厳ついオメガはいかがですか?

凪瀬夜霧

文字の大きさ
29 / 41

ローゼンハイム邸騒動(4)

しおりを挟む
「女帝様のご機嫌は斜め、と」
「貴方が斜めにしたのでは?」
「水を向けたのはアーベル殿でしょ?」

 なんて、視線も合わさず陰険なやりとりを交わすアーベルとフランツ。だがハインツはそれよりも違う事が気になってしまう。

「あの」
「ん?」
「キナ臭いとは、何故?」

 何のことだか分からず問いかけると、アーベルもフランツも顔を見合わせる。そしてそっと、人の少ない部屋の隅へと誘導された。

「今回の一件、どうも人為的なものを感じるのだよ」
「えっ」

 開口一番、フランツがそんな不穏な事を言ってくる。だがアーベルも頷くから、きっとそれは本当の事なんだ。

「あの洞窟の後日調査を、王都冒険者ギルドの研究機関とローゼンハイム領の騎士で行った結果、どうもダンジョン化はしていないようだと判明した」
「でも、凄く歩きやすい洞窟でした。天井部分はゴツゴツしていましたが、足元はそれ程悪いというわけでは。自然に出来た場所ではないように思います」
「人為的に掘られた可能性が高い。しかも、まだ新しい場所なのですよ」
「え……」

 だからこそ「人為的なものを感じる」ということなのだろう。

 キングクラスの魔物が発生した場合、その発生源はダンジョン化している事が多い。元は何もない洞窟や場所に主クラスが誕生し、瘴気が集まった結果魔物が爆発的に増え、それが不思議な力を得てダンジョンになる。
 ある日突発的にとんでもなく高い塔が現れたり、うち捨てられた都全体がダンジョンになる事だってある。

 逆に言えば、ゴブリンキングがいたあの洞窟がダンジョン化して居ないことが妙でもある。
 しかもアーベルの話ではまだ新しいらしい。

「あの辺りはローゼンハイム領でもかなり気を遣う場所です。週に一度くらいは簡単な見回りが行われ、半年に一度は大規模な森の生態調査が行われています」
「直近半年の調査では、あの場所に洞窟などなかったそうだ」
「誰かが魔法などを使って作った洞窟と考えるのが自然です」
「そんな……誰が」

 魔物は貴重な素材を落とす。毛皮や骨、肉、魔石。種類によっては薬の材料にもなるし、魔法を使う際に使われる魔道具の触媒にもなる。
 だが同時に、周辺に住む者にとっては脅威でしかない。
 今回のゴブリンは少数であれば初心者向きの魔物だが、数が増えただけで厄介さが跳ね上がる。進化も早く、新種が生まれる可能性もある危険な魔物だ。
 それを、人為的に招いた誰かがいるというのか?

「ゴブリンキングが普通の洞窟で生まれる可能性もゼロではない。森は有害無害を問わず魔物も食べるものも豊富な場所だしね。だが、成長があまりに早い」
「確かに、私が対峙したあの個体は成体でした」
「五年程度経過していなければ、そもそも生まれないはずだ。半年では精々ゴブリンメイジ辺りまでだ」
「……誰が」

 これについては誰もまだ答えを持っていない。そんな様子だった。

 そんな話をしていると、不意に音楽が鳴り始めた。
 今では音のなる魔道具を使う事も多いが、流石はローゼンハイム家。楽団による生演奏に誘われてホールの中央に場ができ、複数の人が踊り始める。
 シャンデリアの煌めきも綺麗な会場は色とりどりのドレスの花が咲き誇り、それを見る紳士淑女もまた楽しげにしている。

「ハインツ」
「え?」

 声をかけられ驚いて見ると、アーベルが手を差し伸べている。微笑んで、でもどこか鋭く。

「俺と、踊ってくれませんか?」
「っ!」

(そんな……そんな少し悪いお顔で誘うのですか! かっこいい……ドキドキが止まらない。誘惑されている? されたいですけれど、嫌じゃないですかね? こんな大きなオメガとなんて)

「あの」
「貴方は俺の婚約者で、俺の愛しい人です。嫌でなければ」
「嫌じゃないです!」

 全力で答えてしまった。

 曲が終わって、入れ替わる。誘ってくる手に手を添えて進み出ると少しだけざわめきが起こった。その理由はなんとなく理解している。
 ハインツは当然女性パートを踊るように組んだ。それを見て、アーベルは男性側として腰に腕を回す。彼の細腕が逞しい腰へと回るのは、嬉しくてドキドキする。

 曲が流れて、踊り出す。互いに優雅にターンをしながら見つめ合い、微笑んで踊っている。とても滑らかなステップは危なげなんてない。

「お上手ですね、ハインツ」
「アーベルも」
「貴方に恥などかかせたくありませんしね」
「そんな、恥なんて」

 グッと腰を引き寄せられる。驚いて、でも嬉しくてたまらない。曲が一瞬盛り上がる所で、アーベルはハインツをリフトしてくるりと回った。

「わ!」
「ふふっ、驚きました? 少しだけ魔法でズルをしました」

 身体強化の魔法を一瞬かけたらしい。それでもこの巨体が自分の意志と反して持ち上がるなんて、想像していなかった。

(あぁ、ダメ。素敵、惚れる、もう抱いてぇ)

 先日見事に失敗したというのに思ってしまうくらいには刺激的で、ハインツはずっと乙女な顔をしていた。

 曲が終わって優雅に一礼をして輪を抜けると、不意に拍手をされる。見るとガブリエラとその側に、彼女と同じ生地のドレスローブを着た青年が近付いてきた。
 直ぐにオメガだと分かった。色が白く儚げで華奢。綺麗な白銀の髪を緩く結わえた青年は誰がどう見ても美しい。
 そしてその青年のお腹はローブを着ていても大きく丸く膨らんで見えた。

「素敵でしたわ、ハインツ殿、アーベル」
「お褒め頂き光栄です」

 優雅なガブリエラの隣で青年は目をキラキラさせてハインツを見る。そして徐に進み出てギュッと手を握ってきた。

「あの、初めまして。私、ガブリエラ様の番でエメリヒと申します。貴方の話を聞いて、是非お会いしてみたくて無理を言ってしまいました。あの、ファンです! 強いオメガであり、素晴らしい才をお持ちだと」
「え! あぁぁ、あの! え?」

 ファン? こんな儚くて綺麗なお人形のような人が、ファン!

 驚いてしどろもどろになるハインツをガブリエラが笑う。そしてエメリヒ青年を愛しそうに抱き寄せた。

「貴方の武勇伝を聞いてから、ずっとファンなのですって。この通りもうお腹も大きいし、あまり無理はさせられないと言っていたのですがどうしてもと」
「確か、四人目でしたね」
「えぇ。エメリヒが私の最初の番で、二人目よ。今月が産み月ですの」
「そんな大事なお体で! あの、とにかく座って」

 もう少しで出産なんて、体も辛いだろうに。慌てて辺りを探すが、当のエメリヒはクスクスと笑うばかりだ。

「流石に少しであれば平気です。それに二人目ですから」
「わぁ……凄いな」

 華奢だからかお腹が大きく思える。重そうだ。
 ちょっとだけ、触ってみたいかも……。

「よろしければ撫でて、励ましてやってくださいな」
「え?」
「ハインツ殿くらい頑丈な方が撫でてくれれば、きっと元気な子が産まれましょう」
「是非そうしてください、ハインツ様!」
「ふえぇ」

 いいの!

 オロオロするけれど、ガブリエラもエメリヒもいいと言うのだから大丈夫だろう。アーベルにも視線を送ったが、ただ穏やかに頷くばかりだ。
 そっと手を伸ばし、ローブの上から優しく撫でてみる。まーるくて、どことなく温かみのあるお腹。ここに新しい命があるのだ。もうすぐ、産まれてくるんだ。

 ジンジンする感じが胸に宿る。同時に、いつか自分もこんな風に子を授かれたらと願う。似合わないかもしれないけれどハインツもオメガなんだ。

「元気に、母子ともに健やかでいてください」
「はい。ありがとうございます」
「ふふっ、良い呪いを貰いましたわね。さぁ、エメリヒ。そろそろ戻りましょうか」
「はい、ガブリエラ様」

 睦まじい様子で去って行く二人を見送る。そして次にはお腹を撫でた手を見つめてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...