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アーベル・シュタール(2)
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「勿論利点ならございますよ」
「へ?」
利、点?
思わず「何言ってんだこいつ」みたいな目を向けてしまったハインツに、アーベルは思い切り笑った。
「まず、俺は貴方の持つケンプフェルト侯爵という爵位が欲しい」
「え?」
そりゃ、結婚して婿養子となればこの人がケンプフェルト侯爵になるけれど。
今の時代、家格よりも実績が問われる。古いだけで実績の無い高位貴族よりもそちらが重用され始めている。
が、アーベルはニッと笑って先を続けた。
「俺は元は商人でしてね。二年前の王家の財政難と地方の飢饉のおりに資金提供と災害救援を行った事が評価されて、一代限りの子爵位を頂いたのです」
確かに、元は一般市民でも国に大変な貢献をしたり、強大な魔物を討伐したりする事で名誉爵位を貰える事がある。普通は一番下の男爵だが、子爵までは可能だ。
それでも子爵位を貰えるにはかなりの貢献をしなければならない。
つまり目の前にいるこの人は大変な功労者であり立派な貴族の心を持った素晴らしい人なのだ!
「ですが、この爵位は俺のみ。しかも金銭と物資と人員の派遣であるため、貴族社会では新興の……ようは、成金貴族と揶揄されて大変肩身の狭い思いをしているのです」
「そんな! どのような形であれ貴方は国と民を救ったのに。何もせず、貴族の務めも果たさない者より余程貴族の心得を知っております」
持つ者の務め。貴族としての心得。それは力ない者、苦しむ者への施しの精神。
とはいえ、今では古くさいと言われ軽視される事も多い。皆、己の蓄えを無償で与える事を無駄と考えるようになってきているのだ。
少し落ち込む。ハインツの祖父はこうした古い考えの人で、精神をよく説かれた。故にハインツもこの精神を引き継いでいるのだが……時代遅れなのだろうか。
「まぁ、格式ばかりで商売の下手な者共のやっかみだと、己を律してはいますけれどね」
「……」
流石商人、いい性格はしているのかもしれない。
それでも彼の心には貴族らしいものがある。それは間違いがない。
「そのような折り、名門ケンプフェルト家の窮状を耳にしましてね。同時に、恩のある貴方が困っているとも」
「それは……」
「ですのでこれは、貴方に命の恩をお返しするまたとない機会であると同時に、現状のうっとうしい口を黙らせる好機と思い、お探ししていたというわけです」
「はぁ……」
確かにそういう事なら役には立つだろう。何だかんだと言っても侯爵位。そこらの伯爵程度が騒いだところで何処吹く風な高位貴族である。彼の面倒をある程度解決してくれる可能性は高い。
だが、問題がないわけじゃない。
「あの……幾つか問題が」
「なんでしょう?」
「まず借金の額です。残り一週間で八千万Gを返さなければならないんです」
八千万Gは下手をすると領地の運営費数ヶ月分。大変な金額だ。ハインツ自身がまず見た事がない。
だがアーベルはまったく涼しい顔でエッボへと視線を向ける。そしてエッボは心得たように会釈をし、カートの下から鞄を取りだし、彼へと渡した。
アーベルがテーブルの上に鞄を開け、中を開く。そこには八つの大きな袋が……え?
「ご確認を」
「……えぇぇぇ」
これは現実だろうか。恐る恐る袋を開けたハインツの目の前にはまばゆいばかりの黄金がぎっしりと入っている。目が痛い! っていうか、どうしてこんな大金を!
「一応もう二千万G程用意はございますよ」
「ふぐぅ!」
財力で殴られる痛みを知ったハインツだった。
正直、このお金は喉から手が出るほど欲しい。これがあればタウンハウスを売ることもしなくていいし、勿論身売りもしなくていい。
けれど、そんなに甘えていい筈も無い。先程会ったばかりの人なんだ。昔に助けた事があるみたいだけれど、こちらが覚えていないってことは大した事じゃない。
ほら、そういう思い出って勝手に壮大かつ美しく脚色するしね。実際は本当に些細な事だったんだよ、うん!
それにもう一つ、大切な事もあるんだ。
「あの、アーベル様」
「ん?」
「実は私、ケンプフェルト侯爵位を持っていないんです」
これが一番の問題だった。
現ケンプフェルト侯爵位は父が持っている。これを継承するには父から譲る旨を広く領民と城に知らせ、書面にして国に提出して了承されなければならない。跡取り問題とか、財産とか、領地とか。面倒な事が多いからきっちりとしないといけないんだ。
でもその父が爵位をそのままに夜逃げしてしまったんじゃどうしようもない。持ち逃げだよ! ちゃんとしてくれないと困るのに!
だがこれについてもアーベルは何か考えがあるようで、ニッコリと微笑んでこちらを見た。
「それについても、おそらく問題無い形でハインツ様の所に転がり込むだろうと思います」
「領地もきっと荒れていますよ?」
「そうでもありません。我が商会が少々手を回しておりますので、民の生活は保たれております」
「既に!」
(え? 予言スキルとかあるのこの人? 凄くない? 凄くない!)
思わず尊敬の目で見てしまうハインツに、アーベルはニッと笑った。
「まぁ、ですが不安に思うのはもっともな事です。そうですね……では、借金はひとまず肩代わりということで俺が全額を相手方に支払いましょう。ハインツ様は万が一の時は俺に返してください。返済期日無し。無担保、無利子です」
「それは駄目ですよ!」
「全て上手くいって、貴方が俺の花嫁となってくださった時にはこの借金は帳消しで。結納金の先払い、とでも思ってください」
「もっと駄目ですよ!」
とはいえ、これほどの好条件は他にはない。背に腹はかえられないし、無いものは逆さにして振っても出てこない。
結局はこれを受け入れるしか、ハインツには無かったのである。
「へ?」
利、点?
思わず「何言ってんだこいつ」みたいな目を向けてしまったハインツに、アーベルは思い切り笑った。
「まず、俺は貴方の持つケンプフェルト侯爵という爵位が欲しい」
「え?」
そりゃ、結婚して婿養子となればこの人がケンプフェルト侯爵になるけれど。
今の時代、家格よりも実績が問われる。古いだけで実績の無い高位貴族よりもそちらが重用され始めている。
が、アーベルはニッと笑って先を続けた。
「俺は元は商人でしてね。二年前の王家の財政難と地方の飢饉のおりに資金提供と災害救援を行った事が評価されて、一代限りの子爵位を頂いたのです」
確かに、元は一般市民でも国に大変な貢献をしたり、強大な魔物を討伐したりする事で名誉爵位を貰える事がある。普通は一番下の男爵だが、子爵までは可能だ。
それでも子爵位を貰えるにはかなりの貢献をしなければならない。
つまり目の前にいるこの人は大変な功労者であり立派な貴族の心を持った素晴らしい人なのだ!
「ですが、この爵位は俺のみ。しかも金銭と物資と人員の派遣であるため、貴族社会では新興の……ようは、成金貴族と揶揄されて大変肩身の狭い思いをしているのです」
「そんな! どのような形であれ貴方は国と民を救ったのに。何もせず、貴族の務めも果たさない者より余程貴族の心得を知っております」
持つ者の務め。貴族としての心得。それは力ない者、苦しむ者への施しの精神。
とはいえ、今では古くさいと言われ軽視される事も多い。皆、己の蓄えを無償で与える事を無駄と考えるようになってきているのだ。
少し落ち込む。ハインツの祖父はこうした古い考えの人で、精神をよく説かれた。故にハインツもこの精神を引き継いでいるのだが……時代遅れなのだろうか。
「まぁ、格式ばかりで商売の下手な者共のやっかみだと、己を律してはいますけれどね」
「……」
流石商人、いい性格はしているのかもしれない。
それでも彼の心には貴族らしいものがある。それは間違いがない。
「そのような折り、名門ケンプフェルト家の窮状を耳にしましてね。同時に、恩のある貴方が困っているとも」
「それは……」
「ですのでこれは、貴方に命の恩をお返しするまたとない機会であると同時に、現状のうっとうしい口を黙らせる好機と思い、お探ししていたというわけです」
「はぁ……」
確かにそういう事なら役には立つだろう。何だかんだと言っても侯爵位。そこらの伯爵程度が騒いだところで何処吹く風な高位貴族である。彼の面倒をある程度解決してくれる可能性は高い。
だが、問題がないわけじゃない。
「あの……幾つか問題が」
「なんでしょう?」
「まず借金の額です。残り一週間で八千万Gを返さなければならないんです」
八千万Gは下手をすると領地の運営費数ヶ月分。大変な金額だ。ハインツ自身がまず見た事がない。
だがアーベルはまったく涼しい顔でエッボへと視線を向ける。そしてエッボは心得たように会釈をし、カートの下から鞄を取りだし、彼へと渡した。
アーベルがテーブルの上に鞄を開け、中を開く。そこには八つの大きな袋が……え?
「ご確認を」
「……えぇぇぇ」
これは現実だろうか。恐る恐る袋を開けたハインツの目の前にはまばゆいばかりの黄金がぎっしりと入っている。目が痛い! っていうか、どうしてこんな大金を!
「一応もう二千万G程用意はございますよ」
「ふぐぅ!」
財力で殴られる痛みを知ったハインツだった。
正直、このお金は喉から手が出るほど欲しい。これがあればタウンハウスを売ることもしなくていいし、勿論身売りもしなくていい。
けれど、そんなに甘えていい筈も無い。先程会ったばかりの人なんだ。昔に助けた事があるみたいだけれど、こちらが覚えていないってことは大した事じゃない。
ほら、そういう思い出って勝手に壮大かつ美しく脚色するしね。実際は本当に些細な事だったんだよ、うん!
それにもう一つ、大切な事もあるんだ。
「あの、アーベル様」
「ん?」
「実は私、ケンプフェルト侯爵位を持っていないんです」
これが一番の問題だった。
現ケンプフェルト侯爵位は父が持っている。これを継承するには父から譲る旨を広く領民と城に知らせ、書面にして国に提出して了承されなければならない。跡取り問題とか、財産とか、領地とか。面倒な事が多いからきっちりとしないといけないんだ。
でもその父が爵位をそのままに夜逃げしてしまったんじゃどうしようもない。持ち逃げだよ! ちゃんとしてくれないと困るのに!
だがこれについてもアーベルは何か考えがあるようで、ニッコリと微笑んでこちらを見た。
「それについても、おそらく問題無い形でハインツ様の所に転がり込むだろうと思います」
「領地もきっと荒れていますよ?」
「そうでもありません。我が商会が少々手を回しておりますので、民の生活は保たれております」
「既に!」
(え? 予言スキルとかあるのこの人? 凄くない? 凄くない!)
思わず尊敬の目で見てしまうハインツに、アーベルはニッと笑った。
「まぁ、ですが不安に思うのはもっともな事です。そうですね……では、借金はひとまず肩代わりということで俺が全額を相手方に支払いましょう。ハインツ様は万が一の時は俺に返してください。返済期日無し。無担保、無利子です」
「それは駄目ですよ!」
「全て上手くいって、貴方が俺の花嫁となってくださった時にはこの借金は帳消しで。結納金の先払い、とでも思ってください」
「もっと駄目ですよ!」
とはいえ、これほどの好条件は他にはない。背に腹はかえられないし、無いものは逆さにして振っても出てこない。
結局はこれを受け入れるしか、ハインツには無かったのである。
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