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1章
6話:特別な人(8)
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とても満足感のある時間を過ごして、二人は屋敷に戻った。
少し、緊張が戻ってくる。ここを見るとどうしても、隣に立つ人の格を思い知る。でも、それに負けるのはなんとなく癪でもある。
ようは気の持ちようだ。思ったじゃないか、この人が知っているままの人ならそれでいいんだって。
屋敷に戻るとミュランが恨みがましい目でルークを見て、しっかりと距離を詰めてきた。
「予定変更で夕飯の時間を早めるって、もっと! 早く! 言いなさい!」
「あ……悪い。いや、梟通りに行きたくなって」
「いいですか! やんごとなき奴等の思いつきで右往左往するのはこっちなんですよ。仕入れの時間とかあるんですよ!」
「悪かったって!」
……なんか、変わらないな。
まるで騎士団にいる時と同じ様子に呆然としていると、ミュランの目がこちらにも向いてドキリとする。
彼は溜息交じりに近付いて、丁寧に頭を下げた。
「本当に、申し訳ない坊ちゃんですみません」
「え?」
「教育しているのですが、なにせ中身ががさつで。不快な思いはしておりませんか? 言うこと聞かない時は少しくらい手足が出ても大丈夫ですよ、無駄に丈夫なので」
「いや」
「ミュラン!」
なんか……。
「ふふっ」
「クリス?」
「あんた、子供の頃からなのかよ。どんだけ迷惑かけてきたんだ?」
一気に気持ちが楽になって、気付いたら笑っていた。同時に、きっとマクレラン公爵家はいい家なんだと思う。この人がこんなに伸び伸びと育った環境なんだから。
自然と笑えたクリスを見て、ルークはどこかほっとした様子で目を細める。そしてミュランもまた、穏やかな様子で頭を下げた。
「また、いつでもいらしてください。その時にはこの方のクソガキ時代のお話しをさせていただきますよ」
「ミュラン!」
「楽しみにします」
「クリス! あぁ、もう……これだから実家に近い所は嫌なんだよ」
そう言いながらガシガシ頭を掻く人を、クリスはミュランと一緒に笑った。
部屋に戻って少し休んで、少し暗くなった辺りで夕食となった。
流石は公爵家の食事、彩りが鮮やかだ。
前菜は旬のトマトを使った夏野菜のゼリー寄せ。上品なのにしっかりと味がして、とても美味しく食べてしまう。
スープはこちらも夏野菜のコーンを使ったポタージュで、塩味と甘みが丁度よくて美味しかった。
焼きたてのパンは表面がパリッとして、中はふっくらと柔らかい。少しお行儀は悪いけれど、ルークに「美味いぞ」と言われてスープに浸して食べたら、本当に美味しかった。
本来なら魚と肉、両方が出るが今回は肉だけでいいと事前に伝えてあった。
メインはオークジェネラルの熟成肉を使ったステーキだった。
この世界では魔物の肉も種類によっては普通に食べられる。毒を持っていたりするのや、明らかに食べるのに適さない種類は別として、特に庶民の間では普通だ。
オークは豚に似た種類で、脂身と肉が丁度よく、肉質はしっかりとしているので特に庶民の味方。
けれどこのオークジェネラルは凶暴で個体数も少なく稀少なほうだ。
「オークジェネラルか! こいつ美味いんだよな」
「ちょうど冒険者ギルドに仕入れがありましてね。貴方が好きでしたので」
「今もオーク種は好きだぞ。クリスはどうだ?」
「好きだ。単純に焼いても美味しいし、食べ応えがあるし」
しかも熟成肉って……。
ドキドキしてナイフを入れると柔らかく切れていく。中心部分はまだ赤味があるが、火は通っているとのこと。これにソースを付けて食べて……美味しくて笑ってしまった。
「うま……凄く美味しい」
「だろ? 今度オーク狩り行くか。秋には大量に出るんだよな」
「秋の味覚も食べてるオークは肉に木の実の香りが移ってより美味しいのですよね」
「行く。現地で捌く」
「おっ、頼もしい」
こんな美味しい肉が食べられるなら解体だって嫌じゃない。木の実の香りが移った肉か……楽しみでしかない。
デザートは白桃のムースと小さなケーキ。食後のコーヒーまで頂いて腹休めをしていると辺りは暗くなり、ランプの明かりが美しく見えるようになってきた。
改めて出かけた梟通りは、ランプや硝子製品の工房が並ぶ通りだった。
連れてこられて、通りの入口に立ったクリスは言葉がなかった。
店先まで、溢れんばかりの光の洪水に息を飲む。丸い透明硝子にカッティングを施した繊細な吊りランプから、幾何学紋様を組み合わせた色ガラスの花を散らすランプ。無骨な野営用もあれば、形が面白いものもあった。
「綺麗だろ」
「すごい」
まるで幻想の世界に踏み込む気分だ。煌めきが眩しくも思える。
そこへ、ルークが手を引いて促してくれた。
工房と店舗が一つになっている店はどれも少しずつ独自の色がある。
白い花を模していたり、吊しが多かったり、逆に置き型ばかりだったり。そんな店を覗いているだけで楽しくなる。
「どんなのがいい?」
「吊しは場所に困るし、出来れば置き型かな? 読書用の」
「それならベッドサイドに置けるサイズで、派手な装飾はなくていいな」
基準を決めないとここでは迷う間に時間が過ぎてしまう。
置き型に絞って店に入り、色々とみている。
特に置き型は金属の燭台部分も凝っているものが多く、なかなか重みがある。
面白いのだと丸く大きな壺のような形で色ガラスで作られ、手を触れると壺の中の魔石が光タイプだ。
見ていって……ふと目を留めたのは比較的オーソドックスなランタンだった。
丸く重い土台にゆったりとした曲線の細い吊し。その吊しの先には鉄枠で家がある。屋根部分は三角形で、星形や月にくり抜かれ、四つある側面は白っぽい硝子だ。
「これ、使いやすそう」
思わず手に取って見て、明かりを灯す。すると内側からシルエットが浮かび上がり、動物や楽しげな人の姿が浮き上がった。
「これがいい」
咄嗟にそう口にして、ハッとしてルークを見ると彼は頷いている。値段を見ると銀貨二枚という破格さだ。
「え! こんな安いの?」
「そいつは金属部分が多いからね。その金属もそんな高いものじゃない。手間はかかるが、原価としては安いのさ」
職人らしいおじさんが笑っている。ちょっと安すぎる気もするが、そういうことなら!
「これください」
「はいよ」
気に入ったそれを手にしてお金を払って。丁寧に梱包してもらった物を手に少しウキウキして通りを進むと、次にもう一つ気になっていたものの店が見えた。
少し、緊張が戻ってくる。ここを見るとどうしても、隣に立つ人の格を思い知る。でも、それに負けるのはなんとなく癪でもある。
ようは気の持ちようだ。思ったじゃないか、この人が知っているままの人ならそれでいいんだって。
屋敷に戻るとミュランが恨みがましい目でルークを見て、しっかりと距離を詰めてきた。
「予定変更で夕飯の時間を早めるって、もっと! 早く! 言いなさい!」
「あ……悪い。いや、梟通りに行きたくなって」
「いいですか! やんごとなき奴等の思いつきで右往左往するのはこっちなんですよ。仕入れの時間とかあるんですよ!」
「悪かったって!」
……なんか、変わらないな。
まるで騎士団にいる時と同じ様子に呆然としていると、ミュランの目がこちらにも向いてドキリとする。
彼は溜息交じりに近付いて、丁寧に頭を下げた。
「本当に、申し訳ない坊ちゃんですみません」
「え?」
「教育しているのですが、なにせ中身ががさつで。不快な思いはしておりませんか? 言うこと聞かない時は少しくらい手足が出ても大丈夫ですよ、無駄に丈夫なので」
「いや」
「ミュラン!」
なんか……。
「ふふっ」
「クリス?」
「あんた、子供の頃からなのかよ。どんだけ迷惑かけてきたんだ?」
一気に気持ちが楽になって、気付いたら笑っていた。同時に、きっとマクレラン公爵家はいい家なんだと思う。この人がこんなに伸び伸びと育った環境なんだから。
自然と笑えたクリスを見て、ルークはどこかほっとした様子で目を細める。そしてミュランもまた、穏やかな様子で頭を下げた。
「また、いつでもいらしてください。その時にはこの方のクソガキ時代のお話しをさせていただきますよ」
「ミュラン!」
「楽しみにします」
「クリス! あぁ、もう……これだから実家に近い所は嫌なんだよ」
そう言いながらガシガシ頭を掻く人を、クリスはミュランと一緒に笑った。
部屋に戻って少し休んで、少し暗くなった辺りで夕食となった。
流石は公爵家の食事、彩りが鮮やかだ。
前菜は旬のトマトを使った夏野菜のゼリー寄せ。上品なのにしっかりと味がして、とても美味しく食べてしまう。
スープはこちらも夏野菜のコーンを使ったポタージュで、塩味と甘みが丁度よくて美味しかった。
焼きたてのパンは表面がパリッとして、中はふっくらと柔らかい。少しお行儀は悪いけれど、ルークに「美味いぞ」と言われてスープに浸して食べたら、本当に美味しかった。
本来なら魚と肉、両方が出るが今回は肉だけでいいと事前に伝えてあった。
メインはオークジェネラルの熟成肉を使ったステーキだった。
この世界では魔物の肉も種類によっては普通に食べられる。毒を持っていたりするのや、明らかに食べるのに適さない種類は別として、特に庶民の間では普通だ。
オークは豚に似た種類で、脂身と肉が丁度よく、肉質はしっかりとしているので特に庶民の味方。
けれどこのオークジェネラルは凶暴で個体数も少なく稀少なほうだ。
「オークジェネラルか! こいつ美味いんだよな」
「ちょうど冒険者ギルドに仕入れがありましてね。貴方が好きでしたので」
「今もオーク種は好きだぞ。クリスはどうだ?」
「好きだ。単純に焼いても美味しいし、食べ応えがあるし」
しかも熟成肉って……。
ドキドキしてナイフを入れると柔らかく切れていく。中心部分はまだ赤味があるが、火は通っているとのこと。これにソースを付けて食べて……美味しくて笑ってしまった。
「うま……凄く美味しい」
「だろ? 今度オーク狩り行くか。秋には大量に出るんだよな」
「秋の味覚も食べてるオークは肉に木の実の香りが移ってより美味しいのですよね」
「行く。現地で捌く」
「おっ、頼もしい」
こんな美味しい肉が食べられるなら解体だって嫌じゃない。木の実の香りが移った肉か……楽しみでしかない。
デザートは白桃のムースと小さなケーキ。食後のコーヒーまで頂いて腹休めをしていると辺りは暗くなり、ランプの明かりが美しく見えるようになってきた。
改めて出かけた梟通りは、ランプや硝子製品の工房が並ぶ通りだった。
連れてこられて、通りの入口に立ったクリスは言葉がなかった。
店先まで、溢れんばかりの光の洪水に息を飲む。丸い透明硝子にカッティングを施した繊細な吊りランプから、幾何学紋様を組み合わせた色ガラスの花を散らすランプ。無骨な野営用もあれば、形が面白いものもあった。
「綺麗だろ」
「すごい」
まるで幻想の世界に踏み込む気分だ。煌めきが眩しくも思える。
そこへ、ルークが手を引いて促してくれた。
工房と店舗が一つになっている店はどれも少しずつ独自の色がある。
白い花を模していたり、吊しが多かったり、逆に置き型ばかりだったり。そんな店を覗いているだけで楽しくなる。
「どんなのがいい?」
「吊しは場所に困るし、出来れば置き型かな? 読書用の」
「それならベッドサイドに置けるサイズで、派手な装飾はなくていいな」
基準を決めないとここでは迷う間に時間が過ぎてしまう。
置き型に絞って店に入り、色々とみている。
特に置き型は金属の燭台部分も凝っているものが多く、なかなか重みがある。
面白いのだと丸く大きな壺のような形で色ガラスで作られ、手を触れると壺の中の魔石が光タイプだ。
見ていって……ふと目を留めたのは比較的オーソドックスなランタンだった。
丸く重い土台にゆったりとした曲線の細い吊し。その吊しの先には鉄枠で家がある。屋根部分は三角形で、星形や月にくり抜かれ、四つある側面は白っぽい硝子だ。
「これ、使いやすそう」
思わず手に取って見て、明かりを灯す。すると内側からシルエットが浮かび上がり、動物や楽しげな人の姿が浮き上がった。
「これがいい」
咄嗟にそう口にして、ハッとしてルークを見ると彼は頷いている。値段を見ると銀貨二枚という破格さだ。
「え! こんな安いの?」
「そいつは金属部分が多いからね。その金属もそんな高いものじゃない。手間はかかるが、原価としては安いのさ」
職人らしいおじさんが笑っている。ちょっと安すぎる気もするが、そういうことなら!
「これください」
「はいよ」
気に入ったそれを手にしてお金を払って。丁寧に梱包してもらった物を手に少しウキウキして通りを進むと、次にもう一つ気になっていたものの店が見えた。
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