厳ついオメガはいかがですか?

凪瀬夜霧

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ローゼンハイム邸騒動(3)

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 そう、何を隠そうこの人物が広大な王都の冒険者ギルドを束ねるギルドマスターなのだ。昔はS級の冒険者だったらしいが引退。その後、今の役職についている。
 ハインツは冒険者ギルドに一応登録はしている。食べるに困り金に困り、どうにかしなければと思って冒険者ライセンスを取ったのだ。
 ただ、ハインツはオメガ。万が一パーティを組んでそこでヒートなど起こせばパーティに危険が及ぶ。故にオメガの冒険者は皆無だった。まぁ、そもそも繊細で華奢なオメガに冒険者など務まらないのだが。
 あまりに異例だったことでギルドマスターのフランツが面接などをし、ソロに限る事、連絡魔道具を携帯する事、王都近郊から出ない事を条件に登録を許してくれた。
 これが無ければハインツは餓死していたかもしれない。

「この度の討伐には当ギルドの者も多く参加しておりましたが、彼らは貴族のパーティーの作法を知らないと。ですので皆の代表として、私が顔を出したのですよ」
「大した稼ぎにならなかったでしょうに」
「それを選択したのも彼らの意志です。堅実であったと評価いたしますよ」

 やや不機嫌そうにするアーベルにハインツはあわあわしながら「すみません」と謝るが、フランツの方は笑ってくれた。

「お噂は伺っておりますよアーベル様」
「良い噂じゃないだろうな」
「そうですか? 少なくとも奴隷の間では大人気で、貴方に見出されたいと願う者は多いと聞いています」

(わかる~! アーベルは奴隷への対応がとてもいいものね! 私も奴隷でもいいかもと思えるし。いや、でもやっぱり愛したいし愛されたいから奴隷は困るな。心まで縛れなくても行動の制限とかはかけられるし)

 なんて思ってあんにゅい顔をしてしまうと、アーベルは首を傾げフランツはおかしそうに笑った。

「ハインツ殿はとても逞しいのに可愛くていらっしゃる。うちの受付嬢の中でよく噂になっておりますよ」
「え!」
「ほぉ? どのような」
「大きくて優しくて力持ちで、更に狩りが上手で解体も丁寧。なのに小さな虫に驚いて悲鳴を上げる事もあるから、可愛いくまさんみたいだと」

(それって褒めてないよね!)

 何だか妙な噂が広まってるんだな……恥ずかしい。
 思わず顔が熱くてパタパタ手で扇いでしまうと、それにもフランツは笑い、アーベルは微笑むのだった。

 程なくして特別なグラスが配られた。それは当主が間もなく現れる知らせで、乾杯用のグラスだ。
 正面へと向いて時を待つと、程なくして一人の女性が階段を降りてくる。
 美しい波打つような灰色がかった銀の髪を優雅に結った三十代後半くらいの女性は薔薇のような赤いドレスを纏っている。裾の長い、油断すれば自分で踏んでしまいそうな豪奢なスカートを品良く美しく捌きながら降り立った人は、にっこり妖艶に笑い赤い瞳を細めた。

「皆の者、よく来てくれました。歓迎いたしますわ」

 少し低いが心地よい声音。女性らしいスタイルと華のある顔立ちとは少し違うが、堂々として格好いいと思えるものだ。

「今宵は我が領に現れたゴブリンの討伐に関わってくれた者と、我が領地に関わり深い者に集まってもらいました。心ばかりの宴です、存分に楽しんでいってくださいな」

 彼女がグラスを手にし掲げ、乾杯の音頭を取ると皆がそれに応じてグラスの酒を飲み干していく。その後は先ほどよりも更に、賑やかな雰囲気となった。

「綺麗な女性ですね」
「ガブリエラ・ローゼンハイム侯爵です」
「あの方が!」

 そうか、侯爵か。だから毅然としてらしたのか。
 ちょっと憧れる凜々しさがある。それなりに人がいるのに、彼女はまったく紛れない。そんな女性が真っ直ぐにこちらに……?

「え?」
「おや、何を呆けているのですハインツ殿」
「え!」

 目の前に立った彼女は楽しげに笑っている。一方のハインツは驚いて声が出なかった。

「お久しぶりです、ガブリエラ様」
「久しいな、アーベル。この度の討伐、実に見事だった。改めてお礼を言いたい」
「仕事をしたまでのこと。目を掛けていただき、恐悦至極に存じます」
「ふっ、相変わらず思ってもいないことがスルスルと出てくる男だこと。ハインツ殿、このような男を夫に持つと苦労しますよ」
「ふへ!」

 おかしそうに笑うガブリエラにハインツは目をまん丸にしてしまう。とはいえ元々の目がそれほど大きくはないので、見開いたからといってさほど変わらないのだが。
 それでもこのガタイと厳つさにして表情豊かな様子に、ガブリエラはおかしそうに笑った。

「聞いているよりも余程可愛らしい方だこと。こんなに愛らしいというのに、ゴブリンキング相手に力で負けない剛の者とはね」
「あの時は必死でしたので。後で冷静になるととても怖かったです」
「ふふっ、可愛い事を言いますね」

 楽しいそうなガブリエラ。だが不意にハインツに腕を絡めるようにアーベルが隣に並び一睨みしたのを見て、次には驚き更に笑った。

「なんです、アーベル。お前も存外可愛い奴でしたか」
「この方は俺の特別なので、あまり戯れないでいただきたい」
「そんな顔をせずとも、私はこれ以上番を増やすつもりはありませんわ。何より自分よりも大きな男は私の趣味ではありませんの。友人くらいにはなって貰いたいと思いますけれどね」
「ダメです」
「狭量な子」

 呆れ顔をしたガブリエラはスッと表情を引き締める。そして優雅にスカートを持ち上げた。

「改めて、我が領地の危機を救ってくれたこと、御礼申し上げますわ」
「いえ! あの、大事がなくて良かったです」
「えぇ、本当に。あの場所は近くに糸を吐くプリンセス・リリーの巣がありましたの。もしも溢れたゴブリンが襲いかかっていたら、今頃全滅していましたわ」

 「とても臆病で弱い魔物なの」とガブリエラは付け加える。ハインツはリリー種の討伐は行った事がないので何とも言えないが、蜘蛛の魔物はとても恐ろしいと感じている。
 大森林にいたキラースパイダーは大きさだけで数メートル。ネルスキュラと呼ばれる毒持ちもいる。糸で絡められたら食われる未来が待っているのだ。

「ですが、今回の一件はまだかなりキナ臭い。そちらの調査は進んでおりますか?」

 鋭い様子のアーベルに、ハインツは首を傾げる。ガブリエラの視線も鋭くなってしまった。

「おや、ご歓談中でしたかな?」

 折を見て、という様子でフランツもその輪に入ってくる。どこか緊迫した様子に、周囲はそっと人が離れた。

「それらについてはまだ調査中ですわ。でも、何か分かったらお知らせいたします。今回の件に深く関わったお二人には、是非」

 そう言って、ガブリエラは立ち去ってしまった。
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