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19章:建国祭ラブステップ
21話:ご主人様にはなれません2(ネイサン×イーデン)
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夕食はとても美味しかったのに、あまり楽しくなかった。ネイサンは執事で一緒に食べない。一緒に食べるほうが楽しいし、嬉しいのに。せっかく、ネイサンが作ってくれたものなのに。
残さず食べて、お風呂に入って部屋に行くと、既に寝る準備を終えているネイサンがいて、イーデンを見て近づいてきた。
「ネイサン」
「おいで、イーデン」
その声に安心する。これは執事のネイサンではなく、本人だと分かる。困った笑みを浮かべた彼に駆けるように近づいて、その胸に飛び込むと頬に手が触れ、自然と上向かされる。そうして受け入れるキスはとても優しくて、官能的だった。
「今日は、嫌だった?」
「意地悪」
「ん。ごめんね、イーデン」
しょんぼりとしているのが気配で分かる。困った笑みを浮かべたまま、またしてくれるキスは軽いもの。「許して」と、無言で謝られているようだ。
「どうして、今日はこうだったの?」
「最近、君に甘えられていなかったなと思って」
「素直に言えばいいのに」
「そういうのが苦手な男だって、知ってるでしょ?」
甘えて首筋にもキスをしてくるネイサンを受け入れて、「そういえばそうだった」なんて、イーデンは思って抱きついた。
この人は、無償というものが苦手だ。もっと言うと、素直じゃない。駆け引きをして、おとしこんだり何かの報酬は受け取る。イーデンなんかはいつも陥落させられる。
けれど親切というものをいまいち信用していない。無償の愛なんてもの、多分あるとは思っていないんだと思う。
「俺もごめんなさい。寂しかったんだ」
「ん、少しね」
「して欲しい事、まだあった?」
「足にキスさせて」
「それは嫌」
即答に、ネイサンは小さく舌打ちをする。こういうところだ、この人のずるさは。
「どうして嫌なのかな?」
「俺はネイサンにそんな事をしてもらいたくない。傲慢な人間みたいだ」
「好きになった俺の方は、隅々まで触れたいけれど」
「変態だよね、ネイサン」
仕事では秘密主義でサディストで過激。だけれどイーデンに見せるのは少し甘えた姿と、それ以上の変態性。この人は謎だと思う。
「俺は変態だよ。そんな俺の猛アタックに折れてくれて、嬉しい」
「……ネイサンがいなくなったと思った時、自分でも驚くくらい苦しくて哀しくて潰れてしまいそうだった。……無事で、よかった」
思い出すとまだ苦しい。スノーネルでネイサンが任務に失敗して姿を消したと知って、自分でも驚くくらい泣いた。目が痛くて溶けてしまいそうなくらいだった。思い出すのは不意に見せる寂しげな笑みだったり、「可愛いね」という声だったり。
思ったのだ、この人が死んだらこの少ない思い出だけを何度も視るんじゃないかって。こんな寂しい顔ばかり、切ない「好き」ばかりを繰り返して泣くんだろうかって。それは、辛すぎる。それならもっと、沢山のいい思い出を添えたい。もしも離れたとしても思い出す記憶に、鮮やかな色を残しておきたいと。
「……ごめん、もうしくじらないから」
「そんな保証ないくせに。それに俺がしくじる事も考えてる?」
「…………」
突然無言になった。なったと思ったら、キツく抱きしめられた。肩に頭を乗せるようにされて、顔が見られない。ただ、もの凄く重たい。身長差があるからこんな風にされると海老反りでコケそうだ。
「ちょ! 危ないって! 倒れる!!」
「…………嫌だな」
「え?」
「君が、死ぬのは嫌だな。見たくないな。そういうの、あまり考えないようにしていたんだけれど……仕事モード抜けてるから、刺さる」
「!」
本当に苦しそうな声で言われると、驚く。普段は仕事モードなのか「訓練する」と一言で課題を増やされるばかりなのに。
なんだか、こちらまで苦しい。そして、キツくネイサンの背中を掴んだ。
「死なない。頑張って生き残るから」
「そうして。そうじゃないと俺、仕事モードから戻った途端にバカやりそう」
「そんなに! 俺、そんなに愛されてるの?」
……割と雑な扱いしか覚えていない。
けれどこの人は二面性というか、別人格か? ってくらい仕事とプライベートが違う。両方を知っているから、珍しいプライベートの今の扱いが分からない。
ネイサンが体を戻す。ちゃんと立った彼の目元は少し濡れて見える。これを見ると、少しキュンとするのだ。
「愛してるよ。君は可愛いし、大事にしたい。仕事ではそうもいかないけれど、俺個人としてはね」
「……俺、長生きするね」
「んっ、そうしてね」
こめかみにキスをされてくすぐったい。そして二人でとても自然にベッドに入り込んだ。
肌に触れる手の感触は決して滑らかではない。暗器使いのこの人の手は妙な所にまめが出来ていたり、擦り切れて硬くなっていたりする。でもそれが肌を刺激するのが気持ちいい。
「んぅ」
「甘え声。最初は胸で感じるのに戸惑っていたのにね」
「教え込んだの、ネイサンじゃないか」
「可愛かったよ、沢山泣いて。俺が君を好きになった切っ掛けは、その泣き顔がとても可愛かったからだし」
「根性ねじ切れてますよね?」
「そう? もっと泣かせたい。もっと、鳴かせたい」
「あん!」
ギュッと突然強く乳首を捻り上げられて思わず声が出る。痛いけれど、痺れもする。これを気持ちいいと感じるようになってしまった。
「……イーデン、もう一つ賭けをしようか」
「え?」
「胸でイッたら俺の勝ち。したい事させて」
「それ、俺の勝率ほぼないんですけど」
なんせこの人が開発したんだ、当然ポイントを抑えられている。
ネイサンは何かしら考えている。でも、この賭けを引き下げるつもりはないらしい。
「じゃあ、手は使わない」
「へ?」
「口だけ」
「…………それなら」
既に、ちょっと腰にくる。ネイサンに舌や口でされるのは好きだ。蕩けてしまいそうになる。その快楽が欲しくて、イーデンは賭けに乗った。
ぴちゃりと、温かくて弾力のある舌が硬くなりかけている乳首を転がす。硬く尖らせた先端が下から持ち上げるようにねっとりと絡むのは、それだけで腰が痺れた。
上目遣いに見られ、声を抑えている事にも気づいていて、笑う。クルクルと周辺も刺激されたあとで、パクリと食べられてしまった。
「んぅ、ふっ…………ぁあ」
温かい口腔が吸い上げて、血が通う頂きを舌が遊ぶ。歯が当らないように優しくされて腰が揺れてしまう。気持ち良くてたまらない。こういうことも、ネイサンがイーデンに仕込んだんだ。
性的な事は全部、ネイサンが教えてくれた。女役をやるには枕も必要になる事がある。勿論女装がバレてしまうから、脱がずに男をよがらせる方法を教わるのだ。主に、着衣のままでのイカせテクだ。
バックバージンは勿論、真っ先にネイサンに散らされた。ファーストキスもネイサン。舌の使い方や声の作り方も。
でも、その時とプライベートじゃ触れ方が違う。今はこんなにも蕩けてしまいそうに気持ちがいい。
「あっ、やっ」
腰が揺れて止まらない。気持ち良くなって頭が霞がかってくる。時折波が襲ってきて甘く響くようになる。
ネイサンは約束通り手は使っていない。口と舌だけで両方の胸を攻め立てている。唾液に濡れた乳首はテラテラとしていて色が濃くて、ツンと尖って大きくなっている。とても卑猥で、それを見るだけでもまた興奮してくるのが分かる。
短い喘ぎと息づかい。我慢しても快楽に弱い体は気持ちいい事を知っていて求めている。ネイサンはそれを見極めて、甘く乳首を噛んだ。
「んぁ! あっ、あぅぅ!!」
目の前がチカチカして、波が押し寄せて攫って行った。僅かだが射精してしまって、イーデンはぐったりとベッドに沈む。未だに胸がジンジンしていて、気持ち良くて凄い。何をされるか分からないのに満足感が半端ない。
「俺の勝ち」
「ですね。何をしたいんです?」
「それは秘密」
嬉しそうなネイサンが鼻歌でも歌いそうな様子で一度ベッドから降りる。そして何故か革のバンドをベッドサイドの引出しから取り出した。
「……え?」
それが何かを認識をするよりも早く、ネイサンはイーデンの根元にそれを嵌めてしっかりと引き絞ってしまう。突然と戒められたイーデンはちょっとパニックになった。
「ネイサン嫌だ!」
「あぁ、いじめ抜いたりしないよ。暴発予防」
「どっちにしても嫌だ!!」
ちょっと泣いているけれどお構いなし。キス攻めの後、戒められたものの先端を擦られて一気に腰が痺れて倒れ込んでしまった。
「んぅ!!」
「俺の準備ができるまで、少しそのまま。出して少し萎えてるから、こっちも気持ち良くしてあげるよ」
するすると体を下にずらしたネイサンが、躊躇いもなく昂ぶりを口に入れてしまう。それだけで腰が抜けそうだ。イッた後の敏感な部分を口で優しく刺激されて、なのに戒められてイクことは出来なくて。
痛いような、苦しいような、滅茶苦茶に腰を振りたいような、そんな衝動にイーデンはひたすら泣いていた。
「さすが、若いな。もう硬くなった」
口で十分に育てられた部分が解放され、トロトロの香油をかけられる。何が行われるのかと息を乱したまま凝視していると、ネイサンは徐に腰を上げてそそり立つイーデンの上に後孔をぴたりと当て、あろうことか腰を落としていった。
「あっ、あっ!! はぁぁ!」
「イーデン、出したらダメだよ?」
「あっ、なん、でぇっ!」
突如ネイサンの中へと侵入する昂ぶりは、狭くて熱い肉壁に包まれて蕩けてしまいそうだ。みちっと吸い付いてくる肉の感触なんて初めてのことだ。
「んっ、意外と立派だ。気持ちいいよ、イーデン。俺は気持ちいいかい?」
言葉が出ない。ただひたすら首を振って肯定した。
ネイサンはとても嬉しそうにして、腰を持ち上げては落とし込む。その度に深くまで肉をかき分け吸い付かれる感じがあり、チカチカと目の前を星が飛んだ。
「あっ、これいい……んっ、気持ちいい」
「ネイ、サン……っ」
「あれ? もしかして中イキしてる?」
ネイサンの指摘に、イーデンは素直に頷いた。さっきから腹の奥がキュンキュンして快楽が止まらない。初めて男として正しい用途に使われているのに、女の快楽に串刺しにされているのだ。
とことん、イーデンは女役なのだろう。
ペロリと、ネイサンは唇を舐めた。しっとりと濡れる肌が色香を放っている。そして腹の上で腰を振る、その媚態を更に深めていく。腰を落とす度に奥を抉るよう。同時に戒めが根元をきつく縛っていて達する事ができない。
「もっ、取って! 取ってよぉ! 死んじゃう……破裂する!」
「んっ、もう少し……はぁ、あっ、あぁ……」
最初の余裕も影を潜め、ネイサンもこの行為に夢中になっている。腰をふる速さも角度も変わって、行き止まりを毎回先端が突き上げているのを感じる。抜けてしまいそうな危うさと、抜けたらどうなるのかという好奇心。ぐちゃぐちゃに理性は溶けて、イーデンもまた求めるように腰を振った。
「あっ、気持ちぃぃ……んっ! イーデン」
「もっ、取って……痛いよ、ネイサン」
熱に浮かされたネイサンの潤んだ瞳。求めるようにされる舌を絡めたキス。ぐちゃぐちゃに交わる中、ネイサンは器用に戒めを解いた。瞬間、ズンと腰が重く痺れて急速に射精感が高まって、イーデンは我慢出来ずに自らも腰を打ち付けてネイサンを求めた。
気持ち良さそうな掠れた彼の声なんて、あまり知らない。でも、こういうものに興奮を覚える辺りはまだ男なのだとも思える。
「あっ、イッ……イーデン!」
「あぅ! やっ、あうぅ!」
切羽詰まったネイサンの声、震えて丸くなった背中。引き絞られるような締め付けに、イーデンは我慢できずに吐精した。奥の奥に自らの精を残すという行為に、普段はない支配欲が芽生えた気がする。まさにマーキングだろうか。
ほぼ同じタイミングで腹に熱いものを感じる。僅かにかかる体重が心地よく、しっとりとする背を撫でた。
「ネイサン、大丈夫?」
「ん、平気……久しぶりに女役なんてしたな……快楽深い」
「俺は驚きすぎてマグロだったんだけど」
初めての男役だったのに、それらしい事はしてやれずじまいだった。
それでもより一層愛おしさが増したのは確かだ。まだこの人の中にいる心地よさも感じている。
チュッとキスをされ、応じて返して。恋人らしい行為に満ち足りた気分でいる間に、ネイサンが腰を上げて抜けてしまった。
「名残惜しそうだね、イーデン」
「ネイサンの中、気持ち良かった」
「童貞卒業、おめでとう」
「…………え?」
そういえば……そうだ。
今更になってその事実に至り、イーデンはネイサンを見る。一方彼はとても満足そうな笑みだ。
「……もしかして、これが目的だったの?」
「そう。最近気がついてね、欲しくなった」
「言えばちゃんとしたよ! もっと男らしくネイサンをリードして!」
惜しむわけじゃないけれど、過程というものはそれなりに大事で。そういうことならもっとネイサンに色々して、男らしい所も見せたかったのに。
ぷっと膨れたイーデンを前に、ネイサンは苦笑した。
「それは別。君の童貞は欲しかったけれど、君を気持ち良く奉仕したかった。だから言わなかったんだし」
「もー、まどろっこしいな! ネイサン、そういうところだよ!」
「自分の考えを他に伝えるのが苦手なんだよ、親しい相手でもね。ボスやスコルピオにも言わないんだから。これでも、君には話している方なんだよ?」
「無駄に警戒心強いの止めてよ」
本当に、骨の髄まで暗府。こんなんでこの人に安らげる瞬間はあるのだろうか。ストレスとかないのか? ちょっと心配になる。
「職業病だと思って諦めて。これでもイーデンの事は信じている。だからこそ、こんな無防備な姿を晒しているんだから」
チュッと目元にキスをするネイサンが弱った顔をしている。それを見ていると、これ以上責めるわけにもいかない。この人は単独で危険な場所に行くこともしょっちゅうで、それ故に警戒心が強い。とくにスノーネルの一件以来そういう傾向が強まったように思う。
それでも、ネイサンがイーデンと一緒の夜に武器を持ち込む事はない。事後が多いけれど、考えも明かしてくれる。もうこれで、満足するしかないのかもしれない。
「さて……」
一息ついて、もう寝るのかと思っていると不意に、ネイサンの指が腹の上を撫でる。臍の辺りを絶妙な力で押されると、その奥がゾクリとした。
「ここ、欲しかったんじゃない?」
「あ……」
「イーデンはここ、好きだからね」
そんな事を言われながら撫でられると欲しくなる。体は正直で、期待にジクジクと中が疼く。現金なもので、知らずイーデンはとろんとした顔をしてしまった。
「正直だね」
「あ……ぁあ……」
指が二本、後孔へと添えられて緩い力で押し開ける。素直に口を開いた部分が美味しそうにネイサンの指を締め付ける。浅い部分にあるツボを押し込まれ、ビリッと走った快楽に萎えていた部分が僅かに頭をもたげる。ネイサンもそれに満足そうだ。
「前に抱いてから、それほど日が経っていないからね、柔らかい」
「ネイサン……」
「香油を足したら、もう繋がれそうだ。構わないかい?」
「欲しい、ネイサン」
両手を広げて全面的に受け入れを示すと、ネイサンの目が嬉しそうに光る。そこに見えるのは圧倒的な愛情だけじゃない。思惑も、欲望も、加虐も見える。泣き顔が好きだと言うだけあって、この人は時に意地悪だ。
いや、愛されているからこそ「意地悪」程度で済んでいるんだと思う。
性急に指が三本に増えて入口を寛げていく。その頃にはネイサンのそれも力を取り戻していて、十分な質量を感じた。
「んっ……はっ、あぁ……ぁああ!」
「あぁ……うん、やっぱりこっちの方がしっくりくる。君はどうだい、イーデン?」
受け入れる熱が体に馴染む。満たす質量が求めていたみたいにぴったりと体を埋めていく。もうここはネイサンを覚えていて、彼だけを許しているんだと言っているようだ。
ゆっくり丁寧に慣らしをしてくれたから、直ぐに快楽を拾えた。いや、童貞卒業の時にはもうここが切なかったけれど。
「馴染むの早いね」
「んっ、気持ちいい……」
「もう少し奥、いい?」
片足を持ち上げられ、パンッと打ち込まれて頭の中がチカチカする。ギュッと中が締まる事で彼の形まで感じた。
「くくっ、相変わらずいい締め付け。俺が好きかい、イーデン?」
「あっ、好き……好きだよ、ネイサン」
うっとりと機嫌良く、ネイサンの目が細められて持ち上げられた太股の内側にキスをされる。くすぐったいのと、気持ちいいのと。唇が、舌が、柔らかな部分を何度も行き来する。同時に中を攻め立てられ、奥を抉られてイーデンは何度も嬌声を上げてシーツを握った。
「やっ、もっ、あんぅ!!」
気持ち良くて痺れて訳が分からなくなってくる。多分、何度もイッた。グズグズに腹の中を掻き混ぜられるだけで意識がふっと浮いた。串刺しにされる快楽で覚醒してはまた沈みそうになってを繰り返すと、時々思う。このまま、死んでしまうんじゃないかって。
「ごめん……あっ、そろそろイクよ」
「んぁ、はっ、あっ……んぅぅ!」
打ち付ける肉杭が深く奥を抉った瞬間、一瞬だが腹の中を抜けた感覚があってガクガク震えながら潮を吹いた。これは自分じゃ止められない。出し切るまではどうにもならないんだと学習している。
そして、抜けたその先にネイサンを感じた。熱いものを到底誰も触れられない場所に感じて、嬉しいなんて思いながら意識が遠のき始めている。
「イーデン、好きだよ」
労るように髪を撫でる大きな手、意識が落ちる寸前にかけられる言葉。切なげなこの人の表情を見ると、全部を受け入れられる。例え抱き殺されたって、この人を恨んだり憎んだりはしないんだろう。
「おやすみ」
優しい声とこめかみの辺りに感じるキスを最後に、イーデンの意識は完全に落ちてしまった。
◇◆◇
翌朝、案の定腰が死んだ。腹の中も違和感があり、ちょっと動けなかった。
「ごめんね、イーデン」
申し訳なさそうな顔で朝食を運んできたネイサンの手元を見て、イーデンは痛みを一瞬忘れた。
蜂蜜に生クリームを乗せたふかふかホットケーキ二段重ね。バターも当然のっている。
「ホットケーキ!」
「どうぞ」
テーブルにそれを置いて、お姫様抱っこでそこまで運ばれる。更には隣に座ってそれを切り分け、口元まで運んでくれる。食いつくと満足そうな笑みを浮かべるネイサンを見ると、平和だなって思えてくる。
「これを食べたらゆっくりと休んで、夕方に戻ろうか」
「はい」
この人は難しい所も多いけれど、基本は恋人を甘やかしたい人だとも分かる。だからどんなにしんどい朝も、甘い甘い朝食と力の抜けた笑みを見ると全て許せてしまう。
イーデンもまた幸せに笑みを浮かべ、運んでくれるホットケーキにパクリと食いつくのだった。
残さず食べて、お風呂に入って部屋に行くと、既に寝る準備を終えているネイサンがいて、イーデンを見て近づいてきた。
「ネイサン」
「おいで、イーデン」
その声に安心する。これは執事のネイサンではなく、本人だと分かる。困った笑みを浮かべた彼に駆けるように近づいて、その胸に飛び込むと頬に手が触れ、自然と上向かされる。そうして受け入れるキスはとても優しくて、官能的だった。
「今日は、嫌だった?」
「意地悪」
「ん。ごめんね、イーデン」
しょんぼりとしているのが気配で分かる。困った笑みを浮かべたまま、またしてくれるキスは軽いもの。「許して」と、無言で謝られているようだ。
「どうして、今日はこうだったの?」
「最近、君に甘えられていなかったなと思って」
「素直に言えばいいのに」
「そういうのが苦手な男だって、知ってるでしょ?」
甘えて首筋にもキスをしてくるネイサンを受け入れて、「そういえばそうだった」なんて、イーデンは思って抱きついた。
この人は、無償というものが苦手だ。もっと言うと、素直じゃない。駆け引きをして、おとしこんだり何かの報酬は受け取る。イーデンなんかはいつも陥落させられる。
けれど親切というものをいまいち信用していない。無償の愛なんてもの、多分あるとは思っていないんだと思う。
「俺もごめんなさい。寂しかったんだ」
「ん、少しね」
「して欲しい事、まだあった?」
「足にキスさせて」
「それは嫌」
即答に、ネイサンは小さく舌打ちをする。こういうところだ、この人のずるさは。
「どうして嫌なのかな?」
「俺はネイサンにそんな事をしてもらいたくない。傲慢な人間みたいだ」
「好きになった俺の方は、隅々まで触れたいけれど」
「変態だよね、ネイサン」
仕事では秘密主義でサディストで過激。だけれどイーデンに見せるのは少し甘えた姿と、それ以上の変態性。この人は謎だと思う。
「俺は変態だよ。そんな俺の猛アタックに折れてくれて、嬉しい」
「……ネイサンがいなくなったと思った時、自分でも驚くくらい苦しくて哀しくて潰れてしまいそうだった。……無事で、よかった」
思い出すとまだ苦しい。スノーネルでネイサンが任務に失敗して姿を消したと知って、自分でも驚くくらい泣いた。目が痛くて溶けてしまいそうなくらいだった。思い出すのは不意に見せる寂しげな笑みだったり、「可愛いね」という声だったり。
思ったのだ、この人が死んだらこの少ない思い出だけを何度も視るんじゃないかって。こんな寂しい顔ばかり、切ない「好き」ばかりを繰り返して泣くんだろうかって。それは、辛すぎる。それならもっと、沢山のいい思い出を添えたい。もしも離れたとしても思い出す記憶に、鮮やかな色を残しておきたいと。
「……ごめん、もうしくじらないから」
「そんな保証ないくせに。それに俺がしくじる事も考えてる?」
「…………」
突然無言になった。なったと思ったら、キツく抱きしめられた。肩に頭を乗せるようにされて、顔が見られない。ただ、もの凄く重たい。身長差があるからこんな風にされると海老反りでコケそうだ。
「ちょ! 危ないって! 倒れる!!」
「…………嫌だな」
「え?」
「君が、死ぬのは嫌だな。見たくないな。そういうの、あまり考えないようにしていたんだけれど……仕事モード抜けてるから、刺さる」
「!」
本当に苦しそうな声で言われると、驚く。普段は仕事モードなのか「訓練する」と一言で課題を増やされるばかりなのに。
なんだか、こちらまで苦しい。そして、キツくネイサンの背中を掴んだ。
「死なない。頑張って生き残るから」
「そうして。そうじゃないと俺、仕事モードから戻った途端にバカやりそう」
「そんなに! 俺、そんなに愛されてるの?」
……割と雑な扱いしか覚えていない。
けれどこの人は二面性というか、別人格か? ってくらい仕事とプライベートが違う。両方を知っているから、珍しいプライベートの今の扱いが分からない。
ネイサンが体を戻す。ちゃんと立った彼の目元は少し濡れて見える。これを見ると、少しキュンとするのだ。
「愛してるよ。君は可愛いし、大事にしたい。仕事ではそうもいかないけれど、俺個人としてはね」
「……俺、長生きするね」
「んっ、そうしてね」
こめかみにキスをされてくすぐったい。そして二人でとても自然にベッドに入り込んだ。
肌に触れる手の感触は決して滑らかではない。暗器使いのこの人の手は妙な所にまめが出来ていたり、擦り切れて硬くなっていたりする。でもそれが肌を刺激するのが気持ちいい。
「んぅ」
「甘え声。最初は胸で感じるのに戸惑っていたのにね」
「教え込んだの、ネイサンじゃないか」
「可愛かったよ、沢山泣いて。俺が君を好きになった切っ掛けは、その泣き顔がとても可愛かったからだし」
「根性ねじ切れてますよね?」
「そう? もっと泣かせたい。もっと、鳴かせたい」
「あん!」
ギュッと突然強く乳首を捻り上げられて思わず声が出る。痛いけれど、痺れもする。これを気持ちいいと感じるようになってしまった。
「……イーデン、もう一つ賭けをしようか」
「え?」
「胸でイッたら俺の勝ち。したい事させて」
「それ、俺の勝率ほぼないんですけど」
なんせこの人が開発したんだ、当然ポイントを抑えられている。
ネイサンは何かしら考えている。でも、この賭けを引き下げるつもりはないらしい。
「じゃあ、手は使わない」
「へ?」
「口だけ」
「…………それなら」
既に、ちょっと腰にくる。ネイサンに舌や口でされるのは好きだ。蕩けてしまいそうになる。その快楽が欲しくて、イーデンは賭けに乗った。
ぴちゃりと、温かくて弾力のある舌が硬くなりかけている乳首を転がす。硬く尖らせた先端が下から持ち上げるようにねっとりと絡むのは、それだけで腰が痺れた。
上目遣いに見られ、声を抑えている事にも気づいていて、笑う。クルクルと周辺も刺激されたあとで、パクリと食べられてしまった。
「んぅ、ふっ…………ぁあ」
温かい口腔が吸い上げて、血が通う頂きを舌が遊ぶ。歯が当らないように優しくされて腰が揺れてしまう。気持ち良くてたまらない。こういうことも、ネイサンがイーデンに仕込んだんだ。
性的な事は全部、ネイサンが教えてくれた。女役をやるには枕も必要になる事がある。勿論女装がバレてしまうから、脱がずに男をよがらせる方法を教わるのだ。主に、着衣のままでのイカせテクだ。
バックバージンは勿論、真っ先にネイサンに散らされた。ファーストキスもネイサン。舌の使い方や声の作り方も。
でも、その時とプライベートじゃ触れ方が違う。今はこんなにも蕩けてしまいそうに気持ちがいい。
「あっ、やっ」
腰が揺れて止まらない。気持ち良くなって頭が霞がかってくる。時折波が襲ってきて甘く響くようになる。
ネイサンは約束通り手は使っていない。口と舌だけで両方の胸を攻め立てている。唾液に濡れた乳首はテラテラとしていて色が濃くて、ツンと尖って大きくなっている。とても卑猥で、それを見るだけでもまた興奮してくるのが分かる。
短い喘ぎと息づかい。我慢しても快楽に弱い体は気持ちいい事を知っていて求めている。ネイサンはそれを見極めて、甘く乳首を噛んだ。
「んぁ! あっ、あぅぅ!!」
目の前がチカチカして、波が押し寄せて攫って行った。僅かだが射精してしまって、イーデンはぐったりとベッドに沈む。未だに胸がジンジンしていて、気持ち良くて凄い。何をされるか分からないのに満足感が半端ない。
「俺の勝ち」
「ですね。何をしたいんです?」
「それは秘密」
嬉しそうなネイサンが鼻歌でも歌いそうな様子で一度ベッドから降りる。そして何故か革のバンドをベッドサイドの引出しから取り出した。
「……え?」
それが何かを認識をするよりも早く、ネイサンはイーデンの根元にそれを嵌めてしっかりと引き絞ってしまう。突然と戒められたイーデンはちょっとパニックになった。
「ネイサン嫌だ!」
「あぁ、いじめ抜いたりしないよ。暴発予防」
「どっちにしても嫌だ!!」
ちょっと泣いているけれどお構いなし。キス攻めの後、戒められたものの先端を擦られて一気に腰が痺れて倒れ込んでしまった。
「んぅ!!」
「俺の準備ができるまで、少しそのまま。出して少し萎えてるから、こっちも気持ち良くしてあげるよ」
するすると体を下にずらしたネイサンが、躊躇いもなく昂ぶりを口に入れてしまう。それだけで腰が抜けそうだ。イッた後の敏感な部分を口で優しく刺激されて、なのに戒められてイクことは出来なくて。
痛いような、苦しいような、滅茶苦茶に腰を振りたいような、そんな衝動にイーデンはひたすら泣いていた。
「さすが、若いな。もう硬くなった」
口で十分に育てられた部分が解放され、トロトロの香油をかけられる。何が行われるのかと息を乱したまま凝視していると、ネイサンは徐に腰を上げてそそり立つイーデンの上に後孔をぴたりと当て、あろうことか腰を落としていった。
「あっ、あっ!! はぁぁ!」
「イーデン、出したらダメだよ?」
「あっ、なん、でぇっ!」
突如ネイサンの中へと侵入する昂ぶりは、狭くて熱い肉壁に包まれて蕩けてしまいそうだ。みちっと吸い付いてくる肉の感触なんて初めてのことだ。
「んっ、意外と立派だ。気持ちいいよ、イーデン。俺は気持ちいいかい?」
言葉が出ない。ただひたすら首を振って肯定した。
ネイサンはとても嬉しそうにして、腰を持ち上げては落とし込む。その度に深くまで肉をかき分け吸い付かれる感じがあり、チカチカと目の前を星が飛んだ。
「あっ、これいい……んっ、気持ちいい」
「ネイ、サン……っ」
「あれ? もしかして中イキしてる?」
ネイサンの指摘に、イーデンは素直に頷いた。さっきから腹の奥がキュンキュンして快楽が止まらない。初めて男として正しい用途に使われているのに、女の快楽に串刺しにされているのだ。
とことん、イーデンは女役なのだろう。
ペロリと、ネイサンは唇を舐めた。しっとりと濡れる肌が色香を放っている。そして腹の上で腰を振る、その媚態を更に深めていく。腰を落とす度に奥を抉るよう。同時に戒めが根元をきつく縛っていて達する事ができない。
「もっ、取って! 取ってよぉ! 死んじゃう……破裂する!」
「んっ、もう少し……はぁ、あっ、あぁ……」
最初の余裕も影を潜め、ネイサンもこの行為に夢中になっている。腰をふる速さも角度も変わって、行き止まりを毎回先端が突き上げているのを感じる。抜けてしまいそうな危うさと、抜けたらどうなるのかという好奇心。ぐちゃぐちゃに理性は溶けて、イーデンもまた求めるように腰を振った。
「あっ、気持ちぃぃ……んっ! イーデン」
「もっ、取って……痛いよ、ネイサン」
熱に浮かされたネイサンの潤んだ瞳。求めるようにされる舌を絡めたキス。ぐちゃぐちゃに交わる中、ネイサンは器用に戒めを解いた。瞬間、ズンと腰が重く痺れて急速に射精感が高まって、イーデンは我慢出来ずに自らも腰を打ち付けてネイサンを求めた。
気持ち良さそうな掠れた彼の声なんて、あまり知らない。でも、こういうものに興奮を覚える辺りはまだ男なのだとも思える。
「あっ、イッ……イーデン!」
「あぅ! やっ、あうぅ!」
切羽詰まったネイサンの声、震えて丸くなった背中。引き絞られるような締め付けに、イーデンは我慢できずに吐精した。奥の奥に自らの精を残すという行為に、普段はない支配欲が芽生えた気がする。まさにマーキングだろうか。
ほぼ同じタイミングで腹に熱いものを感じる。僅かにかかる体重が心地よく、しっとりとする背を撫でた。
「ネイサン、大丈夫?」
「ん、平気……久しぶりに女役なんてしたな……快楽深い」
「俺は驚きすぎてマグロだったんだけど」
初めての男役だったのに、それらしい事はしてやれずじまいだった。
それでもより一層愛おしさが増したのは確かだ。まだこの人の中にいる心地よさも感じている。
チュッとキスをされ、応じて返して。恋人らしい行為に満ち足りた気分でいる間に、ネイサンが腰を上げて抜けてしまった。
「名残惜しそうだね、イーデン」
「ネイサンの中、気持ち良かった」
「童貞卒業、おめでとう」
「…………え?」
そういえば……そうだ。
今更になってその事実に至り、イーデンはネイサンを見る。一方彼はとても満足そうな笑みだ。
「……もしかして、これが目的だったの?」
「そう。最近気がついてね、欲しくなった」
「言えばちゃんとしたよ! もっと男らしくネイサンをリードして!」
惜しむわけじゃないけれど、過程というものはそれなりに大事で。そういうことならもっとネイサンに色々して、男らしい所も見せたかったのに。
ぷっと膨れたイーデンを前に、ネイサンは苦笑した。
「それは別。君の童貞は欲しかったけれど、君を気持ち良く奉仕したかった。だから言わなかったんだし」
「もー、まどろっこしいな! ネイサン、そういうところだよ!」
「自分の考えを他に伝えるのが苦手なんだよ、親しい相手でもね。ボスやスコルピオにも言わないんだから。これでも、君には話している方なんだよ?」
「無駄に警戒心強いの止めてよ」
本当に、骨の髄まで暗府。こんなんでこの人に安らげる瞬間はあるのだろうか。ストレスとかないのか? ちょっと心配になる。
「職業病だと思って諦めて。これでもイーデンの事は信じている。だからこそ、こんな無防備な姿を晒しているんだから」
チュッと目元にキスをするネイサンが弱った顔をしている。それを見ていると、これ以上責めるわけにもいかない。この人は単独で危険な場所に行くこともしょっちゅうで、それ故に警戒心が強い。とくにスノーネルの一件以来そういう傾向が強まったように思う。
それでも、ネイサンがイーデンと一緒の夜に武器を持ち込む事はない。事後が多いけれど、考えも明かしてくれる。もうこれで、満足するしかないのかもしれない。
「さて……」
一息ついて、もう寝るのかと思っていると不意に、ネイサンの指が腹の上を撫でる。臍の辺りを絶妙な力で押されると、その奥がゾクリとした。
「ここ、欲しかったんじゃない?」
「あ……」
「イーデンはここ、好きだからね」
そんな事を言われながら撫でられると欲しくなる。体は正直で、期待にジクジクと中が疼く。現金なもので、知らずイーデンはとろんとした顔をしてしまった。
「正直だね」
「あ……ぁあ……」
指が二本、後孔へと添えられて緩い力で押し開ける。素直に口を開いた部分が美味しそうにネイサンの指を締め付ける。浅い部分にあるツボを押し込まれ、ビリッと走った快楽に萎えていた部分が僅かに頭をもたげる。ネイサンもそれに満足そうだ。
「前に抱いてから、それほど日が経っていないからね、柔らかい」
「ネイサン……」
「香油を足したら、もう繋がれそうだ。構わないかい?」
「欲しい、ネイサン」
両手を広げて全面的に受け入れを示すと、ネイサンの目が嬉しそうに光る。そこに見えるのは圧倒的な愛情だけじゃない。思惑も、欲望も、加虐も見える。泣き顔が好きだと言うだけあって、この人は時に意地悪だ。
いや、愛されているからこそ「意地悪」程度で済んでいるんだと思う。
性急に指が三本に増えて入口を寛げていく。その頃にはネイサンのそれも力を取り戻していて、十分な質量を感じた。
「んっ……はっ、あぁ……ぁああ!」
「あぁ……うん、やっぱりこっちの方がしっくりくる。君はどうだい、イーデン?」
受け入れる熱が体に馴染む。満たす質量が求めていたみたいにぴったりと体を埋めていく。もうここはネイサンを覚えていて、彼だけを許しているんだと言っているようだ。
ゆっくり丁寧に慣らしをしてくれたから、直ぐに快楽を拾えた。いや、童貞卒業の時にはもうここが切なかったけれど。
「馴染むの早いね」
「んっ、気持ちいい……」
「もう少し奥、いい?」
片足を持ち上げられ、パンッと打ち込まれて頭の中がチカチカする。ギュッと中が締まる事で彼の形まで感じた。
「くくっ、相変わらずいい締め付け。俺が好きかい、イーデン?」
「あっ、好き……好きだよ、ネイサン」
うっとりと機嫌良く、ネイサンの目が細められて持ち上げられた太股の内側にキスをされる。くすぐったいのと、気持ちいいのと。唇が、舌が、柔らかな部分を何度も行き来する。同時に中を攻め立てられ、奥を抉られてイーデンは何度も嬌声を上げてシーツを握った。
「やっ、もっ、あんぅ!!」
気持ち良くて痺れて訳が分からなくなってくる。多分、何度もイッた。グズグズに腹の中を掻き混ぜられるだけで意識がふっと浮いた。串刺しにされる快楽で覚醒してはまた沈みそうになってを繰り返すと、時々思う。このまま、死んでしまうんじゃないかって。
「ごめん……あっ、そろそろイクよ」
「んぁ、はっ、あっ……んぅぅ!」
打ち付ける肉杭が深く奥を抉った瞬間、一瞬だが腹の中を抜けた感覚があってガクガク震えながら潮を吹いた。これは自分じゃ止められない。出し切るまではどうにもならないんだと学習している。
そして、抜けたその先にネイサンを感じた。熱いものを到底誰も触れられない場所に感じて、嬉しいなんて思いながら意識が遠のき始めている。
「イーデン、好きだよ」
労るように髪を撫でる大きな手、意識が落ちる寸前にかけられる言葉。切なげなこの人の表情を見ると、全部を受け入れられる。例え抱き殺されたって、この人を恨んだり憎んだりはしないんだろう。
「おやすみ」
優しい声とこめかみの辺りに感じるキスを最後に、イーデンの意識は完全に落ちてしまった。
◇◆◇
翌朝、案の定腰が死んだ。腹の中も違和感があり、ちょっと動けなかった。
「ごめんね、イーデン」
申し訳なさそうな顔で朝食を運んできたネイサンの手元を見て、イーデンは痛みを一瞬忘れた。
蜂蜜に生クリームを乗せたふかふかホットケーキ二段重ね。バターも当然のっている。
「ホットケーキ!」
「どうぞ」
テーブルにそれを置いて、お姫様抱っこでそこまで運ばれる。更には隣に座ってそれを切り分け、口元まで運んでくれる。食いつくと満足そうな笑みを浮かべるネイサンを見ると、平和だなって思えてくる。
「これを食べたらゆっくりと休んで、夕方に戻ろうか」
「はい」
この人は難しい所も多いけれど、基本は恋人を甘やかしたい人だとも分かる。だからどんなにしんどい朝も、甘い甘い朝食と力の抜けた笑みを見ると全て許せてしまう。
イーデンもまた幸せに笑みを浮かべ、運んでくれるホットケーキにパクリと食いつくのだった。
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