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現状把握をしてみよう

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あまりの突然の出来事に頭が追いつかない。

つまりは、俺が商品を注文した会社が実は神様が作った会社で、配送手続きの時に神様のミスで異世界に飛ばされて、帰還方法は無くて代わりに新しい身体と能力をあげるから頑張って楽しく生きていってね!……ってこと?

いやいやいやいや! 雑じゃね!?
普通こうゆうのって自ら神の間とか白い空間とかに呼び出されて懇切丁寧に説明とかするもんじゃないの!?

「なんだよ! B5用紙1枚って……せめてレザークラフトキット入れとけよ!」

いやいやそういう問題じゃない……
少し冷静になろう。
とりあえずここで生きていかなくちゃならない、まだ死にたくないし……

そう考えると、水、食料、寝床、生きていく上で欠かせないものが次々と頭に浮かんでは消える。


「どうしよう……まずは水か?」

焦りすぎて喉が渇いていた。
 この場所もどこかジメッとしていて脂汗がでてくる。

「いや、まずはスキルを付与したって書いてあったし自分の状態の確認か? どうやって確認するんだ?」

おもむろに視線を彷徨わせると視界の左上に逆三角のようなものが薄っすらと見える。
 なにかと思って意識を集中すると目の前に文字や数字の羅列が飛び出てきた。

「うおっ!」




名前:西村 京
年齢:27

生命力 : ∞
体力:100/100
魔素量:100/100
筋力:10
技量 : 10
知力:10
魔力:10
速度:10
幸運:10

ゴットスキル:『全適性』『万物視』『不老不死』




……は?

なんか見てはいけないものを見た気がする……

え? 俺、不老不死なの? 全適性ってなに? 万物視は……このゲームのステータスみたいなのが見えてるので何となく理解は出来るが……

スキルの欄を注視するとまたもや文字が出てきた。

「説明も見れるのね…」


『全適性』 : 全てのことに適性がある。

『万物視』 : 万物を見通せる。

『不老不死』: 死なない。老いない。


「雑っ!?」

説明短すぎだろ! 説明が短い方が強力ってか? カードゲームか! そもそもなんだよゴットスキルって! 恥ずかしすぎる!

「あぁぁぁ……もうわけわからん! 色々ありすぎて頭がおかしくなりそうだ!」

パニックになり頭がズキズキ痛み出す。
 四つん這いになってうなだれてる俺の頭の中で何か音がした。


ピンポーン

《スキル『精神耐性(小)』を獲得しました。》


「あぁ……」

言葉にならず目の前が真っ白になった俺の意識は一旦途絶えた。




「うぅ……」

日の光が眩しくて目が覚める。
 頬についた土を払いしばらくぼーっとしていると今までの記憶が蘇ってくる。

「あぁ夢じゃなかったのか……どのぐらい寝てたんだ?」

少し冷えた頭で辺りを見回す。

太陽は天辺を過ぎたぐらいか……太陽……だよな? 意識を失う前は薄暗くなりかけていたからだいぶと寝過ごしてしまったようだ……

冴えてきた頭でこれからどうするのか考えると同時に激しく喉が渇きを訴えてきた。

「よし! 考えてもラチがあかない、とりあえず水を探そう。」

そう思って立ち上がる。

確か説明書には半径500メートルの結界が張ってあると書いてあったし、この森に魔物がいるのかわからないが結界内なら安全に移動できると信じよう。

前方は平坦な森、後方は少し傾斜のついた森になっていてその奥は見えない……

「平坦な方は見える範囲で何もないから少し山の方へ登ってみるか……」

斜面に足を踏み入れ、土に足を取られながらもゆっくりと登って行く。しばらく登ると木々は途絶え、小高い丘のようになっている場所に着いた。

「へぇ……地面は芝生みたいだし風通しもいい……余裕が出てきたらここに家を建ててみてもいいかもな……っとそんなことより水!水!」

何呑気な事言ってんだ……と、丘を越え、下り斜面の森に入って行く。行けども行けども川や湖のようなものはない……遂には目の前に薄っすらと光る壁のようなものが見えるところまで来た。

「恐らくこれが結界とやらの端っこなんだろな……」

これ以上は怖くて行けない……行くとしても余裕が出て万全の時に行くべきだ。
 仕方がないのでその結界の壁をつたって反時計回りに進んでいくことにした。

しばらく進むとなだらかな斜面になっていてポツポツと岩や砂利が見て取れ、そこでふと気づく。

「……水の音?」

足をもつれさせながら急いで音のする方向へ進んでいく。すると岩の下に小さいながらも綺麗な小川を発見した。喉の渇きがもう限界だったので一目散に川へ走って行く。


「やった! 川だ! っえ?」

しかし、ようやく発見した小川は曲がりくねっていてほんの曲がり角の一部分だけ結界内となっていた。

「何の嫌がらせだよ! 全部結界に入れとけよバカ神!」

……悪態ついても仕方がない。
 一部分でも手を伸ばせばすくえる距離だ。岩の上から身を乗り出して水をすくい喉を潤す。

「んぐっんぐっんぐっ……ぶはぁ! うめぇ!」

ひとしきり喉を潤し、ようやく落ち着いた。

「この水飲んで良かったのか? 腹とか壊さないかな?」

しばらく経っても体調に変化はないので大丈夫だとは思うが、怖いので次からは何とか煮沸消毒したいものだ。そうなると火を起こさなきゃダメだし水を汲む物も必要だな…

「まぁ何ともなかったらしばらくはそのまま飲もう……次は飯か……死ななくても腹は減るんだな…」

人心地ついたら急に空腹感を感じるようになった。

「確か丘を下りたところに小さい果実がなってる木があったな……食えるかわからんけど行ってみるか」


丘を下った所にある森まで戻ってきた。

「確かここら辺に……あった!」

幹は細いが葉が多い木に50粒ほどオレンジの果実が実っていた。ちょうど背伸びをすると採れるくらいの位置にある実を一つもいでみる。

「キンカンみたいな感じだな……」

皮を剥いて匂いを嗅いでみる。予想通り、柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
 指に果汁が垂れてきたので思わず舐めた。

「うまい……」

思った以上に甘く優しい口当たりに持っている実を口の中に入れる。

「うまいな! しばらくはこれで耐えられそうだ」

気分を良くした京は様子見のため口に入れるのは1つだけにして採れる範囲の実をポケットに詰めて行く。

「後は寝床か……」

場所はとりあえず丘の上でいいだろう……
土の上は汚れるし小さな石もあって痛そうだ。

「おっ! ちょうどいい所に」

10メートル先ほどの茂みに大きめの葉っぱが群生しているではないか。足早に駆け寄ると、その葉っぱを10枚ほど茎からちぎり丘の上へ運んでいく。

「これを敷いてとりあえずの寝床は完成だ!」

異世界に来てから1日と少し、しかし濃密な時間が京の心に不思議と充足感を与えていた。

「火起こせるかな……ダメ元でやってみるか」

葉っぱを採取するついでに枯れた枝も集めていた京は大きめの枝に細く出来るだけ真っ直ぐな枝を当て、竹トンボの要領で両手で擦っていく。きりもみ式の火起こしだ。

しかしながら擦れど擦れど焦げ跡は出来るが火は着かない。

「やっぱりなぁ……やったことないし厳しいか……って言ってもライターもマッチも無い状況で火をつける方法なんてこれぐらいしか知らんし……」

その後もしばらくやっていたが、結局火が着く事はなかった。そうこうしているうちに日が傾いてきた。

「あーしんど……今日は諦めて暗くなる前にまた水飲んで実ももう少し採ってこようかな」

そう思って小川まで降りていく。しかし水をすくい、いざ飲もうとした時、強烈な吐き気と腹痛が京を襲った。

「うぷっ……な、なんだこれ……もしかして、水がいけなかったのか……それとも果実がっ……ゔぉえぇぇぇぇ!」

強烈な嘔吐と下痢を繰り返し、朦朧とした頭で考え、気づく。

俺は馬鹿か!『万物視』すれば良かったじゃねぇかぁ…!

揺れる視線を小川に向け注視する。



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《小川》

清く澄んだ山水が流れている。 質:良 飲用可
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そしてポケットから実を一つ取り出し注視する。



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《ロラの実》

清流の近くに生えるロラの木から採れる実。
非常に甘く爽やかな香りを放つが、摂取すると非常に激しい嘔吐、下痢を引き起こす。食べ過ぎると死亡する場合もある。 質:良 飲食不可
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こ、これだぁ……あれだけ自分で用心しといてなぜスキルを忘れる……無意識に見ないようにしてたのか、はたまた水が飲めて浮かれていたのか……

これからは必ず『万物視』しようと固く誓い、呻き声をあげながら口と尻から出て行く流れ星を見ながら目からも清水を垂れ流す。

己の馬鹿さと屈辱に耐えながら京の異世界二度目の夜が更けて行く。


ピンポーン

《スキル:毒耐性(小)を獲得しました。》
《スキル:精神耐性(小)は精神耐性(中)へと昇格しました》


「ふぐぅぅっ!」


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名前:西村 京
年齢:27

生命力 : ∞
体力:19/100
魔素量:100/100
筋力:10
技量 : 10
知力:10
魔力:10
速度:10
幸運:10


スキル:『精神耐性(中)』『毒耐性(小)』

ゴットスキル:『全適性』『万物視』『不老不死』



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