厳ついオメガはいかがですか?

凪瀬夜霧

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ゴブリン討伐(2)

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 翌日朝、ケンプフェルトのタウンハウスの前には三台の馬車が停まった。
 前後は幌馬車で大人数が運べるように。そして真ん中はそれなりに頑丈な馬車だった。そこから、アーベルが顔を出した。

「お迎えに上がりました、ハインツさん」

 手を差し伸べてくれるアーベルに頷き、ハインツはその馬車へと乗り込んだ。

 この馬車にはハインツとアーベル、そして索敵が得意なベルタが乗り込み、オットマーは御者の横についた。
 他の馬車には他の仲間が乗っているようで、今回は後方支援含めて二十人。現地には先の作戦に参加した十人が残っているそうだ。

「それにしても、立派なバスターソードですね」

 アーベルがハインツの手元の大きな剣を見て言う。それにハインツは苦笑した。

「学生の時代から使っているものなんです。手によく馴染むというか。このガタイで力も強いので、普通の剣だと耐えられなくて折れてしまうのです」

 その為、とても大切にしている。これをくれたのは母方の祖父だ。なんでも先祖が使っていたもので、現在これを扱える者は他にいないからと。

「重そうだにゃ」
「俺やベルタでは持ち上げる事も大変そうですね」
「アーベルさんは魔法職だし、ベルタは索敵と弓兵じゃないか。私は逆に弓は不向きで」
「おや、どうしてです?」
「力が強すぎて壊してしまうんですよ」

 アカデミー時代、それで何本の弓を壊した事か。終いには「お前は弓は向かんから出席せんでよい!」と言われてしまった。

「うははははっ、ハインツ様らしいにゃ」
「確かに、これを扱える豪腕でも壊れぬ弓はなかなかありませんね」
「ははっ」

 なんて言いながら、これから大変な任務に向かうというのに明るい雰囲気で進んでいった。

 ローゼンハイム領は単騎では一日程度だが、今回は馬車。その為境の町で一泊し、翌朝改めて出発した。
 到着したのはその日の昼くらい。森の中に作られた野営地だが、到着と同時に誰かの怒鳴り声がした。

「どういうことだ! ローゼンハイムの兵はたったこれっぽっちなのかよ!」
「落ち着いてください」

 苛立ちを滲ませる声と対応する声。それらを聞いて、アーベルとハインツは顔を見合わせてその方へと向かった。

 言い争っていたのは冒険者風の男と、きっちりと騎士の服装をした男だった。
 怒鳴っているのは冒険者の方で、大変お怒りな様子。
 一方騎士の方は押され気味で、申し訳ない様子だった。

「喧嘩ですかね?」
「そうですね……」

 冒険者というのは己の腕で食べて行く、ある意味究極の自由職。腕を磨き、依頼を受けて金を稼ぎ、功績を挙げればそこらの貴族よりも尊敬を集める事もある。何処に住むか、住まないか。行くか行かないかすら自由な彼らを『根無し草』という人もいるが、ハインツは少し羨ましくもある。
 知らない土地を己の腕で渡り歩くというのは、どこかワクワクするような気がするのだ。

 近付いていったアーベルに言い争う二名も気づく。そして、冒険者の方は僅かだが大人しくなった。

「到着が遅れて申し訳ありません」
「アーベル殿!」

 騎士の格好をした男はパッと表情を明るくする。「助かった」とでも言いたげに。
 だが冒険者の方は忌々しげな顔をし、「奴隷傭兵団か」と吐き捨てた。

「何かトラブルですか?」
「おうよ。こいつら、たった二十人で来たんだぜ? ゴブリンキングまでいるかもしれない巣の殲滅だってのによ。俺達に先鋒させて、自分達は後方支援なんて虫のいい話をされたところだ」
「そんな! もう少し待っていただければあと五十、どうにかいたします。それまで」
「そのもう少しってのは、具体的にはいつなんだよ!」
「それは……」

 なんとも歯切れの悪い騎士に冒険者の方は苛立っているようだ。

「まぁ、町や村へも人員を配備しなければなりませんからね。出せる人数に限りがあるのは織り込み済みですが」
「すみません。遠方に出ている部隊を呼び戻しているのですが、遅れていて」
「こっちは一日滞在で、それだけ消耗品も使えば気力も萎えるんだ。しかも先鋒を行けなんて、俺達に死ねってことか!」
「そんな!」

 確かに、野営時も自身の保存食を食べれば消耗はする。でもこれは一応領主からの依頼。その辺りは手厚いと思うんだけど。
 アーベルは少し考え、やがて結論を出した。

「分かりました。それでは明日、決行いたしましょう」
「はぁ?」
「アーベル殿!」
「先鋒は我々がさせていただきます。冒険者の皆さんにはこちらが打ち漏らした残党を。騎士の皆さんは後方支援と救護をお願いします」
「アーベルさん!」

 流石にそれは無謀な気がする。いくら強くても相手は数万単位に増えている可能性があるのだ。それを、たった三十人で。

 これに冒険者は引きつった顔をし、次には大声で笑った。

「馬鹿かアンタは! どれだけ強くても数が足らねぇ! 死にたいのか?」
「まさか。ただ、我等はとても強いということです」
「っ!」

 嘲笑を浮かべるアーベルを見る冒険者の憎しみすら見える目。一触即発の様子に、たまりかねたハインツがそっとアーベルの腕を引いた。

「あの、その作戦でいいならもう引きましょう? ここで喧嘩してもいい事はないですよ」
「ハインツさんは相変わらずお優しい。貴方がそう言うのであれば、ここは引きましょう。それでは、明日」

 そう言って踵を返して行ってしまうアーベルと、取り残された二人をオロオロ交互に見ながらハインツは二人に何度もお辞儀をし、アーベルを追いかけた。

 こちらがこんな話をしている間に、他の人達は野営の準備をしている。
 簡易のテントを建てて、火起こしの為の場所も設営している。その手際の良さはまさに『慣れている』といった感じだ。
 その中に一際目を引く人がいた。
 背が高くスラリとした体型で、黒の服に黒のマントを着けた褐色の人だ。頭が小さく顔立ちは整い、切れ長の赤い瞳は一見穏やかに感じる。
 黒豹だろう耳と尻尾の青年はこちらに気づき手を止めて、とてもにこやかに挨拶をしてくれた。

「ご主人様、ようこそおいでくださいました」
「リベラート、変わりはないか」
「はい、今のところは。数人を洞窟周辺に配備し、交代で見張らせています。村や町へ普通のゴブリンが行く事はあっても、それ以上は出てきておりません」

 シャンと背筋を伸ばした人が丁寧に報告をしている。その姿を呆然と見ていると、不意に目が合って微笑まれた。

「それよりもご主人様、貴方の大切な方を俺に紹介してはくださらないのですか?」

 ニッコリと微笑む姿はまるで貴公子。品があり優しげで優雅!

(これが生まれながらの貴族。なんて麗しく品のいい。執事服絶対に似合いそう! 今度服作りたい!)

 なんて思っていると、スッと手を差し出された。

「初めまして、リベラートと申します。この傭兵団で作戦立案と現場指揮を主に行っております。ハインツ・ケンプフェルト様で、お間違いないでしょうか?」
「ひゃい!」

 噛んだ。

 思わず赤くなりながらも握手を返すと、リベラールはキョトッとして、次には可笑しそうに笑った。

(ひゃぁ! 笑う姿すら麗しくて可愛いとかどうしよう! ってか、握手したけど大丈夫! 手、潰れてない!)

「あにょ!」

 噛んだ×2。

「なるほど、可愛らしい方ですね。でも、戦いを知る方だ」
「え?」
「手が、とても硬い。それにタコもあります。大きくて力強いですし、姿勢も綺麗で妙な癖も付いておりません。素晴らしい肉体です」
「あっ、えっと、ありがとうございます」

 真っ直ぐに褒められ慣れていないハインツは照れてしまう。それにもリベラートはニッコリと微笑み、体をあちこち見始めた。

「アタッカーですよね?」
「はい。剣を」
「もしかして、タンクもできますか?」
「昔はしておりました」
「アタッカーでありタンクだなんて、恵まれた体とセンスですね。魔法などは?」
「植物系と、水と、風と、回復が」
「回復も! まさに戦う者として定められたかのような属性です」
「ひゃぁぁ」

 そんなに褒めないで! 慣れてなくて恥ずかしいのぉ。

 だが、このやりとりを見ていたアーベルはどこか不機嫌な顔をした。

「彼は後方です」
「ご冗談を、ご主人様。これだけ恵まれたアタッカーを前線に置かないというのは愚行です。敵を屠りながら壁も出来るなんて、最強の人材です」
「彼は俺の婚約者ですよ」
「ここに来た時点で配備に組み込まれるのはおわかりですよね?」

 なんか、二人が睨み合ったままバチバチし始める。ハインツは焦ってオロオロしてしまった。仲間割れなんて、これから戦いに出るのに!

「あっ、あの……喧嘩はダメです!」

(私の取り合いで喧嘩なんてしないでぇ!)
※可愛い子にだけ許されるセリフだぞ、それ。

 だがこの声に二人はハッとして、次には大人しくなった。

「そうですよね。ハインツ様のご意見も聞かなければいけませんよね。ブランクもありますし」

 少し前にオーク吊し上げて肉を毟り取ったばかりです。

「すみません、ハインツさん。貴方を危険な場所におきたくなくて」

 この人の目にはどんなフィルターがかかっているのでしょう?

 何にしても二人はハインツの意見を聞いてくれるらしい。これにハインツはほっとして、ちゃんとアーベルに向き直った。

「アーベルさんに心配して頂けて、とても嬉しいです。ですが私はずっとアタッカーをしておりましたので、そちらの方が心得ております。安心してください」
「ハインツさん」

 これにリベラートは嬉しそうな顔で頷いている。が、次にアーベルはまたとんでもない事を言い出した。

「では、俺が前線に出ます」
「貴方後衛(魔法職)でしょうが!」

 流石にツッコまざるを得なかったリベラートであった。
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