12 / 110
1章:落日の王都
9話:思いを残し
しおりを挟む
その頃ユリエルは門を出て、数キロ先の村へと戻った。そこで綺麗に髪を水で流し、着替えてから、隠しておいたローランに鞍をつける。
髪は特殊な染め剤で色を変えた。幸いユリエルの銀の髪は色が定着しやすく、綺麗に染まる。湯で洗えば綺麗に落ちるが、水でも十分色を落とせるものだ。
ローランを連れて村を出ようとすると、その出口で困った笑みを浮かべたクレメンスが待っていた。
「律義者ですね」
「そりゃ、主が突然消えれば探しますよ」
苦笑はするが責めるわけではない。そういう所が、クレメンスという男の付き合いやすさだ。これがグリフィスならばきっと凄い剣幕で怒るだろう。
「王都の様子はどうでしたか?」
共に馬に乗って聖ローレンス砦へと戻る道中、クレメンスは問う。それに、ユリエルは厳しい顔をした。
「街に被害はありません。民の生活にも大きな変化は感じませんでした。それでもやはり、灯が消えたように静かでした。皆、怯えてはいるようです」
表面上は穏やか。だが、やはり不安は拭えないのだろう。どこか人の目を避けるように生活する人々を見ると、気持ちを新たにしなければならなかった。
「できるだけ急いで取り戻さなければなりませんな、殿下」
「えぇ」
ユリエルは瞳を閉じて溜息をつく。
だがふと、その瞼に映った人の姿にユリエルは小さく笑みを浮かべた。
「どうしました?」
「今日、夜と出会ったのですよ」
夜のように穏やかで、星のような瞳を持つ優しい人。ふと心を温めて包む、そんな不思議な感覚をくれる人。
「私の双子星、また会いましょう」
隣のクレメンスは不思議そうに首を傾げたが、小さく残したユリエルはそれ以上何も言わず、馬の腹を蹴った。
髪は特殊な染め剤で色を変えた。幸いユリエルの銀の髪は色が定着しやすく、綺麗に染まる。湯で洗えば綺麗に落ちるが、水でも十分色を落とせるものだ。
ローランを連れて村を出ようとすると、その出口で困った笑みを浮かべたクレメンスが待っていた。
「律義者ですね」
「そりゃ、主が突然消えれば探しますよ」
苦笑はするが責めるわけではない。そういう所が、クレメンスという男の付き合いやすさだ。これがグリフィスならばきっと凄い剣幕で怒るだろう。
「王都の様子はどうでしたか?」
共に馬に乗って聖ローレンス砦へと戻る道中、クレメンスは問う。それに、ユリエルは厳しい顔をした。
「街に被害はありません。民の生活にも大きな変化は感じませんでした。それでもやはり、灯が消えたように静かでした。皆、怯えてはいるようです」
表面上は穏やか。だが、やはり不安は拭えないのだろう。どこか人の目を避けるように生活する人々を見ると、気持ちを新たにしなければならなかった。
「できるだけ急いで取り戻さなければなりませんな、殿下」
「えぇ」
ユリエルは瞳を閉じて溜息をつく。
だがふと、その瞼に映った人の姿にユリエルは小さく笑みを浮かべた。
「どうしました?」
「今日、夜と出会ったのですよ」
夜のように穏やかで、星のような瞳を持つ優しい人。ふと心を温めて包む、そんな不思議な感覚をくれる人。
「私の双子星、また会いましょう」
隣のクレメンスは不思議そうに首を傾げたが、小さく残したユリエルはそれ以上何も言わず、馬の腹を蹴った。
0
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる