男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん

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二章

二章エピローグ

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 一週間後。
 
 紆余曲折あったが、俺達はなんとかサンの村に帰ってきた。
 ジークはかなりの大怪我を負っていて、歩くこともままならない状態だったが、セリアの回復魔法で何とか移動できるまで回復した。その時ジークはセリアに治療してもらいながらボヤいていた。
 
『あ~死ぬほど痛い……本当死ぬかと思った……もう戦いたくない……』
 
 ジークがそう話す口調は相変わらず呑気で、危機感を周囲に感じさせなかったが、傷の様子からして途轍もない激痛に苛まれていたのは本当のはずだ。
 情けないことを言っているにも拘らず、不思議と彼が頼りになるという印象を周りに与えるのは、本当に凄いと思う。

 こういう周りを安心させる頼りがいと言うか、カリスマ性を俺も持ちたいものである。

 セリアの回復魔法はゲームのように一瞬で傷を治すようなものではなく、治癒力を高めてゆっくりと傷を塞ぐものだ。
 ゆっくりといってもジッと見ていれば、肉が盛り上がって傷が塞がるのがわかるくらい速い。

 そういえば猩々に折られた俺の歯も、拾い集めて元の位置に戻した状態で回復魔法をかけて貰った所なんと元通りに。
 むしろきれいに並べて治療したせいか、歯並びが良くなった。
 
 一分一秒を争う戦闘中には使うことが出来ないが、後方支援としてや戦いが終わった後にはもはや欠かせない魔法といえるだろう。

 通常、魔法は一人につき一種類のはずだが、セリアは炸裂魔法と回復魔法の二種類使えるという特異体質だ。もし彼女の使う魔法の原理を解明して地球でも再現することが出来れば、歴史に名を刻むことになるのは間違いなしだ。
 残念ながら俺には光ってるだけにしか見えないし、セリア自身も何となくでやれてしまっているため、この魔法の原理は一生謎のままかもしれない。
 

 そして今、俺はサンの村の中にある広場のベンチに座っていた。
 
「ほぅ……」

 空が青い。
 所々に浮かぶ雲が空の奥行きを強調させ、この空がどこまでも高いという事を教えてくれる。
 冬のため、あまり肌で感じる事のない太陽の光も、こうして見て見るとしっかり俺達の事を照らしてくれていたらしい。
 
「何ぼうっとしてるんだ?」
「ん? ああちょっと……」

 いつの間にか傍まで来ていたタロウが話しかけてきた。
 何をするでもない。
 ただボケっと気を抜いていただけだ。

 いや、何も考えないようにしていたと言った方が正しいかもしれない。
 
「将来について考えるのに疲れてきたから休憩中……」
「はあ?」

 俺はリタに逆プロポーズをされてからの一週間をモヤモヤしながら過ごしていた。
 勿体ない。
 なんで断ってしまった?
 そもそも俺は本当にセツが好きなのか?
 いや、断った内に入らないのか?
 寝ても覚めてもそんな考えがぐるぐると頭の中を回ってしまい、なんとかリタの事を忘れようと無心になろうとしていたというわけだ。
 
 残念ながらそれにも限界を感じていたのだが、このタイミングで話しかけてきてくれたのが数少ない同性であるタロウなのはナイスタイミングなのかもしれない。
 俺は椅子から立ち上がると、怪訝な顔を浮かべるタロウに向き直った。
 
「まあ……俺の事は置いといて」
 
 改めてタロウを見て見ると、戦いを終えてタロウの体がひとまわり大きくなったように見える。

 雰囲気や勘違いとかの問題ではない。
 明らかに筋肉が大きくなっている。
 
 出血が止まったことといい、どうやってこうなったのか非常に興味がある。
 
「タロウはどうやって傷をふさいだんだ?」
「師匠が傷を塞いでくれたみたいだ」

 アニカが治してくれたのはわかる。俺はその方法が知りたいんだ。
 文脈で具体的な方法を聞いているということが分かりそうなものだが、俺の言い方が悪かったのだろうか。
 そう思った俺はもう一度問い直す。
 
「どうやって?」
「……知らん」
「知らんって」
「聞くな」
「え? ああ……おお……」

 タロウがあらぬ方を向いて俺と目を反らした。
 どんな表情をしているのか伺い知ることは出来ないが、耳が赤くなっているように見える。

 様子のおかしい。
 俺の言葉の意味が理解できていないのではなく、何かをはぐらかしているのは明らかだ。
 門外不出の秘伝の技術で話すことが出来ないというのなら仕方がないが、そういうのとは違う理由に見える。
 なぜなら……
 
「タロウなんか照れてる?」
「うるさい」

 明らかに照れているからだ。
 後学のためにも傷を塞いだ方法が気になるが、それ以上になぜ照れているのかの方が気になってきた。
 アニカが回復魔法を使えるというのなら話はそれまでの話だし、非常に怪しい。
 
「…………」

 俺は無言を貫くタロウをじっと見つめる。
 食らえ俺の目力を。
 ちなみに俺はどちらかというと童顔なほうなせいなのか、友人には怒っても怖くないと言われていたので効果はない。

「……………………」
「……………………」
 
 無言の時間が続く。
 俺の目力に圧力はないが、聞きたいという意思は伝えられる。
 そんな俺の様子にタロウは諦めたのか、タメ息を吐くとポツリと呟いた。

「村を出ることになった」
「え? なんかしたのか?!」
「ああ……まあそうだな……うむ……そんな感じだ」
「どういうことだよ」
「師匠が村を出ることになってな。俺もついていく」
「アニカさんが?」
「師匠……がな……俺の妻になった……」
「はあ?!」
 
 タロウとその師匠であるアニカが結婚するなんて寝耳に水だ。
 出会ったときのタロウは結婚相手に困っていたし、俺達がこの村に来てから二人の仲は急接近したのだろうか。
 とんでもない好奇心が俺の中で育っていく。

「いつから?! どこに行くんだ?!」
「南の方とだけ聞いている。師匠の故郷があるらしいが詳しいことは何も」

 アニカの肌の色は、白い肌の多いこのあたりの人間とは違い、浅黒く焼けている。
 俺は見たことのない髪の色をした人がいる異世界だから、肌が黒い人も生まれるのかとアニカの肌の色について深く考えていなかったのだが、当たり前といえば当たり前の話だ。
 この世界にも地域による気候の差があり、アニカは南国出身だという事で肌の色は説明がつく。

「まあそれはいい」
「え? いやいやよくないって!」
 
 あまりの急展開に俺はタロウを問いただそうとするが、タロウが剣を抜いて俺の喉元に突き付けてきた。
 話は終わりだというタロウの意志に俺は黙らざる得なくなる。
 
「これが最後だ。 立て」
「……わかった」
 
 さっきまでの馬鹿な空気はどこへやら、俺は立ち上がって腰の剣を抜く。
 俺の新しい武器である撃鉄は突貫工事で作り上げたため、最終仕上げをするためにリタに預けている。
 そのため使うのは予備として携帯している普通の剣だ。

 俺は剣を上段に、タロウは正面に構える。

「俺達の関係はこれだけでいい」
「だな」
 
 俺は今日、この村を出る。






 
 

 タロウとの戦いを終えた俺は、リタとガリアの鍛冶場に立ち寄った。
 逆プロポーズ事件のこともあってリタとは非常に顔を合わせ辛いのだが、今日サンの村を離れるため寄らないわけにはいかなかった。
 
「おう! ミナト! 出来てるよ!」
「あ……ありがとうございます」

 気まずい俺の心情とは逆に、出迎えてくれたリタはニコニコと機嫌がよさそうだ。
 リタのこの笑顔は見せかけで内心怒り狂っているとか、気が狂ったというわけではない。
 というのも俺はあの時、リタとある約束をしたためだ。
 その約束をリタとしてからというもの、俺は罪悪感で一杯で、リタは幸せ一杯な様子だった。

 そんなウキウキのリタが、予めカウンターの上に置いてあった撃鉄を叩いて俺の方へ寄せてきた。

 俺は最終仕上げを終えた撃鉄をカウンターの上から持ち上げる。
 片手では支え続けるのが難しい程の重量の大剣のため、持ち上がると木でできたカウンターが軋みを上げた。

 元々、撃鉄はグリード達との戦いが始まる前から、鉄の塊を移動させて重心を変える機構部分、つまりロックを解除する柄と錘が移動する刀身の部分をお試しで作っていた。
 あの戦いの最中、リタが行ったのはその未完成品の撃鉄に黒鋼の刃を取り付ける事だった。
 
 戦士の武器に使われる黒鋼は、刃を通さない硬質化した鎧のような毛と、下手な鎧なら貫いてしまう程の角を持った獣である鎧山羊の血を鉄に混ぜて作られる。
 黒鋼を精錬するにはただ血を混ぜればいいというわけではなく、適切な温度、冷やすタイミング、鉄と炭と血の分量、そして男の持つマナを喰わせるタイミング等、非常に複雑だ。
 そのため、剣の重心の位置を変えることが出来るという複雑な機構が設けられた中心部分は、クソ堅くて精錬に手間のかかる黒鋼と比べて加工のしやすい鉄製となっている。

 俺がリタに対して発案したは良いが、これが本当に戦いにおいて有効かどうかわからないし、この武器特有の重心が移動する感覚にあらかじめ慣れておくためにも、試作と素振り用の意味を込めて撃鉄の中心部分を鉄で作ってもらっていた。
 俺はその試作品を護衛任務の間も素振りするつもりで持って行っていたため、あの戦場で突貫工事とはいえ武器として仕上げることが出来たのだ。


「っしょっと」

 俺は撃鉄を正眼に構え、柄を引く。
 
 甲高く重い金属音が鍛冶場を揺らす。
 解放された錘が刀身のスリットを移動し手元に落ちてぶつかった音だ。
 錘のロックを解除する機構の精度が上がったのか恐ろしくスムーズだ。
 さらに戦いの時は剥き出しだった金属の持ち手に皮が巻かれていて手の平に吸い付くように感じる。

「気に入ったか?」
「はい……とても」
「そりゃよかった」
 
 俺とリタがあーでもないこーでもないと話し合って考えたこの武器は役に立った。
 この武器がなければ俺はグリードどころか、盗賊の女達に殺されていただろう。
 とてもいい武器だ。
 
 だがなぜか俺はこの武器にどこかしっくりこない感覚を覚えていた。
 俺は自分でも上手く言語化できないその感覚を、作ってもらったリタの手前言うことが出来なかった。

 リタとの世間話もそこそこに、俺は鍛冶場の奥で作業するガリアの元に向かった。

「お世話になりました」
「……」
 
 俺は鍛冶仕事をするガリアに対して深々と頭を下げる。
 この世界でお辞儀は作法として通用するかは正直分からない。
 それでも俺の感謝の気持ちは本物で、その気持ちを表すためにも俺の知っている精いっぱいの方法を実行しようと思った。

「何もできない俺に仕事をさせてくれて本当に感謝しています」
「……」

 何も言わず赤くなった鉄を叩き続けるガリア。
 鉄を叩く音が少し高い。

「……ではお元気で」

 沈黙を続けるガリアの邪魔をしてはいけない。
 そう思い俺は出口の方へ向き直った。

「ミナト」

 俺は振り返った。
 ガリアが手を止めて俺の方を向いている。

「またいつでも来い」

 ガリアはひげ面をクシャっとさせて笑っていた。
 勿論彼の笑う所を見たことがないわけではないのだが、こんな茶目っ気のある笑顔は初めてだ。
 リタの件でまたギクシャクさせてしまったと心を痛めていたが、それも一気に吹き飛んだ。
 
「はい!」

 俺は嬉しくなり、返事につい力が入ってしまう。
 来るときとは打って変わって、足取り軽く出口を出ようとした俺の手が急に掴まれた。
 
「うおっと!」
「待ってるからな……」

 すると耳元でぼそりと囁く声がした。
 甘く怪しい声に背筋がゾクゾクとこそばゆくなる。

 俺は慌てながら耳を抑えて振り返ると、リタがニヤニヤとして立っていた。

「忘れんなよ♡」

 




 



 


 撃鉄を受け取り、滞在中お世話になった村の人々に挨拶を終えた俺は、村の出口でセツ達と合流した。
 来た時は腰くらいまで積もっていた雪が、今では脛が埋まるくらいまで薄くなっている。
 一面銀世界というのは変わりないが、雪が薄くなったため木が高く見えて違う場所のように見える。

 この村に来て何か月だろう?
 最初は一日が凄く長く感じたが、帰ることになった今は凄く短かったような気がする。
 
「楽しかったな……」

 ふとそんな言葉が口から漏れた。

 そういえばいつの間にかタロウとため口で話せるようになっていたことに気付いた。
 この世界に来てからというもの、周りは大人や女ばかりなだし、子供でも働くのが当たり前の世界のためか同年代の女の子が凄く大人びて見える。
 そのため、俺は自然と周りと壁を作り、普段から敬語で話す癖がついていた。
 
 だから自然とため口で話せるタロウは、この世界で初めてできた友達。

「恥ず!」
 
 その形は戦友とも悪友ともいえる。
 
 タロウとの出会いはとんでもないものだった。
 
 タロウの婚約者を俺が不本意ながら奪ってしまって決闘を申し込まれる。
 その時俺は別の女の子から迫られていたというとんでもない状況。
 我ながら寝込みを襲われても文句は言えない出会いだったと思う。
 
 そこから俺は鍛冶屋の手伝いをしながら一緒に修業を始め、実戦を経験する。
 修業はつらいし、アルバイトもしたことない俺が、コンプライアンスも何もないガリアに怒鳴られながら働くのはきつかった。
 それでも……終わった今となっては、人に笑いながらこの事を話せる。
 
「まっ! どっかでまた会えるだろ!」

 雪の中歩きながら俺は空に向かって独り言を言った。
 俺にはサンの村に帰ってからやることを決めてある。

「なに?」
「なんでもない!」

 セツが俺に見られていることに気付いて怪訝な顔を浮かべる。
 眉をひそめながら首を傾げたそんな顔も可愛いと感じてしまう俺はもう駄目なんだろう。
 
 この世界に来てから初めて決めた俺の道、それを進む限りタロウにもまた会えるはずだ。
 
「さ! 帰りましょう!」
「元気ですねぇ~」
「いいことがあったのかい? お姉さんにも教えてよ」
「ちょ! シオさん近いですって!」
 
 セリアはニコニコと見守る様に、シオは腕を俺の首に回すと揶揄う様に何があったのか聞いてくる。
 俺は鼻をくすぐるいい香りにドキドキしながら、口ではやめてくださいと言ってみる。
 するとシオがスリーパーホールドを決めてきて、セリアが俺の脇をツンツンとつついてきた。
 敏感なわき腹をつつかれて、これはたまらんと俺は逃げ出そうとするが、戦える系女子から逃げることは出来ない。
 
「ミナト、背伸びたね」
「え? 本当ですか!」

 そんな風にじゃれる俺達の後ろを歩くジークが話しかけてくる。

「俺も戦士らしくなってきましたかね?!」
「うん、いい感じがするよ」
「いい感じですか!」

 誉めるところが思いつかなかった時のような事を言ってきたジークだが、背が伸びたのは本当のことのはずだ。
 俺の体に合わせて作られた皮鎧が少し窮屈になっているし、確実に縦にも横にも大きくなっている。

「いつか俺もジークさんみたいな戦士になれますか?」
「ははっどうだろうね」
「そこはいい感じにしといて下さいよ~」
「はっはっはっ」

 シオのスリーパーホールドから解放された俺は前へと歩き出す。
 
 じゃあ帰ろうか。
 
 戦士になる準備は整った。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ぱっと終わらせるつもりだったはずなのに遅筆すぎて長引いた二章もこれで終わりです。
次は本来書きたかった獣との闘争を書きたいと思っています。

更新が早い時で月1、もっと開くこともあるにもかかわらず読んでいただいていた読者様には感謝の念が堪えません。
もうしばらく続きますので、次章も読んでいただけると非常に嬉しいです。
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