厳ついオメガはいかがですか?

凪瀬夜霧

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王都デート(4)

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 アーベルは事前にボックス席を用意してくれていた。場所は舞台正面からやや左にそれた場所。十分特等席だ。
 薄暗い場内の個室には心地よい二人掛けのソファーに、飲み物などを置くサイドテーブル。そこには冷やしたシャンパンと二つのグラスが用意されていた。

「飲みませんか?」
「日中ですよ?」
「ほんの少し。デートですし」

 そう言われると弱い。別に飲んで大声を出すような無粋な酔い方はしない。
 アーベルが慣れた様子で栓を抜くと、小気味よいポンッという音がする。並んだ細いグラスに注がれる淡いピンク色のロゼがシュワシュワと細かな泡を立ち上らせた。

「では、二人の幸せな今後に」
「貴方と過ごす素敵な日を記念して」
「「乾杯」」

 軽く掲げてグラスに口をつける。シュワシュワとした刺激が口の中を賑わせると同時に、ロゼの軽やかな味わいが広がっていく。

「美味しいです」
「良かった」

 互いにグラスを一杯飲み干して、それをテーブルに戻し寄り添うように座って幕が開くのを待っている。距離は自然と近くなり、このドキドキという心臓の音が聞こえてしまわないかとハインツは心配でならなかった。

「なんだか、夢のようです」
「え?」
「貴方を好きになった当初、こんな日が来るなんて俺は信じていませんでした。目標にしていても、到底手などでないだろうと」
「そんな事はないと思います。アーベルは努力家で、目的を見据えて動ける人です。そんな貴方が目標にしたのなら、達成される日はちゃんと来たと思います」

 それは心からの言葉だった。本当にそう思っている。
 けれどアーベルはそれを聞いて、何故か暗い顔をしてしまった。

「貴方がもっと狡い人間であれば良かったのに」
「え?」
「騙し討ちなんて、俺の常套手段なのに。貴方にはしたくないって、思ってしまうんです」
「?」

 騙す、か。確かに騙されるのは良い心地はしない。でも……。

「私は、嘘には色んな種類があると思っています」
「え?」

 驚いた目がこちらを見る。こんな視線は初めてで少しドキドキする。けれど思う所を今いわないといけないと、どこかで感じているのだ。

「人を陥れたり、騙して利益を得るものもあれば、嘘で誰かを守ろうとするものもあると思っています。誰かや何かを守る為につく嘘が、あると思います」
「……ですが結局、嘘は嘘です。誰かを守るものであったとしても、露見すれば傷つける」
「そうですね。傷つかない方法が取れれば一番だと私も思います。ですが、そういう方法が取れない事もある。世の中はきっと、私などが考え及ばない程に複雑に絡み合っているんです」

 カミルは言っていた。「アーベルには暗い面も多分ある」と。奴隷傭兵団なんて陰口を叩かれている人だから、そういう部分はある。ハインツの借金の時にも凄く堂々としていた。多分、あのような場面を何度も超えてきたんだ。
 でも実際は奴隷だとしても、そうなった人達は生き生きと自分らしく生きている。決して彼らの意志をねじ曲げるような事をアーベルはしていない。それは接しているハインツが分かっている。
 全てを丸く収めるなんて魔法は存在しない。大事なものを守る為に誰かを傷つける事はある。それが嫌なら一方的に受けて耐えていくしかないんだ。
 ハインツのように。

「それに、もしもアーベルが私を騙したとしても、私はきっと怒らないと思います」
「どうして」
「騙したとしても、私はきっと幸せにしてもらえますから」

 出会ってまだ一ヶ月くらいだ。それでも、この人から色んなものを貰っている。知らなかった、オメガとして大切に想われる事がこんなにもむず痒く嬉しいのだと。体の心配をされる事が、嬉しい事を。
 誰かに愛される事がこんなに、心を温かく幸せにしてくれることを。

 信じられないという顔をするアーベルを微笑んで見る。そしてそっと、手に触れてみた。

「貴方が例え狡くて嘘つきな人でも、その嘘を真実にしてくれると信じています。騙されて奴隷にされても、貴方の奴隷は皆が楽しそうです。その中に入るなら、そう悲観もしませんし」
「……一生、こき使うかもしれませんよ?」
「一生一緒にいてくれるのですか?」
「……」

 ちょっと耳が赤くなった。それが凄く可愛くて、ハインツは笑う。
 その間に幕は上がって、華やかな世界が目の前を踊っていった。

◇◆◇

 演目は全体で二時間程度だったが、その間ハインツは泣きっぱなしだった。目も赤ければ鼻も赤い。こんなデカい図体をした強面が可愛いレースのハンカチ(自作)を握り締めおいおい泣いているのは、流石に目立った。

「良かった……良かったですぅ。ちゃんと結ばれてぇぇ」
「そうですね」
「途中、どうなるかと。王子の危機に現れたオメガの青年が傷ついて倒れてしまった時はもう、心臓痛くてぇ」

 身分違いのアルファの王子と子爵青年のオメガ。互いに運命を感じながらもあまりに身分が違い周囲の思惑もあって青年は戦場へ。
 だが忘れられず、青年を助けたい王子は密かに城を抜け出し身分を偽って戦場へ。そこで再会した二人は想いを伝え合い愛を育み、ヒートの時に番に。
 だが王子の不在を知った城は王子を連れ戻そうとする。再び訪れた別れ。オメガの青年はより過酷な前線へ。
 苦しみ、用意された別の人と結婚させられそうになるも既に番を得たアルファは他のオメガに反応せず、城は番契約を解消させるために青年を殺そうとする。
 それを知った王子は戦場へと戻り、青年を助け出すもその時に青年は負傷。
 そんな彼らを救ったのは戦っていた相手の国。二人の仲を知った彼の国の王は寛大に彼らを受け入れ保護し、やがて戦争にも勝利した。
 敗戦国となり上層が一変した国の王として戻った王子と青年はその後隣国とも和議を結び、子が生まれ穏やかに暮らしたのだ。

 これはオメガが女性のバージョンと男性のバージョンがある。どちらも人気らしい。

「私は絶対にアーベルを危険な場所に一人になどしません」
「それは俺も同じですよ。それに、俺と貴方が組んだら最強ですよ?」

 なんて、悪戯みたいな顔で言うアーベルをキョトッとして見たハインツは次にニッコリと笑った。

「そうですね」

 そう、心から肯定した。
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