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6章:死が二人を分かっても
1話:嬉し恥ずかし結婚式(エリオット)
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十一月の始め、エリオットは朝から城の奥にある一室で着せ替え人形状態になっていた。
「ほら、エリオットさんこちらを見て」
「やっぱり少しお化粧してはいかが、エリオットさん」
「あの、化粧はちょっと……」
仕立てられた綺麗なタキシードにドキドキしながら袖を通したエリオットは、オスカルの母ステイシーと義妹オーレリアを前にタジタジの状態だ。
それというのも、今日はエリオットとオスカルの結婚式が執り行われる。外部からは両家が。他は騎士団のメンバーで親しい人が参列してくれる。そればかりか、カールまでひっそり混じると言うのだ。
オスカルが「こだわりたい!」といった指輪もできあがり、両家の顔合わせもした。意外と和やかな食事会で、堅苦しくはなく気楽に話をする様子にほっとした。
当日の衣装は縫製業を生業とするオスカルの家がお祝いにと言ってくれた。今エリオットが着ているタキシードがそれだ。
「花嫁は白!」というオスカルの希望もあり、ジャケットは綺麗な白一色。けれど形には拘ったみたいで、腰の辺りがスッキリとしたシルエットになるように作られている。
合わせるベストは光沢のある上品なシルバーグレー。首元のタイは瞳の色に合わせた淡いグリーン。
それらに袖を通し、鏡で見た自分の姿に照れてしまった。普段あまりオシャレなんてしないから、こんな仕立ての良い物は式典用の服くらいしか知らない。
「本当によく似合うわ。こんなに素敵な息子が出来るなんて」
嬉しそうに言うステイシーに、エリオットも柔らかく微笑んだ。
思えばとても長かった気がする。最初は苦手だと思っていた相手。勝手に意識して、反発もあって。でも少しずつ、必要になっていった。
目が離せない、いて欲しい人になったのはわりと最近。数年前のこと。互いの思いを通わせた後は、めまぐるしくも満ち足りた日々だった。
「結婚しよう」と言われてからも長かった。互いに忙しい身の上で、しかも変革期のように戦いが続いた。
両家に赴き、挨拶をして、指輪を作っている間にジェームダルとの戦いになって。落ち着いたのは本当に最近だ。
「あら、オスカル兄さんの隣りに立つんですもの。このくらいは当然よ」
オーレリアが胸を張って言う。淡い紫色のドレスを着た彼女はジッとエリオットを見据え、薄く笑みを浮かべた。
「お似合いよ、エリオット義兄様」
「有り難うございます、オーレリアさん。ステイシーさん」
「あら、私の事は義母さんでいいのよ?」
「あの、それは……」
顔を赤くしてエリオットは困り顔。抵抗はないけれど、気恥ずかしのだ。
そうしていると不意にドアがノックされて、着替えたオスカルを先頭にバイロン、ジェイソン。そして義父ラザレスが入ってきた。
パッと目に飛び込んできたオスカルに、エリオットは思わず見惚れた。
淡いシャンパンゴールドのジャケットに、マホガニー色のベスト。ジャケットと同じシャンパンゴールドのネクタイをしめている。
クリーム色の髪を軽く撫でつけた姿は少し見慣れなくてドキドキする。
「エリオット、凄く綺麗」
蕩ける様な瞳で見るオスカルが進み出て、そっと手を取って口づける。そつのない動きにドキドキする。どうしてこんなに嫌味なくできるのだろう。
「オスカル、恥ずかしいです」
「顔真っ赤だね」
「もう」
恥ずかしいが、嫌じゃない。視線を外すと彼に笑われてしまった。
「エリオットさん、本日はおめでとうございます」
「おめでとう、エリオット義兄ちゃん! すっごく似合うよ」
「バイロンさん、ジェイソンくん、有り難う」
それぞれ黒と濃紺のタキシードに身を包んだ義弟のバイロンとジェイソンが、それぞれに挨拶をしてくれる。バイロンの方はしげしげとエリオットの服を見て、満足な顔をした。
「やはりその形にしてよかった。エリオットさんは体型も理想的でしたので、ウェストを綺麗に見せたかったので」
「採寸、もの凄く拘ってたよなー、バイロン兄さん」
「体に合った物を作りたかったんだ。何が凄いかと言えば、その体型を常に維持しているエリオットさんが凄い」
頭の後ろで腕を組むジェイソンに、当然とバイロンが言ってのける。バイロンもすっかり跡取りの顔つきをしている。
「本当に綺麗なライン。バイロン、腕上げたね」
「兄さん! あの、有り難うございます」
前から後ろからジロジロとエリオットの服を確かめるオスカルが、満足そうな顔でバイロンを労っている。それに、バイロンはくすぐったそうな嬉しい顔をしている。
オスカルの事が大好きなバイロンにとって、これはとても嬉しい事なのだろう。
「今回の衣装はバイロンに任せて正解だったね」
「ラザレスさん」
この様子を微笑ましく見ていたオスカルの父ラザレスが、ニコニコしながら前に出てエリオットの前にくる。そして、とても温かな笑みを浮かべた。
「おめでとう、エリオットくん。オスカルをよろしくお願いするよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げたエリオットにラザレスも頷く。そして一度、軽く抱き寄せて背をトントンと叩いてくれた。
「素敵な息子が増えて嬉しいかぎりだ。歓迎するよ、エリオットくん」
父を亡くして久しいエリオットにとって、ラザレスは本当の父のようだ。温かい包容に身を任せていると、側でオスカルがもの凄く拗ねた顔をしていた。
「あの、オスカル?」
「もう、父さん離れてよ。僕だって我慢してるのに」
「おや、それは失礼」
器用に片眉を上げて笑ったラザレスが手を離す。そうすると今度はオスカルがエリオットに抱きついた。
「ちょっとオスカル!」
「いいじゃん、夫婦なんだよ。父さんはよくて、僕は駄目?」
「そうじゃ……ないけれど。恥ずかしいです」
顔を赤くしながらエリオットは素直に口にする。それに、周囲は温かい笑いに包まれていった。
その時、控えめなノックのあとでルイーズが顔を出し、エリオットの家族が到着したことを伝えてくれた。
そうして入ってきた母セリーヌと妹エレナは、二人とも落ち着かない様子でキョロキョロしていた。
「母さん、エレナ」
「エリオット」
「兄さん!」
近づいていくとようやく息がつけた様子で、二人は安堵している。不安そうな様子は薄れていった。
「お城になんて来た事がなくて。場違いじゃ」
「母さん、そんな事ないよ」
オロオロしている母は控えめな黒のドレスを着ている。そして実は、ステイシーと同じ形と色だ。肩からシルバーのショールをかけている。
「確かに緊張しますね。私も城なんて滅多に来ないですし、こんな奥まで来る事はありませんから。いやぁ、改めて息子の職場は凄い場所ですね」
「ラザレスさん。この度は本当に、このような日を迎えられて」
「畏まった挨拶は抜きにしましょう、セリーヌさん。我々も家族ですよ」
緊張を解すように軽い様子で声をかけたアザレスに、セリーヌはきっちりと頭を下げている。
その後ろでは淡いピンク色のドレスを着たエレナの側に、バイロンが近づいて声をかけていた。
「そのドレス」
「あっ、あの。こんな素敵なドレスを贈っていただいて、有り難うございます!」
「あぁ、いや。困っていたようですし、それにとても似合っています。淡い暖色が、貴方には似合うように思っていたので」
普段ドレスなんて着ないエレナは両家の顔合わせの時にドレスを決めかねていた。
そこに声をかけてくれたのは、意外にもバイロンだった。
エリオットとオスカル、両親の服を作るのだからエレナの分も贈ると言ってくれたのだ。
最初は遠慮したりしていたエレナだったが、今は照れながらも嬉しそうにしている。
そしてその側にいるバイロンも、穏やかで優しい笑みを浮かべていた。
「あの二人、なんだかいい感じだよね」
「そうですね」
こっそりと耳打ちをするオスカルに、エリオットも頷いて微笑む。まだ淡い何かが始まりそうな、そんな予感がする光景だった。
そうしていると遅れていたシェリーとその旦那のリアム、一歳になるかならないかの二人の娘ノエルも到着した。
「ごめんなさい、兄さん、エリオットさん。すっかり遅くなってしまって」
「いらっしゃい、シェリー、リアム」
ニッコリ笑ったオスカルが最初に手を伸ばすのは、姪にあたるノエルだ。子供が好きな彼は一歳になるノエルを抱き上げてご満悦だ。
「エリオット様、オスカル様、本日はおめでとうございます」
「有り難うございます、リアムさん」
アベルザード家の執事でもあるリアムが丁寧に頭を下げる。その横でシェリーもお祝いの言葉をくれた。
「お二人が今日の日を迎えられて、私も嬉しいです」
シェリーはニッコリと微笑んでそんな事を言う。
エリオットがオスカルの家族に会いに行った時に、シェリーとリアムの事件が起こった。それから二年近くがいつの間にかたってしまっている。
「本当に長かったよね。あの時まだ産まれていなかったノエルが、今じゃ一歳近いんだもん」
オスカルの腕に抱かれているノエルが、エリオットに手を伸ばしている。求められるままに抱き上げると、嬉しそうに笑ってピッタリと体を寄せてきた。
「まぁ、ノエルったら。ごめんなさい、エリオットさん」
「ノエルはエリオットが好きだよね。時々妬ける」
「やめてくださいよ、オスカル」
本気なのか冗談なのか分からない顔でこんな事を言うときは、半分本当なんだ。
ノエルはエリオットが遊びに行くと真っ先に近づいてきて抱っこを強請る。そして一度抱っこされるとなかなか降りない。その度、オスカルは微妙な顔をする。相手は一歳ほどの子供なのにだ。
「エリオットさんがいなかったら、この子は産まれているか分かりませんもの。命の恩人です」
「取らないでよ?」
「オスカル、心が狭い」
「エリオット関係だけだよ。僕は本来寛大な方なんだから」
微妙に嘘だ。案外短気で心が狭い。そういう部分を見せないだけだ。
親族和やかに。そうするうちに三度ノックが聞こえ、今日の取り仕切りをするルイーズが丁寧に頭を下げた。
「参列される皆様も揃いました。そろそろ、式を始めても宜しいでしょうか?」
「あぁ、うん。じゃあ、皆後で。ほんの少し、エリオットと二人になりたいんだけどいい?」
「畏まりました。それでは、親族の皆様はこちらへ」
両家の人達が一言ずつ声をかけて出て行く。そうして部屋に残ったのは、エリオットとオスカルの二人だけだった。
「エリオット」
呼ばれて向き直り、しっかりとオスカルを見る。
いつもとは視線の意味合いが違う。柔らかく微笑み、しっかりと見据えるオスカルをドキドキしながら見ている。
今日、この人と正式に夫婦になる。
「今日、式で証明書に署名して、承認してもらう。そうしたら、僕達は正式に家族になる」
「はい」
「……後悔とか、しない?」
ほんの少し不安そうに言うオスカルに、エリオットはゆっくりと首を横に振り、柔らかく微笑んだ。
「しません。貴方と、ずっと一緒にいたい」
改めて伝えると、オスカルは嬉しそうに笑う。
距離が自然と近づいて、互いに抱き合って。そうして互いの体温を感じている時間がとても幸せに思えた。
「エリオット、大好きだよ。これからも僕の側にいてほしい」
「はい、オスカル。私も、貴方の事が好きです」
日の光の入る控え室、二人だけの空間。そっと寄り添ったまま、二人は気持ちを確かめ合うように柔らかくキスをした。
「ほら、エリオットさんこちらを見て」
「やっぱり少しお化粧してはいかが、エリオットさん」
「あの、化粧はちょっと……」
仕立てられた綺麗なタキシードにドキドキしながら袖を通したエリオットは、オスカルの母ステイシーと義妹オーレリアを前にタジタジの状態だ。
それというのも、今日はエリオットとオスカルの結婚式が執り行われる。外部からは両家が。他は騎士団のメンバーで親しい人が参列してくれる。そればかりか、カールまでひっそり混じると言うのだ。
オスカルが「こだわりたい!」といった指輪もできあがり、両家の顔合わせもした。意外と和やかな食事会で、堅苦しくはなく気楽に話をする様子にほっとした。
当日の衣装は縫製業を生業とするオスカルの家がお祝いにと言ってくれた。今エリオットが着ているタキシードがそれだ。
「花嫁は白!」というオスカルの希望もあり、ジャケットは綺麗な白一色。けれど形には拘ったみたいで、腰の辺りがスッキリとしたシルエットになるように作られている。
合わせるベストは光沢のある上品なシルバーグレー。首元のタイは瞳の色に合わせた淡いグリーン。
それらに袖を通し、鏡で見た自分の姿に照れてしまった。普段あまりオシャレなんてしないから、こんな仕立ての良い物は式典用の服くらいしか知らない。
「本当によく似合うわ。こんなに素敵な息子が出来るなんて」
嬉しそうに言うステイシーに、エリオットも柔らかく微笑んだ。
思えばとても長かった気がする。最初は苦手だと思っていた相手。勝手に意識して、反発もあって。でも少しずつ、必要になっていった。
目が離せない、いて欲しい人になったのはわりと最近。数年前のこと。互いの思いを通わせた後は、めまぐるしくも満ち足りた日々だった。
「結婚しよう」と言われてからも長かった。互いに忙しい身の上で、しかも変革期のように戦いが続いた。
両家に赴き、挨拶をして、指輪を作っている間にジェームダルとの戦いになって。落ち着いたのは本当に最近だ。
「あら、オスカル兄さんの隣りに立つんですもの。このくらいは当然よ」
オーレリアが胸を張って言う。淡い紫色のドレスを着た彼女はジッとエリオットを見据え、薄く笑みを浮かべた。
「お似合いよ、エリオット義兄様」
「有り難うございます、オーレリアさん。ステイシーさん」
「あら、私の事は義母さんでいいのよ?」
「あの、それは……」
顔を赤くしてエリオットは困り顔。抵抗はないけれど、気恥ずかしのだ。
そうしていると不意にドアがノックされて、着替えたオスカルを先頭にバイロン、ジェイソン。そして義父ラザレスが入ってきた。
パッと目に飛び込んできたオスカルに、エリオットは思わず見惚れた。
淡いシャンパンゴールドのジャケットに、マホガニー色のベスト。ジャケットと同じシャンパンゴールドのネクタイをしめている。
クリーム色の髪を軽く撫でつけた姿は少し見慣れなくてドキドキする。
「エリオット、凄く綺麗」
蕩ける様な瞳で見るオスカルが進み出て、そっと手を取って口づける。そつのない動きにドキドキする。どうしてこんなに嫌味なくできるのだろう。
「オスカル、恥ずかしいです」
「顔真っ赤だね」
「もう」
恥ずかしいが、嫌じゃない。視線を外すと彼に笑われてしまった。
「エリオットさん、本日はおめでとうございます」
「おめでとう、エリオット義兄ちゃん! すっごく似合うよ」
「バイロンさん、ジェイソンくん、有り難う」
それぞれ黒と濃紺のタキシードに身を包んだ義弟のバイロンとジェイソンが、それぞれに挨拶をしてくれる。バイロンの方はしげしげとエリオットの服を見て、満足な顔をした。
「やはりその形にしてよかった。エリオットさんは体型も理想的でしたので、ウェストを綺麗に見せたかったので」
「採寸、もの凄く拘ってたよなー、バイロン兄さん」
「体に合った物を作りたかったんだ。何が凄いかと言えば、その体型を常に維持しているエリオットさんが凄い」
頭の後ろで腕を組むジェイソンに、当然とバイロンが言ってのける。バイロンもすっかり跡取りの顔つきをしている。
「本当に綺麗なライン。バイロン、腕上げたね」
「兄さん! あの、有り難うございます」
前から後ろからジロジロとエリオットの服を確かめるオスカルが、満足そうな顔でバイロンを労っている。それに、バイロンはくすぐったそうな嬉しい顔をしている。
オスカルの事が大好きなバイロンにとって、これはとても嬉しい事なのだろう。
「今回の衣装はバイロンに任せて正解だったね」
「ラザレスさん」
この様子を微笑ましく見ていたオスカルの父ラザレスが、ニコニコしながら前に出てエリオットの前にくる。そして、とても温かな笑みを浮かべた。
「おめでとう、エリオットくん。オスカルをよろしくお願いするよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げたエリオットにラザレスも頷く。そして一度、軽く抱き寄せて背をトントンと叩いてくれた。
「素敵な息子が増えて嬉しいかぎりだ。歓迎するよ、エリオットくん」
父を亡くして久しいエリオットにとって、ラザレスは本当の父のようだ。温かい包容に身を任せていると、側でオスカルがもの凄く拗ねた顔をしていた。
「あの、オスカル?」
「もう、父さん離れてよ。僕だって我慢してるのに」
「おや、それは失礼」
器用に片眉を上げて笑ったラザレスが手を離す。そうすると今度はオスカルがエリオットに抱きついた。
「ちょっとオスカル!」
「いいじゃん、夫婦なんだよ。父さんはよくて、僕は駄目?」
「そうじゃ……ないけれど。恥ずかしいです」
顔を赤くしながらエリオットは素直に口にする。それに、周囲は温かい笑いに包まれていった。
その時、控えめなノックのあとでルイーズが顔を出し、エリオットの家族が到着したことを伝えてくれた。
そうして入ってきた母セリーヌと妹エレナは、二人とも落ち着かない様子でキョロキョロしていた。
「母さん、エレナ」
「エリオット」
「兄さん!」
近づいていくとようやく息がつけた様子で、二人は安堵している。不安そうな様子は薄れていった。
「お城になんて来た事がなくて。場違いじゃ」
「母さん、そんな事ないよ」
オロオロしている母は控えめな黒のドレスを着ている。そして実は、ステイシーと同じ形と色だ。肩からシルバーのショールをかけている。
「確かに緊張しますね。私も城なんて滅多に来ないですし、こんな奥まで来る事はありませんから。いやぁ、改めて息子の職場は凄い場所ですね」
「ラザレスさん。この度は本当に、このような日を迎えられて」
「畏まった挨拶は抜きにしましょう、セリーヌさん。我々も家族ですよ」
緊張を解すように軽い様子で声をかけたアザレスに、セリーヌはきっちりと頭を下げている。
その後ろでは淡いピンク色のドレスを着たエレナの側に、バイロンが近づいて声をかけていた。
「そのドレス」
「あっ、あの。こんな素敵なドレスを贈っていただいて、有り難うございます!」
「あぁ、いや。困っていたようですし、それにとても似合っています。淡い暖色が、貴方には似合うように思っていたので」
普段ドレスなんて着ないエレナは両家の顔合わせの時にドレスを決めかねていた。
そこに声をかけてくれたのは、意外にもバイロンだった。
エリオットとオスカル、両親の服を作るのだからエレナの分も贈ると言ってくれたのだ。
最初は遠慮したりしていたエレナだったが、今は照れながらも嬉しそうにしている。
そしてその側にいるバイロンも、穏やかで優しい笑みを浮かべていた。
「あの二人、なんだかいい感じだよね」
「そうですね」
こっそりと耳打ちをするオスカルに、エリオットも頷いて微笑む。まだ淡い何かが始まりそうな、そんな予感がする光景だった。
そうしていると遅れていたシェリーとその旦那のリアム、一歳になるかならないかの二人の娘ノエルも到着した。
「ごめんなさい、兄さん、エリオットさん。すっかり遅くなってしまって」
「いらっしゃい、シェリー、リアム」
ニッコリ笑ったオスカルが最初に手を伸ばすのは、姪にあたるノエルだ。子供が好きな彼は一歳になるノエルを抱き上げてご満悦だ。
「エリオット様、オスカル様、本日はおめでとうございます」
「有り難うございます、リアムさん」
アベルザード家の執事でもあるリアムが丁寧に頭を下げる。その横でシェリーもお祝いの言葉をくれた。
「お二人が今日の日を迎えられて、私も嬉しいです」
シェリーはニッコリと微笑んでそんな事を言う。
エリオットがオスカルの家族に会いに行った時に、シェリーとリアムの事件が起こった。それから二年近くがいつの間にかたってしまっている。
「本当に長かったよね。あの時まだ産まれていなかったノエルが、今じゃ一歳近いんだもん」
オスカルの腕に抱かれているノエルが、エリオットに手を伸ばしている。求められるままに抱き上げると、嬉しそうに笑ってピッタリと体を寄せてきた。
「まぁ、ノエルったら。ごめんなさい、エリオットさん」
「ノエルはエリオットが好きだよね。時々妬ける」
「やめてくださいよ、オスカル」
本気なのか冗談なのか分からない顔でこんな事を言うときは、半分本当なんだ。
ノエルはエリオットが遊びに行くと真っ先に近づいてきて抱っこを強請る。そして一度抱っこされるとなかなか降りない。その度、オスカルは微妙な顔をする。相手は一歳ほどの子供なのにだ。
「エリオットさんがいなかったら、この子は産まれているか分かりませんもの。命の恩人です」
「取らないでよ?」
「オスカル、心が狭い」
「エリオット関係だけだよ。僕は本来寛大な方なんだから」
微妙に嘘だ。案外短気で心が狭い。そういう部分を見せないだけだ。
親族和やかに。そうするうちに三度ノックが聞こえ、今日の取り仕切りをするルイーズが丁寧に頭を下げた。
「参列される皆様も揃いました。そろそろ、式を始めても宜しいでしょうか?」
「あぁ、うん。じゃあ、皆後で。ほんの少し、エリオットと二人になりたいんだけどいい?」
「畏まりました。それでは、親族の皆様はこちらへ」
両家の人達が一言ずつ声をかけて出て行く。そうして部屋に残ったのは、エリオットとオスカルの二人だけだった。
「エリオット」
呼ばれて向き直り、しっかりとオスカルを見る。
いつもとは視線の意味合いが違う。柔らかく微笑み、しっかりと見据えるオスカルをドキドキしながら見ている。
今日、この人と正式に夫婦になる。
「今日、式で証明書に署名して、承認してもらう。そうしたら、僕達は正式に家族になる」
「はい」
「……後悔とか、しない?」
ほんの少し不安そうに言うオスカルに、エリオットはゆっくりと首を横に振り、柔らかく微笑んだ。
「しません。貴方と、ずっと一緒にいたい」
改めて伝えると、オスカルは嬉しそうに笑う。
距離が自然と近づいて、互いに抱き合って。そうして互いの体温を感じている時間がとても幸せに思えた。
「エリオット、大好きだよ。これからも僕の側にいてほしい」
「はい、オスカル。私も、貴方の事が好きです」
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おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
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