話は会社の娯楽。
 問題児がお嬢様に恋をしたなどという旨味成分強めの話、広まらないわけがない。
 当然、魔法服開発部にも噂は筒抜けなのである。

「それじゃ、エラ君を応援すると思ってさ。実際僕、彼のこと結構好きだしね。変な噂ばっかり従えてくれるから、見てて飽きないんだもん!」
「面白がってるだけじゃないですか!!」

 ケタケタと笑うヴィセルに、アデルは呆れた溜め息を吐いたのであった。
 


 ****



(……マイヤー部長の話を聞いた限り、魔法道具開発部こちらでも断られてしまいそうだわ……)


 本館の廊下を歩きながら、マーシアは頭の中で溜め息を吐く。

 やはり、まず先に原石の加工をしないといけないというのは、開発側からすればチャーム・ガーネットの効果云々の前に、面倒な上に非効率的すぎるのだろう。もしかしたら、父のベッド製作が頓挫してしまったのも、こういった理由が含まれているのかもしれない。 

 大体さっきと同じような反応が返ってきそうだと薄々思ったが、それでもマーシアは一応魔法道具開発部の工房に向かってみる。


「おや、ウォルジーさん」
「すみません。魔材についてのご相談がありまして……。カロン部長はいらっしゃいますか?」
「ああ、いるよ。けど、部員に作業の指示を出している最中だから、少しだけ待ってもらっても平気かな?」
「はい、大丈夫です」


 フェリクスは手招きをしてマーシアを中へ呼び寄せると、アレイシオを呼びにその場を去った。

 マーシアは邪魔にならない壁際に移動し、工房を見回した。

(改めて見ると、魔法道具作りも随分と興味深いわ)
  
 調達魔材の確認などで何度も工房を訪れてはいるが、実際に開発部員らが製品の製作にあたる姿をまじまじ見る機会というのはあまりなかった。強いていうなら、ジニがゴーレムを作っているのを見たぐらいか。

(あっ!)
 
 マーシアはふと、目線の先の作業場に釘付けになった。

 作業机の上に置かれているバケツ。
 その周辺に、雑具に紛れ先月の魔材調達でマーシアが選んだ水魔材、水馬ケルピーの蹄が数個置かれていた。

 ガラスのように透き通った蹄を、開発部員がヤスリで削り、粉状にしていく。そうして粉になった蹄に手をかざすと、今度は何やら魔法をかけた。
 すると、粉はぽうっと淡い青色の光を放ち始め、開発部員はその粉を塗料に混ぜる。
 
(実際に自分の選んだ魔材が使われているところを見ると、何だか嬉しい……。私、皆様の製品開発に役立つ魔材を選ぶことが出来たのね)

 マーシアの心がスキップをするように軽快に跳ねる。
 これは、今月の魔材調達も頑張らなくては。 
 俄然やる気が湧いてきた。

「お嬢さん。お待たせしたな」
「カロン部長!」

 アレイシオが作業用手袋を脱ぎ、こちらに向かってやってきた。

「それで、何だ? 魔材がどうのと聞いたが」
「はい、実は──」

 マーシアはアレイシオにガーネットの説明をした。


「──なるほど。そりゃ確かに、使いづらいな」

 
 説明を受けたアレイシオは深く頷き、ハッキリ述べた。

「や、やっぱり……」

 マーシアは項垂れた。案の定である。

「マイヤーと同意見だ。使用可能になるまでの一手間がネックだな。というわけで、すまんなお嬢さん」

 アレイシオは多くは語らず、スッと原石をマーシアの手元に戻した。

「いえ、そんな。皆様の作業効率を考えることのほうが大事ですもの」

 元はと言えば父がやや強引に押し付けてきたものだ。正直マーシアも、この原石がすんなり受け入れてもらえるとは思っていなかった。

「"魔力の流れを穏やかにさせ、魔法の威力と効果を安定させる"か。これも、決して安い買い物だったわけじゃあなさそうだ。チャーム・ガーネットの効力自体は、確かなものなんだろうな」

 アレイシオも勿体ないとは思っているのか、珍しく眉尻を下げ、未練ありげに原石を見つめる。

「ひとまず、この原石は倉庫に置いておこうかと思います。今でなくとも、いつか使用出来る機会が訪れるかもしれませんし」
「そうだといいなぁ」

 結局、原石は父の作業場の倉庫から工房の倉庫へと、ただ倉庫間の移動をしただけで役を終えそうだ。

 マーシアがそう思った時。


「わ゛ーーーーっ!!!?」


(……っ?! こ、この声は……)

 
 突然、聞き覚えのあるつんざく声が、マーシアの耳に飛び込んできた。
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